井上尚弥がポール・バトラーをKOして4団体統一。“持たざる凡人”が超人攻略を目指した。これをもっと高次元でできればと思わせるバトラーの動き【結果・感想】

井上尚弥がポール・バトラーをKOして4団体統一。“持たざる凡人”が超人攻略を目指した。これをもっと高次元でできればと思わせるバトラーの動き【結果・感想】

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2022年12月13日に東京・有明アリーナで行われた世界バンタム級4団体統一戦。WBC/IBF/WBAスーパー世界同級王者井上尚弥とWBO王者ポール・バトラーの一戦は11R1分9秒TKOで井上が勝利。史上9人目の4団体統一に成功した試合である。
 
 
井上尚弥vsポール・バトラー。
 
史上9人目(でいいんだよね?)&アジア人初の4団体統一王者を目指す井上がホームにWBO王者ポール・バトラーを迎えたこの試合。
 
 
なお僕はというと、
・Amazon Primeではない大橋興行
・チケットの先行抽選で撃沈する人続出
の状況を見て現地観戦は見送ることにした。
 
で、一般販売がスタートしてからしばらく経ってちょろっとチケットぴあをのぞいてみると、残っていたのは16万円の席のみという笑
 
しかも開催日は火曜日、イベントスタートが昼過ぎということでリアルタイム視聴すらも難しくなり「まあ、後日でもいいかな」と思っていたところ。
 
ところが当日、普通に帰宅してスポーツニュースを開くとちょうどメインの真っ最中。
「おや、まだ終わってないんか」と5R途中から視聴をスタート、後日アーカイブで観直した次第である。
 
2022年僕の好きな試合ベスト5。ベストバウトとはちょっと違う“僕のお気に入り”の試合を挙げていくぞ。どの選手も2023年の活躍に期待している
 

バトラーが思った以上にがんばった。どれだけ考えてもアップセットの絵は浮かばなかったけど

まず全体の感想としては、ポール・バトラーがめちゃくちゃがんばったなと。
 
以前から何度も申し上げている(多くの方もおっしゃっている)ようにバトラーが井上を何とかするのは恐らく至難の業。バトラーがいい選手であることは間違いないが、井上とは致命的なスペック差がある。“4団体統一戦”という名目ながらも勝敗への興味は薄い。井上にとってはかなりのイージーファイトになるのではないか。
 
それこそ2018年5月のジェイミー・マクドネル戦の二の舞すらもあり得るのでは?
2020年10月のジェイソン・モロニーと同様、「バトラーが何ラウンドまで粘るか」が焦点になりそう。
 
 
僕の勝敗予想もバトラーが粘りに粘ったと想定して井上の5RKO。僕は基本、井上の苦戦が観たい人間なので全力でバトラーを応援するが、どれだけ考えてもアップセットを起こす絵は浮かばなかった。
 
井上尚弥vsポール・バトラー、井岡一翔vsジョシュア・フランコ、武居由樹vsブルーノ・タリモ、堤駿斗vsペテ・アポリナル。年末の目ぼしい試合を予想してみる
 
ところが結果は井上の11RTKO勝ち。
戦前の予想を大きく超えるバトラーの粘りは2021年12月のアラン・ディパエン戦を想起させた。
 

実は井上攻略のネタを持ち合わせていたポール・バトラー。スペック差でねじ伏せられるとしか思えなかったけど

今回のバトラーの作戦は角度を変えつつ打ち込むカウンター(たぶん)。
 
この選手は絶えず左右に動く足と初弾に同時打ちで被せるカウンターを持ち味とする。
僕が「ポール・バトラーのベストバウト」だと言った前回のジョナス・スルタン戦ではこの“左右へのアングル調整”と“1発目に合わせるカウンター”がめちゃくちゃ機能した。
 
