パナソニックがトヨタに苦戦しつつも後半に突き放す。続々退団が発表されてるけど、もう少しまともなシーズンで観たかった【2021.5.15ラグビー感想】
2021年5月15日、大阪・花園ラグビー場で行われたトップリーグプレーオフトーナメント準決勝。第1試合のパナソニックワイルドナイツvsトヨタ自動車ヴェルブリッツの一戦は48-21でパナソニックが勝利。5月23日の決勝戦にコマを進めた。
トップリーグとしてのラストシーズンとなる2021年。
この日、日本選手権を兼ねた準決勝第1試合が花園ラグビー場で行われたわけだが……。
先日この試合の勝敗&展開予想をニワカなりに考えてみたのだが、今回はその答え合わせを兼ねて感想を言っていこうと思う。
なお僕の勝敗予想はパナソニックの勝利で、スコアは30-15前後になるのでは? と申し上げている。
パナソニックvsトヨタ、サントリーvsクボタ予想。パナつええなぁ。クボタはワンチャンあると思ったけど…
結果的に予想よりも多く得点が入るエキサイティングな試合となり、個人的にもかなり楽しめた次第である。
というわけで、予想通りだった部分とそうでなかった部分を含めてあれこれ振り返っていくことにする。
パナソニックの出来はそこまでよくなかった。いきなりトライを取ったことで逆に浮き足立ったか?
まず今回の試合、パナソニックの出来はそこまでよくなかったと思う。
48-21と最終的には点差が開いたものの、前半は持ち前のディフェンス力を発揮できていたとは言い難い。
それこそ前半17分に3本目のトライを奪われた際は「これはガチでやべえんじゃねえか?」と思ったほど。
開始3分、自陣ラインアウトにおけるサインプレーでノックオンを犯したあたりで今日のパナソニックが本調子ではないことはわかったのだが、とにかく波に乗れない時間が長く続いた試合だった。
恐らくだが、最初のWTB福岡のノーホイッスルトライでチーム全体が浮き足立ったのだと思う。
予想記事でも申し上げたように、パナソニックの持ち味はインプレーでのキックの多さ。
SH、SO問わずあらゆる局面で敵陣深く蹴り込み、素早いプレッシャーをかける。
相手が蹴り返してきたボールをクリーンキャッチし、スペースのある位置からスピーディなバックスリーがカウンターを仕掛ける。
鉄壁のディフェンスで相手の攻め手を奪い、キックカウンターでディフェンスを切り裂くスタイル。
「ラグビーはディフェンスから」
「スピードのあるランナーがスペースに走り込む」
王道中の王道を戦術の中心に据えたラグビーと言える。
そして、この試合ではキックを警戒する相手心理を逆手に取り、引いて待ち構えるディフェンスにキックオフから思い切ってランを仕掛けて見事にノーホイッスルトライを奪ってみせた。
試合開始直後で硬さも残っている中、最高のスタートを切れたと言えるのではないか。
だが、これが逆にチームをフワフワさせた感が強い。
用意していた作戦があまりにうまくハマったせいで必要以上にテンションが上がったというか。
ここから気持ちをリセットして引き締めなくてはならないところが、むしろ鮮烈な成功体験が尾を引いてしまった気がする。
で、案の定ミスから外に展開され、あっさり同点のトライを許してしまうという。
事前にいくつかのプランを用意しておくのは当たり前だが、それが上手くいきすぎるのも考えものだと思わされる一連のパフォーマンスだった。
マピンピ加入のNTTドコモに注目。でも、チームスタイル的にNTTドコモじゃマピンピを生かしきれないような…
最高の立ち上がりを見せたトヨタ自動車。パナソニック相手に初めて20点以上を挙げる
一方のトヨタ自動車だが、こちらは最高の立ち上がりを見せた。
いきなりノーホイッスルトライを奪われはしたが、そこで崩れることはなく。
すぐに左隅のトライで同点にすると、それ以降もスピーディなパス回しや厳しい詰めでパナソニックのオフェンスをことごとく潰す。
極力ペナルティを少なく、相手陣でプレーするというのがパナソニックの持ち味だが、前半のトヨタはその部分をうまく消していた。
さらにフェーズを重ねてもスピードの落ちないオフェンス、キックを効果的に使った地域確保など。自分たちの長所をふんだんに発揮しつつ、立て続けに3本のトライを奪ってみせた。
トヨタに勝ち筋があるとすれば自陣からでもパスをつないで攻め上がるようなランニングラグビー。準々決勝でのキヤノンイーグルス同様、パナソニックがディフェンスの準備が間に合わないくらいのスピード感で突き放すくらいしか思いつかないと申し上げたが、まさにそれを実践していたのではないか。
それこそキヤノンをはるかに上回る理想的な立ち上がりと言っていいほどに。
だってアレでしょ?
