WBOアジアパシフィック王座とOPBF王座、どちらがチャンスを得やすいの? WBOとWBCの歴代日本人王者数。WBO-APには価値がないって本当?
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現在日本では日東洋太平洋王座(OPBF王座)、WBOアジアパシフィック王座(WBO-AP王座)の2つの地域王座が承認されている。
また2013年4月にはそれまで未公認だったIBFとWBOが正式に承認され、WBA、WBCと合わせて主要4団体が日本で認められることになった。
だがWBO-AP王座は日本で承認された時期が新しい(2017年8月~)こともあり、ベルトの価値や存在意義に疑問符をつける人も見かける。
また王座を戴冠した選手が日本ランキングの下位に位置するケースが散見されるなど、レベルの低さを指摘する声が聞こえてきたりする。
僕は価値やレベルについてはよくわからないのだが、WBO-AP王座を獲得する意義は大きいと思っている。
王座戴冠を果たせばほぼ確実にWBOの世界ランキングに入れる上に、WBOは比較的指名戦や挑戦者決定戦等がしっかり行われる印象。正直、OPBF王座よりもチャンスが得やすいのでは? というくらい。
というわけで、今回はWBO-AP王座とOPBF王座のどちらがチャンスを得やすいのかについて、WBOとWBC(OPBFはWBCの下部組織)の歴代日本人世界王者数などを比較しながら考えてみたいと思う。
なお例によって僕がBoxRecなどを目視でピックアップしているので、正確性は保証できないことをお伝えしておきます。
スタッツをほじくり返してボクシングの都市伝説を検証する。12Rはみんながんばるから11Rにがんばるべき? 初回は身体が硬い?
WBO、WBC両団体の日本人(日本のジム所属)歴代王者数
まずはWBO、WBC両団体の日本人(日本のジム所属)歴代王者数の比較。
上述の通りWBOが正式承認されたのが2013年4月なので、それ以降で王座を戴冠した人数(重複あり)ということで。
・日本人(日本のジム所属)歴代王者数
WBC:13人
WBO:15人
・階級別では、
WBC:L・フライ5、フライ1、S・フライ2、バンタム2、S・バンタム1、S・フェザー1、ライト1
WBO:ミニマム7、L・フライ1、フライ3、S・フライ2、バンタム1、S・フェザー1
・WBO-AP王座が承認された2017年8月以降に絞ると、
WBC:6人
WBO:6人
・階級別では、
WBC:L・フライ2、フライ1、バンタム2、S・バンタム1
WBO:ミニマム2、フライ2、S・フライ1、S・フェザー1
パッと見た感じでは両団体にそこまで差はないように感じる。
WBO、WBC両団体の日本人(日本のジム所属)選手の世界戦出場数
続いてWBO、WBC両団体の日本人(日本のジム所属)選手の世界戦出場数。
条件としては、
・WBOが承認された2013年4月以降のもの
・王座決定戦を含む
・日本人対決の場合は2回とカウント
・防衛戦は含まない
・暫定王座戦は省く(すみません、力尽きました)
・両団体の日本人(日本のジム所属)選手の世界戦出場数
WBC:21回
WBO:32回
・階級別では、
WBC:L・フライ7、フライ3、S・フライ2、バンタム3、S・バンタム2、S・フェザー2、ライト2
WBO:ミニマム9、L・フライ2、フライ6、S・フライ6、バンタム3、S・バンタム2、フェザー1、S・フェザー1、ライト1、S・ウェルター1
・WBO-AP王座が承認された2017年8月以降に絞った場合が下記
WBC:9回
WBO:19回
・階級別では、
WBC:L・フライ3、フライ1、バンタム3、S・バンタム1、S・フェザー1
WBO:ミニマム5、L・フライ1、フライ5、S・フライ4、バンタム1、S・バンタム1、S・フェザー1、S・ウェルター1
・WBOが承認された2013年4月~2022年7月現在までの約9年間では、
WBC:年平均約2.3回
WBO:年平均約3.6回
・WBO-AP王座承認以降の約5年間に絞ると、
WBC:年平均約1.8回
WBO:年平均約3.8回
