武尊vsレオナ・ペタス感想。武尊の主人公属性がすべての予想をひっくり返す。K-1のすごさと未成熟さが絶妙なバランスで噛み合った【2021.3.28】

武尊vsレオナ・ペタス感想。武尊の主人公属性がすべての予想をひっくり返す。K-1のすごさと未成熟さが絶妙なバランスで噛み合った【2021.3.28】

2021年3月28日に東京・日本武道館で開催されたK-1 WORLD GP 2021 JAPAN ~K’FESTA.4 Day.2~。メインイベントでK-1 WORLD GPスーパー・フェザー級タイトルマッチが行われ、2R1分10秒KOで武尊が勝利。同王座の防衛に成功した一戦である。
 
 
開始直後からリング中央でローキックの蹴り合いを繰り広げる両者。
遠い位置からサイズ差を活かしてヒットを重ねるレオナ・ペタスに対し、武尊は持ち前の馬力を発揮しながら前進。近場での打ち合いに持ち込む。
 
だがレオナ・ペタスも怯まず応戦、ラウンド中盤から近距離での激しい打ち合いとなる。
 
レオナのパンチで武尊がバランスを崩すと、武尊も圧力全開の反撃で流れを引き戻す。
一進一退の攻防の中、武尊のインローが偶然レオナの下腹部に当たってしまう。
 
試合再開後、再びローの蹴り合いとなるが、さらに圧力を強めた武尊が残り10秒を切ったところで左フックをヒット。レオナが後頭部からダウンを喫する。
 
何とか立ち上がったレオナだが、ダメージの深さは明らかである。
 
 
2Rに入ると、1Rのローキックにより足が止まるレオナ。
あえて前に出て打ち合いを挑むものの、逆に武尊のカウンターを受けてこの日2度めのダウン。再び立ち上がったがすでに反撃の力は残っておらず。
 
最後は武尊の右ストレートを被弾し腰から崩れ落ちるように3度目のダウン。すぐさまレフェリーが試合をストップし、この瞬間に武尊の王座防衛が決定した。
 
那須川天心vs武尊予想。やるなら2021年末のRIZINか? どっちでもいいからさっさと結論を出せよ。契約体重次第だろうけど、有利なのは…
 

武尊すげえわ。今回はどっちが勝つかがまったく予想がつかなかったけど

先週3月21日の東京ガーデンシアターでのDay.1に続き、日本武道館で開催されたDay.2。
そのメインイベントでK-1 WORLD GPスーパー・フェザー級王者の武尊が最強挑戦者レオナ・ペタスと対戦したわけだが……。
 
まあ、すごかった。
 
僕自身、今回の試合はどちらが勝つかがまったく予想できず。
 
多くの方の勝敗予想を漁ってみたとろ、どちらかと言えばレオナ・ペタスを推す声の方が多い印象。武尊にとっては間違いなく過去最強の相手と言っていい試合だった。
 
実際、1R序盤はレオナの方が有利に進めていたように思える。
 
開始直後からお互いにインローを蹴り合う展開の中、間合いを支配していたのはレオナ。武尊のインローもヒットしてはいるが、距離が遠い分若干当たりが浅い。
思い切り踏み込んで右を放つも、レオナのバックステップによりあっさりと外されてしまう。
 
さら中間距離ではレオナのワンツー、膝、奥足重心の右など。
距離感を掴んでいたのは完全にレオナだった。
 
 
だが武尊のインローがレオナの下腹部に当たって以降、やや流れが変わる。
 
再開直後から武尊が圧力を強め、レオナを若干後ろ重心に追い込む。
さらにローを打ち込みながら距離を詰め、近場での連打に巻き込んでいく流れ。
 
レオナも残り10秒あたりでワンツーをヒットして武尊の顔を跳ね上げるも、直後に武尊の豪腕が炸裂。左フックのクロスをもらって後頭部からしたたかにダウンを喫してしまう。
 

レオナ・ペタスも文句なしに素晴らしかった。開始直後は優位に進めたが、武尊の圧力を抑えきれず

何というか、すげえわ武尊。
 
一応言っておくと、レオナ・ペタスの出来は文句なしに素晴らしかった。特に開始直後は比較的プラン通りに戦えていたと思う。
 
サイズ差を活かして遠い位置で対峙し、武尊の圧力を打ち下ろしの連打で未然に押さえ込む。
これまでに比べて若干ジャブが少ない感じもしたが、どこかで膝が炸裂すればKO勝利もあり得るのでは? と思わせる立ち上がりだった。
 
