落日のファーガソン。ゲイジーのカウンターに血まみれレフェリーストップ。今回がヌルマゴとのラストチャンスだったんだろうな【UFC249感想】
2020年5月9日(日本時間10日)、米・フロリダ州で行われたUFC249。ライト級ランキング1位のトニー・ファーガソンと4位のジャスティン・ゲイジーがメインイベントで対戦し、5R3分39秒TKOでゲイジーが勝利。ライト級暫定世界王座を獲得した一戦である。
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて無観客試合で開催された今大会。
メインイベントへの出場を予定していたライト級王者ハビブ・ヌルマゴメドフが国境封鎖によりロシアから出国できず。急遽ピンチヒッターとして現在3連勝中のジャスティン・ゲイジーが起用され、ランキング1位のトニー・ファーガソンとの暫定王座決定戦が行われている。
開始直後から長いリーチを活かしたトリッキーな動きで攻撃を仕掛けるファーガソンに対し、どっしりと構えてカウンターを狙うゲイジー。
スイッチを繰り返しながらローキック、ストレートと多彩な攻撃を見せるファーガソンだが、ゲイジーはまったく惑わされない。
動じることなく打ち終わりに的確なカウンターをヒットし、徐々にファーガソンの攻撃の手札を奪っていく。また2R以降は積極的にローキックを駆使してファーガソンの前進を寸断する。
上下左右に攻撃を散らし、何とか突破口を見出そうとするファーガソン。
だが、ゲイジーはフェイントに惑わされることなく鋭いカウンターで迎撃し、たびたびファーガソンをグラつかせる。
ラウンドが進むにつれてファーガソンの顔面は鮮血に染まり、打ち終わりに踏ん張りも効かなくなる。
対するゲイジーは絶対的有利な状況でも慎重さを崩さず。ファーガソンが大きくグラついても深追いせず、とことん勝ちに徹したファイトで圧倒し続ける。
最後はファーガソンがパンチを受けて大きくバランスを崩したところでたまらずフェリーが試合をストップ。ジャスティン・ゲイジーの暫定王座戴冠が決定した。
※画像に深い意味はありません。2人ともUFCとはいっさい関係ないおっさんです。
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無観客開催のUFC249。メインのファーガソンvsゲイジー戦が予想以上のワンサイドゲームだった
新型コロナウイルス感染拡大によって世界中でライブイベントの延期・中止が決定する中、批判を浴びながらも開催されたUFC249。無観客で行われるということで僕もかなり興味があり、当日はWOWOWで視聴した次第である。
そしてメインのトニー・ファーガソンvsジャスティン・ゲイジー戦を改めて観たところ、ゲイジーとんでもねえなと。
僕はジャスティン・ゲイジーという選手をよく知らず、試合をちゃんと観たのも今回が初めて。レスリングベースの選手で現在UFC3連勝中という以外にはほぼ知識ゼロだったのだが、マジな話、めちゃくちゃ強くねえっすか?
相手のトニー・ファーガソンは2013年から連勝中で、2014年5月には日本の菊野克紀をまったく問題にせずにKOしている。UFCに詳しくない僕でも名前を知っているくらい高い知名度を誇る選手である。
また、現ライト級王者ヌルマゴメドフとは長年対戦が待望され、そのたびにどちらかの負傷や病気等で流れ続けた歴史がある。
5回目の正直と言われた今回もまさかのパンデミックにより中止。もはやこの両者は交わらない運命としか思えないようなすれ違いっぷりである。
ただ、ファーガソンの試合は普通におもしろいので楽しみにしていたのだが……。
予想以上にゲイジーのワンサイドゲームだった。
ヌルマゴの精密機械をぶっ壊せるのはファーガソンの熱量しかない? 至高の一戦をゲイジーが更地に変えた
ファーガソンはトリッキーかつ流れるような動きで相手を幻惑しながら打撃を当て、隙を見て足関節に持ち込むファイトを得意とする。
長い手足を活かしたフェイントとスイッチを繰り返しながらのプレッシャーが特徴的で、なおかつ被弾をものともせずに前進を続ける積極性が持ち味。
一つ一つのモーションが大きくカウンターをもらうことも多いが、どれだけ芯で食ってもリカバリーできる打たれ強さも持ち合わせる。
どんな状況でも心の揺れを見せず、淡々と“任務を遂行”する冷徹タイプのヌルマゴメドフとは真逆のファイトスタイル。血まみれの顔面に笑顔を浮かべながら腕を振り続ける狂気こそがこの選手の魅力と言える。
人間的な温もりをいっさい感じさせないヌルマゴに対し、自らの狂気でどんどん乗せられていくファーガソン。
どちらもネジが1本すっ飛んだ“狂人”には違いないが、ヌルマゴの精密機械を狂わせる可能性があるとすればこの熱量かも? と思わせるものがファーガソンにはある。
そういう意味でもヌルマゴvsファーガソンは至高の一戦だったのだが、今回のゲイジーはそういった妄想をすべて更地に変えてしまった。
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ローキックとカウンターでファーガソンを手詰まりに。これは相当強いんじゃないの?
