アリムハヌリさんミドル級最強説。アンドラーデより強いんちゃうか? アリムハヌリvsディグナム、ヘリングvsオルティス、ロペスvsエンカーナシオン振り返り【結果・感想】
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あまり琴線に触れるものがなかった先週末のボクシングだが、その中でかろうじて僕の興味を引いたのが5月21日(日本時間22日)に米・ネバダ州で行われたトップランク興行。
メインイベントではミドル級の地味強マン、ジャニベク・アリムハヌリとWBOヨーロッパ王者ダニー・ディグナムによるWBO暫定王座戦が行われ、アリムハヌリが2R2分11秒KOで初戴冠に成功している。
またセミファイナルでは2021年10月にシャクール・スティーブンソンに敗れたジャメル・ヘリングが無敗のジャーメイン・オルティスと対戦し判定負け→現役引退を表明している。
その他、2022年7月に日本の亀田和毅と対戦予定のウィリアム・エンカーナシオンとアダム・ロペスによるフェザー級8回戦など、派手さはないがそれなりに興味深い試合が行われた興行である。
栗原慶太vs小國以載、木村天汰郎vs高橋竜平現地観戦。MVPは文句なしに木村天汰郎。急遽のスパーリングも結構ヨカタ笑
〇アダム・ロペスvsウィリアム・エンカーナシオン×(判定3-0 ※77-74、76-74、77-74)
まずはこの試合。
申し上げたようにウィリアム・エンカーナシオンは7月に日本の亀田和毅との試合が決まっており、その前に北米で1試合挟むと聞いて「へえ~」と思った選手。前戦では無敗のアブラハム・ノバに8RTKO負けを喫したものの、ここまでの戦績が19勝2敗15KOとなっている。
対するアダム・ロペスは戦績こそ15勝3敗と平凡だが、敗れた相手はスティーブン・フルトン、オスカル・バルデス、アイザック・ドグボエと王者クラスの強豪ばかり。強い選手には違いないが、もう一歩突き抜られない状況が続く。
試合は1Rと3Rにエンカーナシオンが得意のフックでダウンを奪ったものの、それ以外のラウンドを優勢に進めたアダム・ロペスの3-0の判定勝利。
だがジャッジ2人が77-74をつけるなどややロペス寄りの判定だったという声も。
試合を観た感想だが、僕は普通にアダム・ロペスの勝ちでいいと思った。
エンカーナシオンはがんばったし再三パンチもヒットしていたが、全体を通して観ればロペスの優位は動かない。ダウンを喫した1、3R以外すべてロペスのラウンドでもおかしいとまでは言えない。
まあ、2度ダウンを喫したロペスの合計ポイントが「77」なのは若干謎だが。
2021年6月のアイザック・ドグボエ戦でも思ったのだが、アダム・ロペスという選手は基本“打たれながら打つ”人。
前後左右へのフットワークと鋭いジャブ、多彩なコンビネーションが持ち味だが、その反面ガードが低くディフェンスはヌルい。この試合でもダウンを奪われた右はもちろん、リング中央でエンカーナシオンに打ち負ける→タジタジになって後退するシーンが何度も目についた。
自分のターンでは強さを発揮するが、それと同じくらい被弾も多い。
何となくだが、日本の田中恒成と少し被る印象である。
対するエンカーナシオンだが、こちらは「思ったよりも強い」というのが率直な感想。
先日亀田和毅と対戦すると聞いて過去の試合を漁った際は「そこまででもないか?」とも思ったが、いや、これは案外おっかねえぞ? と。
尾川堅一vsジョー・コーディナ、中谷正義vsハルモニート・デラ・トーレ、亀田和毅vsウィリアム・エンカーナシオン。日本人選手全員勝つでしょ。なぜなら僕がそう決めたから
どうしてもvs亀田和毅を想定して観てしまうのだが、この選手を攻略するには前回のヨンフレス・パレホ戦と同じ感じでいけばいいのではないか。
絶えず左右に動いて正面を外しながらジャブとワンツー。
極力正対しないように注意しつつ、出入りと手数で勝負する。
スピード差を活かしながら最終的に100-90のフルマークを狙うのがよさそうな……。
恐らくエンカーナシオンは立ち上がりは亀田のスピードに面食らうはずなので、序盤は高確率でリードを奪える。