だがそこはさすがの武尊。百戦錬磨の主人公属性というか、くぐってきた修羅場の違いをまざまざと見せつけてくれた。
 
打たれながらも前に出続けることによってレオナに圧力を感じさせ、足もとへの注意を散漫に。
パンチをもらってガクッと膝を落とすシーンもあったが、それでも怯まず前進を続け、近場の回転力で豪快にダウンを奪ってみせる。
 
解説者が「レオナはローのカットを忘れている」と言っていたが、実際には武尊の圧力を止めるのに精一杯で片足を上げる余裕を失っていたのではないか。
 
全力で腕を振らないと一気に持っていかれる感覚というか。
対峙した選手だけが感じる武尊の馬力、圧力というものがあるのかもしれない。
 

レオナは若干不運でもあったよな。2度目のダウンの際に余計な追撃をもらって致命的なダメージを負った

まあでも、レオナにとっては若干不運な部分もあった気はする。
 
2R開始20秒あたりでレオナのストレートが顔面を捉え、武尊がたたらを踏む。
それを見たレオナが一気にラッシュをかけ、再び両者が近場で打ち合う流れに。
 
一度はレオナの左で武尊が腰を落とすものの、何とか踏ん張った武尊が逆に右フックをレオナの側頭部にヒット。
これでレオナが両腕をついてダウン!!
 
すぐさま立ち上がったレオナに武尊が間髪入れずに右、左の追撃。これがまともに顔面を捉え、それ以降レオナはまともに立っていられなくなる。
 
マジな話、この試合はあの追撃によって勝負が決したと言っても過言ではない(と思う)。
 
あの瞬間にレオナのHP残量が底をついたのは明らかで、実質勝負ありの瞬間でもあった。
逆に武尊の追撃は明らかにカウント中のものだったし、あそこはレフェリーがカウントを止めてレオナに休憩を与えてもよかった(気がする)。
 
僕自身、流れの中での武尊の追撃を責める気はない。一方のレオナ・ペタスもあれだけダメージを負った状態から逆転するのは相当難しかったはず。
 
たとえあの追撃がなかったとしても勝敗は動かなかったようにも思えるが、それでもあそこで甚大なダメージを負ってしまったレオナはかわいそうだったなと。
 
 
そして、それを踏まえた上で。
やっぱり武尊はすごかった。
 
強フィジカルを活かした打ち合い上等のメンタルに加え、ローキックで崩してから近場の連打でねじ伏せる王道のファイトスタイル。
 
これほど主人公属性ど真ん中の選手が世界一のキックボクシング団体・K-1を背負っているという事実に震えが止まらないww
 
僕は別に新生K-1のファンというわけではないが、それでもこの選手の戦いっぷりには自然と目を奪われてしまう。
 
 
今回の勝利を受けて武尊vs那須川天心戦はほぼ決定と断言できそうだが、とにかくこれは何としても実現しなくてはならない。
遅きに失した感もなきしにしはあらずだが、2010年代後半の日本格闘技を完結させるためにも必須課題と言っていい。
 
那須川天心vs風音戦感想。天心の勝ちで問題ないと思うけど、攻略のネタが揃いつつあるのが…。これは武尊有利に傾きつつあるんじゃない?
 

前日の「判定基準の変更」の発表。競技としてはアカンのちゃう? なぜこのタイミングでの発表なのよ

ちなみに今大会の前日、K-1の中村拓己プロデューサーから「判定基準の変更」が発表されている。


K-1はあくまでKOを狙って戦う競技。
なので今後はKOを狙う姿勢、ダメージを伴う攻撃、倒しにいく姿勢をより評価して判定に反映するとのこと。
 
恐らく先日の椿原龍矢vs江川優生戦での判定がきっかけになっているのだと想像するが、とにかく今後はアウトボクシングでクリーンヒットを稼ぐよりも前に出て強烈な1発を当てた方が勝ちになる可能性が高まるらしい。
 
 
これ、個人的に競技としてかなりアカン気がしているのだが、どうだろうか。
 
一応言っておくと、ルールを変更すること自体は別に悪くないと思っている。
何を重視するかは団体それぞれだし、よりKOに特化したルールに変更することで観客の目を引こうとする姿勢も素晴らしい。
 
