アニメ映画「空の青さを知る人よ」感想。それでも将来、お前になってもいいかもしんねえって、思わせてくれよ! 今の俺はあの頃の自分に胸を張れんのか? ダサいヤツになってないか?

アニメ映画「空の青さを知る人よ」感想。それでも将来、お前になってもいいかもしんねえって、思わせてくれよ! 今の俺はあの頃の自分に胸を張れんのか? ダサいヤツになってないか?

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アニメ映画「空の青さを知る人よ」を観た。
 
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「空の青さを知る人よ」(2019年)
 
埼玉県秩父市に住む高校2年生の相生あおいは市役所で働く姉あかねと2人暮らし。両親は13年前に交通事故で他界し、それ以来あかねが母親代わりとなってあおいの面倒を見てきた。
 
あおいは自分のせいでやりたいことを我慢してきたあかねに引け目を感じており、高校卒業後は東京に出てバンド活動をすると決めている。
 
 
そんな中、あかねの同僚で幼馴染でもある中村正道の提案で、大物演歌歌手・新渡戸団吉の音楽祭を開く計画が持ち上がる。
そして、あかねに気のある正道は「ヘルプ」と称して別部署から強引にあかねを音楽祭の実行委員に加えてしまうのだった。
 
 
一方、あおいはいつも通り近所のお堂でベースの練習をしていると、突然横から「うるさ~い!!」と大きな声がする。
驚いたあおいが声のした方を見ると、そこには何と“しんの”の姿が。
 
“しんの”は姉あかねの高校時代の交際相手で、東京でバンドを組むという夢をかなえるために高校卒業とともに街を出た男。小学生時代のあおいも、あかねとともにこのお堂で彼の練習を眺めていた思い出がある。
 
はずだったのだが……。
そこにいるのはどう見ても高校生の“しんの”。彼は13年前の姿のまま、なぜかあおいの前に現れたのである。
 
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「君の名は。」以降、タイムリープものが一気に増えたよね。ヒット作が生まれてフォーマットができるとしばらく似た系統が続く

長井龍雪・岡田麿里・田中将賀の3人によるアニメーション制作チーム「超平和バスターズ」原作で2019年に公開されたアニメ映画「空の青さを知る人よ」。
 
先日、同じ超平和バスターズ制作の「劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」を観た流れでこちらも視聴してみた次第である。
 
劇場版「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」感想。蛇足でもあり感動再び! でもある。観る人、観るタイミングによって評価がまったく異なる作品じゃないか?
 
この作品については、確か「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」を観に行った際に上映前のCMで流れていた記憶がある。
 
そのときに思ったのが「タイムリープものってホントに増えたよな」
 
他にも何本かアニメ映画が紹介されていたと思うが、僕の記憶が正しければ半分以上がタイムリープもの。過去から○○がよみがえったり、時間を××したり。
 
2016年の「君の名は。」の大ヒット以降、「アニメは時間軸をいじっとけばええんやろ?」「人生やり直しさせときゃ満足なんやろ?」的な作品が量産された気がする。


2012年の「ソードアート・オンライン」あたりから異世界転生系のアニメが増えたように、ヒット作が生まれると似たような系譜の作品がしばらく続くというのは確実にある。
 
「フォーマットに沿った作品&有名芸能人を声優に起用」の二つを満たせばとりあえず大コケはない。大ヒットとまではいかなくとも、そこそこのポテンヒットは狙える安心感があるのだと思う。
 
だが、さすがに上映予定作品の半分以上がタイムリープものってのはどうなのよ?
ちょっと安直過ぎやしませんかね?
 
