ティム・チューの馬力と経験値の少なさ? テレル・ガウシャの懐の深さとカウンターにモタついたけど圧力で圧倒。こういう相手への対策は日本人選手も必須なんだろう【結果・感想】
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2022年3月26日(日本時間27日)、米・ミネソタ州で行われたS・ウェルター級12回戦。WBC同級1位のティム・チューとWBO同級10位テレル・ガウシャが対戦し、3-0(116-111、115-112、114-113)の判定でチューが勝利。戦績を21戦全勝15KOとした一戦である。
ティム・チューの北米進出初戦となった今回。
対戦相手のテレル・ガウシャはロンドン五輪に出場経験のある元トップアマでこれまでエリスランディ・ララやエリクソン・ルビン、オースティン・トラウトとも対戦経験のある強豪。
試合はいつも通りナチュラルにガードを上げてプレッシャーをかけるチューに対し、ガウシャは左右に動きながらジャブを出しつつカウンターのタイミングをうかがう。
1R中盤、動き出しを狙ったガウシャの右がチューの顎を捉え、この1発でチューが尻餅をつくダウン。
すぐに立ち上がって反撃するも、意外な立ち上がりに場内からはどよめきが起こる。
2R以降チューの馬力に押され、ガードを固めて守りに徹するガウシャ。
時おり単発のカウンターをヒットするが、ロープ際の連打からなかなか逃れることができない。
そして、試合はチューのペースのまま12R終了のゴングが鳴る。
判定は3-0(116-111、115-112、114-113)でチューの勝利。思った以上の僅差ながらもティム・チューが北米上陸初戦を飾った。
ティム・チューvsムルタザリエフ、カシメロvsサンチェス、小國以載vsンギーチュンバ。またロシアのヤバいヤツが出てきた。カシメロは実質ラストチャンスを逃した? “キレイなジャイアン”伊藤雅雪も大変だよな笑
ティム・チュー北米デビュー戦でテレル・ガウシャ。めんどくさいヤツを当てられたなぁ
日本の井上岳志に勝利したティム・チューの北米進出初戦。
相手のテレル・ガウシャは戦績22勝2敗1分のオーソドックスで、過去2度の敗戦はエリスランディ・ララ、エリクソン・ルビンに喫したもの。
ジャーメル・チャーロやブライアン・カスターニョの持つ王座を狙うティム・チューにとってはインパクトのある勝ち方をしたい相手である。
まず僕がこのマッチメイクを聞いて思ったのは、
「ティム・チュー、北米初戦でめんどくさいヤツを当てられたなぁ」
僕の中でのテレル・ガウシャの印象はとにかく“やりにくい”人。
身長178cmに対しリーチが187cmと手足が長く懐が深い。さらにカウンターが得意で全体的にディフェンシブ。パンチの威力を吸収するのが上手く、トップどころに比べると一段劣るが第2、3グループに入る実力は持ち合わせる。
これまで自国で無双してきたティム・チューとしても一筋縄ではいかない相手。
北米デビュー戦で鮮烈な勝利がほしいところだが、テレル・ガウシャを明確に倒すのは相当骨が折れる。
持ち前の馬力をいなされ、終始空回りさせられる可能性もなくはない?
亀田京之介vs奈良井翼、ティム・チューvsスパーク、ルビンvsロサリオ振り返り。京之介はあそこで打ち合いにいったのが素晴らしい
今回の見どころとしては、チューの馬力がガウシャのディフェンスをぶっ壊せるかどうか。
これまで通りチューがフィジカルとパンチ力の差を見せつけてゴリゴリ攻めればチューの勝利。
逆にガウシャのヌルヌルとしたディフェンスに手を焼くようならちょっとおかしなことになる。
十中八九チューの勝利で問題ないとは思うが、ガウシャがどれだけやれるかにも注目したい。
だいたいこんな感じである。
チューの強さは間違いないけど案外ポイント差はない。ガウシャのディフェンスを持て余した感が…
試合の感想だが、ティム・チューの強さは間違いない。でも、ところどころに場数の足りなさも見えたなぁと。
上述の通り結果は3-0(116-111、115-112、114-113)の判定でチューが勝利。
12Rにわたって圧力をかけ続けたチューが無難に勝利したわけだが……。
実はモタモタするシーンが目立ったのも事実だったりする。
スコアを見てもそんな感じ。
序盤からチューが圧力をかけ続けたものの思ったほどポイントは開いていない。
ジャッジ一人が3ポイント差でもう一人が1ポイント差。ラスト2Rまで勝敗はわからなかったことになる。
実際「おや?」と思う部分は随所に見られた。
ティム・チューがペースを握っているのは明白なのだが、実は1発1発の精度はそこまで高くない。
ガウシャの懐の深さ、腕の長さを持て余し、なおかつロープを使って力を分散されるせいで持ち前の馬力をいまいち発揮できない。
逆に連打の切れ目にカウンターで顔を跳ね上げられたり、スルッとサイドに逃げられたりと決め手のなさも目についた。
スティーブ・スパークvsモンタナ・ラブ。ラブがスパークをリング外に落として反則負け。スパークはいい選手なんだよ。平岡アンディとやれればと思ったけど
経験値の少なさが要因かな。国内では遭遇しないタイプの相手に戸惑った?
