アニメ「鉄コン筋クリート」感想。声優の素人臭いザラザラ感と作風が奇跡的に嚙み合った秀作。イタチの正体? 蛇の手下? いろいろ謎も多いけど【映画】

アニメ「鉄コン筋クリート」感想。声優の素人臭いザラザラ感と作風が奇跡的に嚙み合った秀作。イタチの正体? 蛇の手下? いろいろ謎も多いけど【映画】

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映画「鉄コン筋クリート」を観た。
 
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「鉄コン筋クリート」(2006年)
 
下町風情が色濃く残る「宝町」を根城にする孤児のクロとシロ。彼らはヤクザが幅を利かせるこの街を驚異的な身体能力で自在に飛び回り、他人から強奪した金品で生計を立てていた。
 
「自分たちの街」を守るためには暴力もいとわない彼らは街の人々から「ネコ」と呼ばれ恐れられる存在。宝町に勤務するベテラン刑事・藤村も2人の行く末を心配する半面、その傍若無人さには手を焼いていた。
 
 
そんなある日、「蛇」と名乗る男が現れ、宝町のヤクザ「大精心会」と手を組み“子供の城”建設プロジェクトに着手する。
 
だが、プロジェクトを進めるためには宝町で好き勝手に振る舞う「ネコ」の2人が障害になる。
早急に彼らを消すべきだと判断した「蛇」は、2人のもとに屈強な3人組の殺し屋を送り込むのだった。
 
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久しぶりに観た「鉄コン筋クリート」。当時と比べて気になることが増えたかな

松本大洋のマンガ作品を原作にSTUDIO 4℃制作で2006年にアニメ映画化された「鉄コン筋クリート」。
 
先日、同じSTUDIO 4℃制作の作品「ムタフカズ」「ジーニアス・パーティ」「ジーニアス・パーティ・ビヨンド」を視聴したと申し上げたが、今回は同スタジオの代表作「鉄コン筋クリート」についてである。
 
この作品は以前にも一度観たことがあるのだが、改めてということで。
理由はそれなりに期待して観た上記の3作品があまりに自分に合わず、絶望感が尋常じゃなかったこと。
 
アニメ「ジーニアス・パーティ」感想。ダメだなこれは。松本人志「ゴッホの気持ちがわかる」←うわぁ…。史上最高のパンチラインを教えてやんよ
 
せっかく挑戦的()な作品を数多く輩出するSTUDIO 4℃制作なのに、さすがにこのままでは終われない。そんな意味不明なモチベーションが沸いたのが最大の要因である。
 
あとはまあ、単純に過去に視聴した「鉄コン筋クリート」がおもしろかったというのもある。
 
 
そして、当時は思い至らなかった部分にあれこれ気づいた(余計なことが気になるようになった)ので、今回はそれについて感想を申し上げていくことにする。
 

作品自体はなかなかよかった。だいたい100点満点中85点くらいかな

まず、今作「鉄コン筋クリート」を久しぶりに視聴した感想だが、なかなかよかった
初視聴の際も似たような感想を持った記憶があるが、どうやら僕の感覚はその当時とあまり変わっていないらしい。それがいいのか悪いのかは別として。
 
全体的には100点満点中85点くらい。先日観た3作品がだいたい20~30点前後だったことを考えると、概ね満足度は高い。
 
中でも宝町の描写や登場キャラクターなどの作画と声優陣の相性は抜群だったと思う。
 
今作の主要キャラクターのキャストは
クロ→二宮和也
シロ→蒼井優
木村→伊勢谷友介
ネズミ→田中泯
蛇→本木雅弘
と、基本的には専門の声優ではない人間が多い。
 
まあ、これは今に始まったことではなく、1988年の「となりのトトロ」での“お父さん”役を糸井重里が務めて以降、あらゆる作品で見られるケースである。
 
そして、僕自身はこの流れがあまり好きではない。別に芸能人を声優に起用するなとは思わないし、作品を宣伝するためにはキャストの知名度に頼るのが手っ取り早いというのも何となく理解できる。
 