僕の知る限りポール・バトラーのベストバウトじゃないっすか? ジョナス・スルタンをアウトボクシングでさばききって退散判定、暫定王座獲得
 
対する井上はゲンナジー・ゴロフキンのように「ジャブを出して〜、プレスをかけて〜」といった追い足はなく、左右に動く相手に若干空回りするシーンが目につく。
 
リングを広く使って動き回る相手(アントニオ・ニエベスやヨワン・ボワイヨ)を持て余したり、角度を変えながら同時打ちでカウンターを返してくるダビド・カルモナに最終ラウンドまで粘られたり、打たれ強さと我慢を前面に出したアラン・ディパエンやペッチバンボーンを攻めあぐねたりと爽快感に欠ける試合を見せることがたま〜にある。
 
 
・初弾のジャブにカウンターを被せる
・左右に動き続ける足
・高いガード
 
こうして見ると、一応ポール・バトラーは井上攻略(と言っていいのかは不明ですが)のネタを持ち合わせている。それこそスルタン戦と同じことをやれれば何とかなるかも? という部分があるにはあった。
 
まあ、それでも根本的なスペック差、スピード&パワーでねじ伏せられるとしか思えなかったわけですが。
 

早々にフットワーク偏重に。でも、倒されないことに集中したアントニオ・ニエベスとはちょっと違ったような…

そして、実際にバトラーはその通りのことをやろうとしていた。
 
1Rから2R中盤辺りまでは井上のジャブにピクッ、ピクッと反応していたし、ディフェンスの際はガードを固めて井上の攻撃が止むまで耐える割り切りもあった。
 
ファーストコンタクトで井上のパンチ力、圧力にブルったジェイミー・マクドネルやアントニオ・ニエベス、マイケル・ダスマリナスとは違い、バトラーは「井上のパンチ力、圧力がヤバい」ことを想定した上で対峙していた(気がする)。
 
井上尚弥がダスマリナスをボディで3RKO。でもダスマリナスよかったよね。左フック2発で萎縮しちゃったけど。また戻ってこいよオマイ
 
ただ、足を止めてカウンターを狙うやり方ではすぐに飲み込まれてしまうと感じたか、2、3R以降はフットワークとガード優先の流れに。
 
といってもアレはビビったというよりプランBに切り替えた印象。倒されないことに集中する以外にできることがなかったアントニオ・ニエベスとはちょっと違う(と思う)。
 
ひたすら動き回って芯を外し、耐えに耐えてカウンターのワンチャンスを待つ作戦である。
 
 
さらに井上は「鬼神のごたる()強さを見せる前半→集中を欠いてグダる中盤→再びギアを上げる後半」といった感じで、序盤で仕留められなかった場合に中盤からやや単調になる。
 
バトラーが勝機を見出すなら唯一そこしかないというか、わずかに残された勝利の可能性を探るためのフットワーク偏重だったと想像する。
 
 
8Rの1分半辺りで井上の右に合わせて右のフルスイングを見せていたが、要するにアレが“勝負を賭けた1発”だったのかもしれない。
 

“持たざる凡人”が超人を攻略するためにやれることをやり尽くした。最後までわずかな可能性に賭けてたよね

いや、でもホントにがんばりましたよねポール・バトラー。
 
バンタム級進出以降、井上の対戦相手を比較するなら
 
1. あわよくばの可能性を見せた人
ノニト・ドネア(初戦)
 
2. 井上と同じ土俵に上がれた人
エマヌエル・ロドリゲス
ノニト・ドネア(再戦)
ジェイソン・モロニー
 
3. 守りに徹して延命した人
アラン・ディパエン
 
4. ファーストコンタクトでブルった人
ジェイミー・マクドネル
マイケル・ダスマリナス
 
5. 光の速さで天に召された人
ファン・カルロス・パヤノ
 
この中で言うとポール・バトラーはだいたい3の上位くらい。単純なスペックだけならマクドネルやダスマリナスとそこまで変わらない。
 
だが、井上の過去の試合を山ほど研究した上でいくつかのプランを用意し、ギリギリの状況でそれらを使い分けて可能性を見出そうとした。
 
逃げに徹したとか、倒されないことだけに集中していただけなどとんでもない。10、11Rはさすがにどうにもならなくなったが、少なくとも9Rまでは勝利を模索し続けていた(と思う)。
 
