映画「アンダードッグ」感想。全員が“自分の答え”にたどり着く結末は僕好み。キャラの掘り下げの浅さとウジウジタイムの長さ、ベッドシーンの中途半端さががが

映画「アンダードッグ」感想。全員が“自分の答え”にたどり着く結末は僕好み。キャラの掘り下げの浅さとウジウジタイムの長さ、ベッドシーンの中途半端さががが

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映画「アンダードッグ」を観た。
 
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「アンダードッグ」(2020年)
 
現役プロボクサーの末永晃は数年前に日本王座にまで手をかけた実力者。タイトル戦で勝利を目前にしながらも逆転KO負けを喫した試合は今でも語り草となっている。
 
ところが月日は流れ、すでに晃にかつての輝きはない。
プライドもズタズタに引き裂かれ、情熱も失い今では若手の踏み台(アンダードッグ)としてリングに上がり続けるばかり。
ジムの会長に見放されながらも身を引く勇気もなく、ダラダラとボクシングにしがみついている。
 
 
そんなある日、晃のもとに1人の若者が訪ねてくる。
彼の名は大村龍太。“天才ボクサー”としてデビュー前から期待される若手で、本人も自分の実力に絶対の自信を持っている。
 
ことあるごとにウザ絡みを繰り返す龍太だが、晃にはその理由がわからない。
馴れ馴れしさの中に妙な陰が見え隠れする龍太に戸惑いつつも、晃は相変わらず無気力な日々を送るのだった……。
 
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WOWOWオンデマンドで配信されていた映画「アンダードッグ」を観たぞ

「全裸監督」の武正晴氏が監督を務め、主人公末永晃役に森山未來を据えて2020年に公開された映画「アンダードッグ」。
前編・後編各120分超という大作で、ABEMA TVでは全10回のドラマとしても公開されている。
 
僕も今作の存在は知っていたものの、公開当時は観る機会がなく。
先日WOWOWオンデマンドで配信されている(2020年9月30日まで)ことを知り、大急ぎで視聴してみた次第である。


 

感想は「ぼちぼち」。お決まりのパターンで可もなく不可もなく

映画を観た感想だが、ぼちぼちよかったなぁと。
 
 
栄光を掴み損ね、堕落した生活を送るプロボクサー末永晃。
タイトルマッチに敗れてからはなかなか浮上のきっかけを掴めず、かと言って引退に踏み切ることもできない。今ではデリヘルの運転手で生計を立てつつ怠惰な日々を送っている。
 
そんなある日、彼の前に謎の若手ボクサー大村龍太が現れる。距離感などお構いなしにズカズカと入ってくる龍太に戸惑う晃だが、ふとした瞬間に見え隠れする闇に晃は何かを刺激される。
 
一方、二世タレントとして活動する宮木瞬はテレビ番組の企画でボクシングに挑戦することに。
プロライセンスを取得後した宮木の対戦相手として晃に白羽の矢が立つのだが……。
 
 
タイトルマッチで敗れて情熱を失い、どん底まで堕ちたプロボクサーがあるきっかけでやる気を取り戻し強敵との試合に挑む。
いわゆるスポーツ? 映画のお決まりのパターンである。
 
過去にも似たような作品をいくつか観てきたが、それらと比べても突き抜けたものはなく。
特別優れているわけではないが、劣っているわけでもない。
上述の通り僕の中では“ぼちぼち”という表現がピッタリの作品である。
 
視聴者レビューをざっと漁ってみたが、確かにそんな感じ。
5点満点中4.5点や5点をつけて大絶賛している人と“まあまあの出来”と感じている人が半々くらいの印象である。
 
要するにこれ系の作品にどれだけ触れてきたかがキモになるのだと思うが、今作がAbema TVで一定期間無料配信されていたことを考えるとそこそこ広い層に行き渡っているのかもしれない。
 
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三者三様、一定のゴールが用意されていたのはよかった。「BLUE/ブルー」のリアリティ追求っぷりは僕はあまり…

今作のよかった点としては、登場人物それぞれに一定のゴールが用意されていたこと。
 
今作のように“ヒーローになれない有象無象”にスポットを当てた作品で思いつくのは松山ケンイチ主演で2021年に公開された「BLUE/ブルー」だが、あの作品はどちらかと言えばリアリティへのこだわりが強かった。
 
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「うだつの上がらないプロボクサーの日常」という意味では今作と同じだが、「BLUE/ブルー」には主人公が最終的に何かを成し遂げたり答えを見つけたりといった描写はない。
 
淡々と試合に出て淡々と負けを繰り返し、それでもボクシングを愛する気持ちは変わらない。
初恋の相手に気持ちを伝えることもできず、ときには逃げ出したくなる衝動に苛まれる。
自分の情けなさに落ち込むこともあるが、それでも変わらず明日はやってくる。
 
現実に押し潰されそうになりつつ、夢と現実の折り合いをつけて生きていく。
 
ある程度年齢を重ねた人間にとっては共感できる部分が多い内容だが、映画としては少々物足りないのも事実。
 
リアリティもいいけど、もう少しスカッとさせてくれてもよかったんじゃないっすかね。
せっかくのフィクションなんだから、多少現実離れしても罪にはならんでしょ。
 

それなりに答えを見つけて退場していく脇役キャラたち。これくらいのご都合展開がちょうどいい

その点、今作「アンダードッグ」は主要キャラが三者三様の答えにたどり着く。
 
宮木瞬はボクシングを通じて初めて心の底から燃えることができた。
大村龍太は末永晃と拳を交えることで荒んでいた昔の自分を超えられた。
 
そして末永晃はタイトル戦で負けて以降、止まっていた時間がようやく動き出した。
 
 
その他、シングルマザーの明美は刑務所に入ることで自分をリセットし、山崎愛は芸能界を引退した宮木と結婚して幸せを得る。
デリヘル店の店長木田五朗とベテランデリヘル嬢の新田兼子は長年秘めてきたお互いの思いを成就させ、末永太郎はようやく“カッコいい親父”の姿を見ることができた。
 