そして、これはティム・チューが弱いわけではなく経験値の少なさによるものだと思っている。
怯えた表情でガードを固めるガウシャを観れば両者の戦闘力差は明らか。
岩のようなフィジカルを活かした前進や手打ちにすら見える連打、その他。
前回の井上岳志以上にテレル・ガウシャはチューの圧力に飲まれていた。
ただ、この選手のディフェンシブさやヌルヌルとした柔軟性、妙なタイミングで飛んでくるカウンターはティム・チューがこれまで経験したことがないものだったのではないか。
連打の最中の身体に巻き付くような軌道で側頭部を揺らされたり、「え? ここで?」というタイミングで動きを止められたり。
1Rのダウンなどもそう。
ガウシャの左に反応してチューが身体を固めた瞬間、スパッと顎を打ち抜く右。
オーストラリア国内でああいうカウンターを打つ相手に遭遇したことはなかったと想像する。
これがよく言うネグロイドとモンゴロイド(と呼ぶのが適切かは知らん)の骨格や体型、骨盤の傾斜の違いなのか、それ以外の要因があるかは不明だが、どちらにしろ初の北米のリングでテレル・ガウシャのようなタイプに戸惑った部分は大いにあった気がする。
ティム・チューがトニー・ハリソンのジャブとクネクネディフェンスを打ち破って暫定王座戴冠。流れが見える僕好みの試合だったw でも、チャーロ弟に勝てるかは…
中量級以上の日本人選手が“世界”と呼ばれる場所で勝負するにはこういうヌルヌルしたヤツへの対策は避けて通れない
同時にこれは日本人選手にも当てはまる。
この試合を観る限り、前回ティム・チューに敗れた井上岳志がテレル・ガウシャに劣っている感じはしない。
むしろパンチ力や身体の強さなどの純粋な能力値では井上の方が上。チューvs井上戦後に「これが日本と世界の差」という意見を多数見かけたが、実際には階級内での井上岳志の立ち位置はそこまで低くない。
ティム・チュークッソ強え…。井上岳志にほぼフルマークの判定勝利。厳しい試合になるとは思ったけど、すでに世界王者よりも強そう
ただ、現時点の井上岳志がテレル・ガウシャに勝てるかと言ったら……。
何とも言えないところだが、ガウシャの長い手足を駆使したディフェンスとカウンターでいなされそうな印象である。
ティム・チューはモタつきながらも圧倒的な圧力と詰めの巧さでねじ伏せたが、残念ながら井上岳志にそれができる感じはしない。
要するに中量級以上の中心地が北米である以上、日本人選手が“世界”と呼ばれる場所で勝負するには避けては通れない課題なのではないか。
チュー息子の圧力に怯えきった表情でガードを固めるテレル・ガウシャをみると、井上岳志が階級内でそこまで劣ってるとは思えないんだよな改めて。
ただ井上がガウシャに勝てるかは別の話で。
中量級以上の中心地がココである以上、こういうヌルヌルしたヤツへの対策は避けて通れない課題なんだろう。 https://t.co/TPfMH25bRh— 俺に出版とかマジ無理じゃね? (@Info_Frentopia) March 27, 2022
11度の王座防衛を重ねた内山高志がジェスレル・コラレスに手も足も出ずにKOされたり。
そのコラレスが北米のリングでは勝ったり負けたりを繰り返していたり。
国内選手とは毛色の違う相手への対策や慣れ、場数はどう考えても必須。特にS・ライト級、ウェルター級以上はここを解消しないかぎり「ぶっつけ本番で勝負→健闘したけど惜しかった」の繰り返しになる気がががが。
ちなみにティム・チューがキャリア21戦目で北米デビューを果たしたのに対し、父親のコンスタンチン・チューが本格的に北米に進出したのはキャリア19戦目。だが、それ以前にもちょくちょく北米のリングに立っており、それなりに慣れがあったと想像する。
2001年11月のザブ・ジュダー戦でもイケイケのジュダーをじっくり追いかけて顔面をぶち抜いたことを考えると、本当に満を持して迎えたビッグマッチだったのだろうと。
ザブ・ジュダー名試合ベスト3を決める。3R限定の最強脳筋野郎。怒りの沸点の低さもスピードスターな着火マン
ティム・チュー攻略にはフックかな。ブライアン・カスターニョなら勝てる可能性が?
なお今回の試合を観ると、ティム・チュー攻略にはやはりフック系が有効に思える。
そこにスピード差を上乗せして置いてきぼりにできればなお可というか。
なので、この選手に勝つならチャーロ弟よりもフックのぶん回しが得意なブライアン・カスターニョの方が可能性が高そう。
もちろんフィジカル面である程度対抗できることが大前提だが。
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