カネロvsプラント、モグラ叩きみたいな試合。あっちを隠せばこっちを打たれ、こっちを隠せばあっちを打たれ。プラントもがんばったけど最後に決壊してアディオス【結果・感想】
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2021年11月6日(日本時間7日)、米・ネバダ州ラスベガスで行われた世界S・ミドル級4団体統一戦。WBC/WBAスーパー/WBO同級王者サウル・“カネロ”・アルバレスvsIBF同級王者ケイレブ・プラントの一戦は11R1分5秒TKOでカネロが勝利。2021年6月のジョシュ・テイラー以来、史上7人目の4団体統一を果たした試合である。
開始直後からガードを高く上げてプレッシャーをかけるカネロに対し、プラントはL字ガードと左右へのフットワーク、鋭い左リードで対抗する。
序盤はプラントの機動力にやや手を焼いたカネロだったが、中盤から徐々に対応。6R以降ペースをアップし1発1発に力を込めてパンチを打ち込んでいく。
プラントも見切りのよさとカウンター、スピード差を活かして粘るものの、カネロの圧力を抑えきれずに被弾するシーンが増える。
そして迎えた11R。
プラントをロープ際に追い詰めたカネロが鋭く踏み込み左フックを顔面にヒット。この1発で大きくバランスを崩したプラントに追い打ちの右アッパーを浴びせてダウンを奪う。
何とか立ち上がったプラントだが、ダメージが深くまともに立っていることができない。
再開直後にカネロの猛攻を浴び、再び崩れ落ちるようにダウンを喫する。それを見たレフェリーがすぐさま試合をストップ!! この瞬間、カネロの4団体統一が決定した。
ベナビデスがプラントに判定勝利。ベナビデスを怪物認定します。“凡人の最高峰”カレブ・プラントの技巧を攻略
おもしろい試合だったね。ケレイブ・プラントのパフォーマンスは素晴らしかった。ちっとも興味がわかない選手だったけど
サウル・“カネロ”・アルバレスとケイレブ・プラントによるS・ミドル級4団体統一戦。
ただ、僕は以前からケイレブ・プラントという選手にちっとも興味がわかず、この試合に関してもだいぶ適当に考えていた。
先日のヘビー級3団体統一戦、アンソニー・ジョシュアに勝利したオレクサンドル・ウシクを“まったく視界に入ってこない選手”と申し上げたが、今回のプラントも同じグループ。
僕の中での“いい選手だけど、全然興味が出ない選手”の代表格として君臨している。
ウシクがジョシュアを翻弄して偉業達成。凄まじい勝利なのはもちろんだけど、ウシクがちっとも僕の視界に入ってこない…。ヘビー級の不純物
で、何となくカネロの判定勝利or後半KOを予想しつつ当日を迎えたわけだが……。
意外とおもしろかった。
うん、おもしろい試合でしたね。
今回のケイレブ・プラントはここ数年のカネロの対戦相手の中では間違いなく強敵の部類。もっと言うと、2019年5月のダニエル・ジェイコブス以来、久しぶりに本気で勝ちにきていた挑戦者だったと思う。
もちろんどの選手も勝つためにリングに上がっているとは思うが、それでも。
ファイトマネーにつられて無茶なスケジュールを受け入れたセルゲイ・コバレフはそもそものコンディションが最悪だった。
身長191cmのビッグマン、カラム・スミスは2Rにはカネロの圧力にブルってしまった。
指名挑戦者のアブニ・イルディリムはミスマッチ過ぎて勝負の土俵にすら立てず。
満を持して登場したビリー・ジョー・サンダースも早い段階でカネロの馬力に委縮させられた。
ランキング上位の挑戦者や他団体王者がなすすべなく倒されていく中、ケイレブ・プラントは「ひょっとしたら」の可能性を見せてくれた数少ない選手だった。
前回も申し上げたが、この選手はもともとフロイド・メイウェザーっぽさのあるファイトスタイル。
