有能or無能? 阪神タイガース和田監督の采配がいかに有能だったかを考えるの巻

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曇り空イメージ
初めに申し上げておくが、2015年の阪神和田監督は間違いなく名将である
一部ではファンからは「監督の器じゃない」「無能」「地味」と心ないヤジを浴びせられているようだが、前年まではどうあれ2015年の和田監督は球史に残る名将だと思っている。

僕は今まで、あれほど自分のチームの戦力を客観的に見極めた上でとことん現実主義を貫く監督を見たことがない。同時に、あれだけメンタルの強い監督を見たことがない。

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僕は野球の采配についてそこまで的確な分析ができるわけではないし、そもそも阪神ファンでもない。だが、2015年の和田阪神がどれだけ異常なチーム状況で優勝争いをしていたか、和田監督の采配がどれだけすばらしかったかくらいはわかる。

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2015年の阪神和田采配がいかに徹底した野球をしていたか。わかっている人は僕などに言われるまでもなくわかっていると思うが、今回はあえてそこにスポットライトを当ててみることにする。
題して「有能or無能? 阪神タイガース和田監督の采配がいかに有能だったかを考えるの巻」である。

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リリーフ陣崩壊の中で3位に食い込んだ阪神

もう一度申し上げるが、2015年の阪神タイガースは本当にすごかった。
同時に、少ない戦力をやりくりするだけで勝ち抜けるほどペナントレースは甘くないことをまざまざと見せつけられたシーズンでもあった。

まず、2015年の阪神の順位をおさらいすると、

セ・リーグ 2015年 順位変動グラフ

ページ下部にある順位変動グラフを見ていただきたい。
6月上旬から徐々に順位を上げていき、7月に首位争い、そして8月上旬に首位に立つ。勝負の9月に失速して3位でペナントレースを終えていることがわかる。

次に以下の数字をご覧いただきたい。

チーム防御率:3.47(5位)
先発防御率:3.20(2位)
救援防御率:4.16(6位)

※チーム別救援防御率
1位 ヤクルト:2.67
2位 巨人:2.71
3位 広島:2.86
4位 中日:3.01
5位 DeNA:3.44
6位 阪神:4.16

阪神の救援防御率が飛び抜けて悪いことがおわかりいただけるだろうか。
投高打低の2015年シーズン、しかもどちらかといえば長い回を投げる先発陣の防御率が悪くなる傾向のある中でのこの成績である。

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なお、破壊力のある打線に反比例して投手陣が完全に崩壊していたと言われていた2013年のDeNAでさえ、救援防御率は3.90である。しかも2013年のセリーグ総本塁打数714本に対して、2015年の総本塁打数570本の中での防御率だ。これだけでも2015年阪神の救援陣がいかに崩壊していたかがご理解いただけると思う。

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では、次に阪神の2大スーパーエースである藤浪とメッセンジャーの成績を見てみよう。

2015 藤浪成績
2015 メッセンジャー成績

注目していただきたいのは月別の成績である。3、4月は両投手ともに調子が上がらず苦戦。5月になると藤浪が復調してチームを支える大黒柱となり、6月以降にメッセンジャーも調子を上げてきたことがわかる。そしてこれは阪神の上昇曲線と見事に重なっている。

この2人の最終的な成績は、

藤浪14勝7敗 IP199.0 防御率2.40 QS率75.0%
メッセンジャー9勝12敗 IP193.2 防御率2.97 QS75.9%

となっている。

特に注目すべきはIP(投球回)とQS率だ。
両投手ともに投球回は190回を超え、なおかつQS率が75%である。

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ちなみに今季のセリーグでIP190以上でQS率75%以上を記録しているのは、この2人の他に広島のジョンソンと前田健太のみである。広島はここにIP169.2でQS率76.92%の黒田を加えた最強三本柱の先発陣を擁するチームだが、阪神はこの広島にわずか0.5ゲームながら順位を上回ったのである。

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崩壊したリリーフ陣の中で安藤、福原、呉昇桓に依存しまくった2015年

そして最も特筆すべきはこの3人、安藤、福原、呉昇桓のリリーフ陣である。

2015 安藤成績
2015 福原成績
2015 呉昇桓成績

例によって月別成績を見ていただきたい。
一目瞭然だが、開幕直後から福原、呉昇桓が獅子奮迅の活躍でチームを支えている。さらに7月にやや呉昇桓が調子を落とした時期に安藤が調子を上げてカバーしている。
そして8月の快進撃に入るのだが、この時期に調子の落ちてきた福原に変わって、調子を取り戻した呉昇桓とともに依然好調の安藤が支え続けるのである。
だが、9月に入るとさすがの安藤にも疲れが見え、9月18日から29日までの12連戦で力尽きてしまうのだ。

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これらの数字+救援防御率4.16という成績を見ると、いかに藤浪、メッセンジャーの2人が毎試合長い回を投げ、福原、安藤、呉昇桓の強力リリーフ陣につなぐ野球を徹底してきたかがわかる。
 