この試合でゲイジーが実行したのはカウンターでファーガソンを手詰まりにする作戦。
ある程度の距離を保って対峙し、ファーガソンの動きをじっくり見る。
相手に先に攻撃させ、トリッキーな動きに惑わされずに初弾にカウンターを合わせる。
また、スペースのある位置ではローキックの連打でファーガソンの出足を鈍らせる。
申し上げたようにファーガソンは一つ一つの動作が大きく打ち終わりに隙ができやすい。スイッチやフェイントにつられず1発目を防げれば、コンパクトなカウンターで内側から打ち抜くチャンスはおのずと訪れる。
この選手は“やりすぎゲイジー”などと呼ばれるアグレッシブなファイトが人気らしいが、今回に関してはまったくそんな印象はなく。
じっくりファーガソンの動きを観察し、確実にカウンターを当てて攻撃を寸断。ローキックでしっかりと出足を挫くことも忘れない。
1発当てても攻め急がず、極力後の先を取る作戦でファーガソンの攻め手をじわじわ奪っていく作戦はお見事としか言いようがなかった。
その上、フルスイング後もほとんどバランスを崩さないフィジカルもある。もともとレスリングがベースとのことだが、これだけの打撃センスと強靭なフィジカルを両立できる選手はかなり希少価値が高いのではないか。
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申し上げたようにジャスティン・ゲイジーの試合を観たのは今回が初めてなのだが、マジで強い(と思う)。
打倒ヌルマゴメドフの可能性があるのかどうか、対戦が噂されるコナー・マクレガーとはどうなのか。その辺はまったくわからないが、ファーガソンをここまで圧倒した実力は文句なしと断言してもよさそう。
てか、手も足も出ずに負けたマクレガーよりははるかに打倒ヌルマゴメドフを果たせそうな気はするけどね。
落日のエル・ククイ。すべての条件がファーガソンに不利で、vsヌルマゴのラストチャンスも夢と消えた
なお2012年5月以来の敗戦を喫したトニー・ファーガソンについては何とも言いようがない。
ヌルマゴとの頂上決戦が決定しては流れ、今回ようやく対戦を迎えられる予定だったのに。
ファーガソンの前戦が2019年6月なので、この試合までのインターバルは約1年。少なくとも半年以上はヌルマゴ対策をしていたはずで、それが寸前で立ち消えた喪失感は想像を絶するものがある。
しかも急遽決まった相手がまったくタイプの違うジャスティン・ゲイジーという状況。本来なら拒否しても許される試合だったと思うが、何だかんだでファーガソンも36歳である。もともと被弾の多いスタイルなので、本人的にもこれ以上コンディションを維持するのは難しいという判断もあったのではないか。
寸前で相手がまったくスタイルの異なるゲイジーに代わったこと。
年齢的にもコンディションを維持できるギリギリだったこと。
仮にこの試合に勝っても、次戦以降ヌルマゴが出国できる保証がないこと。
試合の流れによってテンションを上げるタイプなのに、無観客開催だったこと。
“落日のエル・ククイ”というか、夢の終わりというか。
すべてにおいてvsヌルマゴを実現するには今回がラストチャンスだった気がする。
UFCにあまり詳しくないのでアレだが、長年トップに君臨してきた選手の黄昏時を目の当たりにするのはやはり切ないものがある。
アデサニヤvsブラホビッチ、ヌネスvsアンダーソン、ヤンvsスターリング。やっぱりUFCおもしれえな。今回は予習したからなおさら
今さらだが、改めて新型コロナウイルスは多くの人間から大切なものを山ほど奪っていった。