映画「生きててよかった」感想。刺さる人にはめっちゃ刺さる作品。戦闘中毒の楠木創太と夫を支える妻幸子の話だと思ったら、幸子が同じくらいヤバいやつだった

映画「生きててよかった」感想。刺さる人にはめっちゃ刺さる作品。戦闘中毒の楠木創太と夫を支える妻幸子の話だと思ったら、幸子が同じくらいヤバいやつだった

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映画「生きててよかった」を観た。
 
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「生きててよかった」(2022年)
 
プロボクサーの楠木創太はここ何試合も勝てない状態が続いている。
長年の激闘によって身体はボロボロ、ジムの会長も創太の将来を心配し、次の試合が最後と決めて送り出すのだった。
 
そして試合当日。
いつものように真っ向からの打ち合いを挑む創太だが、カウンターを顎にもらいあえなく撃沈。これまで同様、何もできずにKO負けを喫してしまう。
 
ところが試合を終えた創太はどうしても踏ん切りがつかない。
目はふさがり口から血が滲んだ表情のまま「次こそは、次こそは」とつぶやく。
 
その様子に危機感を覚えた恋人の楠木幸子は彼を全力で説得する。
「結婚しよう、創ちゃん!!」
「家族になろう!!」
 
幸子の言葉でボクシング引退を決意した創太は2人で新しい人生をスタートさせるのだが……。
 
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「生きててよかった」おもしろかったです。万人受けはしないけど刺さる人には刺さる作品

2022年5月13日から公開がスタートした映画「生きててよかった」
 
3月頃にSNS等でたまたま存在を知り、ぜひ観たいと思っていた作品。
公開日を待ってさっそく劇場に足を運んだ次第である。
 
 
まず映画の感想としては、「かなりよかった」
楽しみにしていた分ハードルも上がっていたのだが、特に問題はない。
それどころか、似たような趣味の人には全力でオススメできる作品だと思う。
 
・アウトローな格闘家
・血が飛び散る
・露骨なベッドシーン
 
万人受けするとは言い難いが、刺さる人には思いっきり刺さる。
フィクションならではの生々しさというか、ドキュメンタリーでは表現しきれない場所に踏み込める自由度というか。創作物の長所が目いっぱい発揮された作品だったなぁと。
 
「迷子になった拳」感想。格闘技をやってて「健康ガー、安全ガー」ばっかり連呼してんじゃねえよってね。今回は“当たり”のドキュメンタリーを引いたな
 

余計な説明を極力省くことで“人間・楠木創太”を見せることに成功した

まず今作で僕がいいと思ったのが、極力余計な説明を省いたこと。
 
引退寸前のプロボクサー、楠木創太がどの立ち位置なのか、戦績は何勝何敗で何連敗中なのか。
また非合法の地下格闘技を運営する新堂勇とは何者なのか。彼の後ろにはさらに強大な組織がいるのか、いないのか。
 
創太は地下格闘技参戦後に柔術をマスターするわけだが、果たしてどんな練習を積んだのか。この短期間で本番で三角絞めを極めるくらい上達するなど可能なのか。
などなど。
 
僕は新堂を裏で操る組織に創太が脅される展開を想像していたのだが、実際にはそうはならず。
むしろ歯止めがかからなくなった創太が勝手に自滅していく流れ。
 
そのおかげで“人間・楠木創太”の生き様(死に様)に集中することができた。
 
仮に警察vs裏社会やそれに巻き込まれる創太などの要素を入れてしまうと、今作の目玉? である「どつき合いの中でしか生きがいを感じられない社会不適合者」の部分が薄まる可能性もあったわけで。
 
ボクシングを題材にした映画で言えば菅田将暉主演「あゝ、荒野」がまさにそれ。新次の孤児院時代のエピソードや健二と父親との関係その他。いろいろな要素を詰め込んだ(ベッドシーンも多すぎた)せいでとっちらかったものになってしまった。
 
映画「あゝ、荒野」感想。ベッドシーン多くね? 木下あかりの裸を見飽きるまさか事態に。古くね? 2021年設定でこのスタンスどうなん?
 
“戦い”にしか生を実感できない男とそれに振り回されて不幸になる周囲の人間。
軸をこの1本に絞ったことによって濃度の高い作品に仕上がったと言えるのではないか。
 

出演陣は文句なし。極端にセリフが短い木幡竜。街中でのシャドーはゾクッとしたよ

出演陣に関してだが、これは文句なしによかった。
 
今作は主人公楠木創太(木幡竜)、楠木の妻である楠木幸子(鎌滝恵利)、創太と同級生の松岡健児(今野浩喜)の3人を中心に話が進む。
 
 
 
まず木幡竜の肉体美は目を見張るくらいすごかった(計量当日のボクサーのような状態を撮影期間中キープしていたらしい)し、こだわって撮ったという冒頭のダウンシーンも迫力満点。
 
