キャンベルがロマチェンコに肉薄。長身サウスポーと多彩な右リードが機能。お互いがリスクを負った好試合に感動【結果・感想】

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ロンドンイメージ
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2019年8月31日(日本時間9月1日)、英・ロンドンで行われた世界ライト級統一戦。同級WBAスーパー/WBO王者ワシル・ロマチェンコとWBC同級1位ルーク・キャンベルが対戦し、3-0(119-108、119-108、118-109)でロマチェンコが勝利。WBO王座を3度目、WBO王座を2度目の防衛に成功するとともに、WBC王座獲得に成功した一戦である。
 
 
身体を振りながら距離を詰め、得意の連打を放つロマチェンコ。
対するキャンベルは広いスタンスと多彩な右で対抗。時おりロマチェンコのボディや顔面に鋭いパンチをヒットするなど、序盤は一進一退の攻防が続く。
 
だが、中盤からロマチェンコが徐々にペースアップ。パンチの戻り際に距離を詰めて左をヒットするなど、たびたびキャンベルにダメージを与えて後退させる。
 
王者ロマチェンコは後半からさらにペースを上げ、的確なボディでキャンベルを追い詰めていく。11Rにはこの試合唯一のダウンを奪うなど、終わってみれば3-0の大差判定勝利。キャンベルの健闘が光った試合だが、残念ながら最強ロマチェンコの牙城は崩せず。
 
3団体統一を果たしたロマチェンコは今後、2020年をめどにリチャード・コミーの持つIBF王座を狙うとのこと。念願の4団体統一なるかに注目である。
 
「ダニエル・ローマン陥落。アフマダリエフの馬力と足がコンビネーションを機能させず。うん、コイツ相当すごいな」
 

根拠のない期待感があったルーク・キャンベル。どんな試合になるかもわからなかったけど

不動のPFP No.1ワシル・ロマチェンコにWBCランキング1位ルーク・キャンベルが挑んだ今回。金メダリスト対決としても注目を集めた一戦だが、結果はロマチェンコの大差判定勝利。
 
だが、キャンベルが予想以上に健闘した試合でもあり、多くのファンが挑戦者を賞賛している。
 
 
僕自身は、予想記事でも申し上げたようにルーク・キャンベルには謎の期待感を持っていた。
 
「ロマチェンコvsキャンベル予想。がんばれキャンベル。ちょこ~っとだけ期待してる。根拠はない」
 
2017年9月にホルヘ・リナレスに敗れるなど、高い実力を持ちながらも王座に一歩届かないキャンベル。PFP No.1のロマチェンコが相手では厳しいと考えるのが普通なのだが、どういうわけか「そこそこいけるんじゃねえか」と思っていた。
 
しかも、根拠はほぼゼロ。
 
これまでのキャリアでサウスポーとの試合が見当たらず、なおかつ基本的にカウンター狙いの「待ち」のスタイル。vsサウスポーが得意なのかどうかも不明で相性もあまりよくなさそう。
 
どんな試合になるかもまったくわからない中、漠然と「キャンベルやれんじゃねえか」的な期待感が先行していたという。何とも言えない思いでこの日を迎えた次第である。
 

両者ともにすばらしい。ロマチェンコを研究し尽くし成果を見せたキャンベルのがんばりに感動した

試合の感想だが、はっきり言ってめちゃくちゃおもしろかった。おもしろいだけでなく、両者のがんばりに胸を打たれた試合。当初の期待を大きく超える一戦だった(僕の中では)。
「キャンベルすばらしい。ロマチェンコもすばらしい。ええもん見せてもらいました」
 
 
まず、今回は何と言ってもキャンベルのロマチェンコ対策が思いきりハマった試合だった。
 
スタンスを広げて腰を落として構え、多彩な右でロマチェンコの連打の発動を抑えるキャンベル。
 
懐の深さと大きく前に出した足、右ボディを駆使して侵入経路を一方向に限定。飛び込んできたところに左のオーバーハンドをガードの外側から打ち込む。
ロマチェンコが左を警戒してガードを上げて入ってくれば、今度は左ボディをカウンターで。
 