L字気味の構えに抜群の見切り、肩を使ったディフェンス。そこから打ち出す右のカウンター、鋭い左リード、などなど。
中でもスピーディなフットワークと左リードの鋭さを両立できる点は打倒カネロの筆頭候補と言っても過言ではない。
そういう意味でもプラントのパフォーマンスは期待通りのものだった(気がする)。
モグラ叩きみたいな試合。カネロの立ち回りに注目してたけど、王道中の王道で攻略した
表題の通りだが、この試合の感想をひと言で表すなら「モグラ叩きみたいな試合」。
繰り返しになるが、ケレイブ・プラントのファイトスタイルはメイウェザーと共通する部分が多い。
L字気味の低いガードでボディを隠し、顔面への攻撃は見切りのよさと左肩で対応。
極力斜に構えることで正中線? 急所? を遠ざけ、強烈な左リードと右のカウンターで相手の出足を挫く。
カネロのキャリア唯一の敗戦が2013年9月のフロイド・メイウェザー戦ということを考えると、今回のプラント相手にカネロがどう立ち回るかが見どころの一つだったわけだが……。
カネロvsプラント4団体統一戦キター。プラント健闘もあり得る? かも? カネロの圧力にビビらずどこまで左が機能するかかな
プラントが元気な序盤は高いガードで圧力をかけ、体力と精神両面を削っていく。
足だけでは間に合わないと感じたプラントが左リードと右カウンター、左右への動きでかく乱する作戦に切り替えた中盤からは、上体の柔軟さを活かしたクネクネディフェンスを織り交ぜさらにプレッシャーを強める。
そして、ボディと顔面のダメージによってプラントの足が止まった10、11Rにさらにギアを上げてとどめを刺す。
王道中の王道というか、ど真ん中から攻略してKOまで持っていったというのが結論だった(気がする)。
あっちを隠せばこっちが空き、こっちを守ればあっちに隙ができる。カネロ陣営の作戦がどハマりしたよね
斜に構えて急所を隠すプラントに対し、右にサイドステップするとともに腕を直角に曲げて打ち下ろし気味の右ボディ。
プラントが身体を開いたところに左ボディをアッパー気味で突き刺し、下を意識すれば今度は同じタイミング、同じフォームで左フックを顔面に。
ボディを隠すためにプラントが身体を折れば、次は右の打ち下ろしを顔面にズドン。
身長差を活かしたショルダーロールでこの右を防ぐのを確認し、再び腕を直角に曲げての右ボディ。
あっちを隠せばこっちが空き、こっちを守ればあっちに隙ができる。
空いたところに有効打を打ち続けていれば自然とダメージは溜まり、そのうち相手は逃げ切れなくなって決壊する(はず)。
分厚いプレッシャーでプラントを疲弊させつつ、L字の防御を一つ一つ攻略していく。
2013年のメイウェザー戦ではメイウェザーの左リードと右のカウンターに手も足も出なくなったカネロだったが、今回はその部分の課題を見事に克服してみせた。
正直、初見では結構苦労させられた印象を受けたのだが、改めて観直してみるととんでもない。
ケレイブ・プラントは終始カネロの手の上で踊らされ続けたというか、カネロ陣営の作戦がどハマりした11Rだった。
プラントは早い段階でフルスロットルを出さざるを得なくなったのが痛かった。やっぱりカネロはカネロでした
逆にプラントとしては、早い段階で余裕を失くしてしまったのが……。
恐らくだが、本人はフットワークと左リードである程度しのげると踏んでいたのではないか。
身長173cmのカネロに対し、プラントは185cm。
体格差に加えて一瞬一瞬のスピードも自分の方が上。
普通にやればそうそう捕まることはない(はず)。
フットワークを駆使しながら遠間から左リードを打ち込んでいれば、少なくとも中盤くらいまではペースを支配できる(はず)。
