村田諒太以外にゴロフキンをここまで追い詰められるヤツがどれだけおるの? でも引き出しの多さ、経験値の違いが顕著だった。改めてブランクが…【結果・感想】

村田諒太以外にゴロフキンをここまで追い詰められるヤツがどれだけおるの? でも引き出しの多さ、経験値の違いが顕著だった。改めてブランクが…【結果・感想】

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2022年4月9日、さいたまスーパーアリーナで行われたWBAスーパー/IBF世界ミドル級王座統一戦。WBA同級スーパー王者村田諒太とIBF王者ゲンナジー・ゴロフキンが対戦し、9R2分11秒TKOでゴロフキンが勝利。2団体統一に成功した一戦である。
 
「WBA&IBF 世界ミドル級王座統一戦 ゲンナジー・ゴロフキン vs 村田諒太」
 
序盤から積極的に前に出るWBA王者の村田諒太。強烈なワンツーでゴロフキンを下がらせ近距離でのボディでさらに追い詰めていく。
対するゴロフキンも得意のジャブからのコンビネーションで迎撃するが、再三のボディ攻撃に苦悶の表情を浮かべて距離を取る。
 
だが1発の精度とハンドスピードで上回るゴロフキンはラウンド序盤に攻勢をかけるなど、徐々に主導権を引き寄せていく。
 
そして5R以降はガードの間から連打を浴びせ、6R終了間際には疲れが見える村田をロープに釘付けにするシーンも。
 
そのつど右の強打とボディで反撃する村田だが、ゴロフキンの強弱をつけた連打とフットワークに対応できず。9Rに右のカウンターを被弾して大きくバランスを崩すと、その瞬間セコンドからタオルが投げ入れられ試合終了。無念のTKO負けとなった。
 
吉野修一郎vs伊藤雅雪はこの日のベストバウト。日本のてっぺんってすげえんだよな。剛腕吉野にロマンチスト伊藤が真っ向勝負。伊藤は自分の役回りをよく理解してた
 

僕の展望は前半勝負、ボディと右の打ち下ろし、当たり負けしないことが重要。いろいろな人が似たようなことを言っていた

村田諒太vsゲンナジー・ゴロフキン。
 
日本ボクシング史上最大のビッグマッチ、1990年2月のマイク・タイソンvsジェームス・バスター・ダグラス戦以来の大物来日などと言われたこの試合。
最強王者ゲンナジー・ゴロフキンに日本の村田諒太がどこまでやれるかが注目されたわけだが……。
 
まず試合前の僕の展望は下記。
 
村田諒太vsゴロフキン正式発表。予想云々はともかく勝つしかねえよ。厳しい試合になると思うけど、最初から攻めるしかないんじゃない?
 
・ゴロフキンはファイター寄りのオールラウンダー
・村田とは対戦相手、経験値にかなりの差がある
・村田が勝機を見出すには前半勝負
・体力のあるうちにフルスロットルで攻めるしかない
・ゴロフキンを下がらせたところでボディと右の打ち下ろし
・それには真正面からゴロフキンに当たり負けしないことが重要
 
要するに村田のプレスがどれだけ通用するか、正面衝突でゴロフキンを後退させられるか、村田の体力がどこまで続くかが見どころになりそう。
 
理想は5RまでにKOすること。もしくは前半を全速力で駆け抜けての僅差判定狙い。
どちらにしろ村田が勝つには攻めるしかない。ようやく巡ってきたチャンスなのだから四の五の言わずにぶっ倒せ。
 
 
でも、ゴロフキンがKOされるシーンというのは想像がつかないんだよなぁ。
スタイル的にも村田がポイントアウトするのは相当難しそう……。
 
なので、僕の勝敗予想はゴロフキンの後半KO勝利or判定勝利でございます。
 
だいたいこんな感じである。
 
 
実際、この試合の展望に関してはいろいろな人間が似たようなことを言っていた。
現役選手の井上尚弥や寺地拳四朗、2013年にゴロフキンと対戦した石田順裕などなど。
本人を含めて多くの人間が異口同音に「前半勝負」「ボディ」「ゴロフキンを下がらせれば」と発言している。
 
本人が自ら戦略をバラしていくのはどうなの? とも思ったが、やるべきことがこれくらい明白なのが逆によかったのかもしれない。
 
井上尚弥のリアル鷹村守化完了。さすがのドネアもこの日の井上には勝つのは難しい。悔しすぎてインタビューも聞かずに会場を出ちゃったけど
 

圧力に押されて下がるゴロフキンなど僕は知らない。村田との真正面からの打ち合いを早々に諦めたゴロフキン

そして、ホントにその通りの展開に持ち込みやがったなと。
 
1R開始直後。
ゴロフキンのジャブがガードの間から顔を跳ね上げるが、村田は気にするそぶりを見せない。
自ら距離を詰め、圧力を増したところで強烈なワンツーを叩き込む。
 