いわゆる“持たざる凡人”が超人を攻略するためにやれることをやり尽くして最後の最後に沈んだ試合。
何となくだが、漫画「ONE PIECE」のルフィvsウソップ戦が頭に浮かんだことをお伝えしておく笑
 
井上尚弥vsポール・バトラー正式決定。もうメリケンのヤツらは相手にせんでいいよ。座間のヤンキーは日本で歴史に名を刻め。武居由樹vs下町俊貴が決まらない理由が見当たらない
 

今回のバトラーのパフォーマンスをさらに高次元でやれるヤツがいれば。階級アップ後の対戦相手に期待する

ポール・バトラーにノニト・ドネア並みのパンチ力と耐久力があれば。
ノニト・ドネアにジェイソン・モロニー 並みのフットワークがあれば。
ギジェルモ・リゴンドーがあと10歳若ければ。
エマヌエル・ロドリゲスのトレーナーが井上パパに喧嘩を売らなければ。
 
すべてにおいて「それができたらこのやり方はしてねえんだよ」という話なのだが、ないものねだりをし続けたままバンタム級は更地と化してしまった笑
 
 
ただ、少なくとも今回のポール・バトラーは
・馬力、サイズともに一段上がるS・バンタム級でどうなるか?
・バトラーよりも高次元でアレをやれれば何かを起こせるのでは?
という可能性を見せたのではないか。


なのでこの先、井上の追い足のなさ、勘頼りのディフェンスの危なっかしさ(と中盤のグダグダ)に突け込める選手の登場を心の底から期待している。
 
まあ、S・フライ級→バンタム級のときもまったく同じことをほざいてたんですけどねww
もともと僕はアントニオ・ニエベスにこの試合のポール・バトラーのパフォーマンスを期待してたし笑
 
アントニオ・ニエベスとは何だったのか。井上尚弥の豪打になにもできず6R終了ギブアップ。まさかの真っ向勝負で撃沈w
 

デカい六角形のパラメータの中でわずかに凹んでいるのが…。井上は過去に例がないほど王道の4団体統一だった

一応付け加えておくと、井上のディフェンスや追い足がダメだなどと言う気はまったくない。
あくまで「狙うとしたらそこじゃない?」「六角形のパラメータでわずかに凹んでる部分がここ(だと思う)」という話。
 
これは以前、チラッと「井上攻略は接近戦かな?」「ドネアに勝ち筋があるなら中盤のムラっけの多さくらい」と言ったときと同様なのだが、


高次元でまとまった井上をどう攻略するか? を考えた際に
・(他の要素に比べて)追い足がやや劣る
・(他の要素に比べて)勘頼りのディフェンスが危なっかしい
・(中盤で舐めプすると)被弾が増える
・接近戦での連打に亀になる(ときがある)
部分が見られるよねと。
 
それを加味した上でガードを固めてチャンスを待ち続けた(ように見えた)ポール・バトラーはがんばったよねと申し上げている(試合前のチクチクした煽りや計量でのイチャモンを含めて)。
 
ポール・バトラーの井上尚弥戦後のインタビュー記事が納得感が高い。井上は階級アップ後も普通に通用すると思うけど、“モンスター”でい続けられるかは…
 
といっても、バトラーが勝ちそうな雰囲気はマジで1ミクロンもなかったけど。
 
 
あと、井上尚弥はナイスファイト。
ここまで王道を突き進んで4団体統一を果たした選手が過去にいたの? というくらいど真ん中なバンタム級だった。
 
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