アニメ映画「心が叫びたがってるんだ。」感想。秩父三部作? とやらの中では一番好きかな。尖り方と洗練さのバランスがちょうどよかった。坂上拓実のセリフ量エグかったけどw

アニメ映画「心が叫びたがってるんだ。」感想。秩父三部作? とやらの中では一番好きかな。尖り方と洗練さのバランスがちょうどよかった。坂上拓実のセリフ量エグかったけどw

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アニメ映画「心が叫びたがってるんだ。」を観た。
 
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「心が叫びたがってるんだ。」(2015年)
 
おしゃべり大好きな少女・成瀬順は山の上に建つお城(ラブホテル)で夜ごと行われる舞踏会に憧れていた。
 
その日も順がお城(ラブホテル)の前で佇んでいると一台の車が彼女の前を通り過ぎる。ふと車内に目をやると、そこには父親と見知らぬ女性の姿が。
 
順はその光景を「お城から出てくる王子様とお姫様」と思い込み、母親に嬉々としてそのことを告げる。
ところが話を聞いた母親は唐突に弁当を作る手を止め、なぜか順に「その話、誰にもしちゃだめよ」と諭すのであった。
 
 
数日後、一人で引っ越し準備を進める父親に「どこに行くの?」と尋ねる順。この問いかけに父親は薄笑いを浮かべながら「全部お前のせいじゃないか」とつぶやくように答える。
 
思いがけない父親の言葉にショックを受けた順は立ち直ることができず、夕暮れの道端で一人涙を流していた。すると、突然そこに“玉子の妖精”が現れ「お前のおしゃべりが苦難を招く」と告げる。そして順の口のチャックを閉め、お喋りを封印してしまうのである。
 
 
その一件からまともに会話ができなくなった順は、高校2年生になった今も手書きのメモか携帯メールを通してでしか意思疎通ができずにいる。クラスメートからは“変わり者”の女の子として扱われ、誰も彼女の声を聞いたことがない状況が続いていた……。
 
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超平和バスターズ制作の3本を「秩父三部作」って呼ぶらしいぞ。アニメのテンションが続いているうちに勢いで視聴したけど

長井龍雪・岡田麿里・田中将賀の3人による「超平和バスターズ」制作のアニメ映画「劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」「空の青さを知る人よ」の2本を視聴したことは先日お伝えした通りだが、その勢いで2015年公開の今作「心が叫びたがってるんだ。」も観てみた。
 
また、この3本はいずれも埼玉県秩父市が舞台となっていることから「秩父三部作」と呼ばれているとか。
 
どうやらファンの間では有名な話らしいが、僕のようなクソニワカw はそんなことを知る由もなく。視聴後にレビューサイトや情報サイトを漁ってようやくあーだこーだと情報を得て追いついたわけだが、とにかく超平和バスターズの代表作3本を制覇した次第である。
 
アニメ映画「空の青さを知る人よ」感想。それでも将来、お前になってもいいかもしんねえって、思わせてくれよ! 今の俺はあの頃の自分に胸を張れんのか? ダサいヤツになってないか?
 
ここ最近、アニメネタばかりが続いて需要があるかどうかも定かではないのだが、こういうのはノリと勢いが大事なので。自分の中に“そっち側”のテンションが残っているうちに一気に片付けないと、次にいつ波が来るかがわからないというのもある。
 
「思い立ったが吉日」。
うん、昔の人はいいことを言う()
 
ちなみに秩父三部作にはそれぞれ通称があり、
「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」→「あの花」
「心が叫びたがってるんだ。」→「ここさけ」
「空の青さを知る人よ」→「空青」
と呼ばれているらしい。
 
これについてはコメントを控えさせていただくが……。
 

三部作の中では一番好きかな。大衆への迎合と適度な尖り方。ここがちょうどいいバランスで成り立っていたと思う

勢いのままに視聴を終えた「心が叫びたがってるんだ。」だが、僕的には秩父三部作の中では一番好きかもしれない。
 
一作目の「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」はテレビアニメの知識があることが前提だったのもあり全力では乗り切れず。三作目の「空の青さを知る人よ」は各年代からの共感を万遍なく得られる取っつきやすい構成だったが、その分鋭利さには欠けていた。
 
それに比べて今作は二作目ということもあり、適度に尖りつつも大衆受けも忘れないバランスが秀逸だった(僕の中では)。
 
 
名前が売れるにつれて大衆に迎合した作品が増えいてく代表例として思いつくのは花沢健吾だが、恐らくこれはどの作者も避けては通れない部分なのだと思う。
 
だって、花沢健吾のデビュー作「ルサンチマン」の尖り方はマジでやばかったですからね。
主人公がデブでハゲで低賃金のブルーカラーの素人童貞、おまけに歯槽膿漏持ちとか、「アナタ、まったく売れる気ないでしょw」と突っ込みたくなるほどの清々しさ。
 
「ルサンチマン」を知っているか? 花沢健吾のデビュー作にして最高傑作。陰キャラぼっちの居場所は仮想現実世界(アンリアル)のみ
 
それがいつの間にか、No.1ヒット作の「アイアムアヒーロー」では実写映画すらも大ヒットさせてしまうという。
主人公は一見冴えない陰キャ風を装ってはいるが、実は彼女と同棲中のモテ男。しかも、いずれは一回り年下の女子高生と元看護士の武闘派女性と行動を共にすることになる。
 
え? 何それ?
ただのリア充じゃねえかお前w
片瀬那奈と同棲しつつ、有村架純と長澤まさみと3人で行動するだ?
大泉洋のくせに?
ざっけんなよ、あ?
 