このパンチをガードするゴロフキンだが、身体ごと後ろに飛ばされて驚いた表情を浮かべる。
そのままサークリングして距離を取り、村田と正対することを嫌がるようにサイドに回る。
 
2Rからは近場での差し合いで左ボディを突き刺す村田。
このボディにゴロフキンはあからさまに顔を歪めて腕を下げる。
 
それを見た村田はすかさず顔面にワンツーを放つ。
ゴロフキンもかろうじてクリーンヒットを免れて後ろに飛びのくが、村田はもう一段ギアを上げて得意のプレスでゴロフキンをロープ際に追い詰めていく。
 
 
一応言っておくと、僕はこれまで圧力で後退させられるゴロフキンの姿を一度も観たことがない。
ゴロフキンの馬力が100だとしたら恐らく村田は85〜90くらい。
100の馬力を12Rで配分するゴロフキンと、前半6Rに85〜90の力をすべて注ぎ込まなければならない村田。
要するに村田のプレスがゴロフキンに通用するかが最初の難関になる。
 
などと思っていた時期が僕にもありました。
 
いや、すごかったですね。
マジですごかった。
 
まさかゴロフキンをここまでパワーで圧倒するとは。
普通はあのジャブをかいくぐるだけでも大仕事、ボディを打てる位置まで近づくのにすら難儀するのに。
 
村田がロブ・ブラント戦、スティーブン・バトラー戦でのファイトをそのまま持ち込めば全然やれるとは思っていたが、ゴロフキンに正面からの打ち合いを早々に諦めさせたのにはガチで驚いた。

村田覚醒? 強敵バトラーを壮絶左フックで5RTKO。ついに自分の馬力に気づいちゃったか? 前に出て腕を振れば相手は下がる
 

ゴロフキンの調子はあまりよくなさそうだった。身体つきにハリがない、お肉が垂れ下がっているように見えたんだよね

一方のゴロフキンだが、今回は調子自体はあまりよくなかったと思う。
 
計量の際にも時間ギリギリまで調整していたらしいし、クリア直後の表情を見てもいまいちピンとこない。
「40歳の身体とは思えない」「凄まじい厚み」「バッキバキやん」などと賞賛されていたが、正直僕にはよくわからなかった。
人間ドッグを受けに来た中間管理職みたいなガウンを着ていたせいかも? とも思ったが。


そして試合前にコーナーで選手紹介を受けるゴロフキンの姿に「あれ?」と。
身体つきにハリがないというか、いまいちみずみずしさが感じられない。全体的にお肉が垂れ下がっている印象で、この時点で割と村田勝利もあり得るか? と思い始めていたところ。
 
で、いよいよ開始のゴングが打ち鳴らされ……。
村田の圧力にタジタジになり、怪しい足運びでバタバタと距離を取る姿に「あ、マジで調子悪そう」。
これは完全に村田に風が吹いとるぞと思った次第である。


申し上げたようにこの日のゴロフキンは足の運びが怪しく力感も足りない。
単純に村田が強かったというのもあるとは思うが、調子がよくなかったのも間違いなさそう。
 
加齢による衰えなのか、ブランクによる試合勘の鈍りなのか、調整失敗なのか。もしくはそのすべてなのかは不明だが。
 

ピンチの局面でもしっかりジャブを当て、アングルを変えながら反撃の時間を待つ。“パワーを兼ね備えた技巧派”と呼んだ方がしっくりくるね

だが、そこは最強王者ゴロフキン。
過去一のピンチとも言える局面でもガードの間からジャブを当て続け、4Rあたりで村田が失速して以降は確実にペースを引き寄せていく。
 
特にブロックの間から通しまくるパンチの正確性はさすがとしか言いようがない。
ガードをガッチリ固めた壁のようなプレスを持ち味とする村田だが、1R終了時には早くも顔が紅潮していた。それ以降もガツガツ攻めているのは村田なのに、顔面が変形していくのも村田という妙な光景が続く。
 
逆にゴロフキンは馬力では押されるもののクリーンヒット自体は少ない。ガードが間に合わない場合は被弾の瞬間に顎を引いて歯を食いしばり、一番ダメージの少ない位置でパンチを受ける。
ボディは露骨に嫌がるそぶりを見せていたが、そのつど細かい呼吸などで危険水域に至る前にピンチを脱していた。
 
 
足を止めての打ち合いでは分が悪いと判断したあとの対応もよかった。
サイドに回り込みながら正面を外し、村田の圧力を正面から受けないように微妙にアングルを変える。
体力切れを起こした村田が小休止した6R後半、ここぞとばかりに連打を浴びせてロープ際に釘付けにしたのもさすがである。
 
序盤こそ村田のボディに苦しめられたが、顔面に攻撃を集めることで腕を下げる余裕を奪ってうまくボディを封じてみせた。
ラウンド序盤に攻勢をかけてペースを奪う集中力を含め、近場でのバリーエションの違いは顕著だった。
 
