三浦隆司はやっぱり天才だよな。理解不能なボンバーレフトと圧倒的な詰めの甘さが激闘を演出する【WOWOWエキサイトマッチ感想】

2020年4月20日に放送された「WOWOWエキサイトマッチ 三浦隆司特集」。
“ボンバーレフト”の異名を持つ強烈な左を武器にKOを量産し、2013年4月のガマリエル・ディアス戦でWBC世界S・フェザー級王座を戴冠。
同王座を4度防衛したのち、2015年11月に自身の夢でもあった米・ネバダ州ラスベガスのリングで無敗のフランシスコ・バルガスと対戦する。お互い倒し倒されの激闘の末に惜しくも9RTKOで敗れたものの、この試合は多くのメディアで年間最高試合に選出される。
2017年1月、再び米国のリングでミゲル・ローマンとの挑戦者決定戦に挑んだ三浦。この試合では前半こそローマンの技巧に苦戦を強いられるが、後半からギアを入れ替え10Rに渾身のボディで壮絶なダウンを奪う。それ以降も果敢に攻めた三浦が最終12Rにもダウンを奪取しKO勝利。見事王座への挑戦権を手に入れる。
そして迎えた2017年7月。
三たび米国のリングに上がった三浦の相手は、フランシスコ・バルガスに勝利し戴冠を果たしたミゲール・ベルチェルト。
1Rにいきなりダウンを奪ったベルチェルトは、そこから足を使ってのアウトボクシングに徹する。三浦も懸命に追いかけるも最後までベルチェルトを捉えられず。3-0(120-107、119-108、116-111)の大差判定負けを喫し、王座獲得に失敗。後日引退を表明している。
目次
やっぱり三浦の試合は楽しいよね。WOWOWエキサイトマッチが三浦隆司を特集
新型コロナウイルス感染拡大の影響で世界中でボクシング興行がストップし、それに伴いWOWOWエキサイトマッチのラインナップも大幅変更を余儀なくされている。その一環として、今回は“ボンバーレフト”こと三浦隆司の特集となった。
数々の激闘を繰り広げた三浦だが、この日にフルでO.A.されたのはキャリアの中でもベストバウトと言える試合。初の海外(メキシコ)のリングとなった2013年8月のセルヒオ・トンプソン戦、米・ラスベガスで戦うという夢を叶えた2015年11月のフランシスコ・バルガス戦の2試合である。
番組の中でも言われていたが、三浦隆司は井上尚弥を除けば米国でもっとも名前が売れた日本人選手。S・フェザー級での戴冠ということを考えれば文句なしでの偉大な王者と言える。GBPのオスカー・デラホーヤも三浦をお気に入りと言っていたし、本当に観ていて楽しい選手だった。
内山高志は僕が心底カッチョいいと思った選手。中間距離でかなうヤツは誰もいないんじゃない? ウォータース戦は実現してほしかったよね
そして今回、久しぶりに三浦の試合を観たのだが、やっぱり楽しい。
なお三浦は現在、地元秋田で小中高生を対象としたボクシング指導をしているとのこと。
画面で観る限りは一時期のパンパンな顔に比べて若干スリムになったように感じたが、それ以上に喋りの上達っぷりには少々驚かされた。もともとこの人は口下手なタイプで、現役時代はゲストで呼ばれてもうまく言葉が出てこなかった印象が強い。
だが、この日はまったくそんなことはなく。
やはり指導者の立場になるとトーク面もそれなりに鍛えられるのかなと。
いや、どうでもいいけど。
三浦隆司は天才。今回の特集で改めてそう思った
今回、久しぶりに三浦の試合を観て思ったのが、やっぱりコイツは天才やなと。
その風貌や無骨なファイトスタイルに加えて控えめな性格も影響してか、現役時代は“侍”などと呼ばれた三浦隆司。恐らくだが、長谷川穂積や粟生隆寛といったセンス抜群の面々とは好対照の印象を持つ方が多かったのではないか。
決して才能に恵まれたタイプではなく、どちらかと言えば一点突破の努力家。不器用な分を練習で補うというか、泥臭さがファンに好まれるというか。
ただ、僕の中ではまったくの逆。以前から何度も申し上げているが、三浦隆司という選手は文句なしの天才だと思っている。今回の三浦隆司特集を観て、その思いはさらに強くなった次第である。
どんな局面でも出せる“ボンバーレフト”は一撃必殺の威力を持つ。ワイルダーと同種の天才
三浦の持ち味は何と言っても“ボンバーレフト”と呼ばれた左。