そもそも、本来はイケてない男が勇気を振り絞ってゾンビの世界を生き抜く話だったはずが、実写版ではゾンビをひたすら打ちまくる単なるホラーアクションになってましたからね。
 
作者自身も、作品が売れるにつれて主人公のキャラが本来の自分を反映したものから離れていっているとインタビューで答えている。


恐らく超平和バスターズの面々にとっても同様で、経験を重ねるごとに作品は洗練されてはいくが、スタート時の勢いやがむしゃらさみたいなものは徐々に失われてしまうのだろうと。
 
そして、初期の猪突猛進な部分と経験値を得て洗練された部分のバランスがもっとも取れていたのが今作「心が叫びたがってるんだ。」だったのだと思う。
 

今作のテーマは「言葉」。何気ないひと言、心ない言葉で人は簡単に傷つく。その後の人生が狂う危険も伴うほどに

今作のテーマは間違いなく「言葉」。
 
幼いころに父親の心ないひと言でショックを受け、自ら言葉を発せなくなった少女・成瀬順。
高校2年生となった順は相変わらず口が聞けないままだが、地域ふれあい交流会の実行委員に任命されたことで一念発起。他のメンバーやクラスメートの思いやりに助けられ、徐々にだが自己主張をするようになっていく。
 
中でも同じ実行委員の坂上拓実は順が内側に豊かな感性を秘めていることにいち早く気づいた人物でもある。
当の順も坂上の優しさに触れることで少しずつ心を開き、幼いころのトラウマを歌として吐き出すことで殻に閉じこもった自分を変えようと努力する。
 
また、野球部のエースとして君臨していたが、肘の怪我によって居場所を失いお山の大将的なプライドだけが残ってしまった田崎大樹、中学時代に坂上と付き合っていたものの、お互い純情過ぎて素直になれなかったことを今でも引きずっている仁藤菜月。
同じく仁藤のことを思い続ける坂上を含め、それぞれに問題を抱えた4人が地域ふれあい交流会を通して少しずつ成長していく青春物語。
 
改めて振り返ると、ストーリー的にはごく普通の流れ。
なのだが、今作はとにかく“言葉”による舞台転換が山ほど出てくるのである。
 
劇場版「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」感想。蛇足でもあり感動再び! でもある。観る人、観るタイミングによって評価がまったく異なる作品じゃないか?
 

成瀬順「歌なら痛くないんです」

坂上の「歌なら呪いも関係なくなるのでは?」との提案を受けた順が(携帯で)答えた言葉。
これがきっかけとなり、2人は地域ふれあい交流会(ふれ交)でミュージカルをやることを決心する。
 

田崎大樹「喋れねえ女がいて、それで歌とかミュージカルとか謎過ぎるだろ」

ふれ交でミュージカルをやりたいと言った坂上に対し、田崎が半笑いでぶつけた言葉。
このひと言で順はビクっと身体を震わせ、そしてうつむいてしまう。
 

成瀬順「いい加減にしろ!! 消えろとか、そう簡単に言うな! 言葉は傷つけるんだから!」

喫茶店で野球部の後輩と田崎が揉める様子に激怒した順が大声を張り上げて発した言葉。
彼らの姿に幼いころの自分がフラッシュバックし、心ない言葉がどれだけ取り返しのつかない事態を招くかを心の底から叫んだシーンである。
 

田崎大樹「成瀬! この前はひどいこと言って悪かった。それで、よければお前らのやろうとしてるやつ、俺にも手伝わせてくれ!」

順に言った言葉を反省した田崎が頭を下げ、実行委員の仕事を一緒にやらせてくれと頼む。
これに対し、順は笑顔(と携帯の文字)で田崎を許す。
 

玉子の妖精「喋るなって言うのは言葉だけじゃないんだ。君は心がお喋りなんだ」

坂上と仁藤の話を偶然立ち聞きし、打ちひしがれる順に追い打ちをかけるように玉子の妖精がかけた言葉。
順の本質を突くとともに、彼女がふれ交の本番をバックれる直接の要因となったひと言でもある。
 

