井岡一翔vs田中恒成。井岡の重ねてきたものの重さが桁違い。ホントに勝ってよかった。黙して語らぬ視聴率大正義時代の最後の生き残り【結果・感想】

井岡一翔vs田中恒成。井岡の重ねてきたものの重さが桁違い。ホントに勝ってよかった。黙して語らぬ視聴率大正義時代の最後の生き残り【結果・感想】

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2020年12月31日、東京・大田区総合体育館で行われたWBO世界S・フライ級タイトルマッチ。同級王者井岡一翔に3階級制覇王者田中恒成が挑戦した一戦は、8R1分35秒TKOで井岡が勝利。2度のダウンを奪う快勝で2度目の防衛に成功した。
 
 
以前から何度も申し上げているように僕はこの試合にまったく乗れず、当日も格闘技イベントRIZINを現地観戦していたためリアルタイムで観てもいない。帰り道に井岡がKO勝利したことを初めて知った次第である。
 
あるべき場所に戻ってきた堀口恭司。朝倉海を1RTKOに沈めて王座奪還。やっぱりRIZINの現地観戦はサイコーだなw
 
正直、このまま観なくてもいいかな? とも思っていたのだが、試合後の井岡関連の記事を読んでいるうちに「ああ、本当によかったなぁ」と。
この試合を受けたこと、それ自体がリスペクトに値するが、実際に満点の内容で結果を出したことはもっとすごい。
 
 
ただ、試合を未視聴のままあれこれ言うのはさすがに……。
それはちょっと説得力がなさ過ぎるだろということで、ようやく視聴してみたところである。
 
井岡一翔vsジェルウィン・アンカハスの統一戦はぜひ実現してほしい。アンカハスにはいまだに階級最強幻想がある。なお、実現するとは言ってない
 

比嘉大吾vsストロング小林戦は予想の範囲内だったかな。この試合に負けるようなら比嘉は階級を下げた方がいい

まずセミファイナルの比嘉大吾vsストロング小林戦についてだが、この試合はある程度予想の範囲内だったと言える。
 
比嘉の大晦日参戦が発表されてから相手のストロング小林の過去の試合を漁ってみたのだが、「ん? これは比嘉がKOするんじゃないか?」と。
 
同じファイタータイプながらも連打の精度や戦術の幅にはかなりの差がある(ように見える)。
 
逆にこの相手に苦戦するようなら、比嘉は階級を下げることを真剣に考えた方がいい。何ラウンドになるかまではわからないが、とにかくどこかで比嘉がKOするのでは? と漠然と想像していた。
 
ただ、今回の比嘉は普通に出来がよかったとも思う。強弱のなさや序盤からペース配分無視でブンブン振り回す部分は気になったものの、あれだけ一方的なKOなら文句をつける理由はない。
 
これまでバンタム級の比嘉大吾にはあまり興味がわかなかったのだが、この勝利によって多少は「今後も観てみようかな」という気になっている。
 
田中恒成の井岡戦振り返りYouTubeがおもしろかった。本人が試合を振り返るのはいいよね。でもごちゃごちゃと言い訳する選手も嫌いじゃない
 

勝敗予想は田中恒成だったけど、だんだん井岡有利な気もしてきていた

そしてメインの井岡一翔vs田中恒成戦について。
 
率直な感想としては、思った以上に際どかったなぁと。
 
多くの方が「井岡の圧勝だった」「井岡が田中のスピード&パワーを捌ききった」と言っていたのでもう少し一方的な試合だと思っていたが、実際にはそうでもない。
 
5Rのラストに田中がダウンを喫するまではほぼ互角というか、あのダウンがなければ全然わからない展開だった。
 
 
僕はこの試合は田中のスピード&パワー、スケールの大きさが井岡を飲み込むと思っていて、勝敗予想も田中恒成の判定勝利とさせていただいていた。
 
井岡一翔vs田中恒成合意!? やっぱりやっちゃうのか…。予想は田中だけど応援は井岡。経緯があんまり好きじゃないから
 
だが、漏れ聞こえてきた情報によると、解説者や元王者の多くが井岡勝利を予想していたとのこと。両者の防御技術には大きな差があるため、その部分で井岡が田中を捌き切るのではないかと。
 
僕自身、自分の予想に大したこだわりもなく、「へえ、そうなんだ」「じゃあ井岡が勝つんじゃねえの?」と気軽に掌を返していたところ、ふと目に入ってきたのが下記。


スピーディで目を奪われるほどの華麗なシャドーだが、どことなく1発1発に伸びがなく射程も短い。
 
果たしてこれが本番で井岡に通用するのかどうか。どっしりとした構え+高いガードの井岡を攻略するには、もう少し足場を決めてしっかり打った方がいいような気が……。
 
もちろんデモンストレーションの一環だとは思うが、これを見て以降、何となく井岡勝利予想に傾きつつあったことを報告しておく。
 
まあ、どちらにしても試合に乗れなさ過ぎてうっすらと思っていただけなのだが。
 

五分五分の試合展開から5R終盤のダウンで一気に井岡側に流れが傾く

だが、実際の試合展開は完全に五分と五分。
5Rに田中がダウンを喫するまではどちらに流れがいくかがまったくわからない、一進一退の攻防が展開されていた。
 
内容的には、高いガードと立ち位置に気をつけながら確実に打ち終わりを捉える井岡に対し、田中はある程度の被弾を覚悟でどんどん前に出て腕を振っていく。馬力の違いを活かしてガードをこじ開け、無理やりヒットを奪うイメージ。
 