WBOの方がWBCに比べてチャンスが多いのは一目瞭然である。
しかもWBO-AP王座が承認された2017年8月以降、その差がさらに広がっていることがわかる。
WBOの微増に対してWBCの王座挑戦機会が減っていることを考えると、もしかしたら国内大手ジムのWBCへの影響力が下がっているのかもしれない(新型コロナウイルスの影響が一番デカそうだけど)。
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OPBF王座保持者が辿ったルートを振り返る
続いてはOPBF王座とWBO-AP王座を保持する選手にどんなチャンスが巡ってきたかをそれぞれ調べてみる(2017年8月以降)。
まずはOPBP王座保持者について。
●ミニマム級
山中竜也(2016.11〜2017.2)
→WBO世界王座戦(2017.8)
京口紘人(2017.2〜2017.7)
→IBF世界王座戦(2017.7)
小浦翼(2017.7〜2019.3)
→陥落(2019.3)
●L・フライ級
寺地拳四朗(2016.8〜2017.5)
→WBC世界王座戦(2017.5)
堀川謙一(2020.7〜2022.7)
→陥落(2022.7)
岩田翔吉(2022.7〜)
→WBO王者ジョナサン・ゴンサレスと交渉中?
●フライ級
比嘉大吾(2016.7〜2017.5)
→WBC世界王座戦(2017.5)
中山佳祐(2017.10〜2018.3)
→陥落(2018.3)
●S・フライ級
福永亮次(2020.12〜2021.11)
→WBO世界王座戦(2021.12)
●バンタム級
栗原慶太(2018.12〜2021.1)
→陥落(2021.1)
井上拓真(2021.1〜2021.3)
→WBOアジアパシフィックS・バンタム級王座戦(2021.11)
中嶋一輝(2021.5〜2021.10)
→陥落(2021.10)
栗原慶太(2021.10〜)
●S・バンタム級
大竹秀典(2017.3〜2018.7)
→WBO世界王座戦(2018.8)
勅使河原弘晶(2018.10〜2021.12)
→IBF挑戦者決定戦(2021.12)
●フェザー級
竹中良(2015.8〜2017.6)
→陥落(2017.6)
清水聡(2017.10〜)
→WBOアジアパシフィック王座戦(2021.5)
●S・フェザー級
伊藤雅雪(2015.8〜2017.10)
→WBO世界王座戦(2018.7)
三代大訓(2018.6〜2021.3)
→返上(2021.3)
力石政法(2022.5〜)
●ライト級
中谷正義(2014.1〜2019.8)
→IBF挑戦者決定戦(2019.7)
吉野修一郎(2019.10〜)
●S・ライト級
内藤律樹(2018.1〜2021.12)
→陥落(2021.12)
●ウェルター級
長濱陸(2020.2〜2021.1)
→陥落(2021.1)
豊嶋亮太(2021.1〜)
●S・ウェルター級
井上岳志(2017.11〜2018.12)
→WBO世界王座戦(2019.1)
渡部あきのり(2019.8〜2020.10)
→返上(2020.10)
●ミドル級
秋山泰幸(2017.12〜2018.9)
→陥落(2018.9)
細川チャーリー忍(2018.9〜2019.2)
→陥落(2019.2)
野中悠樹(2019.2〜2019.6)
→返上(2019.6)
細川チャーリー忍(2019.10〜2020.1)
→陥落(2020.1)
竹迫司登(2020.1〜)
●ヘビー級
藤本京太郎(2017.1〜2019.7)
→返上(2019.7)
OPBF王座を数回防衛→WBC王座挑戦という王道ルートを歩んでいるのは寺地拳四朗と比嘉大吾のみ。山中竜也、福永亮次、大竹秀典はWBO王座戦、京口紘人はIBF王座戦に進んでいる。
またOPBF王座を4度防衛した勅使河原弘晶、11度の防衛を重ねた中谷正義はともにIBF挑戦者決定戦が組まれている。
こうして見ると、OPBF王座はチャンスを掴むには有用だが必ずしもWBCの世界王座戦に直接つながるわけではない。むしろ勝利を重ねることで他団体のランキングが上がり、WBOやIBFのチャンスがくることも?