パナソニックが20失点以上を喫したのってこの試合が初めてですからね。
どれだけ前半のトヨタ自動車がよかったかっつー話ですよ。
サントリーの堅守にクボタ散る。アップセットが起きるとすればこの試合だと思ったけど。日本人SOってホントに育ってないんだな
キックを3本とも外したのが痛かった。松田力也も絶好調ではなかったが、勝負どころで流れを手放してしまった
ただ、トライ後のGKを3本とも外してしまったのが痛かった。本当に痛かった。
キッカーのライオネル・クロニエが3本のうち1本でも決めておけば前半を同点で折り返していたわけで、その後の展開も違ったはず。
ひょっとしたらパナソニック側にも焦りが生まれていたかもしれない。
特にパナソニックは確実にPGを決めることで勝利を挙げてきたチーム(9試合で18本中18本成功)である。
現にこの試合でも連続トライを挙げて勢いづいているのはトヨタなのに、リードしているのはパナソニックという状況が続いていた。
恐らくこれまでの相手も「負けている気がしないのに点差をつけられている」感覚を味わってきたはず。
極力相手陣でプレーすること、ペナルティを少なくすることで松田力也のキック力を最大限に生かすチームというヤツ。
とはいえ、松田力也の出来もそこまでよかったとは思わない。
これまで100%決めてきたPGをこの試合では2本外しているし、27-21の状況で外した後半25分のPGはガチでやばかった。あの1本を決めれば6点差→9点差となって試合の主導権を握れたところなのだが、外した瞬間に試合の行方が一気にわからなくなってしまった。
直後に福岡のトライで突き放したからよかったものの、両チームに流れが行ったり来たりしていた局面だった分、本当に危ない失敗だったと思う。
だが、元を正せば後半16分にトヨタのクロニエがPGを外したことで流れを止めてしまったことも確か。
あの時点では20-21でトヨタの1点リード。試合を通して唯一トヨタがリードしていた時間帯だったわけで、そこでさらに3点を追加しておけば……。
一気にパナソニックを崩せる可能性もあったと思うのだが。
パナソニックがサントリーを下す。無敗対決を制して6度目の優勝。FB野口竜司のプレーの軽さが流れを変えたよな
先行逃げ切りでパナソニックをちぎるのは相当難しいんだろうな。深い時間になればなるほどほころびは大きくなる
要するにパナソニック相手に先行逃げ切りでちぎるのは相当難しいのだと思う。
今回のトヨタ自動車や前回のキヤノンが見せたランニングラグビー、素早いリスタートやハイテンポな展開で置いてきぼりにする作戦は決して間違いではない。
間違いではないが、それを1試合やり通すのは困難を極める。
体力的な部分はもちろん、パナソニックの対応力や控えメンバーの分厚さその他。深い時間になればなるほどほころびは大きくなる。
この試合のトヨタも前半はうまくパナソニックのペナルティを誘っていたが、後半は疲労やプレッシャーに押されてハンドリングミスも増え、掴みかけた流れを手放してしまった。
勝負どころでキックを外したことを含め、やはりこのチームを相手に80分間逃げ切るのは不可能に近いのかもしれない。
じゃあどうやって勝てばいいの? と聞かれると答えに窮するのだが……。
続々と発表される退団選手。できればもう少しまともなシーズンで観たかったよね。今の日本でラグビーをやろうと思う海外選手がいるのかどうか