不器用でボクシングしか能がない社会不適合者という役どころもうまく演じていたと思う。
 
特に印象的だったのがセリフの短さ
口下手で人付き合いが苦手、要領も悪くボクシングばかりやってきたせいで常識も知らないダメ人間というキャラを表現するためだとは思うが、一つ一つのセリフがとにかく短い。
 
「ああ」
「そうですか」
「はい」
「違う」
「いいよ」
「やめろって」
 
極論、もっとも長尺だったのは実家での母親との会話「本当に親父を愛してたの? いや、やっぱいいや」の部分じゃないの? というくらい。いちいち他人をイラつかせる(笑)キャラだったなぁと。
 
 
ただ、街中で突然シャドーボクシングを始めるシーンにはゾクッとさせられた。
直後に「自分には戦いしかない、“普通の生き方”など不可能」と気づいて地下格闘技場へ向かうわけだが、「創太がただのおっさんから戦う男」に戻るあの瞬間は今作における見どころの一つだと思っている。
 
元プロボクサーだけあってフォームが綺麗なのはもちろんだが、それだけではない。
語彙が乏しいせいでうまく言えないのだが、ああいうゾクゾクする映像こそがフィクションのよさ。
僕の中では映画「ロッキー」で階段を登り切ったスタローンが両手でガッツポーズするシーンに匹敵する名場面となっている(それを真似するシーンも出てくるけど)。
 
ロッキー・ザ・ファイナルがシリーズ最高の名作である3つの理由。意外性と名言のオンパレードの傑作
 

MVPは鎌滝恵利じゃない? ミット打ちを始めたところで「あ、こいつも同じくらいヤベえやつだ」ってなったよね

また創太の妻・楠木幸子を演じた鎌滝恵利はすごい。本当にすごい。
 
それこそ今作のMVPは鎌滝恵利で決まりか? というレベル。
冗談抜きで木幡竜を食ったまであるのではないか。
 
 
最初は幼馴染にしては年齢が離れすぎか? とも思ったが、あまりのすごさにそんなことはすぐに気にならなくなる。
 
最初に予告編を観た際は「戦いの中でしか生きられない男とそれに振り回される妻」という流れを想像していたのだが、今作の幸子は創太に振り回されるだけにとどまらない。
 
戦いしか生きがいがない創太に依存し、創太の目が自分に向いていないことにヒステリーを起こす。
創太に相手にされない寂しさ、創太が壊れてしまうかもしれない恐怖を紛らわすため、創太の試合の日に間男を連れ込むヤベえやつ。
 
仕事が続かない創太を心配してジムの会長に相談→ストレス発散でミット打ちをおっ始める→ボクシングの発祥が古代ギリシャだと聞かされ「ギリシャのバカ野郎!!」と喚きながらミットをぶん殴るシーンがあったが、アレを観て「あ、こいつも創太と同じくらいアカンやつや」となったのは僕だけではないはず笑
 
そもそも新婚早々「がんばらなきゃ」なんて言葉が出る時点でおかしいですからね。本来であれば人生で一番幸せな時期なはずなのに。
もっと言うと、冒頭で「結婚しよう!!」と叫んだ時点で幸子の依存体質アピールはスタートしていたのだと思う。
 
 
あとはまあ、中盤のベッドシーンの直後に汗だくの創太と幸子が十字に折り重なってたのは笑ったよね。
あそこはエロさとともに軽い笑いを狙う意図もあったと思うが、素っ裸の人間が十字で重なったままゼーハー言いながら語り合う光景は卑猥かつ滑稽だった。
 
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平凡なサポート役が魅力的な今野浩喜。「すばらしき世界」の仲野太賀にも共通する魅力

松岡健児役の今野浩喜だが、こちらもまた素晴らしい。
 
創太と幸子の幼馴染で職業は売れない役者。創太夫妻とは今でも家族ぐるみの付き合いが続くが、実は幸子への思いを捨てきれずにいる。
 
今作は創太の壮絶な生き様とそれに振り回される幸子がメインだが、同時に“健児の成長物語”という側面もある。
 
役者としては芽が出ず妻・絵美の稼ぎに頼りっきりの健児。
妻を愛する子煩悩な父親を演じてはいるが、実は役者としての自分に限界を感じている。
 
そんな折、タイトロープを渡る危険な世界に再び足を踏み入れた創太に触発され、健児は忘れていたものを思い出す。
「俺は創太のように生きたかったんだ」
 
どうしようもないダメ人間だけど意味不明な魅力を持つアウトローと、それに憧れを抱くパンピーのサポート役。
この構図は役所広司主演「すばらしき世界」の仲野太賀にも共通するものだが、作品に深みを持たせるという意味でサポート役に魅力があるかどうかはめちゃくちゃ重要になる。
 