だが、ウェルター級以上になるとどうしてもそこから先の展開が見えにくい状況。
拳四朗の接近戦で矢吹正道陥落。そりゃ序盤から倒しにくるよ。ガードを上げた拳四朗を初めて観た。不必要な再戦を強いられた矢吹の不憫さ
WBO-AP王座保持者が辿ったルートを振り返る
続いてはWBO-AP王座保持者について。
●ミニマム級
谷口将隆(2018.11〜2019.2)
→WBO世界王座戦(2019.2)
重岡銀次朗(2019.7〜2021.8)
→返上(2021.8)
● L・フライ級
堀川謙一(2017.2〜2017.6)
→日本王座戦(2017.4)
小西伶弥(2017.7〜2019.5)
→IBF世界王座戦(2019.5)
冨田大樹(2019.9〜2020.1)
→OPBF王座戦(2020.7)
岩田翔吉(2022.7〜)
→WBO王者ジョナサン・ゴンサレスと交渉中?
●フライ級
木村翔(2016.11〜2017.7)
→WBO世界王座戦(2017.7)
坂本真宏(2017.12〜2018.12)
→IBF世界王座戦(2018.12)
阪下優友(2019.5〜2019.10)
→引退(2020.7)
●S・フライ級
向井寛史(2017.12〜2018)
返上(2018)
船井龍一(2018.6〜2019.4)
→IBF世界王座戦(2019.5)
福永亮次(2020.2〜2021.12)
→WBO世界王座戦(2021.12)
橋詰将義(2022.2〜2022.6)
→陥落(2022.6)
田中恒成(2022.6〜)
●バンタム級
勅使河原弘晶(2017.10〜2018.9)
→OPBF S・バンタム王座戦(2018.10)
ストロング小林佑樹(2019.5〜2020.12)
→陥落(2020.12)
比嘉大吾(2020.12〜2021.4)
→陥落(2021.4)
西田凌佑(2021.4〜)
●フェザー級
大沢宏晋(2016.4〜2016.11)
→WBO世界王座戦(2016.11)
森武蔵(2018.11〜2021.5)
→陥落(2021.5)
●S・フェザー級
伊藤雅雪(2016.12〜2018.7)
→WBO世界王座戦(2018.7)
仲村正男(2018.12〜2019.3)
→引退(2019.3)
●ライト級
荒川仁人(2017.1〜2019.1)
→WBOインターナショナル王座戦(2019.4)
吉野修一郎(2019.10〜)
●S・ライト級
近藤明広(2106.9〜2017.9)
→IBF世界王座戦(2017.11)
岡田博喜(2017.12〜2018.8)
→トップランクと契約(2018.8)
井上浩樹(2019.12〜2020.7)
→引退(2020.7)
平岡アンディ(2021.10〜)
●ウェルター級
小原佳太(2017.8〜2018.4)
→陥落(2018.4)
小原佳太(2018.8〜2019.3)
→IBF挑戦者決定戦(2019.3)
別府優樹(2019.12〜2021.5)
→OPBF王者との統一戦(2021.5)
●S・ウェルター級
井上岳志(2017.11〜2019.1)
→WBO世界王座戦(2019.1)
井上岳志(2019.8〜)
→WBOグローバル王座戦(2021.11)
●ミドル級
秋山泰幸(2017.12〜2018.9)
→陥落(2018.9)
細川チャーリー忍(2018.9〜2019.2)
→陥落(2019.2)
野中悠樹(2019.2〜)
●ヘビー級
藤本京太郎(2017.5〜2019.12)
→WBOインターナショナル王座/WBCシルバー王座戦(2019.12)
こちらは全37人17人が世界戦やそれに準ずる試合に進んでいることがわかる。
