ボクシング闇深き絶望KO3選。圧倒的強者の暴力性は対戦相手をどん底まで突き落とす。キャリアだけでなくその後の人生まで一変させた悪魔のKOランキング
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先日「歴代好きなKO3選」と題して、僕がこれまで観たボクシングの試合の中でお気に入りのKOベスト3を挙げてみたのだが、今回はそれと同じノリで。
ボクシング歴代好きなKO3選。衝撃度+爽快感で選んでみたぞ。僕の好みだから異論は認めない
題して「闇深き絶望KO3選」。
歴代の試合(僕が思い出せる範囲)の中から“尋常じゃない絶望を感じたKO3選”を発表していくランキング遊びである。
選出の基準としては、
・悪魔のような強さを見せつけられたKO
・対戦相手をどん底に叩き落としたKO
・キャリアだけでなく、その後の人生も一変させるほどの絶望を与えた
といったところ。
“その後の人生も一変させる絶望”と言われてもピンとこないと思うので、例として有名漫画作品の名言を挙げておく。
フリーザ「わたしの戦闘力は53万です」
大魔王バーン「今のはメラゾーマでは無い…メラだ…」
戸愚呂弟「おまえもしかしてまだ自分が死なないとでも思ってるんじゃないかね?」
僕自身、これまでの人生で立ち上がれなくなるほどの挫折を味わったこともなければそんな勝負の場に立ったこともないが、実際に勝負の世界には“天地がひっくり返っても越えられない壁”というものが存在するのだと思う。
圧倒的強者の悪魔のような強さを目の当たりにした結果、その後の人生まで狂わされてしまう。
今回挙げるのは、現実の試合でそれに匹敵する絶望を感じた3試合。
強者の暴力性、格闘技の残酷さが明確に見えたというか。爽快感や衝撃とは少し違う後味を残した試合というヤツ。
なお毎度同じことを申し上げますが、あくまで僕の独断なので異論はいっさい受け付けません笑
激シブだけど超オススメ試合3選。決して有名ではないし派手でもないけど感動的で内容も濃かった3試合を挙げてあれこれ言っていくぞ
闇深き絶望KO3選:第3位
○サウル・“カネロ”・アルバレスvsセルゲイ・コバレフ×
2019年11月に米・ネバダ州で行われた試合で、11R2分15秒TKOでカネロが勝利した一戦。
11R残り1分を切ったところでカネロの左を被弾したコバレフが盛大にグラつき、追撃の右ストレートでこと切れたように膝をついてダウンするシーンが印象に残った試合である。
この試合はもう、“カネロの怪物化第一章”というか、階級上のビッグマンをゴリゴリ圧倒するカネロのスタイルが確立された試合と言えるのではないか。
当初はいきなりの2階級アップ+王者セルゲイ・コバレフが相手とのことで無謀な挑戦とも言われた(僕もそう思った)試合。
ところが試合が始まってみれば、カネロは一回り大きなコバレフ相手にまったく怯むことなくズンズン前に出て圧力をかけまくる。
一方のコバレフは手打ち気味のジャブを遠間からペチペチ出すばかり。“クラッシャー”と呼ばれた荒々しさは微塵も感じられない。
結局カネロの圧力に耐えきれなくなったコバレフが11Rに決壊→KO負けを喫したわけだが、コバレフの動きの悪さとともにカネロの怪物っぷりを目の当たりにさせられた試合だった。
カネロがコバレフを失神KO! スターってこういうことだよな。ここぞの勝負で予想を超えてくる。僕のボンクラっぷりも想像を超えた
で、当のコバレフは多額のファイトマネーを得てウハウハだったものの、そこから人生が狂い始める。
女性への暴行容疑の和解金の支払いがストップしていると告発され、翌月には飲酒運転で逮捕。
さらに2020年12月にはカネロの試合を自身のSNSで違法配信したとしてDAZNを激怒させる。
そして、極めつけは2021年1月の禁止薬物陽性反応。
Sergey Kovalev tests positive for synthetic testosterone, putting Jan. 30 bout in jeopardy https://t.co/3xUogApmQ7
— Bloody Elbow (@BloodyElbow) January 14, 2021
もともと素行が悪い選手ではあったが、まさかこんなに立て続けにやらかすとは……。
