エドウィン・バレロの化け物感。本能と勢いで戴冠を果たし、ピタルア戦での2階級制覇とともに一気に成熟した。ここからが全盛期だったんだよな
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2020年5月11日のWOWOWエキサイトマッチで「エドウィン・バレロ特集」が予定されている。
「KO率100%王者 エドウィン・バレロのKOシーン再び」
通算戦績27勝全勝27KOのパーフェクトレコードを残し、デビュー以来18戦連続1RKOという当時の世界タイ記録も樹立。
2005年9月の阪東ヒーロー戦での「1RでKOされなければ勝敗に関わらず100万円、バレロの勝利の場合はさらに100万円」という賞金マッチも話題となった選手である。
また、2005年に帝拳プロモーションと契約して以降、2007年5月の本望信人戦、2008年6月の嶋田雄大戦と日本人選手との防衛戦を2度行うなど、日本のファンにもなじみが深い。
だが、2009年4月のアントニオ・ピタルアとのWBC世界ライト級タイトルマッチに勝利して2階級制覇を達成するも、2010年4月に妻を殺害した疑いで逮捕され、翌日警察署内の独房で自殺。わずか28年の人生に幕を降ろす。
- 1. ちょうどボクシング熱が下がっていた時期で、リアルタイムではエドウィン・バレロをあまり知らなかった
- 2. バレロならロマチェンコに勝てるかも? と思って観直したのが2016年。かろうじて勝てる可能性はある? かな?
- 3. バレロはホンマモンの化け物だと思いました。でも、S・フェザー級戴冠までは超前半型のブンブン丸で穴も多い印象
- 4. ビセンテ・モスケラはいい選手だった。高いガードと近場でのカウンターが打てるバレロの苦手なタイプ
- 5. 嶋田雄大はかなり健闘したと思う。モスケラと真逆でひたすら距離をとってカウンターを狙う作戦
- 6. アントニオ・ピタルア戦がバレロにとってのベストバウト。この試合で一気に成熟度が増し、ここからが全盛期のはずだった…
ちょうどボクシング熱が下がっていた時期で、リアルタイムではエドウィン・バレロをあまり知らなかった
以前にも申し上げたが、2000年代は僕のボクシング熱が著しく低下していた時期である。なので、エドウィン・バレロの活躍もリアルタイムではあまり観ていない。
阪東ヒーローとの賞金マッチや2007年の本望信人戦、ラストマッチとなったアントニオ・デマルコ戦はうっすら覚えているが、それ以外はいまいちわからず。
「とんでもない倒し屋がいる」「連続1RKOが止まらない」という噂と、マニー・パッキャオの対抗馬になり得るのでは? くらいの知識しかないクソニワカw である。
長谷川穂積のことは好きじゃないけど“世界”を見せてくれた選手だった。興味がなくてあまり観てなかったけど
ただ、バレロが自殺した際のニュースだけはよく覚えている。
「タイトルマッチの直後に妻を殺害して逮捕→翌日に自殺」
字面のインパクトが凄まじく、
「マジかよ。そんなことがあんのかよ」
「てか、まだ28歳? ガチのヤベえヤツじゃん」
という感じでめちゃくちゃ驚いた記憶がある。
バレロならロマチェンコに勝てるかも? と思って観直したのが2016年。かろうじて勝てる可能性はある? かな?
それ以降、あまり名前を思い出すこともなかったのだが、バレロの試合をしっかりと観直したのが2016年。「エドウィン・バレロならワシル・ロマチェンコに勝てる可能性があるんでねえか?」と思ったのがきっかけである。
2016年〜2017年と言えばロマチェンコがS・フェザー級で無双していた時期で、僕の中でも文句なしのPFP No.1と呼べる存在だった。
ニコラス・ウォータース、ジェイソン・ソーサ、ミゲル・マリアガ、ギジェルモ・リゴンドーと4試合連続でノーマス勝利を挙げ、歴代PFPと言っても過言ではないほどその強さは際立っていた。
キャンベルがロマチェンコに肉薄。長身サウスポーと多彩な右リードが機能。お互いがリスクを負った好試合に感動
現役選手では今のロマチェンコには歯が立たない。だったら歴代の選手ではどうよ? 引退した選手の中から誰か可能性があるヤツはおらんかね? という感じで、エドウィン・バレロの試合を漁ってみた次第である。
で、僕の中での結論としては、10回中かろうじて1回勝てるかどうかかなと。
前半のどこかでバレロの猛ラッシュが当たれば一気に決められる可能性はある。
ただ、普通に考えればロマチェンコの圧勝としか思えない。あっさり懐に入られて何もできずに蜂の巣にされるのではないか。
でもまあ、ニコラス・ウォータースやジェイソン・ソーサ、ミゲル・マリアガが100回中95回はノーマスを食らうイメージしかわかないことを考えれば、勝率1割なら上出来じゃないの?