あっちこっちに風呂敷を広げすぎてとっ散らかった感は否めないものの、どのキャラも一定の充足感を得ているのが今作のいいところ。
僕は基本的にハッピーエンドが大好きな人間なので、「フィクションならこれくらいのご都合展開がちょうどいいんだよ」と肯定的に受け止めている。
 

キャラ多過ぎ問題。「木田五朗vsライバル店」のエピソードは削ってもよかったかも?

逆に不満な点としては、キャラが多過ぎて掘り下げがいまいちうまくいかなかったところか。
 
今作は大雑把に分けて4つの物語が同時進行していく。
・晃の務めるデリヘル店のパート
・晃の所属するボクシングジムのパート
・ボクシングに打ち込む宮木のパート
・連戦連勝を続ける大村のパート
 
その際、一つだけでも映画が1本作れそうなエピソードが山ほど放り込まれるのである。
・デリヘル嬢の明美が娘を折檻
・別居中の奥さんに三行半を突きつけられる晃
・仲間内でバカにされまくる宮木
・木田五朗がライバル店にカチ込む
・大村が恨みを買った相手に刺される
などなど。
 
計5時間弱と長時間の作品ではあるが、さすがにこれは多過ぎるとしか言いようがない。ここまであれこれと詰め込めば手が回らなくなるのも必然である。
 
特に虐待を受けていた明美の娘、大村をナイフで刺した車椅子の彼、ダメ人間っぷりを発揮しまくった晃の父親の3人に関してはかなりの尻すぼみ。
僕はてっきり明美の娘は晃が引き取るものだと思っていたのだが、明美がパクられたところで流れがプツンと途切れてしまった。
 
 
極論、デリヘル店のエピソードはもう少し絞ってもよかったのではないか。
車椅子の彼と大村を絡ませるためには「晃と明美親子」のエピソードが必須だが、「木田五朗vsライバル店」の方はなくても十分成立する。
その分、明美と娘の過去でも描けば多少厚みが増したと思うのだが。
 
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二ノ宮隆太郎と熊谷真実は今作のMVP。この2人がいなければ評価は悲惨なことに?

まあでも、木田五朗役の二ノ宮隆太郎と新田兼子役の熊谷真実は今作のMVPでしたけどね。
 
勝地涼演じる宮木瞬を取り囲む芸人たちのクソ寒さ(宮木瞬のつまらなさを表現するためにあえてそうしているのか、ガチで寒いのかは不明)に比べてデリヘル店内の安定感は群を抜いていた。
 
友近やバッファロー五郎A、じゅんいちダビッドソンといった芸人連中が発する鳥肌レベルの寒さを二ノ宮隆太郎と熊谷真実が中和してくれていたというか。
 
エピソード自体は蛇足だが、脇役としての存在感は凄まじい。
 
冗談抜きでこの2人の存在がなければ僕の中での今作の評価は悲惨なものになっていたかもしれない。
 

末永晃のウジウジタイム長過ぎ問題。全体の3/4が“承”で埋め尽くされるのはやり過ぎですよ笑

あとはアレだ。
 
末永晃の覚醒までがちょっと長過ぎた。
 
大村龍太の挑戦を受けた末永晃が本格的に練習を始めるところからが今作の山場となるわけだが、逆に言うと晃はそこに至るまでずーーーーっと燻っている。
 
前編、後編合わせて5時間弱。
そのうち3時間半ほどうだつの上がらない主人公の姿を見せられるのはまあまあの地獄である笑
 
いや、できればもう少し前倒ししてくれませんかね。
こちらとしては「ロッキーのテーマ」が脳内再生される瞬間を今か今かとお待ち申し上げてたんですが笑
 
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起承転結で言えば、
大村龍太が突然ジムに押しかけるところまでが“起”
末永晃が大村との試合を受ける決めるところまでが“承”
晃がかつての情熱を取り戻し、練習に没頭するパートが“転”
末永晃vs大村龍太戦が“結”
 
全体の約3/4が“承”で埋め尽くされるという歪な構成。
正直、主人公のあのボソボソタイムは完全に間延びしていたと思う。
 
何とも言えないところだが、一気通貫の視聴が基本の長編映画を全10回のドラマに流用するのは相当難しいのかもしれない。
 

中途半端なベッドシーン多過ぎ問題。映画版をドラマ版に流用した弊害かな

てか、そもそも中途半端なベッドシーンが多過ぎるんだよな笑
 
菅田将暉、ヤン・イクチュンW主演の「あゝ、荒野」(2017年)にインスパイアされたのだとは思うが、その割にはどギツさがまったく足りていない。
 
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アングルはすべて同じ、尺も変わらない。
そこから何かが始まるわけでもない。
 
毎回取ってつけたようなベッドシーンにはテンションも上がらず、むしろ「余計なことをせんでいいからさっさとストーリーを進めろよ」とすら思ってしまった。
 
それこそ木幡竜主演「生きててよかった」(2022年)のように1回に全身全霊をかけて爪痕を残すやり方の方がはるかに効果的だったのに。
 
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この部分もドラマへの流用を前提とした弊害なのかもしれない。
 
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