ローマン・ゴンサレス、マイク・タイソン、内山高志。最強の勝ちパターンさえあれば構成はシンプルでいい。シンプル・イズ・ゴールデンベスト()
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新型コロナウイルス感染拡大の影響で世界的にボクシング興行がストップしているので、ここ最近は過去の試合を漁ってわちゃわちゃと楽しんでいる。
いわゆる“レジェンド”と呼ばれる選手の試合を中心にながめているのだが、その中でも特に驚いたのがローマン・ゴンサレス、マイク・タイソン、内山高志の3選手。
どの選手もやっていることは非常にシンプルなのだが、攻略は困難を極める。最強の勝ちパターンというか、最小限の組み立てで最大のリターンを得るというか。
もちろん細かい部分では僕などにはわからない駆け引きや工夫があるとは思うが、全体的にはめちゃくちゃシンプル。
その反面、何かが崩れるとすべてのバランスが狂うのも彼らの特徴で、構成がシンプルな分立て直しが難しい。一旦落ちたところからどう立て直すか、もしくはこのまま落ちていくかも見どころの一つだったりする。
逆に多くの引き出しを有し、あらゆる局面において高い対応力を見せる選手もいる。想定外の出来事にすぐさま順応できるというか、自分がピンチに陥る状況を最初から想定しておくというか。フロイド・メイウェザーJr.やバーナード・ホプキンスなどがそれに当たる(気がする)。
またザブ・ジュダーやシェーン・モズリー、ロイ・ジョーンズJr.のような天才タイプはとにかく瞬間最大風速が凄まじい。絶好調時の動きは歴代No.1と言っても過言ではなく、ハイライトだけでも飯が5杯は食える。
しかも試合を経るごとに経験がプラスされていくので、年齢を重ねて動きが落ちてもそこそこやれてしまう。あんな脳筋ファイトでも何だかんだで40代までできたのも、彼らの天才的な煌めきがあってこそなのだろうと。
シェーン・モズリーとかいうデラホーヤ戦の9Rですべてを使い切った男。天才肌脳筋ワンマン短距離型最強全盛期クソ短いけど試合超おもしろいマン
歴代PFPかも? ローマン・ゴンサレスは負けないようにできている
僕が思うローマン・ゴンサレスの全盛期はL・フライ級時代。2011年7月のオマール・サラド戦から2012年11月のファン・フランシスコ・エストラーダ戦までで、そのころのパフォーマンスは歴代PFP No.1に認定してもいいのでは? というほどの凄みを感じさせる。
もちろん今のロマゴンが弱いなどと言うつもりはない。先日カリド・ヤファイに勝利して久しぶりの戴冠を果たしたように、S・フライ級のロマゴンも十分すばらしい。
だが攻撃と防御、相手との体格差など。すべてのバランスが最高水準だったのはやはりL・フライ級時代だろうと。
L・フライ級のロマゴン凄すぎワロタw ベストバウトはスティベン・モンテローサ戦で異論ないよな? これはオールタイムベストかも?