そのときは本編の上映前にもかかわらず、だいぶげんなりさせられた覚えがある。映画自体もかな~り残念だったしね。
 
アニメ映画「心が叫びたがってるんだ。」感想。秩父三部作? とやらの中では一番好きかな。尖り方と洗練さのバランスがちょうどよかった
 

感想は「かなりよかった」。日常の風景に異世界からの産物を自然に溶け込ませて親近感を生み出した作品

例によって前置きが長くなったが、そろそろ作品の感想を。
かなりよかった。
 
ああ、なるほど。これはいいですね。
いろいろなレビューサイトで高評価が多いのもわかる気がする。
 
 
基本は「君の名は。」のヒットを受けたタイムリープものだが、日常の風景とうまく結びつけたという意味では今作の方が上。
「君の名は。」は完全に別世界の出来事として受け止めたが、今作「空の青さを知る人よ」には「ひょっとしたら明日にでも“しんの”が目の前に現れるかも?」と思わせる距離感がある。
 
映画「君の名は。」感想。こんなん好きなんやろ? お前らって言われてる気がした。めちゃくちゃよかった。基本的には
 
ごく普通の日常に少しだけ異物? を組み込んで世界を広げるやり方は先日の「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」にも通ずる。
恐らく、超平和バスターズはこういう親しみやすさを作品全体に生み出すのが得意なチームなのだろうと。
 

過去の自分と向き合うのって辛いよね。特に30歳前後なんて、周りの目も気になり出す時期だし

そして、今作の最大のキモとなる「過去の自分との向き合う」旨の描写。
 
世間知らずでバカだが夢に向かって猪突猛進、性格もまっすぐな高校生の“しんの”と、世の中の厳しさに叩きのめされ、理想と現実のギャップに苦しむやさぐれた31歳の慎之介。
 
演歌歌手のバックバンドとなった慎之介がしぶしぶ帰郷すると同時にお堂の中に高校時代の“しんの”が現れるのだが、確かにアレはキツい。
 
 
無限の可能性があると信じて疑わなかった少年が世間の荒波に揉まれ、いつの間にか「世の中そんなもんだ」と達観するようになる。
 
最初から挑戦せずに無難な道を選んだ者、“しんの”のように夢に挑んだ上で厳しさを思い知らされた者。またはその中間くらいでほどほどに夢をかなえつつ、日々をつつがなく過ごしている者。
 
それぞれに違いはあれど、高校時代の自分を一生貫き通すなどほぼ不可能。どんな人間でも多かれ少なかれ現実との折り合いをつけ、ある程度の諦めとジレンマを抱えながら生きていくことになる。
 
特に30歳前後という年齢は、よくも悪くも今後の身の振り方を考えなくてはならない時期。周りの目も気になり出す頃でもあり、“自分が特別ではない”と気づかされた現状にあーだこーだと理由づけをしたくなる心境はめちゃくちゃ理解できる。
 
「世の中こーいうもん」
「だって、仕方ねえだろ」
「ガキにはわからない大人の世界があるんだよ」
 
ドラゴンクエストユア・ストーリー感想。気になる人は絶対に観るべき。間違いなくドラクエ5がやりたくなる
 

31歳の慎之介はそこまでカッコ悪くない。でも、強制的に過去の自分と向き合う機会を作るのは悪いことじゃない

実際、31歳の慎之介はそこまでカッコ悪い大人ではなかったと思う。
 
音楽で飯を食うという夢を現実のものとして地元に凱旋しているし、女子高生に憧れられる程度には見た目も悪くない。かといって女遊びが激しいわけでもない。
望まぬ帰郷、同級生との気まずい再会で悪酔いはしたが、長年の鬱屈があればあのくらいは許容範囲。
 
女子高生のベースに嫌味を言うなど多少屈折してはいるが、少なくとも“世の中のカッコいい大人ランキング”があるとすれば上の下くらいにはつけている気がする。
知らんけど。
 
だが、自分はビッグになると信じて疑わない高校生の“しんの”にとって、うだつの上がらない現状にあれこれと理由づけする大人がカッコいいと思えるはずもなく。特にそれが将来の自分の姿だと言われて耐えられるわけがない。
 
逆に31歳の慎之介にとっても、過去の自分と対峙させられるのはあまりに残酷。
自分が変わってしまったことには少なからず気づいているが、それはあくまで思い出の中にある自分像。目の前に本物が現れ、「今のお前はダサい」などとはっきり言われるのはキツい。どう考えてもキツい。
 
「それでも将来、お前になってもいいかもしんねえって、思わせてくれよ!」
いや、うるせえよww
 
わかってんだよ。今の自分がダサいことくらい、お前に言われなくても重々承知してんだよ。
 
だけど、どうしようもねえことだってあるんだよ。
自分だけじゃどうにもならないくらい、強大な力に押し潰されそうになってんだよ。
 
そこを何とかギリギリで持ちこたえてるのに、わざわざ傷口を抉るようなことを言うんじゃねえよww
 
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まあでも、慎之介のように自分と向き合う機会を強制的に作ることも間違いとまでは言えない。
 
今の俺はあの頃の自分に胸を張れるのか?
ダサいヤツになってないか?
 