坂上拓実「俺を傷つけていいよ。傷ついていいから、お前の言葉、もっと聞きたいんだ成瀬」

山の上のお城(ラブホテル)の跡地で順を見つけた坂上が順を奮い立たせるために発した言葉。
順が言いたいことを全部言ったことで吹っ切れたと同時に、坂上自身も殻に閉じこもっていた自分と向き合うことができる。
 

城嶋一基「ミュージカルには、奇跡が付きものだろ」

バックレていた順が帰還し、本番中にヒロインが2人になってしまったときのしまっちょの言葉。
こういう予定調和にない奇跡が起きるのがミュージカルのいいところであるとともに、一度しかない青春の重要な瞬間を感じさせてくれるひと言でもある。
 
 
父親の「全部お前のせい」という言葉からの田崎大樹の「喋れねえ女」。また、“私の王子様”である坂上に好きな人がいると知った順に玉子の妖精が言い放った「君は心がお喋りなんだ」という言葉。
 
これらを見てもわかるように、言葉というのは本当に簡単に人を傷つけることができる。傷つけるだけならいいが、今作のように一人の少女の人生すらも狂わせかねない。
 
これ、僕にも経験があって、幼い頃に近親者に言われた何気ないひと言に深く傷いた記憶は今でも鮮明に残っている。
順ほど精神を拗らせたわけではないが、少なくとも人間の心は思った以上にデリケートだというのを忘れてはならない。
 
それこそラブホテル跡で坂上がやったように「自分を罵倒していいから今思っていることを吐き出せ」と命令するくらいのショック療法が必要になることすらも……。
 
今作はタイトルこそ「心が叫びたがってるんだ。」ではあるが、実際には幼少期のトラウマでふさぎ込んだ心を放出する場所を探し出し、思っていることを言葉にする方法を見つけるための物語と言えるのかもしれない。
 
違うかもしれない。
 
 
てか、刺さるよなぁ……。
「消えろとか、そう簡単に言うな! 言葉は傷つけるんだから!」ってのはマジでその通り。
 
ああいう言葉で傷ついた心は、しまっちょの「ミュージカルには、奇跡が付きものだろ」なんていうスカしたセリフじゃまったく追いつかねえんだわw
 
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大人をとことん嫌なヤツに設定したのはうまかったよね。順の父親と母親を根本原因とすることで主人公チームへの感情移入をうながす

そして、僕が今作を「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」と比べて大衆的だと感じた理由が、大人をとことん嫌なヤツにしたこと。
 
申し上げたように今作の主人公・成瀬順は父親の「全部お前のせい」という言葉に傷つき、それ以降うまく言葉を発することができなくなってしまった。と同時に、世間体ばかり気にする母親にも原因があることは火を見るよりも明らかである。
 
保険外交員として働く母親は職場や訪問先では順のことを快活で明るい素直な娘と吹聴している。
 
また、順が腹痛を起こして救急車で運ばれた際にも
「こんなことでみっともない」
「腹痛くらいで恥ずかしい」
「喋れない娘って何?」
「私に嫌がらせしてるの?」
などとクラスメートの前で娘を罵倒する。
 
娘の健康よりも最初に世間体を気にかけるええかっこしいでプライドの高い人間。
母親の言葉に涙を浮かべる順の様子から、この2人は父親が家を出てからずーっとこういう関係できていることがうかがえる。
 
つまり、順の両親を徹底的に嫌なヤツに仕立て上げ、実行委員会のメンバーやクラスメートたちの優しさを強調する。坂上や田崎、仁藤もそれぞれ一癖も二癖もあるキャラクターだが、少なくとも順と敵対しているわけではない。
 
仮想敵というか、玉子の妖精誕生の根本原因を作った存在をはっきりさせることにより、実行委員会のメンバーが結束を強めるたびに物語に感情移入がしやすくなる流れ。
 
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一方を上げるために他方を下げるやり方はスタンダードではあるがその分効果も大きい。それだけ多くの観客の心を掴みやすいということを意味する。
 
玉子の妖精役の田崎が劇中で口が聞けなくなった主人公を罵倒する場面、順の母親が「そんなつもりじゃ…」などと言いながら舞台から目を背けるシーンがあったが、あそこでほんの少しだけ「ざまあみろ」と思ってしまったことは内緒である。
 
「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」のめんまの母親なんて、完全におかしな方向で闇落ちしてましたからね。ああいう「同意はできないけど、気持ちはわかる」タイプのキャラだと、主人公側への感情移入もいまいち進まないわけで。
 
 
 
突然みんなの前で歌い出す順を直視できなかったり、スカした教師がいちいちウザかったりと「ん?」と思うところも散見されたものの、それらを補って余りあるほどの良質な作品。
個人的には5点満点中4〜4.5点くらいの満足度と言ってもいいかなと。
 
 
まあ、坂上拓実のセリフ量の多さはだいぶ気になったけど。
 
だってアイツ、自分と順の言葉、常に2人分喋らされてるからねww
そりゃあ嫌でも名言マシーンと化しますわ。
 
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