高いガード+重厚なプレスで逃げ場をふさぎながら距離を詰める。
ガードとパリング、シフトウェイトで攻撃の芯を外し、同時に左を上下に打ち分ける。
そして、相手にロープを背負わせたところで徐々に回転を上げる。
足を使っても先回りされ、自ら手を出してもパリングとシフトウェイトで弾かれる。
戻り際のカウンターを防ぐために手を止めると、どんどん押し込まれて連打の餌食に。
無理やり距離を詰めても接近戦で歯が立たずに後退させられ、最後は根負けしてやっぱり連打の餌食に。
ロマゴン相手に下がったらダメなのは明白だが、あのプレスと連打に耐えながら前進するのは不可能に近い。
スタイル自体はシンプル極まりないのに逃げ道がどこにもない。
最強ロマゴンにもっとも肉薄したと言われる2012年11月のエストラーダも、リング中央での打ち合いではそのつど根負けして後退を余儀なくされている。むしろあれだけロープを背負わされた状態からよく巻き返したと思うくらい。
つまり、L・フライ級のロマゴンは負けないようにできている。
ただ、この最強の勝ちパターンも階級を上げるごとに綻びが目立ち始め、4階級目のS・フライ級でついに崩壊した。
身体が大きく連打と足を両立できるカルロス・クアドラスには最後まで追いつけず、サウスポー+ラフファイトが得意なシーサケット・ソー・ルンビサイには豪快なKO負けを喫した。
特にシーサケットはロマゴンにとっては天敵中の天敵。左を起点に連打を発動するロマゴンスタイルはサウスポー相手では機能しにくく、なおかつ近場で頭をゴンゴン当ててくるラフファイトは神経質なロマゴンがもっとも嫌うタイプ。
階級アップに伴い相手のパワーも上がり、パリングとガードが弾かれ次の動作に遅れが生じる。階級差を埋めるために1発1発に力を込めて打つため連打からスムーズさが失われる。
何の準備もせずにS・フライ級でタイトルマッチを強行したことを含め、あの頃のロマゴンにもう少し慎重さがあればと思わないでもない。
踏み込み+連打+スピードこそ最強のワンパターン。“アイアン”・マイク・タイソン
マイク・タイソンはキャリアの前半と後半で別人か? と思えるほど明暗が分かれた選手。
特に1986年11月のトレバー・バービック戦までのパフォーマンスは凄まじいとしか言いようがない。
激しく上体を振り、相手のリードをかいくぐる。
パンチの戻り際に合わせて踏み込むと同時に1発目のフックを叩き込み、そのまま自分の間合いに入る。
そして、ウィービングの反動をつけた高速のコンビネーションで標的を破壊する。
ヘビー級離れしたスピードと鋭い踏み込み、回転力を備えたコンビネーションはカウンターを合わせる余裕すら与えない。
マイク・タイソンおすすめ4試合。ボクシングを観ない人に魅力を伝えるにはタイソンの試合を見せておけばいい
このシンプルなファイトスタイルを最強のワンパターンに昇華させた最大の要因がタイソンの強靭な足腰。
一瞬で間合いをゼロにする踏み込みや長身選手の顔面を楽々捉えるフックなど。タイソンの全盛期の試合を観れば、すべての土台が下半身にあることは一目瞭然である。
だが1995年8月の復帰戦以降はこの脚力が衰え、パフォーマンスが著しく低下した。
踏み込みの鋭さが失われたために中間距離での破壊的な連打はなかなか発動しない。
イベンダー・ホリフィールドとの2戦ではインファイトがうまくないという弱点をモロにつかれ、近場での徹底したラフファイトに苦しめられた。
また8RKO負けを喫したレノックス・ルイス戦では遠い位置からの左リードで削られ続け、動きが鈍ったところに右をドカン。
小柄で小回りが利くことがタイソンの強みだったはずが、足腰の強靭さが失われたことで“小柄で小回りの利かない人”に変貌してしまった。
トップクラスの実力者には違いないが、トップ中のトップには勝てなくなった。
カス・ダマトと袂を分かったことがどう影響したのか、ドン・キングやその取り巻きとの関係はどうだったのか。
今さら“タラレバ”を言っても仕方ないが、身体能力の落ちた30歳前後の時期にうまく方向転換できなかったのがキャリア後半のタイソンなのだろうと。
