朝倉未来「ボクシングの12Rは覚悟がいる」。でも12R制の醍醐味ってのも間違いなくあるよね。井岡一翔の試合運びは感動的ですらある
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先日、MMAファイターの朝倉未来がYouTubeの「渡嘉敷勝男&竹原慎二&畑山隆則 公式チャンネル」に出演した動画を観たのだが、その中で印象に残ったのが13分過ぎくらいの「ボクシングの12Rは覚悟がいる」という朝倉未来の言葉。
ここ最近、若い人が格闘技を始める際にボクシングではなくキックボクシングやMMAを選ぶケースが多い。その原因として、世界タイトルマッチや東洋太平洋タイトルマッチで採用されている12R制にかなり抵抗があるのではないか? という話である。
これは僕も一理あると思っていて、やはり多くの方にとって12Rへの敷居は高い。何の恨みもない他人と36分間どつき合うというのは異常事態なのだろうと。
朝倉未来「ボクシングの12Rは覚悟がいる」
やっぱり12Rって僕なんかには理解できんくらい負担がデカいんだろうな。
まあ、何の恨みもない相手と36分間どつき合うなんてどう考えても異常ですからね(褒めてる)。
そもそも例え恨みがあったとしても、36分間も怒りが持続せんわな(褒めてる)。
— 俺に出版とかマジ無理じゃね? (@Info_Frentopia) June 19, 2020
しかもスタートは4回戦なのに、勝ち進むにしたがって6、8、10、12回戦とラウンド数が増えていく。世界タイトルを目指そうと思えば短距離型から長距離型への移行が必須となるため、得手不得手の影響はより大きくなると思われる。
もちろん、僕を含めた観る側にとっても同様で、よく知らない選手同士のつまらない試合を12R観続けるのは拷問に近い。
そういう意味でも「5R制のボクシング」というものには個人的に大きく期待している。
5R制ボクシングおもしれえ。エンタメ寄りの選択肢としてはマジでアリ。KODトーナメント決勝戦を現地観戦してきた
ただ、12Rがダメだなどと言うつもりはまったくなく。
12Rには12Rのおもしろさ、奥深さが間違いなく存在する。
というより、ラウンド数が長い分戦略や駆け引きの重要性が大きくより緻密な試合も増える。
技術的な部分は僕にはよくわからないが、12Rにおける両者の駆け引きや狙いみたいなものを想像しながら観るのは非常に楽しい。
ボクシングにはまだまだ掘れる余地が残っていると思う。選手が積極的に発信することは競技レベルの向上に大きく寄与する
以前「ボクシングのスタッツをもう少し詳しく知りたい」と思い、世界タイトルマッチでのKO率やKOラウンド、15R制と12R制の違いなどを調べてみたことがあるのだが、なかなか楽しかった記憶がある。
→スタッツをほじくり返してボクシングの都市伝説を検証する。12Rはみんながんばるから11Rにがんばるべき? 初回は身体が硬い?
→15R時代との比較。12Rに短縮されたことでボクシングは変わったの? 日本にはホームアドバンテージがあるの? スタッツ遊び第2弾
他にはその日の気温や湿度、リングの広さやマットの硬さ。などなど。
試合に影響する要素は多くあるはずで、それらを調べてデータ化すればボクシングにはまだまだ掘れる要素が残されていると思っている。
先人の経験値や都市伝説だけではなく、科学的根拠に基づいた戦術が確立され、その裏をかくためにまた研究が進む。結果的に競技レベルが格段に上がるという流れ。
まあ、とりあえずはその日の会場の気温と湿度くらいは表記があってもいいかな? みたいな。
先日「格闘技選手がSNSや動画を積極的に発信することについて」と題して格闘技選手がSNSや動画で発言するメリットやデメリットについて考えてみたが、競技レベルの向上という意味ではそれも非常に重要だと思われる。
格闘技選手がSNSや動画を積極的に発信することについて。競技レベルの底上げってのは絶対にあるよね。デメリットも多いけど
スポーツ選手が自分の言葉で技術やトレーニング方法を語るケースは最近では珍しくなくなったが、それを最初にやり始めたのは恐らくプロ野球選手のダルビッシュ有かなと。
変化球バイブルを出したのが約11年前。
当時は「プロが手の内を全て晒すとは」みたいにOBの方たちにも批判されたりしました。色々な変化球を試す姿勢が「ひとりよがり」とも言われました。
でも近年変化球バイブルで投げ方を学んだというプロ野球選手が多いです。
出して良かったなぁと今、思います?— ダルビッシュ有(Yu Darvish) (@faridyu) June 20, 2020