どうにかして10回中1回の勝率を10回中2回にするくらいの底上げができればやる価値はあるかもよ?
ん? リゴンドー? 誰だっけそれ?
そんな感じで、歴代S・フェザー級の中でも数少ない打倒ロマチェンコを果たせる(かもしれない)選手に(勝手に)認定していた。
バレロはホンマモンの化け物だと思いました。でも、S・フェザー級戴冠までは超前半型のブンブン丸で穴も多い印象
今回WOWOWエキサイトマッチでバレロが特集されるとのことで改めて試合を観てみたところ、
「こいつ、ホンマモンの化け物やな」
「あの時点で亡くなったのはマジでもったいない」
と思った次第である。
2006年8月のビセンテ・モスケラ戦でWBA世界S・フェザー級タイトルを獲得するのだが、そこまでのバレロは“本能型”という言葉がぴったりのスタイル。
無遠慮に相手に近づき、目いっぱい両腕を振り回す。
鋭い踏み込みで距離を詰め、近場でさらに回転を上げる。
鉄球のような両拳をゴンゴン相手の顔面にぶつけていくど迫力の猛攻。
その反面、身体の中心を相手に晒したまま飛び込むので顔面はガラ空き。打ち終わりに大きな隙ができるためにカウンターをもらいやすい。
また、世界タイ記録となった18試合連続1RKOを含め、19試合の中で最長ラウンドはわずか2R。完全に前半型のブンブン丸スタイルが出来上がりつつある。
前に出る馬力と左右フックの威力はとんでもない。
攻撃にパラメーターを振り切った躊躇のなさは化け物と呼ぶにふさわしい。
だが、左のガードが低く動き出しに顔面がガラ空きになる弱点も目につく。これなら真正面からの突進に当たり負けせず、内側からカウンターを打てる選手なら付け入る隙は十分あるのではないか。
ビセンテ・モスケラはいい選手だった。高いガードと近場でのカウンターが打てるバレロの苦手なタイプ
そして、初のタイトルマッチで対戦したビセンテ・モスケラがまさにそのタイプだった。
ガードが高く身体も強い。バレロの突進に後退しないフィジカルに加え、連打の合間に右をねじ込むカウンターセンスもある。
もともと左ガードが低いバレロは右のオーバーハンドをモロに食うケースが多く、キャリアを通しても右で顔面を跳ね上げられるシーンが目立つ。
その上、ある程度のスペースがなければ自慢の強打が機能しないため、懐に入られるとまっすぐ下がる傾向も強い。
被弾に耐えつつプレスをかけ、足を広げて逃げ場を塞ぐ。
顔面を意識させたところで右ボディを突き刺し、頭が下がった瞬間にもう一発ボディ。
そして、たっぷり下を意識させた上で右を顔面に。
バレロは基本的にヘッドハンターなので攻撃は顔面だけに集中していればいい。
ガードとプレスでコーナーに追い詰めた末にダウンを奪うなど、バレロ攻略としては最高の流れだった。
いわゆる本能と勢いで相手をなぎ倒してきた選手が一段上の強者に苦戦させられた試合。
ビセンテ・モスケラはこの試合以降、ラストマッチとなった2013年11月のハビエル・プリエト戦で敗れるまで10連勝を続けた選手で、キャリアを通しての敗戦もわずかに3つ。
申し上げたように身体も強く、何発もらっても前に出続ける根気や我慢強さも兼ね備えた文句なしの強敵である。イメージ的にはジェイソン・ソーサにちょっと近いというか、バレロにとっては初めて遭遇する“曲者”だった。
内山高志は僕が心底カッチョいいと思った選手。中間距離でかなうヤツは誰もいないんじゃない? ウォータース戦は実現してほしかったよね
嶋田雄大はかなり健闘したと思う。モスケラと真逆でひたすら距離をとってカウンターを狙う作戦
ビセンテ・モスケラを10RTKOで下したバレロはそこから4度の防衛を経て2009年4月にWBC世界ライト級王座決定戦に臨むわけだが、4度目の防衛戦となった嶋田雄大戦からアントニオ・ピタルアとの王座決定戦における成長度合いは目を見張るものがある。
まず2008年6月の嶋田雄大戦では7RTKOで勝利するのだが、この試合の嶋田はかなりよかったと思う。
大きく距離をとって左右に動き、バレロの打ち終わりに右フックを打ち込む。
極力正面を外し、至近距離での連打を発動させない。バレロの鋭い踏み込みのさらに外をキープしたままひたすらカウンターを狙う。
