井上尚弥はタイ人が苦手←案外ガチだと思う。アラン・ディパエンに8Rまで粘られる。武居由樹の超絶バランス感覚。今村和寛に1RKO勝利【結果・感想】
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2021年12月14日に東京・両国国技館で開催された「PXB WORLD SPIRITS」、王者井上尚弥と挑戦者アラン・ディパエンによるWBAスーパー/IBF世界バンタム級タイトルマッチを現地観戦してきたわけだが、イベント全体の感想は前回申し上げた通り。
井上尚弥vsアラン・ディパエン戦現地観戦。正直タルいイベントだった。久しぶりの5時間の長丁場+まさかの写真撮影禁止、絶妙に眠気を誘う進行
今回は試合の感想を言っていくことにする。
具体的には、
・第5試合:武居由樹vs今村和寛(55kg契約8回戦)
・第7試合:井上尚弥vsアラン・ディパエン(バンタム級12回戦)
の2試合。
前置きが長くなってもアレなので、さっそくスタートする。
なお例によって先に言い訳しておくと、この日はリングから離れた2階席からの観戦だったのでTVやPC画面で視聴した方とは多少感想が異なるかもしれない()
○井上尚弥vsアラン・ディパエン×(8R2分34秒TKO)
この試合は発表されたときからミスマッチと言われ、「いつ、どのように井上が倒すか」だけが見どころとされていた。
僕もアラン・ディパエンの過去の試合をいくつか漁ったが、残念ながら井上を何とかできる感じはまったくない。「玉砕覚悟で得意の右を当てればもしかしたら」というのはあるが、それも望みは薄そう。5Rまでもてば上出来かなぁくらいに思っていた。
井上尚弥vsケンナコーン(アラン・ディパエン)。いや、これはさすがに…。勝てる可能性があるとすれば、井上が出てきたところに右を当てるくらいか?
ところが挑戦者アラン・ディパエンは驚異のタフネスを発揮し、何だかんだで8Rまで抵抗を続けた。
試合後に井上本人も「予想をはるかに下回る内容」「途中で判定もよぎった」とコメントしていたし、多くの人がディパエンのがんばりに驚かされたのではないか。と同時に、モタつく井上の姿に少々物足りなさも感じたかもしれない。
とは言え、内容自体は完全に井上のワンサイドゲーム。
アラン・ディパエンの粘りは確かにすごかったが、あそこから逆転する雰囲気はほぼゼロだった。
確か3Rか4Rにディパエンが打ち込んだ右のカウンターを井上がスウェイで避けたシーンがあったと思うが、あそこが唯一「もしや」を感じさせた局面だった気がする。
そして、その1発が不発に終わった時点で万事休す。ディパエンにできるのはただただ井上の猛攻に耐え続けることだけ。
徐々にダメージが蓄積し、8Rについに臨界点に達してしまった。
なお僕はラウンド序盤は普通に動けていたのでダウン直後ももう少しできるかな? と思ったのだが、スクリーンにディパエンのボコボコの顔面がアップされた瞬間に「あ、こりゃダメだ」と。「すぐに止めた方がいい」と。
直後にレフェリーが試合をストップしたわけだが、あの判断はマジで適切だった(と思う)。
井上尚弥はタイ人選手が苦手? 今回のディパエン戦を過去2戦と比べてみたらそっくりだった件
表題の通りなのだが、結局井上はタイ人選手が苦手なのだと思う。
いや、あれだけ一方的にフルボッコにして苦手と言うのは語弊があるが、実際あまり得意ではない気がする。
今回の試合、個人的に既視感があったので試しに過去の井上vsタイ人選手(サマートレック・ゴーキャットジム、ペッチバンボーン・ゴーキャットジム)を漁ってみたところ、おいおい、そっくりじゃねえかと。
展開的には井上の絶対有利。
スピードもパワーもパンチの精度も井上が圧倒している。
だが、相手の硬いガードを崩せずなかなかスカッとしたKOとはいかない。
実力差以上に相手の粘りに手を焼いている印象である。
そして攻めあぐねているうちに時間が過ぎ、気づけば試合も後半に。
これはひょっとして判定まで行くか? という雰囲気が漂い始めた頃、ガードの外側から1発いいパンチが入って相手がダウンを喫する。
で、そこからガタガタと崩れてあっという間に勝負あり。
過去2試合と今回、大まかな流れとしてはだいたい同じである。
身体の頑丈さと強固なガード、芯を食わないディフェンス。あと、攻撃のリズムが似ているというのもありそう?
