テレンス・クロフォードがディエリー・ジャンに快勝!! 10回TKOで下し初防衛に成功。このまま中量級の主人公になれるか?
2015年10月24日、WBO世界S・ライト級のタイトルマッチがアメリカ・ネブラスカ州オマハで行われた。
チャンピオンのテレンス・クロフォードが同級6位のディエリー・ジャンを10R2分30秒TKOで下し、初防衛に成功。
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前回のトーマス・デュロルメ、今回のディエリー・ジャンと連続でTKO勝ちをおさめたクロフォード。S・ライト級においてもその力が十分に通用することを証明するとともに、中量級の主役になれるポテンシャルを改めて示した試合となった。
いきなり作戦が頓挫したディエリー・ジャン。クロフォードのサウスポーにまったく対応できず
今回もさすがのクロフォードという試合だった。
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挑戦者のディエリー・ジャンも決して悪い選手ではなかったのだ。
リラックスした構えから放つ左にはキレがあり、右のカウンターにもスピードが感じられた。防御勘も悪くないし全体的な動きは柔らかく滑らか。瞬間瞬間のスピードもそれなりにあり、タイトル挑戦に値する選手だったことは間違いないと思う。
「三浦隆司vsフランシスコ・バルガス in ラスベガス予想!!」
だが、今回は相手が悪すぎた。
すべての局面でクロフォードが数段上だった。力の差は歴然としていた。
いつも通り長いリーチを活かし、懐深く構えるクロフォード。ガードを上げると頭からボディまでがすっぽりと隠れるほどの手の長さである。
「ピーター・クイリンvsダニエル・ジェイコブス予想!! 注目の強打者、ブルックリンの友人対決!!」
シャープな左を鼻先で避ける見切りのよさ。そしてジャンをさらに上回るパンチのキレとスピード、距離。
両者が同時にパンチを打ち、クロフォードのジャブだけが当たる。そんな光景が当たり前のように展開される。
1Rの終了間際にいきなりクロフォードがカウンターでダウンを奪うのだが、いつの間にサウスポースタイルにスイッチしていたのだと思うくらいのスムーズさである。
ジャンがサウスポースタイルが得意でないことに1Rで気づいたクロフォードは、今回も試合のほとんどを左構えで戦う。
サウスポースタイルにスイッチすることで、距離の差をさらに活かすという狙いもあったのだろう。ジャンの左ジャブに外側から右をかぶせることで、より大きな距離感を作り出していたのである。
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一方のジャン。恐らくクロフォードの左ジャブに右でカウンターを合わせる作戦を考えていたと思われる。
試合序盤はクロフォードがオーソドックスの構えでくると想定し、左のジャブに右でカウンターを合わせて出鼻を挫く予定だったのだ。クロフォードの出鼻を挫き、序盤にペースを掴むことができれば試合を優位に進められる。そう考えたのではないだろうか。
だが、クロフォードが1Rからサウスポーにスイッチしたことで、その作戦がいきなり頓挫してしまった。逆に自分が出鼻を挫かれるという最悪の結果を招いてしまったのだ。
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初回のダウンで実質勝負あり? やりたい放題のクロフォード
左腕を伸ばして距離を測り、飛び込むタイミングをうかがうジャン。前手の右を外側から絡ませてジャンの前進を遮断するクロフォード。
このままではラチがあかないと、思い切って飛び込んだジャンのアゴ先にクロフォードがカウンターのショートフックを合わせる。
このパンチでジャンがダウンを奪われるのだが、結局これで勝負ありといっても過言ではないと思う。
中間距離ではパンチの長さが違いすぎて勝負にならない。ジャンが試合を動かすにはクロフォードの懐に入るしかない。だが、思い切って踏み込むとクロフォードのカウンターが飛んでくる。このパターンにハマったジャンはダウン以降、一気に手が出なくなってしまうのだ。
「クリチコに勝ったタイソン・フューリーがおもろすぎる件ww」
サウスポー相手では左のジャブに右をカウンターで合わせる作戦は使えない。そもそも中間距離でクロフォードと差し合いをしていては、パンチの長さが違いすぎて勝負にならない。かといって、踏み込めば右のカウンターの餌食になる。
完全などん詰まりである。
2R以降、踏み込んでの右をボディへ打ち込むなどの工夫を見せるのだが、このパンチもクロフォードにきっちりとカウンターを合わせられ、突破口はまったく見えない。3Rの時点で、ジャンはすでに蛇に睨まれたカエル状態である。
左手を前に出して距離をとり、右のカウンターに一発逆転の望みをかける。それ以外に手がない状況だ。
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一方のクロフォード。すでに主導権を握り、余裕の表情でグイグイとプレスをかける。
左手を下げてヒットマンスタイルで構えるジャンの外側から右をチクチクと突き、なぶり殺すように相手の体力を削っていく。
