露骨にグラつくアミール・カーンの姿にキャリアの終焉を感じた。でも、やっぱりカーンの試合はおもしれえ。ケル・ブルックの作戦がどハマり【結果・感想】

露骨にグラつくアミール・カーンの姿にキャリアの終焉を感じた。でも、やっぱりカーンの試合はおもしれえ。ケル・ブルックの作戦がどハマり【結果・感想】

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2022年2月19日(日本時間20日)、英・マンチェスターで行われた149ポンド契約12回戦。元IBF世界ウェルター級王者ケル・ブルックと元WBAスーパー/IBF世界S・ライト級王者アミール・カーンが対戦し、6R51秒TKOでブルックが勝利。長年待望され続けたライバル対決を制した一戦である。
 
 
この日はロシアで元3階級制覇王者ホルヘ・リナレスがザウル・アブドゥラエフを相手に再起戦に臨んだわけだが、英国でもケル・ブルックvsアミール・カーンという注目試合が開催されている。
 
リナレス負けとるやん。アブドゥラエフになら普通に勝つと思ったけどな。足が動いてなかったし反応も悪い? 圧迫感のある会場だったのも
 
と言いつつ僕は例によって試合の存在をコロッと忘れていた。で、翌日結果を知った状態で視聴した次第である。
 
 
感想としては、さすがは英国の人気者同士だなと。
 
長年ライバル同士と言われながらも対戦が実現せず、両者が35歳を迎えたところでようやく決まった一戦。それこそ2015年5月のフロイド・メイウェザーvsマニー・パッキャオ戦以上の今さら感だったと思うが、そんなことは関係ない。あの会場の熱狂を見せられれば「やっぱりすげえなコイツら」としか言いようがない。
 
僕自身、この試合に関しては引退前のひと儲けマッチとしか捉えていなかったが、終わってみれば結局大成功でしたというのが何とも腹立たしい笑
 

ダッシュ力と超絶ハンドスピードのアミール・カーン。攻略するには距離を詰めて糞詰まりを起こさせるのが手っ取り早い

ケル・ブルックvsアミール・カーン。
 
英国のスター同士。長年“戦わざるライバル”と言われ続けた両者がついにリング上で対峙した一戦である。
 
結果は6R51秒TKOでケル・ブルックが勝利。
序盤から優勢に試合を進めたブルックの快勝と言っていい。
 
内容的にはまあ、順当だったというか。ブルックが「カーンを攻略するにはこれだよね」という勝ち方を見せてくれた。
 
 
 
アミール・カーンの持ち味は何と言ってもダッシュ力と超絶ハンドスピード。
 
遠い間合いから一足飛びで距離を詰め、パパパッと連打を浴びせてサッと離れる。
一瞬でゼロ距離に入るダッシュ力と相手に反撃の隙を与えないスピーディな連打は全階級随一。ライト級時代のカーンは単純なスピードだけなら歴代No.1と言っても過言ではないかもしれない。
 
だが、その反面攻撃パターンはあまり多いとは言えず。
基本的には真正面から飛び込んで連打を打ち込むだけなので、ラウンドを重ねるごとに相手に慣れられるケースが多い。
 
ウェルター級進出以降はサイドへの動きを入れるなどの工夫が見られたものの、何だかんだでスピード頼りの脳筋ファイトから脱却できない(する気もない)ままここまできてしまった。
 
ケル・ブルックvsゲンナジー・ゴロフキン再視聴。ブルックがかなりやれてた。フルボッコにされた印象だったけど。僕はいまだにブルックがウェルター級最強(当時)だったと思ってる
 
申し上げたようにアミール・カーンの攻撃パターンは「遠間から踏み込む→連打を浴びせてサッと離れる」というものが中心。
持ち前のダッシュ力を発揮するには当然ある程度のスペースが必要になる。
 
なので、それを出させないためには自ら距離を詰めて糞詰まりを起こさせるのが手っ取り早い。
 
カーンの動き出しよりワンテンポ早く踏み込み、強引に身体を寄せて連打の発動を抑え込む。
接近戦ではあまりやれることがないカーンは必然的に距離を取ろうとするわけだが、そこで逃してはいけない。さらに前に出てプレッシャーをかけることで心身ともに疲弊させるのが有効。
 

ケル・ブルックがカーン対策を忠実に実行。ジャブで出足を寸断、カウンターをチラつかせてプレッシャーをかけて強引にねじ伏せる

今回のケル・ブルックは上述のカーン対策を忠実に実行していた(と思う)。
 
序盤こそカーンのスピードに戸惑いを見せたものの、3Rにはしっかりと対応。ノーモーションのジャブを駆使してそのつど出足を寸断していく。
 
カウンターをチラつかせながらじりじりと追い詰め、カーンを射程に捉えたところで強引な連打につなぐ。
 
この圧力でスペースを潰されたカーンは4Rあたりで完全に万策尽きた印象。横に動いて正面を外す以外にできることがなくなり、いつの間にかコーナーを背負わされて連打を浴びる流れ。
 