主な要因としては、
・ムエタイ上がりで身体が頑丈
・ガードが強固
なことだと思うが、同時に芯を食わないディフェンス技術というのもあるのではないか。
特にペッチバンボーンと今回のアラン・ディパエンは被弾の瞬間に頭の位置を微妙に変えることでパンチの威力をうまく逃していた(気がする)。一見すると井上の連打をモロに浴びているように思えるが、実は高いガードと頭の位置によって何割かは相殺していたような……。
ついでに言うと、ずんぐりむっくり体型で若干ハイウェスト気味のディパエンはボディも打ちにくそうだった。
ノニト・ドネアの次戦以降を予想(希望)してみる。ドラマ・イン・サイタマ2はあまりそそられないし、カシメロの停滞が邪魔で仕方ないw
そして、一番は井上と攻撃のリズムが近いことが大きい(気がする)。
井上vsタイ人選手の試合に共通しているのが、常に攻撃と防御が同じリズムで繰り返されていること。
今回で言えば、井上が連打を打つ間はディパエンがガードを上げて耐え、井上の攻撃が終わったところで今度はディパエンの攻撃がスタートする。
「次はお前」「次は俺」「その次はお前」という感じで、両者が交互に“俺のターン”を繰り返しているイメージ。
1発の威力、スピード、パンチのバリエーション、精度は井上の方がはるかに上だが、攻撃のタイミング自体は比較的わかりやすい。ディパエンとしても、ひたすら攻防分離に徹していればある程度覚悟を決めることができたのではないか。
粘るディパエンは井上の打ち終わりに鋭いパンチを返してきた
井上尚弥、TKO勝利も”鮮血顔”で立ち向かう相手に「これ効いてるのか」手を焼いた理由とは#井上尚弥 https://t.co/8I8LjueRrY
— eFight(イーファイト)格闘技&フィットネス情報 (@efight_twit) December 14, 2021
圧倒しながらもなかなか決定機を作れない井上と、自分の攻撃はまったく効かないけど井上の強打にはそこそこ耐えられるディパエン。
この組み合わせが妙な膠着を生み、試合が進むにつれてダメージを蓄積させたディパエン(タイ人選手側)が後半に決壊するというのがお決まりのパターンなのだろうと。
申し上げたように井上尚弥はタイ人選手を苦手としているとまでは思わないが、毎回苦労させられていることは確か。
理由としては、
・妙に攻撃のリズムが似ている
・相手が完全に攻防分離に徹する
といったものがあるのかなぁと。
井岡一翔と井上尚弥のドリームマッチ? 困ったことに那須川天心と武尊のような奥行きを感じないのが…。ビッグマッチに飢える両者のキャリアは交差する?
○武居由樹vs今村和寛×(1R59秒TKO)
この日(僕の中で)もっとも輝いていたのが第5試合に出場した武居由樹。
2020年11月に辰吉寿以輝と引き分けた(2R負傷ドロー)今村和寛を1R59秒TKOで下し、2021年3月のデビュー以来の連続1RTKO勝利を3に伸ばしている。
辰吉寿以輝vs今村和寛感想。寿以輝はパパ吉に風貌、動きがそっくりやな。サウスポーが苦手っぽいのと、今村選手はやりにくそうだった
対戦相手の今村和寛はアマチュア経験豊富なサウスポーで、僕も現地観戦した際に「身体が強くてやりにくそうな選手だなぁ」と思った記憶がある。
ところが試合が始まると……。
開始15秒過ぎに武居が鋭い踏み込みから右を振るい、そのままリング中央で両者のもみ合いが発生。細かいパンチの交換のあとに強引に前に出た今村を武居が身体を入れ替えてサッといなす。
これで今村はつんのめるようにスリップダウンを喫する。
再開直後。
グローブタッチと同時に意表をついたワンツーを打ち込む武居。そこから再び両者がもみ合い、離れ際に武居が右フックをヒットする。
わずかな降着の後、三たび距離を詰めて中に入った武居がアッパー気味の右で今村の顔面を跳ね上げ、さらに近場で右フックをヒット。今村の動きが止まった瞬間を狙ってもう1発右フックをねじ込みダウンを奪う。
結局これで勝負ありとなったわけだが、いや、強いわ武居由樹。
両者ともにフルスイングでパンチを放つものの、武居の方はまったく身体の軸がブレない。そのおかげで相手よりも早く復元、追撃に移ることが可能になる。
