映画「ちょっと今から仕事やめてくる」感想。工藤阿須加のクサさが男性版長澤まさみだった。吉田鋼太郎の絶妙に大げさな演技が一番リアリティがある
- 2020.05.25
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映画「ちょっと今から仕事やめてくる」を観た。
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「ちょっと今から仕事やめてくる」(2017年)
ブラック企業勤務の青山隆は朝から晩までこき使われ、大勢の前で上司に罵倒される日々を送っていた。
そんな毎日に心身ともに疲弊しきった隆はある晩、無意識のうちにホームから飛び降りそうになる。だがその瞬間、誰かに制止され、間一髪命を救われるのであった。
隆を救った青年の名は「ヤマモト」。彼が言うには、隆とは小学生時代の同級生だったとのこと。
ヤマモトとの記憶があいまいな隆は最初は訝しげに思うのだが、その日以来、ヤマモトは何かと隆の世話を焼いてくれるようになる。その優しさと開けっぴろげな性格にしだいに隆も心を開き、2人はいつしか親友となる。
だが友人の話によると、小学生時代のヤマモトは現在、海外滞在中だという。
不審に思った隆は目の前で笑うヤマモトに改めて正体を問いただすのだが……。
「ヤマモト、お前一体何者?」
第21回電撃小説大賞「メディアワークス文庫賞」を受賞した北川恵海の小説を映画化した作品である。
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僕にはいまいち刺さるものがなかった。理由は工藤阿須加が受け付けなかったから
北川恵海の小説「ちょっと今から仕事やめてくる」を福士蒼汰、工藤阿須加主演で実写映画化した今作。
もともと小説の評判がよく、実写映画のレビューも高評価が多かったのでそれなりに期待して観たのだが……。
う〜ん……。
どうなんだろうなコレは。
正直なところ、あまりハマらなかったというか、僕にはいまいち刺さるものがない映画だった。
理由はめちゃくちゃはっきりしていて、工藤阿須加の演技が受け付けなかったから。
この工藤阿須加という方は現福岡ソフトバンクホークス監督の工藤公康氏の息子とのこと。父親のコネで芸能界入りを果たしたなどと言われたりもしているようだが、その辺の事情は僕にはよくわからない。
ただ、残念ながら僕はこの人の演技がダメだった。
芸能界入りの経緯云々はどうでもいいし、演技がうまいか下手かも素人の僕にはよくわからない。
それを踏まえた上でこの人の口調、見た目、雰囲気など。諸々の要素がどうにもこうにも受け付けない。
以前「コンフィデンスマンJP ロマンス編」を観た際に「長澤まさみの演技がキツい」「生理的に受け付けない」と申し上げたが、今作の工藤阿須加はそれの男性版とも言える。
「コンフィデンスマンJP ロマンス編」感想。長澤まさみがキッツい。上手いか下手かは知らんが、とにかくキッツい
微妙に滑舌が悪く、その割に仕草がいちいちわざとらしくてクサい。
会社の屋上でのヤマモトとの会話。
「ゴメンナ。セッカクソウダンニノッテクレタノニ」
「そっち行ってええか?」
「ダメダ。コナイデクレ」
「ドーセマタ、スグニアエルンダロ」
何というか、意味不明にイラつく。
一生懸命演じているのはわかるのだが、台詞回しや表情に余計なものがまとわりついているのに物足りないというか。うまく言えないのだが、とにかく観ているだけで「ウッキー!!」となってしまう。
いわゆる「生理的に受け付けない」というヤツなのだと思うが、この絶妙に波長の合わない気持ち悪さは「コンフィデンスマンJP」でダー子を演じた長澤まさみにも通じるものがある。
そして、この“受け付けなさ”が僕を今作から現実に引き戻す効果を発揮してくれたのである。
吉田鋼太郎の演技が凄まじい。もしかしたらあるかも? というギリギリのラインがいちばんリアリティを感じさせる
今作はブラック企業の実態を描いた映画としてはなかなかよかったと思う。
中でも上司役の吉田鋼太郎の演技は文句なしに凄まじい。
・公衆の面前で部下を怒鳴りつける
・相手を平気でクズ呼ばわりして尊厳を傷つける
・頭を叩いたり机を蹴っ飛ばしたりの無遠慮な暴力