この「ダルビッシュ有の変化球バイブル」は僕も読んだが、めちゃくちゃおもしろいのでおすすめである。
逆にイチローのようにあえて多くを語らず受け手に答えを委ねることで“選手としての値打ち”を上げる方法もある。
【 #イチロー 単独インタビュー】
Twitterを使わない理由。自ら発信しない「伝える力」を本人に聞いてみた誰でも発信できる時代、なぜ「第三者」を通してメッセージを伝えるのか
イチローの「野球選手としての表現」へのこだわりがあった #SNSとの距離https://t.co/C8gvgc3Vbi
— ハフポスト日本版 / 会話を生み出す国際メディア (@HuffPostJapan) June 18, 2020
この人は最後まで“我が道をゆく孤高の天才”というイメージを守り続けたわけだが、「理想の上司ランキング2019」で上位にランクインしていたのもその辺の影響が大きかったのだと思う。
まあ、僕としてはどちらのスタンスもアリだと思いますけどね。SNSも動画も競技に悪影響が出ない範囲でやればいいし、極力口数を少なくしてミステリアスなイメージを守り続けるのもいい。
フィールドでいいプレーを見せてくれれば僕はどっちでもいいっす。
12R制の試合運びがもっともうまいのは井岡一翔。2016年月のキービン・ララ戦は感動的だった
そして表題の件。
僕が12Rにおける駆け引き、戦術がもっともうまいと思っている日本人選手は断然井岡一翔である。
中でも2016年7月のWBA世界フライ級タイトルマッチ、キービン・ララとの一戦はベストパフォーマンスの一つだったと思う。
キービン・ララという選手は2016年当時21歳で戦績は18勝1敗1分。直近4戦中3KOと波に乗っており、初の世界タイトル挑戦ということで相当気合が入っていたと聞く。
実際、実力もかなり高い選手だった。
中間距離よりやや近い間合いが得意で、左右のコンビネーションを際限なく打ち続けるスタイル。
切れ目のない連打でグイグイ前に出て相手に反撃の余裕を与えず、ロープに詰めてさらに回転を上げる。
上体を柔らかく使う連打はローマン・ゴンサレスとも少し似ていて、同じニカラグア出身ということで影響も大きく受けているとのこと。
解説の長谷川穂積や内藤大助もキービン・ララの波状攻撃にはだいぶ驚いていた。
L・フライ級のロマゴン凄すぎワロタw ベストバウトはスティベン・モンテローサ戦で異論ないよな? これはオールタイムベストかも?
そして、それを攻略した井岡一翔があまりにお見事過ぎて……。
当時もめちゃくちゃ感動した記憶があるが、改めて観直してみてもやっぱりすごい。
このキービン・ララ戦と次戦のスタンプ・キャットニワット戦でのパフォーマンスはマジで素晴らしい。
フライ級における井岡一翔のベストバウトはファン・カルロス・レベコVol.2だと思っていたが、成熟度に関して言えばこちらの方が上かもしれない。
1試合を3分割して計画的に痛めつけ、最高にカッコいいKOで決める。12R制の醍醐味が山ほど詰まっていた
申し上げたようにキービン・ララ戦での井岡一翔は12Rの使い方が本当にすごい。
前半4Rは相手のパワフルな連打を硬いガードと角度の調整で受けきり、要所でボディを突き刺してダメージを蓄積させる。
ララの動きが鈍った中盤5〜8Rからは、半歩ほど距離をとって単発気味のパンチにカウンターを合わせまくる。
そして十分にダメージを蓄積させ、間合いも掌握した9RからKOのチャンスをじっくりと待つ。カウンターでララの前進を止めつつ、より見栄えのいい1発を入れる瞬間を探す。
当時の井岡はラウンド中にアリシャッフルを見せたりとナルシストな面がファンの反感を買うこともあったが、この試合での後半もその部分がたっぷり発揮されていた。最高にかっこいいフィニッシュを狙っているのがありありとわかるのはそれはそれでおもしろいww
井岡一翔「自分にとってメリットを感じる戦いではありません」。田中恒成「ノンタイトル戦は何度挟んでもいい」。テンション違い過ぎてゾッとするわw
1〜4Rで相手の力量を測りながらボディでダメージを蓄積させ、
5〜8Rは距離をとってのカウンタースタイルで試合の流れを掌握。
9〜12Rのどこかで一番カッコいいKOシーンを演出する。
12Rを3分割した上で計画的に相手を弱らせ、最後の最後に最高に見栄えのいいKOで勝利する。
もともと用意していた作戦なのか、試合を通しての組み立てなのかは不明だが、“掌の上で相手を転がす”という言葉がぴったりの試合運び。12R制ボクシングの醍醐味が山ほど詰まった一戦だった。
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