辰吉丈一郎vs薬師寺保栄を観た結果、辰吉の人気の理由が何となくわかった。50歳の誕生日を迎えても目標は「世界王座」

辰吉丈一郎vs薬師寺保栄を観た結果、辰吉の人気の理由が何となくわかった。50歳の誕生日を迎えても目標は「世界王座」

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2020年5月15日、元WBC世界バンタム級王者辰吉丈一郎が50歳の誕生日を迎えた。


記事によると「世界王座をとって引退」の目標は今も変わらず、これまで通り日々の練習も欠かしていないという。
「意地を張っているわけでもなく、自分が好きだからやっているだけ」とのことで、節目の50歳を迎えても目標に向かって走り続けるとコメントしている。
 

久しぶりに辰吉丈一郎vs薬師寺保栄を観てみました。辰吉にあまり興味がないんですけどね

「辰吉丈一郎」
1970年5月15日生まれの右ボクサーファイター。
28戦20勝7敗1分14KOの戦績を持つ元WBC世界バンタム級王者で、“浪速のジョー”の愛称で親しまれた選手である。
 
 
以前にも申し上げた記憶があるが、僕は辰吉丈一郎をあまり知らない。
 
高いカリスマ性とファイトスタイルがファンから絶大な支持を集める反面、言動やリング上での振る舞いに嫌悪感を示す人も多いと聞く。
 
昔ながらのファンがことあるごとにこの選手のすごさを熱く語っている印象で、言葉は悪いが“信者”と呼んでも差し支えないほどの熱量を感じる。
「辰吉は最高だった」
「最強ではないが、間違いなく最高だった」
 
そして、当の僕はこれらの辰吉伝説を聞いてもまったくピンとこない。
1994年12月の薬師寺保栄戦や1997年4月のダニエル・サラゴサ戦、1997年11月のシリモンコン・シンワンチャーなど。節目となる試合は観たことがあるが、いや、そんなに熱烈な支持者になるほどのもんか? と。
 
辰吉丈一郎ファンの方を見下すとかではなく、単純にあまり興味がない。リアルタイムで観ていないせいもあるが、当時の空気感を知る人と感動を共有するのは難しいと思っている。
 
長谷川穂積のことは好きじゃないけど“世界”を見せてくれた選手だった。興味がなくてあまり観てなかったけど
 
そんな感じのクソニワカw な僕だが、いい機会なので1994年12月のWBC世界バンタム級統一戦、辰吉丈一郎vs薬師寺保栄戦を久しぶりに観てみた次第である。
 
 
2020年5月15日発売の「ボクシングマガジン 2020年6月号」も辰吉が表紙になってますね。

 

この試合は薬師寺の完勝だった。序盤から両者の鋭い左が交錯する

まず率直な感想として、この試合は薬師寺の完勝だと思う。
 
試合前に辰吉が散々挑発を繰り返し、勝敗予想も辰吉有利の声が多かったというのは僕も聞いたことがある。
 
長引けば薬師寺が勝つかもしれないが、恐らくそれはない。十中八九決着はKO。序盤〜中盤くらいで辰吉が倒して勝つのではないか。
 
もともと薬師寺は辰吉のスパーリングパートナーを務めたこともあり、その際は辰吉が薬師寺をボテくり回したとか。実績やファイトスタイル等、諸々を加味した上で辰吉勝利の声が大きかったとのこと。
 
 
だが試合が始まると、薬師寺陣営の作戦が凄まじく機能する。
 
ノーガードで軽快に左右に動きながら隙をうかがう辰吉。
開始10秒過ぎに無造作に左を出すのだが、この左がとんでもないキレを見せる。
 
対する薬師寺は顎を引いてガードを高く上げて構える。
リングを大きく旋回する辰吉の正面を外さず、鋭い左リードを返す。
 
低いガードからフリッカー気味で左を打ち込む辰吉と、リング中央でどっしり待ち構え、まっすぐ左を打ち出す薬師寺。
 
それぞれ質は違うが、キレとスピードは両者ともに凄まじい。
お互いの左が交錯するたびに場内から歓声が湧き起こる緊張感たっぷりの立ち上がりである。
 
辰吉寿以輝vs今村和寛感想。寿以輝はパパ吉に風貌、動きがそっくりやな。サウスポーが苦手っぽいのと、今村選手はやりにくそうだった
 

辰吉が自分の間合いに入れない。陣営の作戦とそれを実行した薬師寺がお見事だった

そして、この左の差し合いを制したのは薬師寺。
2Rから徐々に薬師寺の左が辰吉の顔面を捉え始め、ラウンドが進むごとに辰吉の左目がどんどん腫れていく。
 
 
どうやらこの試合は1R序盤に辰吉が左拳を骨折したとのこと。それ以降、辰吉は徐々に左が出せなくなったとか。
 
もともと辰吉は上体の動きで相手のパンチを見切るタイプで、左リードが得意な相手に滅多打ちにされるケースも目立つ。
 
初黒星を喫した1992年9月のビクトル・ラバナレス戦や1999年8月のウィラポン・ナンコルアン・プロモーション戦など。鋭い左ジャブに顔面をパンパンに腫らされて負けるのが一つのパターンとなっている。
 