だが、それでも必要最低限の水準は超えていてほしい。アニメ、海外映画の吹き替え問わず、基本的に映画作品は全編で2時間前後。1クールのアニメともなれば、全12~13話で約3か月間。その間、聞くに堪えないレベルのド下手な声優に付き合わされるのは苦痛以外の何物でもない。どれだけ脚本がよかろうと映像がすごかろうと、声優の水準が一定以下というだけですべてが台無しになる。
 
ちなみにだが、僕が声優のダメさ加減に耐えられずに挫折したアニメの代表が「いぬやしき」。
主人公・犬屋敷壱郎を演じた小日向文世のあまりのクソっぷりに、2話の途中で観るのを止めてしまった経緯がある。
 
映画「いぬやしき」感想。哀愁ジジイの覚醒。男前陰キャラのメシウマ復讐劇。爽快感とモヤモヤの狭間で
 
逆に2016年の「君の名は。」で主役を務めた神木隆之介と上白石萌音はめちゃくちゃよかった。あれだけ違和感なくやれるのであれば、中の人が芸能人だろうが声優だろうがどうでもいい。
 

声優陣と作風が奇跡的に噛み合った作品。全体のザラザラ感と声優のプロっぽくなさがいい意味で洗練されていない

一方、今作の声優陣はなかなか素晴らしかった。
 
クロ役の二宮和也や木村役の伊勢谷友介その他。申し上げたように主要キャラクターのキャストは芸能人で固められており、決して上手とは言えない面々である。
それこそ伊勢谷友介や本田中泯などは、本来なら「何じゃコイツ、ド下手やんけ」「だからちゃんとした声優を使えといつも言ってるだろ」とイライラ全開でブチ切れるクオリティである。
 
もっと言うと、先日視聴したSTUDIO 4℃作品「ムタフカズ」では、主人公アンジェリーノを演じた草彅剛の声に耐えられずにわずか30秒足らずで字幕版に切り替えている。
 
アニメ映画「ムタフカズ」感想。クッソ微妙だった。草彅剛の棒読みに30秒耐えられず。映像と音楽を含めた雰囲気イケメンを堪能しろってことなんだろうな
 
だが、今作「鉄コン筋クリート」はちょっと違う。
舞台となる宝町のカラフルながらもノスタルジーを感じさせる雰囲気、掴みどころのない性格の面々、「蛇」を始めとした敵組織の得体の知れなさ、などなど。
どことなく洗練されていないザラザラした肌触りが、プロフェッショナルとは言い難い声優陣の演技と奇跡的にマッチしているのである。
 
 
まあ、これは洗練されていないというより、あえて洗練さを否定したという方が正解なのだと思う。

「もちもーち、こちら地球星日本国シロ隊員。応答どーじょー」

「シロ、いっぱいネジないの。心のネジ」

「クロね、クロもねいっぱいネジないの。心のネジ。クロのないとこのネジ、シロが持ってた」

「クロとシロは2人で1人、今日もこの星の平和はきちんと守りました」

上記は作中でのシロのセリフの一部だが、この“何か”が伝わるような伝わらないような、刺さるようでちっとも刺さらない感じが今作「鉄コン筋クリート」の見どころ? 持ち味? である。
 
「自分の街」を荒らすよそ者を始末しながら好き勝手に生きる2人を「ネコ」と呼んだり、昔気質のヤクザを「ネズミ」と名付けたり。
アンダーグラウンドを逞しく生き抜く面々に一定のリスペクトを示しつつ、人生を諦めた人間たちの自虐的な部分も垣間見せる。
 
カラフルな色彩でモノクロを表現するというか、“答えのない場所に答えがある”的な作風を強調するために、あえて洗練させない方向に尖らせた感じ。その一環としての二宮和也や伊勢谷友介、本田中泯らの起用はめちゃくちゃ理にかなっていたのではないか。
 