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というよりも、勝ち試合でのこの5人への依存度が異常なほど高いことがおわかりいただけるのではないかと思う。

終盤に歳内が出てきたとはいえ、はっきり言って安藤、福原、呉昇桓以外は全員敗戦処理である。

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さらに驚愕の数字が以下である。
チームセーブ数:42S
呉昇桓セーブ数:41S

ちなみに残りの1つは呉昇桓離脱後の福原だ。どれだけ阪神が呉昇桓に依存していたかがご理解いただけると思う。
 
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チーム成績が軒並み下位に沈む阪神。割り切った采配で主力だけで勝ち続ける

次に下記の数字を見ていただきたい。2015年の阪神タイガースのチーム成績である。

●阪神チーム成績
防御率:3.47(5位)
失点:550(5位)
得点:465(6位)
打率:.247(4位)
打点:446(5位)
本塁打:78(5位)
長打率:.343(6位)
得点圏打率:.239(5位)

チーム打率やホームラン数、長打率、得点数がすべからく低く、防御率や失点が多いことがわかる。ひと言で言うと、戦力的にはお話にならない状態である。

この戦力で3位に食い込んだ結果を見るだけでも、2015年の阪神がどれだけ割り切った戦い方をしてきたか、いかに負け試合で福原、安藤、呉昇桓を温存し続けてきたかが想像できるのではないだろうか。

序盤に先発が崩れた試合はさっさと敗戦処理を出して負けておく。大敗しようが1点差で負けようが1敗は1敗。序盤で試合が壊れたときはさっさとあきらめて、ひたすら主力の体力を温存するという徹底した割り切りである。

そのかわり藤浪とメッセンジャーが先発する試合では、この2人にはできるだけ長いイニングを投げてもらい(7回の安藤)、8回の福原、9回の呉昇桓に直接つなぐ。理想は藤浪、メッセンジャーを7回まで引っぱり、8回福原9回呉昇桓という継投だが、先発2人がそこまで持たなかった場合は7回に安藤を挟む。

長打力不足の打線が相手先発から何とか得点を奪い、2人のスーパーエースと鉄壁のリリーフ陣で接戦を拾いまくるというパターンである。

チームの特徴を客観的に分析し、少ない戦力をやりくりしてできうる限りの最適な選択をする。とことんまでの現実主義を貫く。これが2015年の和田采配なのである。

ちなみに藤浪とメッセンジャーに次ぐ先発である岩田と能見はどうだったのかというと、

2015 岩田成績
2015 能見成績

岩田は5月にまあまあの活躍を見せるものの、年間通してはそこまでインパクトのある投球は見せられず。
能見は開幕から調子が上がらず衰えが顕著に見られたシーズンだったが、8月後半から9月という一番の勝負どころにピークを持ってくるという類いまれなる調整能力を発揮する。
なお無能な僕は6月くらいの能見を見て、リリーフに回って短い回を全力投球した方がいいのではないかと思っていた。

結局、

岩田8勝10敗 IP170.1 防御率3.22 QS率51.9%
能見11勝13敗 IP159.2 防御率3.72 QS率60.0%

と、3番手4番手の先発としては及第点の成績を残している。

2015年の阪神は主力5人+岩田能見の2人に依存した戦い方で8月に首位に立ち、9月の半ばまで優勝争いを繰り広げたのである。この阪神野球は本当に胸を震わせるものがあったし、この戦い方を徹底した和田監督の精神力の強さは賞賛されるべきだと思っている。

そして9月の12連戦で力尽きた姿を見て、少ない戦力でペナントレースを勝ち抜くことの限界を感じたものである。

2015 西岡成績(5/23抹消)

これは想像だが、西岡が離脱した5月下旬に和田監督は今季の采配に対する覚悟を決めたのではないかと推測している。数少ない打線の主軸である西岡が抜けたことで、和田監督なりに悲壮な覚悟を固めたのではないだろうか。

広島がこの戦力で4位なのは異常だ

余談だが、上述の広島に関してはジョンソン前田という沢村賞級の先発投手2人+セリーグ1優秀な3番手である黒田を抱えた上での4位。これははっきり言って異常だ。
チーム成績は以下の通りである。

●広島チーム成績
防御率:2.93(2位)
救援防御率:2.86(3位)
失点:474(2位)
得点:506(3位)
打率:.246(5位)
打点:473(3位)
本塁打:105(3位)
長打率:.368(3位)
得点圏打率:.235(6位)

これを見てもわかるように、2015年の広島はセリーグの中でも軒並み上位のチーム成績を残している。もう一度言うが、この戦力での4位は異常である。細かい内容を見るまでもなく、この数字を見るだけでいかに今年の広島の采配がちぐはぐだったかは証明されていると思う。

10月4日の広島vs阪神戦で、6点差の9回に黒田が完投を志願したことがファンの間では称賛されていたが、こんなものは男気でも何でもない。首脳陣の投手運用に対する黒田の無言の抗議だったとしか思えないのである。

