映画「孤狼の血」感想。8割役所広司で成り立つ作品。雰囲気重視の真木よう子も悪くないw 白石和彌監督っぽいなと思ったけどやっぱりそうだよね
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映画「孤狼の血」を観た。
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「孤狼の血」(2018年)
1998年、広島市を地盤とする五十子会の加古村組のフロント企業、呉原金融の計理士が行方不明になる事件が起きる。
この事件がきっかけで加古村組と地元・呉原市の尾谷組の緊張感は一気に高まっていた。
呉原東署のマル暴刑事大上章吾は、県警本部から異動して間もない若手刑事の日岡秀一とともにこの計理士行方不明事件の捜査に当たる。
大上は署内では凄腕として通っているが、同時に事件解決のためには手段を選ばない過激な捜査によって黒い噂が絶えない男。
日岡も赴任早々、大上の強引な取り調べを目の当たりにして戸惑いを隠せずにいる。
そんな日岡を尻目に、勤務中に平然とパチンコに興じる大上。
気が気でない日岡は大上に勤務に戻るよう説得を試みるが、当の大上は気にするそぶりすら見せない。
それどころか、向こうの台にいる大男に喧嘩を売ってこいと日岡をけしかけるのだった。
大上の意図が理解できない日岡は当然その指示を拒否するのだが、大男が加古村組の構成員の1人だと知らされ……。
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「孤狼の血」すげえよかった。期待を持って視聴した結果、それ以上のクオリティに大満足です
「孤狼の血」。
原作者の柚月裕子が「仁義なき戦い」シリーズなどの東映路線実録路線を意識したと公言し、「日本で一番悪い奴ら」「凶悪」を手がけた白石和彌が監督を務めて2018年に公開された映画である。
なお僕自身は例によってこの作品をまったく知らなかった上に東映の全盛期とやらもいっさい経験していない。たまたま目にした「孤狼の血 LEVEL2」の予告編で存在を認識したクソニワカな人間である。
これはなかなかよさそうだということで、公開前に「孤狼の血」の方も観ておくかと思い手を出してみたところ……。
めちゃくちゃよかった。
上記の予告編からも期待感は相当高かったものの、実際はそれをさらに上回る出来。
というより、あまりのクオリティの高さに「LEVEL2」が心配になるほど。
おいおい大丈夫かコレ。
松坂桃李を主人公にして前作を上回れるのか?
一作目と比較されるのは間違いないし、確実に「物足りない」って声が出るんじゃねえの?
素人の分際でいらぬ心配をしてしまうくらい、今作「孤狼の血」の衝撃が凄まじかったことを報告しておく。
というか、作風が白石和彌監督っぽいなと思っていたら、やっぱり白石和彌監督でしたね。
この人の作品は綾野剛主演で2016年に公開された「日本で一番悪い奴ら」を大いに楽しませてもらった記憶があるが、今作の衝撃度はそれ以上。
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個人的な評価としては5点満点中4.8点くらい。
ド深夜の視聴だったせいでかさ上げされている部分もあるとは思うが、とにかく“ガツン”と頭をぶっ叩かれるほどおもしろい作品だった。
今作のキモは役所広司のすごさ。8割は役所広司で持っていると言っても過言ではない
表題の通りだが、今作のキモは何と言っても役所広司のすごさにある。
ヨレヨレのスーツに無精髭。
バカでかいサングラスをかけ、額に汗を滲ませながら誰彼構わず首根っこを掴んで怒鳴り散らす。
粗暴で下品な振る舞いながらもなかなか本音を見せず、周りにとっては何を考えているかわからない理解不能なタイプ。
役所広司の醸す孤独感、何とも言えない雰囲気がこの作品の根幹と言っても過言ではなく、僕が目が離せないほど今作にのめり込んだ一番の要因でもある。
以前「映画『プリティ・ウーマン』はジュリア・ロバーツの可愛さが8割」と申し上げた記憶があるが、冗談抜きで今作はそれに近いものがある。
プリティ・ウーマンのジュリア・ロバーツは東京ラブストーリーの鈴木保奈美だってことを今から説明してやるからそこ座れ
つまり、映画「孤狼の血」は8割方役所広司の演技で成り立っているのである。
いや、マジですごかったですよね役所広司。
音尾琢真演じる吉田滋をラブホテルで追い詰めるシーンの無表情な狂気っぷりや、日岡のアパートで頭にタオルを巻いてあぐらをかく後ろ姿、日岡に飲みの誘いを断られた直後の去り際の背中など。
ギラッギラに脂ぎった無骨さと哀愁が同居したおっさんをあそこまで演じきった力量はお見事としか言いようがない。大上章吾役をできるヤツなんてこの世で役所広司の他におらんでしょというくらいのハマり役である。
2018年の役所広司はこの役で数多くの主演男優賞を受賞したらしいが、いや、そりゃそうでしょと。
僕はこれまでこの人にはあまり興味がなかったのだが、今作によって一気に評価が高まっている(今さら?)。
真木よう子も悪くなかった。演技が下手と言われるけど、作品の雰囲気と絶妙にマッチしていた
また、クラブ梨子のママ・高木里佳子を演じた真木よう子もなかなかよかった。