「超一流は全盛期が2度ある」というのが僕の持論なのだが、2度目の全盛期を最後まで引っぱり出せなかったのが本当に惜しい。
あとはまあ、カス・ダマトの教えた最強のワンパターンは現WBC王者のタイソン・フューリーには通用しない気がする。
あのスタイルは恐らく身長206cm、リーチ216cmでモハメド・アリ並みに動けるジャブ使いとかいう化け物を想定したものではない。
というより、本来そんなヤツが出てくること自体がおかしいわけだが。
多彩な左リードと高速ワンツー、悶絶ボディの内山高志
内山高志についてはジェスレル・コラレスやマイケル・ファレナスといったスピードのあるサウスポーにタジタジになることも多く、正直“最強の勝ちパターン”と呼ぶまでにはいかない(と思う)。
ただ、それでも左リードの機能する中間距離では誰も勝てないのでは? というほどの強さを発揮する。
内山高志は僕が心底カッチョいいと思った選手。中間距離でかなうヤツは誰もいないんじゃない? ウォータース戦は実現してほしかったよね
多彩な左で距離を測り、中間距離で相手を疲弊させる。
と同時にこの左で絶好のポジションに相手を誘い出し、高速のワンツーを叩き込む。
ジリ貧になった相手が強引に近づいてくれば、近場で悶絶ボディをズドン。
左リードで相手を誘導し、絶妙のタイミングで得意のワンツー。接近戦では相手の攻撃をガードしながら悶絶ボディをねじ込む。
以前にも申し上げた通り、左リードが打てるスペースさえあれば内山高志が負ける姿は想像がつかない。多少相手は選ぶものの、このスタイルもシンプル・イズ・ゴールデンベストと言えるのではないか。
内山高志と朝倉海、矢地祐介とジークンドーの石井東吾先生の対談が読みたくて2020年5月23日発売の「GONG(ゴング)格闘技7月号」を購入したのだが、思った通りめちゃくちゃおもしろい。
内山本人によると、2011年1月の三浦隆司戦で右を痛めて以降、左の練習だけをしていたら劇的に左が成長したとのこと。これまでは右でばかり倒していたのに、そこからは左で倒すことが多くなったという。
それを受けて2011年12月のホルヘ・ソリス戦、2013年5月のハイデル・パーラを観てみたところ、もう笑ってしまうくらいすごいww
中でもハイデル・パーラ戦は内山のベストバウトとも言えるほどの出来。
序盤こそパーラのリズムと身体能力に手間取ったものの、3Rあたりで左リードの距離とタイミングを掴む。
それ以降はリードの差し合いでパーラを圧倒し、左でたっぷりと疲弊させた4R終盤に高速のワンツーで豪快にピヨらせる。
そして、手詰まりになったパーラが強引に前に出てきた5Rに悶絶ボディをねじ込んでの見事なKO勝利。
「左リードとワンツー→悶絶ボディ」の最強の勝ちパターンがこれでもかというくらい機能した一戦である。
繰り返しになるが、中間距離での差し合いで内山高志に勝てる選手はちょっと思いつかない。国内では特に。
S・フェザー級時代のマイキー・ガルシア相手でもいい勝負になったのでは? というくらい、vsオーソドックスにおける内山の強さ、安定感は群を抜いていた。
それだけに、もっとも大事な試合でジェスレル・コラレスなどというババを連れてきてしまったことはいまだに悔やまれる。
自信たっぷりにあんなめんどくせえヤツを調達してんじゃねーよw みたいな。
できることは一つでいい。ただ、それが崩れたときの立て直しができるかも見どころの一つだよね
最強の勝ちパターンが一つあれば、構成は必要最小限のシンプルなものでいい。
だが、最適バランスが崩れた際にすべてが狂う脆さも伴う。
ロマゴンは階級の壁、タイソンはブランクによる衰え、内山は天敵との遭遇。
各々状況は違うが、そこからどう立て直すか、そのまま沈んでいくかも見どころの一つ。いろいろと興味深いお話である。
ナジーム・ハメドvsマルコ・アントニオ・バレラ戦感想。バレラがハメドを完全に攻略した試合
なおこれは余談だが、内山高志と朝倉海がやってたヤツ、あれってスパーリングじゃなくてマススパーじゃないっすかね。
僕みたいな素人がそんな細かいツッコミを入れるのは野暮かもしれませんが。
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