ジャンはクロフォードの右ジャブが邪魔で、思い切って踏み込むことができない。踏み込むタイミングを狙っているのはわかるのだが、ちょうどカウンターで飛んでくる位置にクロフォードの左があるので思い切って前に出ることができないのだ。
「テレンス・クロフォード防衛!! ハンク・ランディを5RでKOに沈める見事な勝利!!」
クロフォードのプレスに圧されて後退するジャン。コーナーを背にしてクロフォードのパンチを被弾し続ける。絶望的な状況だ。
この時点ですでに余裕はなくなっていたのだろう。4Rのインターバルで自分のコーナーを間違え、クロフォードに注意されるシーンも見られた。
バランスと足の運びが抜群。重心の移動のスムーズさは随一のクロフォード
さすがクロフォード。本当にそのひと言に尽きる試合だった。理詰めの鬼はこの日も健在だった。
1Rに右のカウンターでダウンを奪われて出足を封じられたジャンに対し、その右を意識させてまったく手を出させない。カウンターの一発にかけるジャンの射程距離の一歩外で、自分の右だけが当たる距離を保ちながらプレッシャーをかけるのだ。そしてジャンがコーナーを背にしたところでいきなり距離を詰めてラッシュ。オーソドックスにスイッチして、上下へのラフな連打である。
ジャンはどうにかクロフォードの右をかいくぐって懐に入りたいのだが、それだけの突進力もなければ身体の強さもない。何よりカウンターを警戒し過ぎて重心が完全に後ろ足に乗ってしまっている。クロフォードの打ち終わりにカウンターを合わせて一発逆転を狙っているのだが、それを十分にわかっているクロフォードは無理はしない。
ジャンの見せ場らしい見せ場といえば、6Rのクロフォードのラッシュにカウンターを数発ヒットさせたところくらいだろうか。それ以外では8Rの右カウンターか。ただ、その後クロフォードの怒りを買い、きっちりと反撃を許していたが。
「バルテレミーは強いし上手いぞ!! 内山も三浦も助かったな」
距離の長さもちろんだが、クロフォードのよさはやはり足の運びとバランスだ。
ジャンが踏み込んできた瞬間、後ろ足に重心を移動して鼻先でかわす。そして再び前足に重心を移動して右を被せる。この動作をバランスをまったく崩すことなく一瞬で行うのだ。自然でスムーズなスイッチといい、絶妙なバランス感覚と抜群の足さばきを兼ね備えたボクサーである。
9Rの終了間際に奪ったダウンは確かに頭の後ろを殴ったように見えたが、あんなものはおまけに過ぎない。そんなことより、見るべきはそのパンチにつなげるまでのプロセスである。
ノーモーションの左をアゴにヒットし、ジャンをぐらつかせる。
踏み込み際のジャンの右をスウェーでかわし、すぐさま前足に重心を移動して左を打ち下ろすのだ。
そして10R。
ダメージの深いジャンに対し、プレスを強めてコーナーに追い込む。容赦のないラッシュで反撃の意志を奪い、TKOである。
100点満点の勝利。クロフォードはパッキャオ、メイウェザー時代の後継者になれるか?
10R、2分30秒TKOでクロフォードの勝利。
100点満点ではないだろうか。何も言うことがない。
ただひたすらクロフォードの巧さ、強さが光った試合だった。
何というか、絶望感を感じさせないまま絶望させるボクサーとでもいえばいいだろうか。圧倒的な力技で相手を捻り潰すのではなく、徐々に弱らせて最後に踏みつぶす。生殺しという言葉がピッタリのスタイルだ。
しかもこの手のタイプの割にボクシングに華があるのがいい。
恐らく意識をしているのだとは思うが、攻撃も派手だし倒せるところではキッチリ倒しにいく姿勢はスターの素質十分である。
たとえば6Rに自分から前に出たシーン。結果的にジャンのカウンターを被弾するのだが、あれがリゴンドーだったら決して前に出ることはしなかったはずだ。距離をとって右を突いていれば勝てる試合で、絶対にリゴンドーはそんなことはしない。
だが、クロフォードはあの局面であえて前に出て倒しにいくのである。こういう姿勢は絶対に観客から支持されるし、それをしないリゴンドーは人気が出ない。そういうことなのだ。
「内山vsフローレス予想!! 日本のKOダイナマイト内山はフローレスを相手に11度目の防衛を達成できるか?」
一方、挑戦者のディエリー・ジャン。
結局一試合通して削られ続け、最終的に10Rで力尽きた。まさしくそういう試合だったと思う。
決して悪いボクサーではなかったが、クロフォードが相手では手も足も出なかった。
もしかしたらだが、あのスタイルでクロフォードに挑んだのは失敗だったのかもしれない。もう少しガードを高く上げて、一か八かのインファイトで勝負すれば別の展開になっていた可能性もあるように思える。
まあ、どちらにしても最終的に勝つのはクロフォードだったとは思うが。
テレンス・クロフォード。
やはり今後も目が離せないボクサーの一人だ。
マニー・パッキャオのラストマッチの有力候補として名前が上がっていることも楽しみだし、先日カビブ・アーラフベルディエフを下して王座を獲得したブローナーとの絡みも観てみたい。
「エイドリアン・ブローナー完勝!! アーラフベルディエフをスピードとテクニックで圧倒して12回TKO勝ち!!」
メイウェザー、パッキャオという二大巨頭時代の終焉も近い今、中量級の中心となれる可能性を多いに秘めたボクサーである。
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