高木里佳子は尾谷組のシマ内のクラブでママをやりつつ構成員の柳田タカシと交際中という役どころで、荒っぽい男たちに囲まれても物怖じしない芯の強さを持つ女性。
と同時に過去に大上が関わった事件にも深く関係しており、常連客の大上には少なからず恩義を感じている節がある。
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真木よう子に関しては「演技が下手」という声も多く、PS4専用ソフト「龍が如く6 命の詩」でスナック「清美」のママを演じた際の尋常じゃない棒読みは逆に印象的だったとか。
ただ、今作では大上のよき理解者として、また組同士の抗争に巻き込まれる女性としての存在感を十二分に発揮している。
確かにセリフ回し? はあまり上手とは言えない。
表情も乏しく素人の僕が観ても「おや?」と感じることもある。
また、一部ではハト胸が目立ち過ぎて集中力を削がれるといった意見もあるとかないとか。
正直、俳優としてはネガティブな評価が多い印象である。
だが、そういった諸々もこの人が放つ空気感がうまく覆い隠してくれる。
和服姿に盛り盛りのヘアスタイルは作品全体の猥雑さと絶妙にマッチし、適度な無表情っぷりは海千山千の男たちと対峙することで艶やかさに変わる。
集中力を削がれるらしいハト胸も、全編を通してほぼ和服姿なのでまったく気にならない()
何というか、こういうのはやはり雰囲気勝負なのだと思う。
セリフ回しや表情を単体で見ればいまいちでも、どれだけ作品に溶け込めているかが重要。パーツごとにスポットを当てるのではなく、全体を俯瞰で見てこその俳優というか。いかに作品の雰囲気とマッチしているかによって受け手の印象も大きく変わるのだろうと。
そういう意味でも声だけで勝負する「龍が如く」ではセリフ回しの稚拙さ“だけ”がクローズアップされてしまった。
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僕が常々「声優に芸能人を起用するのは構わないが、最低限の力量は必要」と申し上げているのは要するにこういうことである。
繰り返しになるが、今作の真木よう子は僕の中では素晴らしかったし、竹野内豊は絶望的に暴力団役に向いていなかった(と思う)。
松坂桃李の童貞感。粗暴な大上との対比、作中唯一の常識人としてのアクセント
そして大上の相棒、日岡秀一を演じた松坂桃李について。
率直に申し上げてこちらもかなりよかった。
もちろん役所広司の凄まじさには及ばないものの、事件解決の使命感と理想の狭間で揺れる新米刑事っぽさは松坂桃李のピュアな雰囲気にバッチリ合っていたと思う。
ピュアというより、むしろ“童貞感”と呼んだ方が正解か。
大上の強引な取り調べにドン引きしたり、クラブ梨子で高木里佳子にからかわれて赤面したり。
超えてはならない一線を軽々超えていく大上とそれに慣れっこの取り巻きの中における唯一の常識人(彼らにとっては面倒臭いヤツ)というか。この人の持つ童貞感はちょうどいいアクセントの役割を果たしていたのではないか。
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後半の覚醒部分はいまいちだったな。お前の居場所はそこじゃないというか、お前に役所広司の背中を見せられるの? 次回作が心配になるレベル
だが、後半以降の覚醒パートは個人的にはいまいちだったことをお伝えしておく。
県警の指示で大上の内偵を進めるうちに大上の本意に触れ、どこに正義があるのかがわからず悩む日岡。
そんなある日、行方不明だった大上が遺体となって発見され、それをきっかけに日岡は大上の後を追うように強引な捜査に乗り出していくわけだが……。
な〜んか合ってないんですよね。
養豚所で善田大輝にブチ切れてフルボッコにするまではよかったのだが、そこから開き直って五十子会と加古村組、広島県警の黒幕を一網打尽にするクライマックスなどははっきり言っていまいち。
ノリと勢いで押し切れているうちはいいが、いったん仕切り直すとボロが見え隠れする印象。「いや、お前が本来いるべき場所はそこじゃねえんだよ」みたいな。
映画「孤狼の血 LEVEL2」はエイリアンだよな。バトルに寄せつつギャグパートも挟みながら。実は一番おいしかったのは音尾琢真
最初に申し上げたように、今となっては次回作「孤狼の血 LEVEL2」は不安の方が大きい。
日岡秀一を主役に据えてストーリーが展開していくようだが、果たして松坂桃李に役所広司の雰囲気を出せるのか?
両者はまったくの別人と考えるべきなのかもしれないが、今作「孤狼の血」はあくまで役所広司の存在感あってこそ。
あの哀愁漂う背中を見せるには松坂桃李はあまりに若すぎると思うのだが。
まあでも、アレか。
予告編を観る限り「LEVEL2」は今作よりもはるかに武闘派っぽいのがね。
人間ドラマに比重を置いた一作目からバトル偏重のポップな二作目というのは王道パティーンだし、ライバル役には同世代の鈴木亮平が起用されている。
そう考えると、三作目のつなぎとしてノリと勢いで押し切れる可能性もある? のかな?
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