で、後半から右カウンターと近場での連打、フットワークを総動員して互角の展開に持ち込めば。
序盤の貯金を切り崩しながらギリギリ判定勝利をもぎ取れる(はず)。
大体そんな計算をしていたと想像する。
ところが、いざ試合がスタートしてみるとカネロのプレッシャーは予想をはるかに超えていた。
とてもじゃないがフットワークと左リードだけでは間に合わない。1R終盤にはカネロのプレッシャーに耐えるので精いっぱいになり、いきなりフルスロットルで対峙せざるを得ない状況に。
2R以降、常に全力に近い飛ばし方で動き回るプラントに対し、カネロには全体を通して余裕が感じられる。相手の様子を確認しながらペースを配分しつつ、中盤からギアを上げて追い詰めていく。
カネロがカラム・スミスに完勝。階級屈指のビッグマンがカネロに蹂躙される現象を“ロッキー・フィールディングの呪い”と名付けよう
想定していた作戦がいきなりとん挫し、すべてのネタを吐き出してようやく五分五分のプラント。
当初の予定よりも粘られたものの、戦力自体は予想の範囲内だったカネロ。
作戦の実行力、とっさのアドリブ、経験値、疲労の中での二番底、その他。
選手としての分厚さ、PFPファイターとそれに準ずる選手の差があらゆる面で表面化した試合だった。
「プラントもがんばったしおもしろい試合だった」
「でも、やっぱりカネロはカネロでしたね」
というのが僕の中でのファイナルアンサーである。
4団体統一を果たしたカネロの今後は? 日本での村田諒太戦にこっそり期待してますよ笑
文句のつけようのない勝利で4団体統一を果たしたカネロだが、じゃあ、この後はどうするの? という話。
2018年12月のロッキー・フィールディング戦以降、圧倒的な強さで強敵をなぎ倒し続けるカネロ。
L・ヘビー級王者のセルゲイ・コバレフとの階級差マッチを制し、唯一苦手なタイプと目された足の速いカウンター使い、ビリー・ジョー・サンダースやケレイブ・プラントにも快勝した。
カネロvsサンダース感想。カネロの凄さと大観衆の熱気に目を奪われた。同時にボクシングのしょーもなさも山ほど目の当たりにしたよね
現時点では対抗王者すら寄せ付けない盤石さを見せつけている。
たらればを言っても仕方ないのだが、何だかんだでセルゲイ・コバレフがしっかりコンディションを整えてリングに上がっていれば? と思わないでもない。
そんな中でやることが残っているとすれば……。
考えられるのは元WBC王者デビッド・ベナビデス、L・ヘビー級のディミトリー・ビボル、アルツール・ベテルビエフとの対戦くらいか。
もしくはゲンナジー・ゴロフキンとの第3戦だが、今さらカネロがその一戦のためにミドル級に下げるかというと……。
あまり現実的ではない気がしている。
たとえばだが、2021年末に実現すると言われる村田諒太vsゴロフキン戦で村田諒太が勝利すれば。カネロが日本開催に興味を持っているのは間違いなさそうだし、村田もカネロと対戦できるなら階級アップも視野に入れるはず。
・村田諒太がゴロフキンに勝つ
・村田諒太が階級を上げる
・カネロのスケジュールが合う
・カネロのファイトマネーを出せる
諸々の条件が絶好のタイミングで解消される必要があるが、100%ないとまでは言えないのではないか。
僕自身、カネロが日本に来るなら絶対に現地観戦する。
正直、村田諒太vsゴロフキン戦を現地観戦しようとは思わないのだが、相手がカネロなら話は別である。
カネロが8年7ヶ月ぶりの敗戦。ビボルのジャブとガードを崩せず。“ロッキー・フィールディングの呪い”を解いたビボルに神の祝福を
可能性としては本当に低いと思うが、まさかの奇跡にちょっとだけ期待している笑
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