ただ、途中から慣れられてグダグダになるというか、後半から追い上げを許すいつも通りの展開になると予想する。
序盤のリードをどこまでキープできるか。
エンカーナシオンの射程に入らず、色気を出さずに打っては離れを徹底できるか。
ペースアップしたエンカーナシオンのパワーに飲み込まれずに粘れるか。
見どころとしてはそんな感じである。
S・バンタム級での王座戴冠→将来的に井上尚弥との日本人対決を目指すのであれば今回はぜひとも圧勝しておきたい。
7月に亀田和毅と対戦予定のウィリアム・エンカーナシオンさん、アダム・ロペスを2度ダウンさせながらも僅差判定負け。
アダム・ロペスはオスカル・バルデスをダウンさせたりドグボエに善戦したりと“あと一歩”の立ち位置の選手だからな。
王座挑戦をアピールするには圧勝したい(KOとは言ってない)。 https://t.co/L2xQU8GVLp
— 俺に出版とかマジ無理じゃね? (@Info_Frentopia) May 22, 2022
亀田和毅vsエンカーナシオン。和毅のベストバウトじゃない? ここ最近ではダントツの試合。竹原慎二パイセンの「距離で避けるディフェンス」そのまんまだった
〇ジャーメイン・オルティスvsジャメル・ヘリング×(判定3-0 ※97-93、96-94、97-93)
続いてセミファイナルのジャーメイン・オルティスvsジャメル・ヘリング戦について。
実を言うとジャメル・ヘリングは2021年10月のシャクール・スティーブンソン戦で引退したものだと思っていたので、今回の復帰戦は「あ、そうなんだ」と少々驚いた次第である。
シャクールがヘリングを「じわじわとなぶり殺しにしてくれる!」10RTKO。同じ土俵で勝負したら厳しいよ。バルデスと統一戦? 冗談でしょ?
相手のジャーメイン・オルティスのことはまったく知らなかったのだが、少し調べてみるとアマ時代にテオフィモ・ロペスやジャロン・エニス、アブラハム・ノバとの対戦経験があるとのこと。戦績も15勝1分8KOと無敗をキープ中の強豪である。
実際の試合だが、流れの中でサウスポーとオーソドックスをスムーズに切り替えるジャーメイン・オルティスが印象的だった。
本来は右構えの選手らしいが、サウスポーになった際もまったくそん色はない。ウェルター級のジャロン・エニスもそうだが、近年両構えでナチュラルにスイッチする選手が増えた印象である。
しかも間合いが遠く踏み込みも鋭いのが……。
近場での連打に対応しつつカロリー高めの出入りでヒットを重ねる姿は荒削りだが力強さを感じさせた。
対するジャメル・ヘリングだが、こちらは思った以上にスピーディな出入りに弱かったなと。
もともと見切り主体の“待ち”のタイプなのでどちらかと言えば相手を追いかけるのは苦手。真正面からワンツーで突っ込んできた伊藤雅雪にはきっちり対応したが、左右の動きを入れつつ出入りを繰り返すオルティスには置いてきぼりを食ってしまった。
それこそ足を止めての打ち合いの方が機能していたのでは? というくらいに。
そしてラスト2Rは疲れからかオルティスの圧力を持て余し、スピード、パワー両面で上回られての判定負け。
ああ、なるほど。
このジャーメイン・オルティスはなかなかよさそうですね。
ついでに過去の試合もいくつか眺めてみたが、どこかの段階で王座に挑戦できれば十分チャンスはありそう。
てか、よく見たらライト級なんですね。
そう考えるとジャメル・ヘリングは復帰戦によくこの相手を選んだなと。“階級上の動けるスイッチヒッター”なんて、プロフィールを見た瞬間に避けなきゃいけないのに。
〇ジャニベク・アリムハヌリvsダニー・ディグナム×(2R2分11秒KO)
そしてメインイベントのWBO世界ミドル級暫定王座決定戦。ジャニベク・アリムハヌリvsダニー・ディグナムの一戦について。
アリムハヌリは離れてもくっついてもOKのサウスポーで、村田諒太を下したロブ・ブラントをまったく寄せ付けずに勝利した選手。現在ミドル級の中でも相当強い方なのでは? とひそかに思っている。
割と冗談抜きでIBF/WBAスーパー統一王者のゲンナジー・ゴロフキンより上? かも?
