映画「フォードvsフェラーリ」感想。ル・マンは大人の鬼ごっこ。バカでカッチョいいおっさんが企業の政治的都合に振り回される青春映画
- 2021.01.19
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映画「フォードvsフェラーリ」を観た。
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「フォードvsフェラーリ」(2019年)
元レーシングドライバーのキャロル・シェルビーは1959年のル・マン24時間耐久レースでの優勝後、心臓病が原因でキャリアを終える。
引退後は自ら設立した会社シェルビー・アメリカンで成功を収めていたが、彼の心には今もまだレースへの情熱が燻っていた。
そんな中、シェルビーはとあるレース場で凄腕のドライバー、ケン・マイルズと出会う。
彼は自動車整備工場を経営しながらレースに参戦していたものの、偏屈な性格が災いして生活は決して裕福ではない。
巧みな試合運びでその日のレースに勝利したマイルズだったが、経営する自動車整備工場が差し押さえられたことを帰宅後に知る。
自身がすでに40代半ばあることや、息子ピーターの将来など。諸々の状況を踏まえ、マイルズはこれを機にレースを辞めて真面目に働くことを決心する。そして、そのことを妻モリーに告げるのであった。
一方、“打倒フェラーリ”を掲げるフォード社にマシン開発を依頼されたシェルビーはこれを快諾。レース場で出会ったマイルズにテストドライバーとしての誘いをかける。
だが、マイルズはしがらみの多さを理由に巨大組織で働くことを拒否する。
フォード復権のためには何としてもマイルズの力が必要だと考えるシェルビー。そこで彼はマイルズをル・マン参戦の発表会に招待し、そこで決めてくれと頼むのだが……。
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やっぱりそうなりますよね。途中からフラグがビンビン立ってたし。結末はアレしかなかった気がするよ
以前から気になっていた映画「フォードvsフェラーリ」をWOWOWで視聴したので、その感想を。
まず映画を観終わって出てきたのが、「ああ、やっぱりな」という言葉。
天才的なドライバーで開発者としても一流だが、性格に難があり周囲との軋轢が絶えないケン・マイルズ。
金儲けや名誉にはまったく興味を示さないが、レースへの情熱と「自分こそがNo.1」という思いは他の追随を許さない。
車の売り上げに直結する広告塔にはまったくふさわしくないものの、“勝利”のためには最適であることは間違いない。
「誰にも負けたくない」「自分よりも速いヤツが許せない」という強烈なエゴ、勝利だけを追い求める男たちの純粋さと、巨大組織ゆえのメンツや様々な政治的思惑が複雑に絡み合い彼らを翻弄する。
そして、勝利を目前にしたマイルズは最後の最後に“チームプレー”を優先してアクセルを緩めるわけだが……。
まあ、そうなるよなと。
休憩中のマイルズにシェルビーが上層部の指示を伝えたあたりから微妙に空気がおかしくなり始めたが、最終ラップでマイルズが大声で「H-A-P-P-Y!!」と歌い出したところでフラグはビンビンだった。
実際はあそこまで劇的な結末ではなく映画ならではの演出もあったと想像するが、とにかくマイルズがどこかの時点で命を落とすことは確定事項だった気がする。
できれば別のハッピーが欲しかったところだが、やはり着地地点としてはアレが最適だったのかもしれない。
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ル・マンとは“大人の鬼ごっこ”。「アイツらよりも速く」を実現するために大の大人が全力で挑む
僕自身、カーレースにはまったく詳しくない人間で、ル・マンなどの耐久レースとF1の違いすらもよくわかっていない。
レーサーが2人1組で挑む24時間耐久レースの過酷さは想像することしかできないが、そこでの勝利が自動車メーカーにどれだけのステータスや経済効果を生み、レーサーにとってどれほど名誉なことかもいまいちピンときていない。
ただ、レースにかける情熱やメーカー側の意気込みは作中からもめちゃくちゃ伝わってきた。彼らにとってル・マンがいかに大きなものであるかは映画を通して多少は理解できた気がする。