なお、2021年5月14日にトップリーグに所属する5チームから計62人の退団が発表されている。
「ラグビートップリーグ 5チーム計62人の退団が一斉発表 リーグ最小1メートル52のSH秦は現役引退」
今シーズン僕が注目していたNTTドコモレッドハリケーンズ のTJ・ペレナラやマカゾレ・マピンピ、キヤノンのNo.8エドワード・カーク、WTBホセア・サウマキ、神戸製鋼のLOブロディ・レタリックなどなど。各国の代表クラスの選手やサンウルブズで活躍したメンバーの名前も多く見られる。
また準決勝で敗退したトヨタ自動車のFLマイケル・フーパー、NO.8キアラン・リードの退団も濃厚とのこと。
シーズン終了とともに多くのメンバーが退団するのは毎年恒例ではあるが、正直今年の終わり方は残念としか言いようがない。
2019年W杯での日本代表の躍進以降、数多くの世界的プレイヤーがトップリーグに加入したことは以前申し上げた通り。
これまでも「日本で世界的なプレイヤーを間近で観られるスポーツNo.1はラグビー」だと何度も連呼してきたが、W杯直後はそれに一気に拍車がかかっていたところ。
ダン・カーターが神戸製鋼入りするってよ!! 世界的なプレイヤーが観たければラグビートップリーグがおススメだよん
ところが新型コロナウイルスの影響により2020年シーズンは途中で打ち切り、2021年も開幕が遅れた上にリーグ戦の試合数も減らされ、最高でも全11試合という中途半端なシーズンに。
多くの助っ人選手は2023年のフランスW杯に向けて自国に戻るわけだが、できればもう少しまともなシーズンで彼らの活躍を観たかったなと。
この試合のマイケル・フーパーなんて、めちゃくちゃすごかったですからね。
パナソニック48-21トヨタ自動車
パナの横綱相撲だったけど、出来自体はそこまでよくなかった。
最初のノーホイッスルトライで逆に浮足立った部分もあるだろうな。スピード勝負を挑んだトヨタも正解だったと思う。
でも後半は緊張が切れたよな。なおマイケル・フーパーはやっぱり凄かった。 https://t.co/msDptIMngR
— 俺に出版とかマジ無理じゃね? (@Info_Frentopia) May 15, 2021
もちろん助っ人だけでなく、退団選手の中には引退を決めた選手も多く含まれているのだと思う。そして、それも少なからず新型コロナウイルスの拡大が影響しているはず。
もう1年やるか今年で辞めるかを考える際、先の見えない今の状況で現役続行を決意するのは相当難しい。
仮にコロナが収束していれば、助っ人の中にも日本に残る選手が何人かはいたかもしれない。
また、来シーズンからどんなリーグが発足するのかは知らないが、今の日本でラグビーをやろうと思う海外選手が果たしているのかどうか。
W杯前年の大事な時期に、まともなアピールの場すら与えられないようなリーグで貴重な現役生活を消費するなど普通に考えればあり得ない。
実際、プロ野球でもいまだに助っ人が来日できないままとか、当たり前にありますからね。
ボクシングの世界戦も海外から選手を呼んで〜というのがパッタリなくなったし、ホントにシャレになっていない。
Jリーグ、ヴィッセル神戸のアンドレス・イニエスタが2年の契約延長を発表してファンを大いに喜ばせていたが、あんなものはレアケース中のレアケースなわけで。
今さらあれこれ言っても仕方ないのだが、一連のコロナの影響は来日する外国籍の選手にも及んでいる。