WBO-AP王座→WBO世界王座戦の王道ルートが6人(ジョナサン・ゴンサレス陣営と交渉中? の岩田翔吉を入れれば7人)、IBF王座戦が4人。比較的指名戦をきっちり行う団体でチャンスが巡ってくる傾向が強い。
中でも大沢宏晋、木村翔の2人はWBO-AP王座が承認される直前だったこともありなかなかのインパクト(2017年8月以降のものをピックアップしているのですが、この2つは例外ということで)。
またWBOインターナショナル王座戦に進んだ荒川仁人やトップランクと3年契約を結んだ岡田博喜、IBF挑戦者決定戦に進んだ小原佳太、ハイメ・ムンギアとのWBO世界王座戦、ティム・チューとのWBOグローバル王座戦と2度の大チャンスを掴んだ井上岳志、などなど。あともう一歩で世界王者!! という例も多い。
ティム・チュークッソ強え…。井上岳志にほぼフルマークの判定勝利。厳しい試合になるとは思ったけど、すでに世界王者よりも強そう
そして何よりヘビー級の藤本京太郎はすごい。何年もかけてコツコツと防衛を重ね、とうとうダニエル・デュボアとのWBOインターナショナル王座/WBCシルバー王座戦にこぎつけてしまった。
これはもはやWBO-AP王座どうこうではないという噂もあるが、日本王座、OPBF王座を2019年7月に返上したことを考えるとWBO-AP王座を保持する意味合いはそれなりに大きかったのだろうと。
ただ、京太郎は例外としてウェルター級以上の人気階級はOPBF同様焼け野原状態。
WBO-AP王座はOPBF王座に比べて次のきっかけを掴みやすいが、中量級以上はその先が見えにくいというのはどちらも大差なさそうである。
WBO承認によってチャンスは大幅増。きっかけを掴みやすいのはOPBFよりもWBO-AP
ざっと眺めた印象としては、
・2013年4月のWBO王座承認以降、大幅にチャンスが増えた
・WBCよりも指名戦等がきっちりしているWBOの方がチャンスを得やすい
・OPBF王座よりWBO-AP王座の方が世界戦への足がかりになりやすい
・両方保持しておくに越したことはないが、どちらかと言えばWBO-AP王座
・2つの王座でコツコツランキングを上げておくとIBFでチャンスがくる可能性も?
つまり、世界を見据える選手はOPBFとWBO-APの両方を保持しつつチャンスを待つのがここ最近の王道。どちらかを選ぶならWBO-AP王座だが、それもタイミングによる。
価値があるかないか、レベルがどうこうの話は知らん。
一方、日本王座は戴冠しても世界ランキングに入れるわけではない、防衛を重ねた先に何があるわけでもない。難易度の割にメリットが少ないことを考えると、国内選手のゴール的な扱いになりつつあるのかもしれない。
吉野修一郎vs伊藤雅雪はこの日のベストバウト。日本のてっぺんってすげえんだよな。剛腕吉野にロマンチスト伊藤が真っ向勝負。伊藤は自分の役回りをよく理解してた
そして、そんな中で「日本王座は通過点」「世界王者を目指す上で絶対にほしい」と言い切った平岡アンディと佐々木尽はめちゃくちゃよかった。
“世界王者を目指す道のど真ん中に日本王座が存在する”という日本ボクシングのカルチャーを示したわけで。
佐々木尽vs平岡アンディはどちらが勝つにしても、日本王座は通過点、絶対欲しいってはっきり言い切ってるのが大きいよな。
世界王者を目指す道のりのど真ん中に日本王座が存在することをカルチャーとして示したって意味でめちゃくちゃ価値のある試合なんだよ。
— 俺に出版とかマジ無理じゃね? (@Info_Frentopia) October 16, 2021
佐々木尽が豪快に体重超過しちゃったけど笑
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