映画「すばらしき世界」感想。役所広司がすごすぎて僕はいつの間にか三上正夫の人生を生きてたよ。「虎狼の血」とはひと味違う役所広司のジツリキに震えて眠れ笑
 
映画「ロッキー」を観てロッキーに憧れた創太と、役者スタローンに憧れた健児という対比もよかったしね。
 
 
てか、今野浩喜は完全に役者になったんすねぇ。
キングオブコメディ時代は“ちょっと危なくて面倒”なキャラを演じるのがうまかった記憶があるけど。今はむしろ尖った主人公を支えるバイプレイヤーに傾倒している印象。
 

「残された人間の苦しみを感じさせないラスト」がよかった。納得できる生という説得力

僕が何よりいいなと思ったのが、「残された人間の苦しみを感じさせない終わり方」
 
今作はカレーを食べる創太の母親と幸子の後ろに飾られた創太の写真がアップになるシーンで終わるのだが、要するにあの時点で創太は亡くなっているのだと思う(違ったらごめん)。
 
八百長の指示を無視して勝利した試合後に殺されたのか、ダメージの蓄積でぶっ壊れたのかは不明だが、とにかくどこかの段階で命を落としたのだろうと。
 
そして、そこに悲壮感がないのがいい。
 
・ドクターストップがかかってもリングに上がり続ける
・戦いの中でしか生を実感できない
・ラストマッチで幸子が創太を応援する
・試合後の創太の満足げな表情(たぶん作中で初めて笑った)
・その後亡くなる(真偽不明)
 
諸々の流れは漫画「あしたのジョー」を参考にしているのだと思うが、これらに共通するのは本人(と周囲)がある程度納得していること
 
本来ボロボロの身体でぶん殴り合うなど言語道断だし、そんな状態で2日連続で試合に出るなどあってはならない。
 
だが、楠木創太(矢吹丈)という人間はそういった正論では語れない場所で生きている。
 
周りが何と言おうと戦いの中にしか自分の居場所を見つけられず、どれだけ愛されようとも恋人(家族)がNo.1になることはない。
 
幸子(白木葉子)もそれ(タイトロープの上でしか生きられない男と、その姿に惚れている自分)に気づいたからこそ最後の最後に声が出たわけで。
 
試合を終えたあとにどうなろうが納得できる(納得せざるを得ない)境地まで至った、作品にそれだけの説得力があったおかげで視聴者(僕)も「創太が亡くなった」事実を受け入れることができた。
 
正解か不正解かといった問答を超越した爽やかさが今作には存在する。
 
 
その点、松山ケンイチ主演「BLUE/ブルー」はこの部分が少々弱い。
東出昌大演じる小川一樹がパンチドランカーになっても現役を続けるところで物語が終わるわけだが、ああいうのは近い将来訪れる不幸を簡単に想像できてしまう。
 
映画「BLUE/ブルー」感想。後楽園ホールの試合シーンがリアル過ぎて最高に不愉快。あと、やっぱり俳優のスキャンダルってマイナスだよな
 
楠木創太と小川一樹のどちらが不幸かなど僕にはわからないが、作品の締め方として秀逸だったのは断然「生きててよかった」である。
 

不満な点は“希望があったこと”だろうな。できればどん底まで堕ちた状態で「生きててよかった」って言ってもらいたかったけど

概ね満足した映画「生きててよかった」だが、不満な点を挙げるとすればやはり“希望があった”こと。
 
先日「どつき合いしか取り柄のない社会不適合者のクズが最底辺まで堕ちるパターンであってほしい」と申し上げたが、残念ながら今作にはそこまでのものはない。
 
映画「生きててよかった」に期待。どつき合いしか取り柄のない社会不適合者のクズが最底辺まで堕ちるパターンであれ。キッズ・リターンどころかアダルト・デッドを希望する笑
 
上述の通り主人公楠木創太は“自分の生”にある程度満足した上で退場している。
 
 
さらに言うと、創太の周りには最後まで彼を支える人間がいたのが……。
僕としては創太の身勝手さに辟易して離れていってもらいたかったのだが。
 
理想は堕ちるところまで堕ちて身体もズタボロ、仲間もいない、金もない。明日食うものにも困るようなどん底で「ああ、生きててよかった」とつぶやくとか、そんな感じ。
 
 
そもそも不公平なんだよな。
戦いにしか生きがいを見つけられない、まともに定職にすらつけない戦闘ジャンキーに幼馴染の親友と恋人がいるって。
 
口下手で人付き合いもできない、殴り合いしか能のない人間が実は浅倉南(試合当日に間男を連れ込むヨゴレだけどww)と上杉和也に囲まれるリア充でしたなど絶対におかしい笑
 
 
いや、商業的なことを考えればそれが不可能なことはわかるのだが。
どうせやるならそのくらいぶっ飛んでほしかったという僕の勝手な希望である。
 
日本版「ミリオンダラー・ベイビー」爆誕はかなわなかった。
 
 
 
そういえば、映画館で配っていたパンフレットはもうちょい何とかなりませんかね笑
完成までのエピソードを記載してあるのだが、字が読みにくくてしゃーない。
 
あの薄暗い場内で誰が読むねん、こんなもんww

 
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