・社員の目の前で土下座させ、さらに罵倒を浴びせる
・辞めたいと言った部下に「甘いんだよ」「お前なんかどこに行っても通用しない」と断言
・勤務時間外に電話をかけ、出るまで鳴らし続ける
さすがにここまでやるか? というほどの蛮行のオンパレードなのだが、逆にそれがリアルを感じさせてしまうのだからすごい。画面を観ている僕も思わず仰け反りそうになるほど。
以前、今作と同じブラック企業の現場を描いた「ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない」という作品があったのだが、あの映画は登場人物や社内で起きる出来事など、すべてがデフォルメされていた。
その結果、ブラック企業の実態をネタとして楽しむことができたのである。
だが、今作「ちょっと今から仕事やめてくる」での吉田鋼太郎は一味違う。
「ホントにこんな上司いるの?」と思うほどのオーバーな演技ながら、「ひょっとしたらあり得るかも」と思わせる範疇に収まっている。
この“リアルをほんの少し逸脱したオーバーさ”が、映画という世界ではもっともリアリティを感じやすい(と思う)。
「ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない」で主人公の上司を演じた品川祐の演技はどちらかと言えばコント的なオーバーさで、それが現実とフィクションの境界線となり、ある種の安心感を生み出していた。
だが、今作の吉田鋼太郎にはそれがまったくない。
この「さすがにここまで酷い上司はいないだろうけど、もしかしたら……」と思わせるギリギリのさじ加減が画面の中で鋭利な刃物と化し、否応なく胸に突き刺さる。
その昔「24時間営業、二交代制、週休1日、朝8:00始業、夜20:00終業、残業代なし」という超絶ブラック会社に勤めていた僕にとっても、当時の辛さがフラッシュバックするほどのリアリティ。
仕事のできない部下に無遠慮な罵声を浴びせ、精神的にも肉体的にも追い込んでいく。あまりの臨場感により、まるで自分が当事者になったような錯覚すら覚える。
それほど今作における吉田鋼太郎の演技はすばらしく、なおかつ心臓に悪い。
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吉田鋼太郎の圧倒的な存在感を工藤阿須加のクサい演技が中和してくれた。映画としては最悪だけど、僕は助かった()
で、表題の件。
吉田鋼太郎の鬼気迫る演技は申し上げた通りだが、それを工藤阿須加のクサい演技が見事に中和してくれるのである。
繰り返しになるが、今作で上司を演じた吉田鋼太郎のリアリティは本当に凄まじい。ブラック会社勤務という苦い思い出を抉り出すような、消したい過去をほじくり返すような鋭さで僕の心臓を締め付ける。
仮に僕がこの映画にどハマりしていたら、冗談抜きで立ち上がれなくなるほどのダメージを負っていた可能性すらあったと思っている。
そして、そこを踏み留まらせてくれたのが工藤阿須加の“受け付けなさ”。
この人のクサい演技、生理的に受け付けない空気感が強制的に僕の心を現実に引き戻してくれる。
吉田鋼太郎の演技に引き込まれそうになるたび、工藤阿須加の滑舌の悪い台詞回しがストッパーとなり、作品を俯瞰で見下ろす場所に僕を連れて行く。
脇役の名演技を台無しにする主演など映画としては最悪だが、今回だけは別である。
ブラック会社勤務で深層心理に負ったかつての傷()がいまだに癒えない僕にとって、吉田鋼太郎のリアリティ溢れる演技はあまりに刺激が強い。それを中和する役割を担った工藤阿須加はある意味今作における“救い”とも言うべき存在。
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工藤阿須加の演技が受け付けずにハマれなかった「ちょっと今から仕事やめてくる」だが、ハマっていたら僕の精神がもたない。いろいろな意味で“微妙”な作品だった。
ついでに言うと、福士蒼汰は嫉妬する気にすらならないほどカッコいい。アレはもはや我々下級戦士とは別の生き物と言っても過言ではない。
あと、小池栄子の演技が工藤阿須加に負けず劣らずクサかったことも付け加えておく。
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