目を背け続けてきた部分、抱えていたモヤモヤを解消する意味でも、過去の自分から罵倒されるというのも決して悪いことではない。
 
頭で考える前に心で感じるというか。
そういう熱さは年齢を重ねてもなくしたくない部分だよね。みたいな。
 
めっちゃ傷つくけどww
 

満足度の高い作品だが、不満な点はいくつかある。突然空を飛ぶっていうのはさすがに…

概ね満足度の高い「空の青さを知る人よ」だが、それでも気になった点はいくつかある。
 
まず一つ目として、あおいが“しんの”に惚れるの早くねえか? 問題。
13年前の“しんの”とあおいがお堂でやり取りを繰り返すうちにあおいが“しんの”に惚れてしまうわけだが、そこまでの展開が少々早過ぎる気がしないでもない。
 
慎之介が秩父に来ると同時に高校生の“しんの”が現れて数日。恐らくあおいと“しんの”は都合数回しか会っていないはずで、その間に初恋と呼べるほどの強い思いが芽生えるのは若干リアリティに欠ける。
幼いころからのつながりもあったのかもしれないが、僕の中ではかなりの唐突感を覚えた次第である。
 
 
二つ目としては、突然空を飛んじゃうのってアリ? 問題。
あかねが土砂崩れに巻き込まれたことを知った“しんの”が強引にお堂から飛び出し、あおいを抱えて空を飛ぶシーン。あそこは今作における山場とも言える部分なのだが、正直アレはやり過ぎだった。
 
相生あおい(あいおいあおい)という名前や「井の中の蛙大海を知らず、されど空の青さを知る」のことわざでもわかるように、あの場面で自分の住む街の空がこんなに青いと気づくことには大きな意味がある。
 
ギターの弦が切れてお堂に封印された“しんの”が解放され、空を飛んであかねを助けに行く。
13年前にあかねに振られた日から止まったままだった慎之介の時間が動き出したことを表現したかったのだと思うが、いや、さすがに空を飛ぶのはどうなのよ? と。
 
それまでは特に現実離れした描写はなく、高校生の“しんの”に特別な力があるようにも見えない。最初に申し上げたように、普通の日常に少しだけ異物を紛れ込ませることで親しみやすさを演出することに成功していた。
 
それがまさかの舞空術?
せっかく丁寧な描写でいい雰囲気を出していたのに。
唐突にドラゴンボール化して力技で解決しちゃうんすか?
 
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そして最後、あかね役の吉岡里帆が微妙過ぎ問題。
何度か申し上げているように僕は芸能人を主要キャラクターの声優に起用することに否定的な人間ではない。(僕の中での)最低限の基準を超えていればOKで、知名度重視の起用だろうがどうでもいい。
 
だが、今作での吉岡里帆は残念ながらその基準をほんの少し下回っていた。
 
“しんの”と慎之介を演じた吉沢亮や相生あおい役の若山詩音を始め、今作のキャラクターはどれも違和感なく受け入れられた。
だがその分、吉岡里帆演じるあかねだけが微妙に浮いていたのも事実。特に相手役の吉沢亮が文句なしに素晴らしかったせいで、吉岡里帆の平坦さが際立ってしまったというか。
 
「鉄コン筋クリート」のようなザラっとした作風であれば、声優の未熟さも悪くない。むしろああいう平坦さが逆にハマったりもするのだが、今作は間違いなくそういう作品ではない。
声優が原因であかねに感情移入しきれなかったのは、僕にとってはかなりのマイナスポイントだった。
 
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下手ではないと思うんですけどね。でも、そこに「芸能人にしては」という注意書きがついちゃうのが痛いですよね……。
 
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