だが、このタイミングでの発表はさすがにどうなのよ? と。
今回のルール変更がどの段階から適用されるのかは不明だが、仮にこの日のDay.2からだったとしたら目も当てられない。
 
Day.1とDay.2で異なるルールで行われていたことになるし、それこそDay.1で勝利した選手がDay.2では負けにされていた可能性すらも……。
物議を醸した椿原龍矢vs江川優生戦などは典型的である。
 
また、たとえそうでないとしても出場選手のメンタルに少なからず影響を与えたことは否定できない。
 
前回申し上げたように僕は武尊vsレオナ・ペタス戦は椿原龍矢vs江川優生戦と似たような展開になると思っていたが、実際にはレオナがより積極的に打ち合ったことでああいうドラマチックな試合が生まれた。
 
椿原龍矢vs江川優生の判定、山秀晃崎が不可思を瞬殺、クレベル・コイケvs摩嶋一整のグラップラー頂上対決振り返り
 
ただ、上述の判定基準の変更発表により、レオナ・ペタスに「椿原と同じ戦い方をしたら勝てない」という心理が働いていたとしたら……。
当初のプランを寸前で変更する必要が生じていたわけで、それはちょっとどうなのよ? と。
 
大一番を控えた選手が試合直前に運営から「あなたの戦い方では勝てません」と脅迫(とまでは言わないが)されるのは健全とはほど遠い気がするのだが。
 

競技のルール変更は相当慎重にやるべき。でも、あの発表によって神興行が生まれた側面も…。K-1のすごさと未熟さが絶妙なバランスで噛み合った

以前から何度も申し上げているが、僕は競技のルール変更は相当慎重にやらなければならないと思っている。
 
ボクシングの世界戦もかつては15R制だったものが12R制に変更された経緯があるが、その際にかなり慎重に段階を踏んでいる。当時の記録を調べてみるとわかるが、15Rと12Rの世界戦が数年間にわたって混在しているのである。
 
また野球のMLBでは新たなルールを導入する際、まずはマイナーリーグで試してみるのが通例となっている。
最近ではワンポイントリリーフの撤廃や投球間隔の20秒制限といったくだらない改定が多いものの、なるべく影響の少ない場所で試験的に導入するやり方は非常に理にかなっていると思う。
 
なぜならルール変更はそれ自体がめちゃくちゃ重いから
選手によっては長年培ってきたものが一瞬でパーになる危険すらあるから。
 
特に今回のような判定基準の変更などはなおさらである。
 
距離をとってヒットを重ねるタイプが今後どう生き残っていくかどうかの変更を、なぜ年間でもっとも大きなイベントの前日に発表するのか。
まずはKrushで試験的に導入して観客の反応を見たり、影響の少ない場所で試行錯誤を繰り返すのが定石だと思うのだが。
 
 
とは言え、あの発表によって今回のDay.2が神興行となったことも確かである。
 
2021年3月21日のDay.1が全17試合中KOが7試合。
それに対し、2021年3月28日のDay.2が全23試合中KOが14試合。中でもメイン5試合のうち4試合がKOという凄まじい結果が生まれている。
 
もちろん組み合わせや階級等もあったとは思うが、前日のルール変更の発表が影響したことも間違いないだろうと。
 
山崎秀晃vs安保瑠輝也感想。敗戦を糧に覚悟を持って挑んだ山崎が怒りの鉄拳で安保をKO。ああいう“怒り”ってマジでバカにならないんだよな
 
申し上げたように武尊の主人公属性は凄まじい。マジで凄まじい。
 
また、団体の枠内だけでこれだけの質量を維持したまま全40試合の大イベントを実現するK-1も文句なしにとんでもない。
それこそコロナ禍によって海外から選手を呼べない状況の中、ここまでのイベントを敢行できる団体が世界中にどれだけあるの? というくらい。
 
と同時に、メインイベントの前日に重大なルール変更を発表する稚拙さも兼ね備える。
 
“カリスマ”とも呼べる強烈なエースを擁し、世界屈指の質量を誇りながらも競技の根幹となる部分をコロコロ変えてしまうちぐはぐさ。
 
要は、新生K-1のすごさと未熟さが絶妙なバランスで噛み合った結果、今回の神興行が生まれたと言えるのではないか。
 
 
まあ、K-1側としては「もともとK-1はKOを狙う姿勢をもっとも評価する競技であり、今回はそれを改めて明言したに過ぎない」のかもしれないが。
 

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