対応力の高さ、総合力の高さの井岡と、スピード&パワーでねじ伏せにかかる田中。この均衡がどのタイミングで崩れるか? と思っていたところ……。
 
5R終了間際に井岡の左がカウンターで田中の顔面を捉え、田中が見えない壁にぶつかったように後ろにすっ飛ぶ。
 
ラウンド間のスローで確認すると、このパンチはこれまでよりもややまっすぐの軌道で打ち出していることがわかる。
 
直前までの井岡はもう少し近い位置でコンパクトな左フックを振るっており、あそこは田中にとって“カウンターが飛んでこない位置”だったはず。
 
ほんのわずかの差だとは思うが、田中としては完全に想定外のパンチ。しかも右の打ち終わり+左のモーションに入った瞬間に顎にもらったおかげで、なすすべもなくすっ飛ばされてしまった。
 
正直、井岡がそこまで計算して打ったのかは定かではないが、とにかくすごい1発である。
 
以前「井岡一翔を筆頭に中谷正義や石田匠など、井岡ジム出身の選手は左がめちゃくちゃ多彩でうまい」「予備動作がほとんどない状態からまったく力感なく打ち出す左はマジですごい」と申し上げた記憶があるが、今回のパンチもまさにそれ。
 
中谷正義とベルデホの成熟度が段違い。やっぱりOPBF王座11度防衛は伊達じゃねえな。そして井岡パパの名コーチ属性
 
改めて井岡パパの名コーチっぷりが証明されたと言えそうである。
 

力みかえって勝負をかける田中と力が抜けて丁寧にパンチをまとめる井岡。経験値の差がモロに出たよね

あのダウン以降、試合のペースはあっという間に井岡に傾く。
6Rに再びダウンを追加すると、7、8Rと田中を見事にコントロール。8R中盤の左フックで田中を大きくグラつかせ、そのままレフェリーストップを呼び込む。
 
結果的には5Rのダウンが勝敗を決したわけだが、あの局面での対応には両者の経験値の差がはっきり表れていた気がする。
 
ラウンド間のレポートによると、ダウン直後にコーナーに戻った田中が「もう倒すしかねえ!!」と叫んだとのこと。
 
実際、6Rの田中は開始直後からガッチガチに力が入っていて、力み具合は背中からもはっきりと伝わってきた。おかげでこれまでよりも反応がワンテンポ遅れ、むしろ被弾が増えてしまう流れに。
 
逆に井岡はダウンを奪った余裕か、スッとに力が抜けてパンチの回転力も上がる。
近場でスパスパと田中の顔面を揺らし、田中が前に出てくればスルッと左へ動く。
 
僕は田中がダウンすることを事前に知った状態で観ていたのだが、それを踏まえた上で。「そりゃあ倒されるでしょ」と言わざるを得ないほど田中の反応は鈍っていた。
 
解説の内山高志も言っていたが、あの時点ではまだ6R。ダメージの回復を待って勝負をかける時間は残されていたはずで、力みかえって勝負を急ぐ必要はまったくなかった。
 
井岡一翔vs井上尚弥戦実現の可能性を考える。井岡に勝ち目があったとすればあそこかな? でも、あの頃の叩かれ方は異常だったよね
 
井岡のディフェンスが予想以上に固かったのか。
これまで当たっていたはずのパンチが当たらないことで焦りが生まれたのか。
それとも、後半まで勝負を引き延ばすほど体力的、精神的な余裕がなかったのか。
 
何とも言えないところだが、どちらにしてもあれだけガッチガチに身体を固めていては、井岡のコンビネーションを防ぐのは難しかったように思う。


自分の攻撃、スピードが通用しない相手に初めて遭遇してテンパってしまった田中恒成。
これまで2度の敗北を経験し、ピンチもチャンスも織り込み済みで試合を組み立てることができる井岡一翔。
 