少ないアクション、最小限のパンチの交換ながらもバランスのよさ、体幹の強さは山ほど感じられた。
僕はこれまでボクシングの武居由樹にはあまり興味がなかった(K-1離脱は那須川天心戦実現のためだと思った)のだが、これはガチで期待したくなる。
武居由樹、那須川天心戦のためのK1離脱ならここ最近ではダントツにHIPHOPだな。
最後に試合したのが今年3月ってことを考えると、やるなら4月以降のRIZINかRISEか。
三大最近HIPHOPだったヤツ
・加藤紗里、反社と熱愛
・auの新料金プラン
・武居由樹、K1離脱で那須川天心戦実現へ←NEW!— 俺に出版とかマジ無理じゃね? (@Info_Frentopia) December 9, 2020
この階級は国内でのボリュームゾーンだが、ぜひとも今の調子で突き進んでもらいたい。
武居由樹vs河村真吾、佐々木尽vsマーカス・スミス感想。メインの谷口将隆vs石澤開戦が想像以上の地獄だった。計量失敗が起きるのは仕方ないから代替案を用意せいよ笑
武居由樹のプロ意識の高さはいいよね。実は相当腹黒いヤツだと思ってますよボカァ笑
「武居由樹はバランスがいい」と言ったが、バランスの話をするならこの選手は興行全体を俯瞰する視点、プロの感覚を持ち合わせているのがいい。
冷静に戦おうと思っていたが、倒しにいってしまった
前の試合は判定勝ちが多かったので、PPV(ペイパービュー)もあったので(KO決着で)倒さないとなと
元K-1王者 武居が59秒KO勝利 PPVも意識「前の試合は判定多かった」/ファイト/デイリースポーツ online https://t.co/3ETzmJsskp #DailySports
— デイリースポーツ (@Daily_Online) December 14, 2021
練習してきたことが出せなかったことを反省しつつ、判定試合が多いことを踏まえて倒しにいったとコメント。
恐らくK-1王者として長年「自分がどう見られるか」を意識してきたのだと思うが、こういったプロ意識の高さはボクシング転向後も随所に感じられる。
煽りVでの「K-1からの黒船」に全乗っかりして外敵感を全面に出し、
K-1からの黒船になりました。
【煽りVTR】武居由樹 K-1からボクシング転向、2戦連続KO中!「鉄球のような拳」覚醒の予感|12.14 アベマPPV生中継 55キロ契約「武… https://t.co/RnIB2jZRWk @YouTubeより
— 武居 由樹 Yoshiki Takei (@tankiti000) December 10, 2021
試合後のインタビューでは「大橋ジムの武居由樹」を古巣の「パワーオブドリームの武居由樹」と言い間違える。
【ボクシング】武居由樹が59秒KO勝利、辰吉苦しめた今村を”鉄球パンチ”で沈める#武居由樹 #今村和寛 #PXB #ボクシングhttps://t.co/TjSb0BSh6V
— eFight(イーファイト)格闘技&フィットネス情報 (@efight_twit) December 14, 2021
僕は武居由樹のことを実は計算高くて腹黒い人間だと思っているが、仮に今回の言い間違いがわざとだったとしたらちょっととんでもない(さすがにそれはないか)。
会見やSNSで相手を口汚く罵って熱量を上げるやり方も悪いとは思わないが、この選手はそういう直接的なことをしなくても注目を集める術を知っている印象。
矢吹正道vs拳四朗再戦。不毛な再戦に駆り出される矢吹を応援せざるを得ない。拳四朗は実はデカくて動ける人
てか、K-1からの外敵感を強調する手法はホントにうまいよな。
ボクシング業界でも立ち技最強がK-1だってことを証明するのがK-1への僕からの恩返し
【煽りVTR】武居由樹 K-1からボクシング転向、2戦連続KO中!
最高です笑
思いっきり証明しちゃってください。
構図としてはサッカーの日韓戦の煽りに近い? のかな?
ボクシングファンとキックボクシングファン、MMAファンってめちゃくちゃ仲悪いからね笑
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