リードの連打によってロマチェンコの前進を前で止め、一方向に誘い出して左カウンターで迎撃。また、逆方向に回られた際には肘を出して進路を塞ぐ。
 
サイズ差があるために腰を落とすだけでキャンベルの右はボディに届く。右を打ち出す角度をさまざまに変え、ロマチェンコを正面から逃がさない。
 
過去ロマチェンコに肉薄した2人、ホルヘ・リナレスとホセ・ペドラサの戦術を踏襲しつつ、サウスポーの利点を目いっぱい活かした作戦。
 
「ロマチェンコ階級の壁? ペドラザに粘られ、久しぶりの判定で王座統一。てか、サイズ差に苦労してるよなコイツ」
 
とりあえず僕はキャンベルがここまで多彩な右を持っているとは思わなかったし、右リードの差し合いでロマチェンコを上回るとも思わなかった。
 
予想記事で「ホセ・ペドラサがやったことをキャンベルは右1本でやる必要がある」などとほざいたが、マジでそんな感じ。
 
しかも、どちらかと言えばペドラサは「倒されずに12R乗り切る」ことを重視したが、今回のキャンベルは真剣に勝ちにいっていた。
 
一応言っておくと、オーソドックスのペドラサはロマチェンコの正面を外さない作業で手一杯だったのに対し、サウスポーのキャンベルは右リードで相手の動く方向を限定できる分、攻撃面への余裕が生まれた。両選手のスタイルの違いもあったとは思うが、それを踏まえた上で今回のキャンベルはよかったという話。
12R最強王者をとことん研究し、自分の特性を最大限発揮して勝利を目指す姿は感動的ですらあった。
 

攻略されてたなぁロマチェンコ。序盤は完全に攻めあぐねてたよね

対するロマチェンコだが、こちらも文句なしにすごかった。
 
申し上げたように序盤はキャンベルの術中にハマり、明らかに攻めあぐねていた。
 
キャンベルの多彩な右と前足が邪魔でうまく距離を詰められず、サイドに回り込めばそこにちょうど左のカウンターが飛んでくる。左を警戒してガードを上げて前進すれば、今度は鋭いボディが突き刺さる。
 
リナレスやペドラサがハンドスピードを活かしてロマチェンコの前進を前で止め、一定の対抗策を示した。それを受けて、今回のキャンベルは経験の少ないvsサウスポーをものともせず、多彩な右リードと左カウンターのコンボで侵入経路を塞いでみせた。
 
この階級では小柄なロマチェンコは近づいて勝負する以外に方法がない。
だが、間合いを潰す術をキャンベルに奪われたことで序盤はほぼ攻め手を失っていた(気がする)。キャンベル以外にこれができるとは思えないが、少なくとも序盤に関しては苦戦だったと言っていい(気がする)。
 
僕のパウンド・フォー・パウンド(P4P)2020年4月バージョン完結編。僕がいいと思う選手を好き勝手に挙げて語るの巻
 
そして、そんな状況でもロマチェンコは身体を振りながら正面から距離を詰め、時おりキャンベルの顔面を跳ね上げる。小さな身体を目いっぱい伸ばし、左フックをキャンベルの右に被せていく。
また、5R終了間際にはカウンターで左を当ててキャンベルをグラつかせるなど、要所で的確なパンチをヒットしペースを渡さない。
 
キャンベルは効かされると亀になってまっすぐ下がる癖があり、その部分も含めて流れを掴みきれない。ロマチェンコとのインファイトの精度差は大きく、そこが波に乗れずに決め手を欠いた要因かなと。
 

ロマチェンコの二番底。両者が12R我の張り合いを繰り広げた好試合


そして、6Rでキャンベルの右のタイミングを覚えたロマチェンコが中盤から一段ギアを上げる。
上体を振って右リードの芯を外し、戻り際に距離を詰めて左右ボディ。さらに亀になったキャンベルのガードの間から細かい連打を通し、強引にロープを背負わせる。
 
S・フェザー級時代は連打の精度と圧力だけで相手を萎縮させ、自分のやりたいことを好き放題にやれた。だが、フィジカル面に余裕がないこの階級ではそうはいかず、相手をやり込めるには多少強引にでも前に出る必要がある。
 
サイドへの動きやポジション争いを放棄し、被弾を覚悟で正面突破を試みる最強王者。こういう二番底があるのもさすがのロマチェンコである。
 
「井上拓真vsウーバーリ。クッソ厳しそうな相手だけどがんばれ拓真。統一王座戦で初の兄弟W世界戦が実現」
 
倒されないためではなく、勝利を掴むためにできることをやり尽くしたルーク・キャンベル。
苦労しつつも力と技を融合させ、強引に流れを引き寄せたワシル・ロマチェンコ。
最初に申し上げたように、お互いが勝利のためにリスクを負い、我の張り合いを繰り広げた一戦。この両者の雄姿に僕はめちゃくちゃ感動している。


まあ、現実的にはロマチェンコは4団体統一を果たしたあとは階級を下げた方がいいのかもしれない。ライト級進出以降、しんどい試合ばかりだし、スタイル的にもこういうことを毎回続けているとあっという間に磨耗しそうな気が……。
 
身体を引いて強引にクリンチを振りほどくヤツとか、今回はあまり見られなかったしね。相手が大きい分しんどいんだろうなと。
 
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