竹原慎二vsホルヘ・カストロ初視聴。昔のボクシングのアングラ感と竹原の接近戦での強さ。てか、この貫禄で23歳なの!?【感想】

竹原慎二vsホルヘ・カストロ初視聴。昔のボクシングのアングラ感と竹原の接近戦での強さ。てか、この貫禄で23歳なの!?【感想】

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1995年12月19日、東京・後楽園ホールで行われたWBA世界ミドル級タイトルマッチ。同級王者ホルヘ・カストロに日本の竹原慎二が挑戦し、3-0(116-114、118-112、117-111)の判定で竹原が勝利。日本人には不可能と言われた世界ミドル級王座戴冠に成功した試合である。
 
 
以前から何度か申し上げているが、ここ最近の僕はボクシング観戦の熱がだいぶ冷めている。
新型コロナウイルスの影響による試合数の減少もあるが、もっとも大きな理由は大人たちの駆け引きにウンザリしているから。
 
中でもヘビー級のタイソン・フューリー、デオンティ・ワイルダー、アンソニー・ジョシュアの三つ巴対決がほとんど実現せずに尻すぼみになったこと、バンタム級の4団体統一路線がちっとも進まないことがデカい。
 
バンタム級の主役と言われていた井上尚弥が実はまったくのわき役扱いだったり、ドネアとカシメロがウダウダ交渉しているうちにどちらも別の相手との対戦指令が出たり。
 
ボクシングのビッグマッチが決まらないのはいつものことだが、ここまで年単位で引っ張られると興味も失せる。
先日のフューリーvsワイルダー戦もおもしろい試合ではあったが、どこか遠くから眺めている気分が抜けなかったことを告白しておく。
 
フューリーvsワイルダー3。ポイント計算すら無粋な規格外バトル。ヘビー級だけは別枠であるべき。神々のお戯れに不純物はいらない()
 
というわけで表題の件。
今回はボクシングの観戦熱が冷めまくった中での暇つぶしということで、1995年12月の竹原慎二vsホルヘ・カストロ戦を振り返ってみたいと思う。
 
ちなみに僕は今までこの試合をちゃんと観たことがない。
現役時代の竹原慎二もよく知らないし、ホルヘ・カストロという選手のすごさもよくわかっていない。
 
かろうじて知っているのは3Rのダウンシーンくらいという、ほぼ初見での感想となる。
 

ボクシングのアングラ感に驚いた。昔のボクシングは昔のボクシングですよね

まず視聴をスタートして最初に思ったのが、「ボクシング、すげえアングラだなw」
 
入場曲が流れるとともに狭い階段を上がり、リングに向かう竹原慎二と王者カストロ。
 
リングサイドにはいかついスーツに身を包んだ映っちゃいけない”人たちがずらっと並ぶ。
 
おいおいマジか。
このアウトレイジ感はどうなのよ?
世界一を決める試合前のセレモニーがコレかよw
 
暗転や照明効果で華やかさを演出してはいるが、だからどうした。昭和から平成に年号が変わっても関係ない。ボクシング=拳闘、格闘技=暴力のイメージが依然として健在だと思わせる入場シーンである。
 
以前、井上尚弥がテレビのインタビューで「昔のボクシングの熱狂を取り戻したい」とコメントしていたが、本気かオイ?
こんなアングラ丸出しのものを世間に見せたいのか?
 
やっぱり昔のボクシングは昔のボクシングですよ
 
というか、そもそも論として後楽園ホール開催だったんですね。
それすら知らなかった僕の無知っぷりもまあまあアレですが……。
 

ホルヘ・カストロの戦績に驚き、竹原慎二の貫禄に度肝を抜かれる。え? これで23歳なの!?

そして入場が終わり、リング上では両選手の紹介が始まる。
 
まずは王者ホルヘ・カストロ。
モジャモジャ頭にひげ面、ずんぐりむっくり体型という、スタイリッシュさとはかけ離れた風貌の選手。
ややうつむき加減で左手を掲げる姿からは静かな闘争心が感じられる。
 
画面下には字幕でこれまでの戦績が。
104戦98勝(68KO)4敗2分。
 
は!?
104戦!?
98勝!?