あとは二宮和也が草彅剛と違って“最低限の水準”を超えていたのも大きかったよね。
伊勢谷友介と本田中泯は今作以外であれば憤慨ものだったけど。お前らは素直に俳優やっとけって話でね。
 
劇場版「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」感想。蛇足でもあり感動再び! でもある。観る人、観るタイミングによって評価がまったく異なる
 
なお、シロ役の蒼井優はちょっとすごい。もともとこの人はアニメや吹き替えでの評価がすこぶる高いらしいが、今作でも間違いなく頭一つ抜けていた。
 
下記の記事にもあるように、声優の演技において大事なのは「演じている人物をイメージさせないこと」。


そういう意味ではシロ役の蒼井優は100点満点。逆に「ムタフカズ」の草彅剛は0点だったと断言できる。
「蛇」役の本木雅弘もよかったのだが、残念ながら蒼井優の衝撃の前では存在ごと霞んでしまった……。
 

主人公が精神世界をさまようパターン、もういい加減うっとうしいんだよなw ストーリー自体はおもしろいんだから、“そのまんま”でいいのに

不満な点を挙げるとすれば、主人公が精神世界をさまようお決まりのパターンに突入してしまったことか。
 
作中の山場で主人公がぶっ壊れて精神世界に迷い込み、そこを乗り越えてクライマックスへ向かう。
「ムタフカズ」「ジーニアス・パーティ」シリーズの際にも申し上げたが、僕はこの手のパターンに心底うんざりしている。
 
アニメ「ジーニアス・パーティ・ビヨンド」感想。はっきり言っておもしろくはない。でも“制約ゼロ”とかいう独りよがりルール仕様の「ルール」ができつつあったよね
 
恐らく商業アニメでこれを最初にやったのは「新世紀エヴァンゲリオン」だと思うが、はっきり言って苦痛でしかない。
意味不明な言葉の羅列と抽象的な画面が延々と続き、視聴者を置いてきぼりにしたままいつの間にか主人公が立ち直る流れ。まるで「わからない方が悪い」と言わんばかりの、制作側のエゴがたっぷり詰まったクソ描写である。
 
しかも今作「鉄コン筋クリート」では、ラストバトルにそれを持ってきているのがタチが悪い。
シロと無理やり引き離されたクロが精神のバランスを欠き、とうとう自我が崩壊する。そして、自分の中に眠っていたもう1人の自分「イタチ」に浸食されそうになるが、最終的にはシロの存在がストッパーとなり、ギリギリで精神世界から抜け出すことに成功する。
 
ああ、ウゼえww
 
マジな話、これ系の展開はだいぶ前に飽き飽きしているのだが、2018年の「ムタフカズ」においても似たようなことをやっているSTUDIO 4℃のスタンスには幻滅させられる。もちろん原作に沿った流れであることは理解しているが、いや、もうええやんけと。
 
イタチの正体はクロ自身なのか、それともすべての人に内在する“もう1人の自分”なのか。
「蛇」に指示を出している「神」とは何者なのか。また、3人の殺し屋はいったいどんな存在なのか。
いろいろと謎な部分も多いが、そんなことはどうでもいい。
 
それこそクロのピンチにシロが駆けつけて、2人で力を合わせて殺し屋に勝つクライマックスで十分なのに。
“弱いと思っていたシロが実はとんでもないポテンシャルを秘めてました”で盛り上がったはずなのに。
ストーリー自体は鉄板の流れできているのだから、最後まで“そのまんま”でよかったのに。
 
 
今作を最初に観た際は「ここが理解できないと楽しめないのか……」と自分に落胆した記憶があるが、今なら自信を持って断言できる。
 
主人公が精神世界にすっ飛ぶパティーン、いい加減うっとうしいんだよw
 
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