井岡本人の言葉通り、まさに「やってきたことが違う」「格の違いを見せられた」試合だったのだろうと。
 
「井岡と一問一答「レベルの違いを見せられた」、正月は「家族と過ごしたい」統一戦へ「自信高まった」」
 

井岡一翔が勝って本当によかった。納得できる形で終わりたいが、その相手はお前じゃない

しかし、改めて井岡一翔が勝ったことは本当によかった。
 
僕は当初から井岡を露骨に狙い撃ちにする田中陣営のやり方が受け入れられず、この試合にまったく乗れないでいた。
 
リスキーなリングに立った井岡一翔に最大限のリスペクトを。田中恒成の狙い撃ち策略の果てに…
 
アホみたいに何度も連呼してアレだが、戦力の拮抗具合の割に井岡側が失うものが大きく不公平感が拭えない。
 
田中恒成が卑怯だなどと言う気はないが、とにかく今回は井岡側に肩入れするとともに、リアルタイムでの視聴意欲を奪われるほどの拒否反応を起こしていた。
 
 
【井岡一翔に聞く】田中恒成と試合後に交わした言葉とは…リングで伝えた「拳の重み」

僕はあと何年かという終わりに近づいてきていると思うが、彼はまだ25歳。まだまだこれからの選手

もしかしたらきょう負けていたら、引退していたかもしれないし…。自分で終わりたくなくても、“井岡は終わった”と思われる日が来ると思う

なるべく自分の中で納得する形で、やり切る形でやりたい

うん、そういうことですよ。
僕がずっと思っていたことが集約されたようなコメントである。
 
31歳の自分に残された時間は決して多いとは言えず、この試合で負けていれば望むと望まざるとに関わらず“引退”の2文字が現実味を帯びる。
 
一方の田中は現在25歳で、まだまだこの先取り返すチャンスが残されている。
 
ましてや自分は一度引退して復帰した立場。
ここからの1試合1試合が集大成となるもので、できることなら納得いく相手と戦って現役を終えたい。
 
そして、その相手はお前じゃない
 

井岡一翔の歩んだ道筋が見え過ぎるくらい見えたせいで思い入れが強くなった。本人の望む試合が実現すればいいね

自身の年齢。
周りの環境の変化。
少なからず実感する身体の変化。
 
ある程度の年齢に差し掛かれば、アスリートには自身と向き合う時間が必ず訪れる。身体的なことだけでなく、知り合いが出世したり、自分に子どもが生まれたりといった環境面でも。
 
諸々の状況を踏まえた上で、現役生活にどう幕を引くかを考えるときはくる。間違いなくくる。
と同時に、“終わり方”を考えているような人間がトップに立ち続けられるのかという思いも芽生える。
 
僕のようなパンピーにトップを極めたスポーツ選手の心情など知る由もないが、こういう微妙で複雑な時期はどの選手でも絶対に避けては通れないものである。
 
 
しかも井岡は所属ジムや実の親とのゴタゴタで一度現役から退いた身。
そこからの復帰は並大抵の覚悟ではなかったはずで、次に引退するときは納得して辞めたい思いは誰よりも強く持っているに違いない。
 
井岡一翔「自分にとってメリットを感じる戦いではありません」。田中恒成「ノンタイトル戦は何度挟んでもいい」。テンション違い過ぎてゾッとするわw
 
これまで散々「○○から逃げた」「マッチメークがしょっぱい」と心ないファンから罵倒されても反論することなく黙々と決められた試合をこなし、実の親や所属ジムとの確執も表立っては口にせずに「3階級制覇を達成して満足した」とだけ語って引退を表明した井岡一翔。
 
マジな話、ここまで痛々しい引退会見など未だかつてあったのかというレベル。


そして、今回もSNSやYouTubeをせっせと更新して情報発信する田中恒成を尻目に、黙して語らずを試合当日まで貫き通してみせた。
 
 
僕自身、以前にも申し上げたように“物語”という言葉が嫌いな上に選手個人に思い入れを抱く方でもないのだが、井岡に関してはちょっと異質なものがある。
 
上述のようにこの選手の歩んできた道筋が見え過ぎるくらい見えたおかげで、そこに策を弄して対戦をねじ込んだ田中陣営のやり方がどうしても受け入れられなかった。
 
 
田中恒成に覚悟が足りなかったなどと言う気はないが、少なくとも井岡が負けていたらこんなに早い切り替えはできていなかったと思う。


繰り返しになるが、本当に井岡が勝ってよかった。
そして、今後はどうにか本人の望む試合が実現することを祈るばかりである。
 
 
なおこれは余談だが、井岡一翔は視聴率大正義時代の最後の生き残りと言える存在なのかもしれない。
極力口数は少なく、周りの想像力を掻き立てる余白を残しておく。
いわゆるスター選手だけに許される特権ではあるが、それができる最後の世代と言えるのかも……。
 
 
 
ああ、そういえばライアン・ガルシアさん勝ったんすねぇ。
穴狙いのルーク・キャンベル勝利予想だったけど、ダメでしたか……。
 
ライアン・ガルシアvsルーク・キャンベル予想。前半でガルシア、後半でキャンベルでええんちゃう? ブリブリのガルシアの苦戦が観たいぞ
 
てか、やっぱりスポーツはこうやって気楽な気分で観たいっすわww
今回みたいなどんよりした歪な思いを抱えるのは全然健康的じゃない。
 
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