 
冗談だろ!?
 
ホルヘ・カストロってそんなにすごい選手だったの?
竹原はこんな相手に勝ったの?
 
BoxRecで確認してみたところ、マジでその通り。
「Jorge Castro」
 
生涯戦績144戦130勝(90KO)11敗3分。
しかも竹原戦から2年後の1997年に“黄金の中量級”の一角ロベルト・デュランと2連戦を敢行しているという。
 
メキシコの英雄フリオ・セサール・チャベスの生涯戦績が115戦107勝(85KO)6敗2分なので、それだけでもカストロの試合数の多さは際立つ。
 
ちなみにロベルト・デュランの生涯戦績は119戦103勝(70KO)16敗。
太い首にずんぐり体型、パワフルなパンチ力を兼ね備えたファイターは長持ちしやすいということなのだろうか。
 
 
続いて挑戦者竹原慎二の紹介。
 
ここまでの戦績は23戦23勝(18KO)無敗。
 
なるほど。
アジアでは敵なしの倒し屋そのままの数字である。
 
セコンドが頭に巻かれた日の丸のハチマキをほどき、竹原は自分の顔を両手でポンポンと叩いて気合いを入れる。
そして首を左右に動かし、“キッ”と正面を見据える。
 
ほどよい緊張と高ぶり、殺気に満ちた表情。
 
試合前から「記念挑戦」「勝てるわけがない」などと言われていたらしいが、とんでもない。
負ける気など毛頭ない、画面越しからでも大物食いを起こしてやろうという気概が感じられる。
 
って、23歳なの!?
 
これで!?
 
 
いや、すまん。
あまりのことに驚きが止まらない。
 
パッと見では30前半くらいだと思っていたが、まったくそんなことはなく。
 
てか、そもそもその年齢までやってないんだよねこの人。
 
 
老け顔とかではなく、この貫禄で23歳はすげえわ。
 
たまに昭和のプロ野球選手の写真を見て「これで20代なの!?」と驚くことがあるが、それと同じ。
ポップでオサレな令和のスポーツ選手とは一線を画す、アングラ感を色濃く残した風貌である。
 
アムナットさんのベストバウトは井岡一翔戦で間違いない。今振り返っても好きすぎる試合。人生の厳しさを教えたゾウ・シミン戦も捨てがたいけどね
 

竹原のパンチが柔らかい。力感のないパンチをスパスパ出してカストロの顔面を揺らす

そんな感じで入場から選手紹介まで驚きの連続だったわけだが、いよいよ試合開始のゴングである。
 
 
開始直後、グローブタッチをしようと左手を差し出すカストロ。それに合わせて竹原も左手を伸ばすのだが、次の瞬間にカストロはスッと左手を引き思い切りフックを振り抜く。
態勢を崩しながらもかろうじてこのフックをかわした竹原は表情をグッと引き締め、ロープを背に左回りで距離を取る。
 
素晴らしいww
 
こういうダーティさも100戦以上プロのリングで戦ってきたキャリアあってのものか。
開始10秒弱で僕の中でのホルヘ・カストロの好感度が爆上がりである。
 
 
そして試合を観て思ったのが、竹原慎二がめちゃくちゃ柔らかいということ。
 
肩から背中にかけてリラックスした構えで相手と対峙し、力感のない左リードをスパスパ放つ。
打ち下ろし気味の右にもほとんど力みが感じられず、意識の外側からいきなり飛んでくる印象。
 
1R中盤に右ストレートでカストロを効かせるシーンがあったが、あれなどはまさにそんな感じ。
中間距離でフェイントをかけ合い、直前に左を見せておいてから同じタイミングで今度は右をスパッと打ち込む。
予想外の軌道、タイミングで被弾したカストロはたまらず後退してロープを背負う流れ。
 