強打のバレロを空転させ、各ラウンドでポイントを拾いまくる作戦である。
そして、実際この作戦はかなり機能していた。3R開始直後には右フックでバレロをグラつかせるなど、嶋田の実力の高さは十分発揮されていたのではないか。
だが、5Rあたりから嶋田はバレロの圧力に耐えきれなくなる。ロープ際で捕まる場面が目立ち始め、クリンチで時間を稼ぐ以外にできることがなくなっていく。
被弾で目も塞がり、7Rに強烈な右をもらってダウンを喫したところでジ・エンド。
上記のビセンテ・モスケラ同様、序盤は作戦が機能しても徐々にペースを奪われ、中盤から後半にかけてダメージが噴き出すパターン。こういうのを見せられると、改めて攻撃力の差というのは理不尽だなと。
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アントニオ・ピタルア戦がバレロにとってのベストバウト。この試合で一気に成熟度が増し、ここからが全盛期のはずだった…
嶋田雄大戦を最後に帝拳プロモーションとの契約を解除したバレロは2009年4月、米・テキサス州でアントニオ・ピタルアとのWBC世界ライト級王座決定戦を迎える。
結果は2R49秒TKO勝利で2階級制覇を果たすのだが、この試合は個人的にバレロのベストバウトだと思っている。
正直、相手のアントニオ・ピタルアはそこまで強くはない。
バレロの突進から逃れる足もなく、プレスをかけて内側でカウンターをねじ込む馬力もない。バレロにとっては比較的イージーな相手だった。
それを踏まえた上で、この試合のバレロはキャリア最高の出来だったと断言させていただく。
リング中央でどっしり構え、右リードで距離を測る。
あえて自分の間合いに入るまでは手を出さず、強打をチラつかせながら圧力をかける。
ピタルアの右に左のカウンターを合わせ、身体を伸ばしてボディストレート。
すぐにガードを上げて再びリング中央で対峙。冷静に相手の出方をうかがう。
これまでほとんど見せなかったボディストレートを打ったり、勢いに任せて飛びかかるところを思いとどまったり。嶋田雄大戦での経験を踏まえた動きというか、バレロの成長をはっきりと感じられる立ち上がり。
じっくりプレッシャーをかけて相手を追い詰め、コーナーを背負わせたところで一気に爆発させる。
初めてのライト級ということである程度警戒していたのもあると思うが、こういうメリハリもS・フェザー級時代のバレロには見られなかったものである。
で、2R開始直後にピタルアが強引に出てきたところにカウンターをズドン。最初から最後まで文句のつけようのない、パーフェクトな試合運びだった(やっぱり右のオーバーハンドも食ったけど)。
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次戦で試合巧者タイプのヘクター・ベラスケスを6R、長身サウスポーのアントニオ・デマルコを9Rで下したバレロ。まさにビッグマッチ路線に突入するタイミングだったのだが……。
本能と勢いだけでS・フェザー級を戴冠し、階級アップとともに一気に成熟度を増した。
繰り返しになるが、ここからが全盛期という段階で自ら命を絶ってしまったのは本当に残念だった。
エドウィン・バレロの嶋田雄大戦→アントニオ・ピタルア戦にかけて一気に成熟する感じがたまらんな。
アントニオ・デマルコに勝った試合がスタートラインというか、マジであそこから1、2年が全盛期だったんだろうな。
どの時期からラリってたのかは知らんけど、まさにこれからって時だったんだなと。
— 俺に出版とかマジ無理じゃね? (@Info_Frentopia) May 9, 2020
まあでも、アレか。
ホンマモンの化け物は勢いだけで1階級獲るくらいのスケールがあってもまったくおかしくないんでしょうね。
L・フライ級のロマゴン凄すぎワロタw ベストバウトはスティベン・モンテローサ戦で異論ないよな?
エドウィン・バレロ、改めて夢のある選手だった。
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