アリムハヌリやっぱりいい。ロブ・ブラントを削りまくってTKO勝利。村田諒太とは絶対に絡まないタイプだしアンドラーデvsアリムハヌリは笑うw
一方のダニー・ディグナムは現WBOヨーロッパ王者とのこと。
例によって僕はこの選手をまったく知らなかったのだが、戦績を見ると国内のサバイバルマッチをクリアして今回のチャンスを得た選手っぽい。日本人選手に例えるならライト級の中谷正義や吉野修一郎と似た立ち位置なのではないか。
試合についてだが、アリムハヌリがすごかった。
開始直後から前手の差し合いで圧倒、ディグナムが強引に出てくればバックステップとともにカウンターを合わせる。
細かくアングルを変えながら距離を詰め、ガードの外側から左フックをヒット→失神KOであっさり勝利してしまった。
いや、ヤベえなアリムハヌリ。
ミスマッチだったのはもちろんだが、それを踏まえた上で。
サウスポー同士とは思えないほど右リードがスムーズで左の打ち下ろしも抜群。
相手のダニー・ディグナムもサウスポーとの対戦はそれなりに経験していたようだが、そんなことはまったく問題にならない。
すでにミドル級時代のビリー・ジョー・サンダースよりも強そうだし、対戦指令が出た正規王者のデメトリアス・アンドラーデにも勝ちそう。
マジな話、サウスポー同士でここまで自在に右を使える選手はヘビー級のオレクサンドル・ウシクくらいしか思い浮かばない。
存在が地味過ぎるせいであまりハネることはなさそうだが、ミドル級の“推定最強”は実はこの人じゃないの? とすら思い始めている。
そらあなた。
帝拳のカイチョー本田もコイツには絶対に関わろうとはしませんよね。
こんなヤツと絡んだらせっかくのキャリアが一発でぶっ壊れるし、たとえ勝っても地味強過ぎて知名度も上がりにくい。
2年半のブランクを経てゴロフキンに直で突撃したのはマジで正解だった笑
村田諒太以外にゴロフキンをここまで追い詰められるヤツがどれだけおるの? でも引き出しの多さ、経験値の違いが顕著だった。改めてブランクが…
暫定王座はどう考えても必要。現王者が統一戦や複数階級制覇を優先している場合は特に
あとはまあ、改めて暫定王座は必要だよねという話。
今回の暫定王座戦は正規王者のアンドラーデが王座を保持したままS・ミドル級の暫定王座戦に進んだ(負傷で延期)ことで組まれたもの。
また同日行われたデビッド・ベナビデスとデビッド・レミューによるWBC世界S・ミドル級暫定王座決定戦は正規王者サウル・“カネロ”・アルバレスのL・ヘビー級挑戦を踏まえての措置。
カネロが8年7ヶ月ぶりの敗戦。ビボルのジャブとガードを崩せず。“ロッキー・フィールディングの呪い”を解いたビボルに神の祝福を
その他、ウェルター級ではテレンス・クロフォードとの王座統一戦を目指すエロール・スペンスJr.の事情を鑑みてか、エイマンタス・スタニオニスとラジャブ・ブタエフによるWBAレギュラー王座戦が行われている。
諸々を考えると、村田諒太がスーパー王者に昇格できた理由も見えてくる気が……。
日本国内でしか試合をしない選手をどかす(スーパー王者に昇格)→レギュラー王座を設置することでランキングの活性化を図る意図があったのではないか。
実際、現レギュラー王者のエリスランディ・ララは米国内で活動する選手なわけで。
以前にも申し上げたが、暫定王座はどう考えても必要である。
WBAが暫定王座廃止? いや、暫定王座はいるだろw ここまでビジネスが肥大化すれば王座乱立も仕方ない? L・フライ級の上位ランカーに注目してみた
現王者が防衛戦よりも統一戦や複数階級制覇を優先している場合は特に。
ランキングを活性化させる、上位の選手にチャンスを与えるためにも不可欠としか言いようがない。
井上尚弥の保持するWBAタイトルなんて、ずーっと指名戦が行われてないですからね。
こういうときこそランキング上位の選手同士で暫定王座決定戦を組んだらいいんじゃないの?
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