ゴロフキンがシェルメタを7RKO。全盛期なら2Rで終わってたな。もう村田かチャーロとやるしかないっしょ
 
パンチの強弱はもちろん、ペース配分や相手の状態を見極めた上でのラッシュ、その他。調子も悪く体力的にきつかったのも間違いないと思うが、その中でもやれること、やるべきことをやって勝利に結びつける試合巧者っぷりはやはりとんでもない。
 
最初にゴロフキンのことを“ファイター寄りのオールラウンダー”と申し上げたが、この試合に関してはむしろ“パワーを兼ね備えた技巧派”と呼ぶ方がしっくりくる。
 

村田にとってはこのブランクが悔やまれる。最強王者の牙城を崩すにはもう一歩足りなかった

そう考えると、村田諒太にとっては改めて約2年4ヶ月のブランクが悔やまれる。
 
何度も申し上げているように村田は2019年7月のロブ・ブラントVol.2で覚醒、2019年12月のスティーブン・バトラー戦で今のスタイルを確立したと思っている。
 
村田諒太の覚醒とコロナによるブランクがもったいなさすぎな件。ブラント、バトラー戦の勢いのまま間髪入れずに次戦に行きたかった
 
ただ、あのやり方は完全に前半型で、実際バトラー戦でも5Rには若干落ち始めていた。
 
そのバトラー戦から今回のゴロフキン戦まで約2年4ヶ月開いたわけだが、仮に防衛戦を何試合かこなせていれば。
「前半からすっ飛ばす→後半に電池切れ」の流れを多少ブラッシュアップできた可能性もあると思うのだが……。
 
もともとこの選手はスタイル的に得手不得手がはっきりしているタイプ。本来は勝ったり負けたりを繰り返しながら成長しつつ、大勝負のチャンスを待つのが最適だったはず。
 
ところがオリンピック金メダリストの肩書きを傷つけられない&日本でミドル級のビッグマッチを組むのが大仕事になるせいで、マッチメークにも慎重を期さなければならなかった。
 
 
誰もが「前半勝負」「ボディ」「ゴロフキンを下がらせれば」と口を揃えるくらいの見え見えの作戦をそのまま実行し、最強王者を追い詰めたのはマジでとんでもない。
できることはすべてやり尽くしたというのも間違いないと思う。


ゴロフキンの動きを見る限り、言葉は悪いが衰え待ちのタイミングも完璧だった。
 
極論、ゴロフキンにあれだけ圧力をかけられる、連打の恐怖を乗り越えられる選手が世の中にどれだけおるの? という話。
少なくとも“記念挑戦”などというネタ試合ではなかった。
 
だが、そこからもう一歩先がなかったというか、最強王者の牙城を崩すにはわずかに引き出しが足りなかった。
 
 
日本にこだわらずに海外遠征も視野に入れていればという話なのだが、またロブ・ブラントのようなババを引く恐れもあるのがね……。
 
ジャニベク・アリムハヌリなんて絶対関わっちゃダメなヤツですからね笑
 
カネロvsゴロフキン3。金ヅル同士の3度目の遭遇。「割り切って儲けようぜ」的な乾いた同意があった気がした。ゴロフキンの追い上げに感動したよ
 

ゴロフキンのキャリアの重厚さ。相手の必勝パターンに完全にハマったところからヌルッと脱出。情報収拾も終わらせちゃった

その点ゴロフキンの経験値、キャリアの重厚さは凄まじいものがある。
 
開始直後に馬力で圧倒され、相手の必勝パターンにも完全にハマった。
だが、そこから的確にジャブを当てつつ村田の失速を待ち、序盤3、4Rで何だかんだで情報収集を完了してしまった。
 
ある程度村田の戦力を把握してからは足を使ってアングル調整しながら連打と防御を使い分け、いつの間にか自分の土俵に引きずり込んでのKO勝利。
ピンチでの対応力、押し引きの妙、厳しい状況でのメンタルの持ちよう、などなど。
「やっぱりすげえなぁ、さすがだなぁ」と思わせるシーンが山ほど見られた。
 
それこそMMAで言えば三角締めがガッチリ極まった状態からヌルッと抜け出し、逆転勝利につなげたような。
 
 
・ここぞの場面で出力が上がらない
・1発もらうとパタッと動きが止まる
 
申し上げたように調子自体はよくなかったと思うが、その中での取捨選択、この瞬間やるべきことのチョイスはあまりに素晴らしい。
 
 
試合前には散々「この試合に冷めている」「ピークは年末だった」などとほざいたが、普通に楽しかった。両者ともにナイスファイトである。
 
カネロvsゴロフキン2戦目を久しぶりに視聴。両者が憎悪とプライドをバッチバチにぶつけ合った白熱の試合。全3戦に流れがあっておもしろいよね
 
SNSや会見での罵り合い、キャラ立ちアピールも決して悪いとは思わないが、そういった諸々も圧倒的な“本物”の前ではすべてが霞むのである。
 
 
でも、ゴロフキンはカネロとの第3戦はちょっと厳しいかもしれませんね。
 
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