マイク・タイソンおすすめ4試合。ボクシングを観ない人に魅力を伝えるにはタイソンの試合を見せておけばいい
実は我が家にはこんなものがありまして。
「ベスト・オブ・マイク・タイソン KOスペシャル」
約10年ほど前に衝動買いしたものである。
新型コロナの影響で多くのスポーツイベントが次々に中止・延期となる現状。バスケのNBAは残りシーズンが全試合中止、イタリアでは全スポーツ大会の中断が決定、日本でもセンバツ高校野球の史上初の中止が発表されるなど、世界中で影響が広がっている。
僕自身も楽しみにしていた現地観戦がすっ飛んだり、テレビや配信等でのスポーツ観戦ができなかったりと、かなり窮屈な毎日が続いている。
特に毎週末に当たり前のように開催されていたボクシングの試合が軒並みなくなるのは痛い。日曜日の夕方に鼻くそをほじりながらボーッとボクシングを観るのがちょうどいいストレス解消となっていたので、その時間を根こそぎ奪われてしまうのはなかなかの事態である。
で、表題の件。
いろいろなことがうまく回らないときは無理に足掻くべきではない。特に今回は自分の力ではどうにもならないので、早々に諦めた方がいい。
こういうときは「レジェンドの試合」を観るに限る。
そんな感じで、10年前に購入したマイク・タイソンのDVDを久し振りに引っ張り出してみた次第である。
今回はその中から「僕のおすすめ4試合」と題して、特に印象に残った試合を独断と偏見でご紹介してみようと思う。
タイソンvsホリフィールド戦を初めて観ました。耳噛みつき事件も観たけど酷いな。スポーツとして破綻しとるやんけ
僕のおすすめその1:タイソンの凶悪コンビネーション炸裂
○マイク・タイソンvsマイケル・ジョンソン×
1985年9月にニュージャージー州で行われたヘビー級6回戦。マイク・タイソンがマイケル・ジョンソンと対戦し、1R39秒KOで勝利した一戦である。
まずはこの試合。
デビュー以来7戦全勝。期待の若手として注目を集めるマイク・タイソンが196cmの長身マイケル・ジョンソンと対戦し、あっさりと初回KO勝利を収めた試合だが……。
この試合の見どころは、何と言ってもタイソンのコンビネーション。
開始のゴングと同時に距離を詰め、上体を振ってジョンソンをロープに詰めるタイソン。そのまま左右ボディの連打を浴びせてあっという間にジョンソンを怯ませ、下から右アッパーを突き上げる。
長身から打ち下ろすジョンソンのフックをダッキングで避け、反動をつけて左ボディ。これでジョンソンはたまらずダウンを喫する。
カウント8で試合再開となったものの、すでにジョンソンの表情には怯えの色が。
そして、再開直後に猛然と襲いかかったタイソンが右のストレートをドカン。
何の小細工もないただのストレートが顔面を捉え、そのままジョンソンがマットにドッサリと崩れ落ちる。
うつ伏せのまま立ち上がれないジョンソンに対し、タイソンは涼しい顔でロープ際をスタスタとコーナーに戻る。
長身選手の打ち下ろしをダッキングで避け、サイドに回り込みながら反動を利用してボディをめり込ませる。
鋭い踏み込みを生み出す下半身を今度は縦に使い、伸び上がるような右で1発KO。笑ってしまうくらいの鮮やかな39秒間である。
正直、相手のレベルがそこまで高くないというのはあるが、タイソンのコンビネーションの凶悪さ、KOのインパクトに関しては屈指の試合と言える。
「ピーカーブースタイル+ナンバーシステム」による超速コンビネーションがタイソンの最大の持ち味と言われているが、正直、そんな豆知識は必要ない。
師匠のカス・ダマトの名前を知らなくても、タイソンのすごさはこの試合を観れば誰の目にも明らかである。
僕のおすすめその2:人間がライナーで吹っ飛ぶ衝撃映像
○マイク・タイソンvsエディ・リチャードソン×
1985年11月にテキサス州で行われたヘビー級8回戦。マイク・タイソンがエディ・リチャードソンと対戦し、1R1分17秒KOで勝利した一戦である。
相手のリチャードソンはこれまた198cmの長身選手で、タイソンがどうやって懐に入るかに注目が集まった試合。
……だったはずなのだが。
長身を活かし、打ち下ろしのジャブを出しながらサイドに動くリチャードソン。
だが、タイソンはまったく気にするそぶりも見せずに身体を振りながら近づき、リチャードソンの左に合わせて一気に飛び込み右ストレート。