この試合でも長身の薬師寺の左をもらい続け、7、8、9Rといつストップされてもおかしくない状態まで追い込まれている。
左手の骨折によって左リードが打てなくなったことを含め、得意の間合いに入れなかったのが一番の敗因と言えるのではないか。
 

 
逆に辰吉に自分の距離を作らせなかった薬師寺は本当にお見事だった。
 
薬師寺保栄という選手は身長173cmとバンタム級としては高身長で、なおかつ鋭い左リードを持ち味とする。
 
顎を引いてガードを高く上げた位置から打ち出す左は最短距離で相手の顔面を捉える。
また、中間距離でも辰吉の連打に打ち負けない回転力、フィジカルを兼ね備え、この試合でもロープを背負った状態から何度も脱出してみせた。
 
基本はワンツーパンチャーだが、ジャブの鋭さや的確さは6階級制覇王者のオスカー・デラホーヤと少し似ている(気がする)。
 
鷹村守vsデビッド・イーグルって要するにデラホーヤvsチャベスだよな。デラホーヤの初戦の最強っぷりと再戦での主人公感
 
鋭い左リードで次々顔面を捉え、辰吉を間合いの半歩外に釘付けにする。
辰吉が強引に入ってくればバックステップで距離を取り、近い位置では左ボディと打ち下ろしの右で勢いを寸断。
時おり強烈な右で顔面を揺らされるものの、動きながらの左と近場での打ち合いで絶えず主導権を握り続ける。
 
この試合の薬師寺は恐らくコンディション的には絶好調。2度の防衛で自信をつけたこともあり、もっともいい状態で大一番を迎えられたのだと思う。
結果は2-0(116-112、114-114、115-114)の判定勝利だが、数字以上に薬師寺の完勝だった。
 
 
ちなみにこれは2018年5月の井上尚弥vsジェイミー・マクドネル戦で僕がマクドネルに期待した試合運びでもある。
 
実際には減量苦で絶不調のマクドネルを一段スケールアップした井上が1RTKOで仕留めて絶望させられたわけだが……。


 

10R終了間際の右で息を吹き返す辰吉。マジか。あそこから盛り返すか。この選手の人気の理由がわかった気がする

中盤以降、完全にペースをつかんだ薬師寺。
絶え間ない左と近場での右で辰吉の顔面をパンパンに腫らし、今にもレフェリーストップがかかるのではないか? というところまで追い詰める。
 
辰吉も懸命に前に出続けるが、8、9Rに入るとさすがにダメージの蓄積によって動きは鈍い。
 
だが10R残り4秒。
辰吉の逆ワンツーがモロに顔面を捉え、薬師寺がガクッと腰を落とす。
 
 
鋭い左リードや相手を悶絶させるボディ、ロープ際での連打など。
どの局面でも満遍なく強さを発揮する辰吉だが、僕が思うこの選手のもっとも得意パンチはこの右。
 
呼吸を読むというか、相手がフッと力を抜いた一瞬を狙い打つ嗅覚は凄まじいものがある。この当て勘は恐らく天性のもので、いわゆる“人をぶん殴る才能”を持って生まれた選手なのだろうと。
 
 
そして、10R終了間際にヒットした右により辰吉が息を吹き返す。
これまで同様、ぐいぐい前に出て腕を振り、いいパンチをもらってもまったく怯まない。それどころか、強引に薬師寺を押し込み無理やりロープ際の攻防に巻き込んでいく。
 
うおおお!!!!
マジか!!!!
ここで盛り返すか辰吉。
 
対する薬師寺も懸命に左を出し続け、近場では真っ向から打ち合う。
ポイントを考えれば足を使ってもいい局面ではあるが、疲れもあってかまったく引く気配はない。
 
いや、こりゃすげえわ。
ストップ寸前の状態から右1発で勢いを取り戻す辰吉もすごいし、明らかなリードを奪いながらもラスト2Rを真っ向勝負する薬師寺もすごい。
 
場内から揺れるような歓声が響き渡り、そこに両者へのコールが上乗せされる。
顔面血まみれで前に出続ける両者のファイトは確かに心動かされるものがある。
 
なるほどねぇ。
辰吉が“カリスマ”と言われる理由が少しだけ理解できた気がする。
 
もう少しペース配分を考えてうまくやればいいのにとも思うが、恐らくそういうことではない。
どんな逆境でもファイティングスピリッツを失わずに前に出続ける姿を目の当たりにすれば、あっという間に魅了されてしまうのも仕方ない。
 
 
てか、関係ないけど両者とも名前がクソかっこいいっすよねww
「辰吉丈一郎(タツヨシジョウイチロウ)」に「薬師寺保栄(ヤクシジヤスエイ)」でしょ?
響きだけでもお漏らしするくらいメロメロになるww
 
ジョシュア・グリアvsマイク・プラニア感想。グリア負けたんか! 井上の対抗馬とか言われてたのに。プラニアはちょっと辰吉っぽい?
 
なお、ついでに1991年9月のグレッグ・リチャードソン戦を観たところ、辰吉のキレッキレ具合にめちゃくちゃ驚かされた。
 
信じられないほどスピーディな左と踏み込みの鋭さでリチャードソンを圧倒した前半から、ガクッと失速して攻めあぐねる中盤。そして1発効かせたあとに見せたどう猛なラッシュ。
 
何だかんだでこのペース配分のマズさが辰吉の試合をよりドラマチックなものにしていたのかもしれない。
 
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