よく野村克也監督が、少ない戦力をうまく運用して強者を打ち負かす「弱者の野球」を体現したと言われるのだが、正直なところ、僕はこれが正しいとは思っていない。彼が名将と呼ばれることにどうにも納得がいかないのである。

ヤクルトで日本一を獲得した1993、1995年。そしてCS第2ステージまで進んだ楽天での2009年。彼が名将と呼ばれるゆえんはこの辺りにあると思うのだが、試しにこの年のチーム戦力を調べてみるといい。すぐに気づくはずである。普通に強いことに。

主軸となる4番に加えて2桁勝利の先発が3人いたり、下位打線に30本近くホームランを打つ外人がいたりと、勝てるチームの条件はしっかりと揃っているのだ。別に弱者でも何でもないのである。
恐らくID野球と呼ばれる緻密なミーティング、それに端を発した著書の数がそう思わせているのだと思うが、安心して欲しい。野村の率いたチームは戦力がないときはちゃんと弱い
野村克也が無能だとは決して思わないが、本物の名将とは2015年の阪神和田のような監督をいうのである。

2015年プロ野球、涙腺が崩壊しかけたシーン【阪神編】

これは完全に個人的な見解なのだが、2015年の和田阪神で本当に目頭が熱くなったシーンが3つほどある。まことに勝手ながらそれを紹介したい。

まずは9月23日の巨人戦。
1-2と1点ビハインドの8回に呉昇桓を投入したシーン。
このシーンはヤバかった。
今までビハインドの状況では極力安藤、福原、呉昇桓を使わなかった和田が、とことんまで現実主義を貫き続けてきた和田が、最後の最後で感情を抑えきれずに呉昇桓を投入してしまったシーンである。もちろん負ければ一気に優勝が遠のく試合での投入が間違っていたとは思わない。このときのために今まで現実主義を貫いてきたと言っても過言ではないのかもしれない。それでもこの呉昇桓投入はヤバかった。

この後同点に追いついくものの、結果的に9回裏に回またぎの呉昇桓が打たれてサヨナラ負けを喫してしまうのだが、本当に目頭が熱くなるシーンだった。

次に10月2日のヤクルト戦。
この試合でヤクルトが14年ぶりの優勝を決めるわけだが、10回に能見にリリーフ登板をさせた采配もなかなかくるものがあった。

福原も使い、安藤も疲れが溜まっている。呉昇桓は怪我で登録を外れた状況。打線はヤクルトの強力リリーフ陣を打てる気配なし。
戦力的にも枯れ果てた中でほとんど勝ち目のない試合。それでもカラッカラに乾いた雑巾をさらに搾るように、最後の一滴をひねり出そうとする采配。悪あがきと言われればそれまでだが、少ない手駒を総動員してどうにか一矢報いようとする意地が見え隠れした采配だった。

最後は10月12日の巨人戦。
1勝1敗で迎えたCS3回戦。結果的に和田監督の最後の試合となったわけだが、ここでの6番関本もヤバかった。
前日に2番サードに入った今成を外し、2015年に一度しか先発出場のなかった関本を6番サードで起用した試合である。

サウスポーで速球派のポレダに対して、スピードボールに弱い今成では厳しいと判断した結果の関本起用。長打力不足、得点力不足が深刻な阪神打線にとって、関本の長打力に期待した部分は大きかったはずだ。東京ドームの狭さ、サウスポーのポレダ。そして、比較的自由に打てる6番という打順。4番ゴメス、5番マートンからの打線に切れ目を作らない効果も期待できる。
さらに引退を発表した関本に対する阪神ファンの心情にも配慮した、粋で理にかなった最適解答。結果は出なかったが、これ以上ない和田采配の妙だったと思う。
僕は今だかつてここまで人間味と色気のあるオーダーを見たことがない。

6 鳥谷
4 大和
9 福留
3 ゴメス
7 マートン
5 関本
8 江越
2 鶴岡
1 能見

試合前にこのスコアボードを見ただけで目頭が熱くなったことは内緒だ。

31年間阪神一筋和田豊、本当にお疲れさまだ

2015年、阪神和田野球。
主力5人+2人が命を削りながら繰り広げた優勝争い。
最もシステマティックで最高に人間くさい。

細かい部分での采配ミスはあっただろう。江越や梅野などの若手の台頭はあったものの、育成という意味で不満が残るのもわかる。よく言う左右病という悪い癖を抱えていたことも確かなのだろう。
だが、間違いなく2015年和田豊は名将だった。

・崩壊した投手陣
・外人頼みの打線
・鳥谷の衰え
・福原、安藤、能見、福留ほか主力の高齢化
・柱となる捕手の不在

これだけの課題を抱えながら、少ない手駒をどうにかやりくりして9月まで優勝争いを繰り広げた手腕はまさしく名将と呼ぶにふさわしい。

果たしてこの先、こんなに有能でここまで華麗で切ない野球をする指揮官が現れるのだろうかww

心の底からお疲れさまと申し上げたい。

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