多額のファイトマネーに目がくらんで不利な条件でカネロとの一戦を受けた結果、想定以上に精神面のダメージが大きかった印象である。
先月あたりから復帰に向けてトレーニングを再開したとのことだが、すでに38歳のコバレフにどれだけ力が残っているか。
「Russia’s former boxing champ Kovalev resumes with training sessions」
ロープにもたれかかるように座り込むコバレフの姿は今後の凋落を予感させる(「FULL FIGHT | Canelo vs. Sergey Kovalev (DAZN REWIND)」から引用)。
闇深き絶望KO3選:第2位
○ワシル・ロマチェンコvsニコラス・ウォータース×
2016年11月に米・ネバダ州で行われたWBO世界S・フェザー級タイトルマッチ。王者ワシル・ロマチェンコが元フェザー級王者ニコラス・ウォータースを7RTKOに下した一戦である。
6、7Rにペースを上げたロマチェンコの猛攻を受けたウォータースが8R開始前に棄権を申し出て突然試合が終了。
勝利したロマチェンコは「続行不可能には驚いた。もう彼をファイターとは呼ばない」とコメントしている。
何と言うか、この試合はロマチェンコのヤバさがはっきりと可視化された一戦だったと思う。
S・フェザー級のロマチェンコは個人的に歴代PFP No.1候補だと思っていて、前戦のローマン・マルティネス戦でもその強さは相当極まっていた。
だが、完全に「これはアカンぞ」となったのがこのニコラス・ウォータース戦。
序盤はそこそこいい勝負をしているように見えたウォータースだが、ラウンドが進むごとにギアを上げるロマチェンコについていけなくなる。
サイドに回られまくって山ほど置いてきぼりを食わされ、あっという間にじり貧状態に。5Rには得意のボディで何とか突破口を開こうと抵抗を見せたものの……。
6Rからロマチェンコがさらにギアを上げたところで万事休す。周回遅れ状態のまま滅多打ちに合い、7R終了時についに心が折れてしまう。
言葉は悪いが、この試合は弱い者いじめが7Rにわたって繰り広げられたと言っても過言ではなかった気がする。
ウォータースは長いリーチを活かしたボディでどうにか勝機を見出そうとするが、ロマチェンコの先読みとポジショニングにまったくついていけず。
大きなダメージはないが勝てる見込みはほぼゼロ。あのまま12R殴り続けられるのはどう考えても無理があるというか、本人のプライド的にも耐えがたいものだったはず。
僕としても、あのギブアップは仕方なかったと思っている。
「これ以上やっても無意味」「何をやっても効果がない」という無力感。。
肉体のダメージよりも精神のダメージの方がはるかに深い、まさしく対戦相手をどん底まで叩き落とすKO劇である。
ニコラス・ウォータースってやっぱりカッコよかったよな。ノニト・ドネアをKOした試合は最高だった。でも内山高志なら勝てる可能性があったと思う
ところが場内からは大ブーイングが……。
当時は日本のファンもウォータースのギブアップに否定的だった記憶があるし、ジョー小泉にいたっては「ウォータースはプロとは言えない」とほざく始末。
もともとジョー小泉のことが大嫌いだった僕だが、あの一件で完全に見限った次第である。
その後ジェイソン・ソーサ、ミゲル・マリアガ、ギジェルモ・リゴンドーと途中ギブアップが続いたことであの判断は間違いではなかったと証明されたわけだが、あの敗北以降、ウォータースがリングに上がっていないことを考えればすべてが手遅れだったとしか言いようがない。
まあ、ウォータースは“一番最初にギブアップした”ことが痛かったですよね。
・身体的には明らかに余力があった
・元王者
・無敗の倒し屋
諸々の要因のせいでさらにバイアスが大きくなってしまったというか。
それを踏まえた上でジョー小泉の無能丸出しのクソコメントは頭が沸いていると断言させていただきますが。
試合後のウォータースがどんな状況だったかは不明だが、恐らく相当の批判を浴びたのだと想像する。
それこそ再びリングに上がろうなどとは思えなくなるほどに(一度復帰戦が組まれたものの、ウォータースの体調不良で中止に)。
というか、戻ってくる予定だったんかいワレエェェ……!!