キャリアで6敗を喫しているアミール・カーンだが、ここまでわかりやすく攻略された試合は初めてだったのではないか。
 

カーンの露骨な効かされ方にキャリアの終焉を感じた。足の動きがだいぶ落ちてたしね

下記の記事によると、敗れたアミール・カーンは試合後の会見で引退を示唆したとのこと。


正直、これは悪くない判断かもしれない。
 
キャリアで喫した6敗のうち5度がKO負け。
もともと“ガラスの顎”と呼ばれるなどあまり打たれ強い選手ではなかったが、この試合での効かされ方を見せられると……。
 
初回のジャブ1発で両足をガクガクさせるシーンもそうだが、とにかく効き方が露骨すぎる
 
ガードの外側から側頭部をかすめたフックでガックガク。
遠い位置からノーモーションの左を顎に被弾してガックガク。
ダッキングが間に合わずにかすった1発でガックガク。
 
2019年4月のテレンス・クロフォード戦での1Rもそう。
「え? 今のでそれ?」と思うような効かされ方で空中で動きを止めるパターンがかなり増えた気がする。
 
ド派手な倒され方が印象的なアミール・カーンだが、割と深刻なレベルでダメージの蓄積があるのかもしれない。
 
 
と同時に、足の動きもだいぶ落ちているのも厳しい。
2016年5月のカネロ戦以降、2018年4月の復帰戦あたりから「おや?」と思うことが多くなっていたが、実際全力で動ける時間はどんどん短くなっているように思う。
 
ケル・ブルックの作戦がどハマりしたのはもちろんだが、スピード頼りの脳筋ファイトに限界がきていることも確かなのだろうと。
 
クロフォードvsポーター感想。クロフォードはカッコよくカウンターで倒したかったんだろな。ポーターの凄まじい方向転換に苦労
 

改めて魅力的な選手だったカーン。見栄えのいいファイトスタイルと冗談みたいな打たれ弱さ。一桁違う華やかさに目を奪われる

なお、アミール・カーンという選手は改めて魅力的だった(引退が決まったわけじゃないけど)。
 
階級屈指のハンドスピードとワンパターンな脳筋ファイトはド派手ですこぶる見栄えがいい。
相手を置いてきぼりにするスピードに顔面偏差値の高さが上乗せされたスタイル。アミール・カーンの試合にハズレなしというか、問答無用で惹きつけられる華やかさがある。
 
 
そして、負け方にも華があるのがこの選手の特徴。
2012年7月のダニー・ガルシア戦、2016年6月のカネロ戦での倒されっぷりはボクシング史に残るほどのインパクトだったし、それ以外にも「うっそだろお前!!」と叫んでしまう効かされ方を何度も目の当たりにした。
 
今回のケル・ブルック戦も調子自体はよかったと思うが、初回にジャブ1発で膝を揺らされたことであっという間に流れが変わった。
それまでの積み重ねがたった1発でパーになるのは格闘技の醍醐味だが、アミール・カーンはまさにそれを体現し続けた選手だと思う。
 
 
以前「倒し方だけでなく、倒され方にも華があってこそのスター性」と題して“華のある選手5選”をランキング形式で発表してみたが、何だかんだでアミール・カーンの華やかさは格が違う。
 
目を奪われる魅力、華のある選手5選。倒し方だけでなく、倒され方にも華があってこそのスター性。PFPとは別次元のランキング遊び
 
ダメージの蓄積具合から明確な“終わり”を感じるとともに、「やっぱりカーンの試合はおもしれえ」と再認識させられる6Rだった。
 
 
いや、ネタとかではなく本当にすごいんですよねアミール・カーン。
先日「プエルトリコ出身の選手は華のある選手が多い」「ド派手なファイトスタイルと打たれ弱さが化学反応を起こして我々オーディエンスを虜にする」などと申し上げたが、アミール・カーンの華やかさに比べれば彼らは単なるハリボテでしかない()
 
第2のファンマを探す旅。俺たちのプエルトリコ期待の5人。彼らの散り際の美学は瞬間芸術と言っても過言ではない()
 
いいから黙ってカーンさんの靴の裏でも舐めておけという話である(違
 
 
ちなみに僕の中でのアミール・カーンのベストバウトは2014年12月のデボン・アレキサンダー戦です。
 
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