この試合、最初のスイングで豪快なダウンを奪う。
カウント8で立ち上がったリチャードソンだが、表情には明らかに余裕がない。レフェリーが試合を再開するとともに、先ほどよりもさらに大きく足を使って距離をとる。
だが、及び腰で出すジャブには体重が乗らず、タイソンの素早い出足から逃げ切ることができない。何とかクリンチで粘るものの、すでに戦意を喪失しているようにすら見える。
そして、リチャードソンがコーナーからサイドに逃げた瞬間、素早く方向転換したタイソンが振り向きざまに左を放つ。このパンチでリチャードソンが2度目のダウンを喫し、レフェリーが試合終了を宣告する。
この試合で何より驚かされたのがリチャードソンの2度目のダウン。
タイソンの強烈な左ですっ飛ばされて仰向けにダウンを喫したわけだが、文字通り“すっ飛んだ”という表現がピッタリの倒れ方。誇張でも何でもなく、人間がライナーですっ飛んだ。
いや、もうこれは笑うしかないww
人の身体がパンチを受けてライナーですっ飛ぶなど、すでに「グラップラー刃牙」の世界。細かい技術云々は僕にはよくわからないが、ただただとんでもない。アトラクションと呼べるほどの凄まじい試合である。
「刃牙(バキ)シリーズベストバウト。名勝負だらけの大人気格闘? マンガ」
僕のおすすめその3:ワンテンポ遅れてダメージが噴き出す
○マイク・タイソンvsマーク・ヤング×
1985年12月にニューヨーク州で行われたヘビー級10回戦。マイク・タイソンがマーク・ヤングと対戦し、1R50秒TKOで勝利した一戦である。
破竹の勢いで連勝街道をひた走るマイク・タイソンが迎えたキャリア15戦目。前戦からわずか11日後という強行スケジュールながら、若さあふれるタイソンにはいっさい関係がなく。今回もあっさりと1RTKOで勝利を飾り、通算1RKOも11度目とした。
ただ、この頃になるとこれまでとは違い、相手のレベルもそれなりに高い(ように見える)。
上述のマイケル・ジョンソンやエディ・リチャードソンはひたすら足を使ってタイソンの接近から逃れようとしたが、今回のヤングは一味違う。自ら前に出てタイソンの豪腕との打ち合いを選択するのである。
身長185cmと、上背のアドバンテージは少ないヤング。
タイソンの強打に対抗するには離れるよりもくっついてカウンターを狙う方が得策だと判断したのだと思うが、恐らくそれは正しい。
タイソンの持ち味は重量級離れしたスピードと連打の正確性、1発の威力だが、それに加えて強靭な足腰というのがある。
高速のウィービングからボディの連打、さらに伸び上がっての1発。
そのすべてが強靭な下半身のバネ、粘りによるもので、これがタイソンの一番の強みとも言える。
タイソンの鋭い踏み込み、伸び上がるような1発から逃れるのは6、7mの四角いリングでは不可能。いくらジャブを出して足を使おうが、バックステップで逃げ切るには限界がある。
それを見越した上で、自ら前に出て接近戦を挑んだヤングの選択は非常に理にかなっていたのではないか。
ローマン・ゴンサレス、マイク・タイソン、内山高志。最強の勝ちパターンさえあれば構成はシンプルでいい。シンプル・イズ・ゴールデンベスト()
そして、内容自体も決して悪くはなかった(と思う)。
タイソンの踏み込みに合わせてパンチを出し、そのまま懐に飛び込むヤング。
スイングの内側に頭をねじ込み、身体を寄せてボディの連打を浴びせてタイソンに腕を振るスペースを与えない。
中間距離では常に同時打ちでカウンターを狙い、近場では頭を下げてロープに押し込む。
あれほどの強打を誇るタイソン相手に、これだけの勇気を見せたヤングは普通にすごかった気がする。
ところがラウンド中盤。
クリンチの離れ際にタイソンが放ったアッパー気味の右がヤングのテンプルをわずかにかすめる。
だが、ヤングは軽快なステップでロープ際に飛び退き、再び態勢を整え……られずにダウン!!
そのままうつ伏せでピクリとも動かず。
その様子を確認したレフェリーが試合をストップする。
いやいやいやいや。
マジかおい。
マ〜ジかおい。
あれで終わっちゃうってあまりに理不尽じゃないっすか?
だって。
それまでは結構いい感じだったじゃん。
軽快な動きでタイソンと打ち合ってたじゃん。
それがあれで終わり?
ホントにあれだけで終わっちゃうの?