恐らくル・マンは“大人の鬼ごっこ”なのだと思う。
大の大人たちが知恵を絞り、日々試行錯誤に明け暮れる。1歩進めば2歩下がるを繰り返しながら徐々に完成へと近づけ、いよいよ本番を迎える。
実際のレースでもドライバーのコンディションやマシンのトラブル等、計算外の事態が次々と起きる中、変わり続ける状況を読みながら最適解を導く。
それもこれも、すべては「アイツらより速く」を実現させるため。
誰よりも先にコーナーを曲がり、直線では0.1秒でも速くトップスピードに到達する。
俺の前を走るヤツなど認めない。
俺たちのチームよりも性能のいいマシンなどあるわけがない。
すべてのレーサーに俺の背中を拝ませてやるよ。
この“大人の鬼ごっこ”に勝利するため、ル・マンに魅せられたバカどもが知力と体力を限界まで絞り出す。
そして、その姿は最高で最低で、断トツにカッチョいい。
ケン・マイルズみたいなヤツが実在したことが驚きだよね。やっぱりこの映画は“大人の”青春物語だわ
しかし、ここまで世渡り下手でイケてるヤツが実在したことは本当に驚きである。
ドライバーとしてもメカニックとしても超一流だが、偏屈な上に気分屋で周囲との衝突が絶えない。どんな立場の人間であろうが気に入らなければ突っかかるし、初対面の相手にも躊躇なくスパナを投げつけてしまう。40代半ばにも関わらず制御がまったく利かない一匹狼タイプ。
その反面、家族への愛情は人一倍強く、彼らを守るという使命感、義務感も持ち合わせる。
妻モリーも息子ピーターもそんなマイルズを深く愛し、同時にいつまでも格好いい親父でいてほしいと願っている。
世渡り下手でアンタッチャブルだが家族第一、なおかつ自分の職業には真摯に向き合う男、ケン・マイルズ。
繰り返しになるが、最高で最低である。
「グッバイ、ドン・グリーズ!」感想。それは禁止って約束したじゃん。青春とファンタジーのいいとこ取りをしまくった末にそのオチは卑怯ですよ
今作はモータースポーツ映画と言われているが、実際には“大人の”青春物語である。
ロマンチストなバカのまま図体だけ大きくなったおっさん2人が巨大組織に翻弄されながらも目標達成を目指して突き進む。金や名誉は二の次で「アイツに負けたくない」「もっと速く」を実現するためだけに邁進する。
その過程で現実を直視せざるを得なくなるシェルビーと、己のエゴを貫くマイルズという対比もいい。
第一線を退いたシェルビーはプレイヤーが力を発揮できるように裏方として奔走し、マイルズはそれに満点の答えを出してみせる。
だが、本人同士はお互いへの感謝や友情を決して口にすることはない。
不器用で暑苦しいバカ2人の、人生をかけた青春物語というヤツ。
最後の最後でチームプレーに徹したマイルズ。アレがあったからこそ、ラストのインパクトも絶大だった
ファイナルラップでチームプレーに徹したマイルズには賛否両論あるかもしれないが、個人的にはアレでよかったと思っている。
ひたすら我を通しまくり、数々の軋轢を乗り越えたマイルズだったが、最後の最後に“3台同時のゴール写真を撮りたい”という上層部の意向に従ったせいで3冠の名誉を逃してしまう。
この間の悪さこそがケン・マイルズという男を象徴するものであり、あのシーンには彼の魅力がぎっしりと詰まっていた。
自分の横を通過していく人間にキョトンとするクリスチャン・ベールの表情は文句なしで素晴らしく、後ろから駆け寄るマット・デイモンもいい。
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天上天下唯我独尊を捨てたことですべての栄光が掌からこぼれ落ちたが、同時にマイルズとシェルビーの間には固い絆が生まれた。
で、そこからラストの大破につながるわけだが、仮にマイルズが優勝を飾っていたら……。今作のインパクトはやや薄れていたかもしれない。
事故自体は不幸以外の何ものでもないが、“大人の”青春物語としてはパーフェクト。
大事なことなのでもう一度申し上げるが、ここまで世渡り下手でイケてるヤツが実在したことに僕は心底驚いている。
ちなみにレースシーンは迫力満点で、モータースポーツ映画としても十分楽しめたことを付け加えておく。
回想シーンや人間ドラマを挟んだりなど、無駄に演出を加えなかったのもよかったよね。
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