それもストレート一辺倒ではなく、ショートでのアッパーやフック、ボディなどすべてのパンチが一撃必殺の威力を持つ。
若干斜に構えた姿勢で相手と対峙し、上体を左右に動かす。そこから右リードをチョンチョンと出しながら無造作に距離を詰め、ガードの真ん中からスパッと左を通す。
毎度のことながらこの左がマジで意味不明。
手数が多いわけでもないし、足があるわけでもない。ガードも甘く被弾も多い。
打ち終わりに思いっきり身体が流れて頭も下がる。そこを狙われて豪快にグラついたことも一度や二度ではない。
だが、なぜか左が当たる。ストレートだろうがフックだろうがアッパーだろうが当たる。間合いや局面などもいっさい関係なく当たる。
直前まで力みまくってブンブン腕を振っていたのにその瞬間だけは全身から力が抜け、肩口からスムーズな軌道で左が出る。そして、その左がガードをすり抜け相手の顎をモロに捉えるのである。
繰り返しになるが、本当に意味がわからない。
先日、ヘビー級元王者のデオンティ・ワイルダーのことを“天才”だと申し上げたが、三浦隆司もそれと同じ。防御は甘いし試合の組み立てが上手いわけでもない。一定以上の実力者が相手だと毎回苦戦を強いられる。
だが、どこかで必ず必殺の右(三浦は左)が当たる。なぜか当たる。
「気持ち」や「根性」といった精神論などではない。「自分の拳を信じる」とか、そういう話でもない。これはもはや才能としか言いようがない。天から与えられた贈り物というヤツ。
“無骨な侍”として親しまれた三浦隆司だが、実際には圧倒的な才能でKOを量産した天才だと断言させていただく。
ミゲル・ローマン戦のボディなんて、あんなもんグラップラー刃牙の花山薫ですよww
“すべての努力を放棄した天才喧嘩師”とかいうキャッチフレーズがオーバーラップするって、完全におかしいですからね(三浦が努力していないとは言ってない)。
ワイルダーとの一番の違いは詰めの甘さ。それが逆に三浦の試合をエキサイティングにする
問答無用の天才・三浦隆司だが、上記のデオンティ・ワイルダーとの一番の違いは詰めの甘さ。1発ですべての問題を解決してしまうワイルダーに対し、三浦はダウンから立ち上がってきた相手を仕留め損ねることが非常に多い。
試合を観直すとわかるが、この選手はかなり詰めが甘い(と思う)。
肩の力が抜けた左でダウンを奪うまではいいのだが、そこからのラッシュは命中率がすこぶる悪くなる。相手がフラフラな状態にも関わらず腕を振り回すだけでちっとも当たらなかったり、逆に狙いすぎてカウンターをもらったり。
一瞬の煌きはまさに“天才の所業”と呼ぶにふさわしいが、インファイトでのブンブン丸っぷりはなかなかのもの。野獣の形相で一気にカタをつけるワイルダーとの一番の違いはここかなぁと。
ただ、その詰めの甘さによって試合がよりエキサイティングになるという側面もある。
左1発の破壊力、当て勘は天才的な三浦だが、申し上げたようにそこからフィニッシュまではかなりヌルい。腰砕けの相手にダラダラと粘られるうちに回復を許し、がら空きの顔面に被弾して突然ピンチに陥る。
今回O.A.されたトンプソン戦、バルガス戦がまさにそのパターンで、バルガス戦などは三浦の詰めの甘さが年間最高試合を演出したと言っても過言ではない。
セルヒオ・トンプソンやガマリエル・ディアスは最後までダメージを引きずり、ミゲル・ローマンは得意のインファイトで三浦の馬力を抑えきれずに力尽きた。
だがフランシスコ・バルガスはそこから局面を打破する底力を残し、ミゲール・ベルチェルトは三浦の圧力に耐えながら最後まで動き続けるスタミナと精神力を持ち合わせていた。
ああいう二番底があるのも恐らくトップ中のトップのスケールの大きさで、残念ながら三浦隆司はその領域にギリギリ足りなかった。
天からのギフトとも呼べる圧倒的な左と、穴だらけのザルディフェンスや1発効かされたあとのへっぴり腰のクリンチ。極端な長所と短所が絶妙なバランスで同居した、何とも危うい魅力を持ったファイターである。
WOWOWエキサイトマッチの三浦隆司特集、なかなかおもしろかった。
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