本人が打たれたことに気づかないというか、ワンテンポ遅れてダメージが噴き出すパンチ。
完全に格闘マンガの世界である。
僕のおすすめその4:1発のパンチで3度のダウン。世界王者がロボコンパンチ
○マイク・タイソンvsトレバー・バービック×
1986年11月にネバダ州で行われたWBC世界ヘビー級タイトルマッチ。マイク・タイソンが同級王者トレバー・バービックに挑戦し、2R2分35秒TKOで勝利。初の戴冠を果たした一戦である。
ラストはこの試合。
マイク・タイソンがWBC王者トレバー・バービックを2RTKOに下し、初の戴冠を果たすとともに史上最年少(20歳4ヶ月)での世界ヘビー級王者となった一戦。
まあ、この試合はアレだ。
ちょっとレベルに差があったというか、あまりにモノが違いすぎたというか。
とにかくタイソンの凄さばかりが目立った試合だったなと。
まず、この試合でのバービックの作戦は近場の打ち合い。
身長188cm、リーチ198cmという体格差を活かしてタイソンを上から押し潰し、回転力を発揮させない狙い(だったと思う)。
だが、残念ながらタイソンの圧力はバービックの想像をはるかに超えていた。
開始直後からバービックの左リードをものともせず、タイソンは身体を振りながら前に出る。
バービックもタイソンに回転力を発揮させないために手を出しながら身体を寄せるが、再三外側からのフックを浴びてしまう。
ただ、バービックもそこでは粘り強さを見せる。
パンチを受けるたびに一瞬身体が揺れるものの、何食わぬ顔で前進を続け、近場で腕を振る。
ピーカーブーの真下からアッパーをねじ込むなど、研究の成果は随所に見せていた。
タイソンの圧倒的優位ではあるが、バービックも王者の意地をきっちりと見せた1R。客席からの凄まじい歓声とともに両者がコーナーに引き上げる。
だが、2Rに入ると一気に試合が動く。
開始直後の1発目の右を浴び、バービックは大きく身体をのけぞらせる。それを見たタイソンが一気に距離を詰め、左右連打を浴びせてあっという間にダウンを奪う。
すぐに立ち上がり、続行をアピールするバービック。ここでも王者のプライドがはっきりと見える。
とはいえ、すでにバービックに反撃の力は残っておらず。
タイソンのフルスイングを腕を絡めて抑え込むのがやっとで、離れ際にフックがかすめただけでも大きくバランスを崩してしまう。
「伝説のロイ・ジョーンズvsバーナード・ホプキンス感想。初めてちゃんと観たけどクソつまんねえなこの試合w」
そしてラウンド終盤。
そこまでは何とか身体を寄せてタイソンの連打を防いでいたバービックだが、一瞬スペースが空いた瞬間にタイソンが放った左が側頭部をこするようにヒット。すぐに身体を寄せて体重を預けるものの、そこから崩れ落ちるようにダウンを喫する。
何とか立ち上がろうと膝を立てるバービック。だが、再びバランスを崩してもんどりうつようにロープに倒れこむ。ロープを掴んでもう一度立ち上がるが、今度は膝が言うことを聞かずにマットに転がる。
平衡感覚を失った状態でも諦めずに立ち上がろうとするバービックを見たレフェリーが慌てて抱きつき、試合をストップ。
史上最年少の世界ヘビー級王者誕生の瞬間である。
いや、しかし。
何と言うか、意味がわからない。
1発のパンチで三度のダウンを奪うパンチ力もそうだし、現役の世界王者があまりのダメージによって足腰が効かなくなり、ロボコンパンチしか出せない状態に陥るのも意味不明。
絶望的な状況でも最後まで諦めなかったバービックに人間味を感じないこともないが、タイソンのインパクトが強すぎてそれどころではない。何から何までアトラクションのような一戦だった。
初見の人にボクシングの魅力を伝えるには? タイソンの試合を見せればいい
以上でございます。
まあ、僕自身マイク・タイソンの現役時代を知っているわけではないし、レジェンド選手にそこまで詳しいわけでもない。恐らくもっと造詣の深い方からすれば「あの試合がない」「この試合の方がいい」という意見もあるのだと思う。
ただ、それを踏まえた上で。
マイク・タイソンの試合はおもしれえなと。
わかりやすさ。
エキサイティングさ。
動きの多さ。
いわゆる「格闘技観戦の醍醐味」がすべて詰まった選手というヤツ。
たとえば普段ボクシングを観ない人に「ボクシングの魅力を伝えろ」と言われた場合、マイク・タイソンの試合を見せておけばだいたいの問題は解決する。初見の方をボクシングファンにするための要素はすべてタイソンの試合に入っていると言っても過言ではない。
同じような考えで言うとナジーム・ハメドや井上尚弥もそれに当たると思うが、やはりタイソンの単純明快さ、エキサイティングさには及ばない。
正直、全盛期のマイク・タイソンがヘビー級史上最強かどうかは僕にはわからない。
2010年代後半から2m級の動ける選手が台頭し、現在ヘビー級のレベルはどんどん上がっている。特に先日、デオンティ・ワイルダーに勝利したタイソン・フューリーの凄さは群を抜いていて、あの選手にタイソンが勝てるかは甚だ疑問である。
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だが、純粋な強さ以上のエキサイティングさがマイク・タイソンの試合にはある。それこそ「ヘビー級にはキックはいらないよね」と思わせてくれるほど。
今さらだが、マイク・タイソンめちゃくちゃおすすめである。
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