Nicholas Walters Planned Ring Return Before Pandemic Began https://t.co/dWenFOVXGT pic.twitter.com/Z3ZofUoS21
— BoxingScene.com (@boxingscene) September 13, 2020
記事によると、コロナさえなければ2020年秋ごろの復帰を目指していたとか何とか。
2016年11月に敗れてから復帰を決意するまで約4年間。
対戦相手の人生を狂わせるほどの悪魔的な強さを誇ったロマチェンコのヤバさがよくわかる話である。
闇深き絶望KO3選:第1位
○井上尚弥vsジェイミー・マクドネル×
2018年5月に東京・大田区総合体育館で行われた試合で、井上尚弥がWBA世界バンタム級王者ジェイミー・マクドネルに1R1分52秒TKOで勝利した一戦。
この試合は井上のバンタム級初戦でもあり、約10年間負けなしの長身王者マクドネル相手にどんなパフォーマンスを見せるかが注目されたわけだが……。
結果は戦慄の1RTKOで井上の勝利。
開始40秒過ぎの左右2発でマクドネルは早くも及び腰になり、コーナーを背負わされて亀状態に。
一度はリング中央に戻したものの、井上のプレスに気圧されへっぴり腰のジャブを出すばかり。
1分30秒あたりで再びコーナーに詰められ、ガードの上から左フックを浴びて横倒しにダウン。
何とか立ち上がって再開に応じるが、直後の井上の猛ラッシュで崩れ落ちるように2度目のダウンを喫する。それを見たレフェリーがストップをかけて試合終了。
階級アップによって一段スケールアップした井上に驚くとともに、何もできずにマットを舐めたマクドネルの姿に尋常ではない絶望を感じた一戦だった。
それ以降のマクドネルは階級を上げての再起を誓ったものの、結局2019年6月に1試合をこなしたのみ。
先日、正式に引退を発表している。
At age 35, Jamie McDonnell announces his retirement from boxing after becoming a two-time world champion https://t.co/lsU8gM7pBN pic.twitter.com/mhp7ysxAA6
— Bad Left Hook (@badlefthook) May 12, 2021
しかも別の記事によると、井上に敗れた直後から生活が一変したとのこと。
井上戦の約1か月後に家庭が崩壊して離婚。子どもと会えなくなったことで鬱病を患い、ジムワークもままならない状態に。
建設現場での仕事をこなしつつ、ジム通いと休みを繰り返す生活を送っていたとか。
井上尚弥の次戦の相手を勝手に予想する。カシメロもドネアも忙しいし年内統一戦もなくなった。ボクシング界の駆け引きにもうんざりしてる
マジな話、一度の敗戦がここまで人生を狂わせるケースにはめったにお目にかかれない(気がする)。
10年間無敗、敵地に赴くこともいとわず積み重ねた富と栄光が、東洋の島国のワケのわからん若造に粉々に打ち砕かれる。それも「何度やっても勝てない」と100人が100人断言するほどの完敗である。
本人はもちろん、その光景を目の前で見せられた奥さん(元)もショックが大きかったはず。
直後に結婚生活が破たんしたのも、夫(元)が公衆の面前で叩きのめされたことが影響していなかったとは思えないわけで。
正直、セルゲイ・コバレフに関しては自業自得の面が強い。その上、自身のSNSでの違法配信などはちょっと笑えたりもするw
何で本垢でやっちゃうんだよお前w
せめて捨て垢を作るとかの小細工をだな……。
みたいな。
だが、マクドネルの場合は少し違う。外的な要因が多い分同情したくなるというか、今後の人生に幸あれという思いが湧いてしまう。
いや、実際のところはわからないので何とも言えませんが。
マクドネル本人も井上に敗れて以降、「本調子であれば負けなかった」だの「再戦したい」だのとコメントしていた記憶があるが、もしかしたらああいうのもすべて心の平静を保つための虚勢だったのかもしれない。
格闘技のKOは鮮烈で爽快だが、圧倒的強者の暴力性は時に対戦相手を闇に引きずり込むほどの絶望をもたらす。
その闇の深さ、どん底っぷりの最たるものが2018年5月の井上尚弥vsジェイミー・マクドネル戦だったのだろうと。
なお、あの試合は確か計量に遅れたマクドネルからお詫びの言葉がいっさいなかったとかで、井上尚弥がだいぶご立腹だったことを覚えている。
似たようなケースでは、WBSS準決勝の試合前にエマヌエル・ロドリゲス陣営の1人が井上パパを恫喝して井上の怒りを買ったというのがある。
今考えると、どちらの選手も決して触れてはならない“悪魔の怒り”に触れてしまったと言えそうである()
ちなみに2021年6月19日(日本時間20日)には井上尚弥vsマイケル・ダスマリナス戦が米・ネバダ州で予定されている。
実を言うと、この試合もあっという間に終わってしまうのでは? と思ったりしている。
「ダスマリナスはいい選手」「どれだけ粘れるかが見どころ」などと言ったものの、今の井上はそういう諸々をすべて粉砕してしまいそうな……。
目を奪われる魅力、華のある選手5選。倒し方だけでなく、倒され方にも華があってこそのスター性。PFPとは別次元のランキング遊び
冗談抜きでマクドネル以来の暴力決着もあり得るのではないか。絶望に沈んだダスマリナスが闇落ちしないかを少しだけ心配している。
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