スポーツ選手のカッコいい(愛称)ニックネーム、キャッチフレーズBEST5。「短い」「聞いた瞬間名前と顔が出てくる」ことが選出の条件です
 

竹原の接近戦での強さにさらにビックリ。得意パンチが左ボディってのも納得ですね

さらに驚いたのが、竹原慎二の接近戦での強さ
 
身長173cmとミドル級としては小柄なカストロに対し、竹原慎二は身長186cm。
当然サイズ差を活かした戦術を想像していたのだが、実際にはまったく逆。むしろカストロの突進を真正面から受け止め、至近距離でゴンゴン打ち合うシーンばかりが目に付く。
 
しかもその打ち合いがめちゃくちゃ強い。
竹原のパンチは力感なくスムーズだと申し上げたが、その柔軟性は接近戦でより発揮される。
 
長い腕が絡みつくような軌道でガードの外と内から顔面を揺らし、その都度カストロの連打を寸断。
1発1発の迫力はカストロの方が上だが、的確さとスピードでは完全に竹原に分がある。
 
竹原慎二の得意パンチと言えば真っ先に出てくるのが左ボディだが、なるほど確かに。
顔面への連打でガードを意識させ、タイミングを測ってボディをズドン。
3Rのダウンなどはまさにというヤツで、あのタイミング、あの角度でもらえばそりゃ倒れるよなと思う1発だった。
 
 
てか、何なんですかねこの柔軟性は。
上背があってパンチ力も抜きんでている+接近戦が得意な連打型。
ディフェンス面のヌルさ、打たれながら打つスタイルによって短命に終わった選手だが、これは間違いなく強い。
 
似たようなタイプでパッと思いつくのはS・バンタム王者のブランドン・フィゲロアだが、僕が思うに竹原の接近戦はフィゲロアを超えている気がする。
 
ルイス・ネリ陥落。フィゲロアとの打ち合いに根負け&ボディを被弾で撃沈。いい試合だったけど何であんなに自信たっぷりだったんだろうな
 
ついでに言うと、相手の眼前でグローブを合わせる猫だましや足元に視線を落としてからいきなり飛び跳ねるパンチもいい。
それで何かが起きたわけではないが、絶対に勝てないと言われた相手を慌てさせようという意識は山ほど感じられた。
 
正々堂々なんぞクソくらえ。
どんな手を使ってでも勝つという気迫は問答無用で心を動かすものがある。
 
 
後楽園ホールのリングサイド席に勝手に座って教え子に喚き散らす竹原慎二は可及的速やかに滅びてしまえと思っているが、偉大な王者に一歩も引かずに打ち合う全盛期の竹原慎二は長く語り継がれてほしい()
 

見どころ満載の12R。竹原の接近戦での精度とカストロのタフさその他。いつの間にか釘付けになってたよ

・アングラ感丸出しの“昔のボクシング”
・ホルヘ・カストロの意味不明な戦績
・23歳とは思えない竹原慎二の貫禄
・グローブタッチすると見せかけて先制攻撃を仕掛けたカストロ
・よそ見や猫だましなど、あらゆる手段で勝ちにいった竹原
・ダウン後にマウスピースを吐き出して体力回復を図るカストロ
・次のラウンドから普通に動き回るカストロのタフさ
・竹原の接近戦での強さ、精度の高い連打
 
申し上げたように僕はこの試合を始めて視聴したのだが、とにかく見どころ満載の12R。
特に凶悪なごり押しスタイルを想像していた竹原が実は押し引きが得意で柔軟性のある選手だったことはかなり意外だった。
 
また竹原が次の試合で網膜剝離を発症して引退したのに対し、あれだけ打たれてもケロッとして腕を振りまくり、そこから10年以上も現役を続けたホルヘ・カストロのタフネスっぷりにも驚かされる。
 
軽い気持ちで視聴をスタートしたはずの試合だが、いつの間にか釘付けになってしまった。
 
 
 
まあでも、アレだ。
繰り返しになるが、このアングラ感をわざわざ取り戻す必要性は1mmも感じないけどね。
 
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