高橋悠斗選手が引退だって。コロナの影響で引退する選手はいるとは思ってたけど。“令和のアスリート”のあるべき姿

高橋悠斗選手が引退だって。コロナの影響で引退する選手はいるとは思ってたけど。“令和のアスリート”のあるべき姿
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日本L・フライ級王者高橋悠斗が2020年4月3日、王座を返上するとともに現役引退を表明した。


2019年10月に堀川謙一を下して初戴冠を果たし、2020年3月15日に矢吹正道との防衛戦が決定していた高橋悠斗。

だが蔓延する新型コロナウイルスの影響でたびたび試合が延期となり、今後も開催の見通しが立たない状況。所属ジムの閉鎖もあり、気持ちの維持が難しくなったとのこと。

本人も自身のSNSで「環境を作るのが難しくなり、気持ちが維持できなくなったため」と引退を正式に発表している。

高橋悠斗選手引退はオドレエタな。引退するスポーツ選手が出るのは薄々感じてたけど

日本L・フライ級王者高橋悠斗選手が引退を表明した。

バスケのBリーグは残りシーズンの完全中止が決定し、サッカーのJリーグは再開のめどが立たず。3月に開幕していたはずのプロ野球も先日、4月下旬の開幕予定からの再延期を決定した。
4月19日開催予定の格闘技イベントRIZINも中止を発表、日本のボクシング界も5月中の興行再開を見送るなど、スポーツ界全体が長期戦の様相を呈している。

 

正直に申し上げると、この状況で引退を表明する選手も出てくるだろうなとは思っていた。試合ができない/決まっていた試合がなくなることによるモチベーションの低下はもちろん、年齢や立場によっても。

バスケやサッカー、野球などのシーズン中止・延期は、今年結果を出さないと首を切られてしまう立場の選手にとっては致命的。
また格闘技選手は比較的全盛期も短く、コロナウイルスの影響で一番いい時期を逃してしまう可能性もある。

ボクシングのように年齢制限がある競技に関しては、試合の延期・中止によって定年を迎えてしまう選手もいるはず。「悔いのないラストを」と考えていた選手にとっては最悪のパターンである。

 

だが、高橋選手のようにここから2、3年が全盛期という選手が引退を表明したのはちょっと意外だった。
勝ったり負けたりを繰り返しながら徐々に階段を登り、ようやく念願の日本王者となった矢先。所属ジムの閉鎖に加え、度重なる防衛戦の延期で足踏みとはなったが、まだまだこれからだと思っていただけに驚いてしまった。

最初に観たのが2017年12月。キックボクサー出身っぽくないスタイルが印象に残った

僕がこの選手の試合を初めて観たのは2017年12月。
東京・後楽園ホールで行われた「協栄会復活祭vol.1」でのミニマム級8回戦、若原義敬選手との一戦である。

YouTube配信という当時のボクシング界としては珍しい試みだったので僕もボーッと眺めていたのだが、その中で試合をしていたのがこの選手だった。

相手との間合いを測るのがうまく、アングルをつけた鋭い右のカウンターが得意。
ジャブを出しながらサイドに動くフットワークもあり、「お、ええ選手やんけ」と思ったのが最初である。

そして、よくよく調べるとキック出身とのこと。
これは僕の勝手な意見なのだが、キックからボクシングに転向した選手は馬力はあるがそこまで足が動かないイメージ。

ジョージ・グローブスやセルゲイ・リピネッツ、日本で言えば土屋修平選手など。
身体に馬力があってカウンターが得意。でも、サイドへの動きはあまり多くない。加えてカウンターがスムーズに出る分、ガードはやや低めなタイプかなと。

伝説のロイ・ジョーンズvsバーナード・ホプキンス感想。初めてちゃんと観たけどクソつまんねえなこの試合w さすがはホプキンスだわ

その点、高橋選手は足がよく動くしガードも高い。その上で流れの中でのカウンターも得意とする。
この(僕の中での)いい意味での「キック出身っぽくなさ」が印象に残った次第である。

1人の選手が努力して成長する姿をリアルタイムで追えたのはよかった。vs堀川戦はホントにいい試合だった

その後、元世界王者の福原辰弥選手や平井亮輝選手との対戦を経て2019年4月に後楽園ホールで中山祐太選手と対戦するわけだが、この試合は僕が初めて高橋選手を生観戦した日でもある。

高橋悠斗選手の試合をようやく生観戦した話。中川祐vs有馬啓祐、高橋悠斗vs中山祐太、赤穂亮vs藤岡飛雄馬in後楽園ホール

で、結果は驚きの1RKO

開始直後から高橋選手がゴンゴン前に出て腕を振り、得意の右カウンターで2度のダウンを奪う圧勝。注意していなければ見逃してしまうほどの瞬き厳禁な一戦となった。

そして、2019年10月の堀川謙一選手とのタイトルマッチでは一進一退の攻防の末に2-0の判定勝利。見事、念願の日本タイトル戴冠を果たしている。

高橋悠斗vs堀川謙一戦、吉野修一郎vsハルモニート・デラ・トーレ戦感想。まさかの週2で後楽園ホール参戦

この試合も現地観戦したのだが、とにかくすごい試合だった。
序盤から積極的に前に出て右を当てる高橋選手に対し、堀川選手も中盤からボディを中心に盛り返す。度重なるバッティングもありつつ、最後は高橋選手が逃げ切りでの勝利。

結果的に高橋選手のラストファイトとなってしまった試合だが、僕の中での年間ベストバウトにランクインするほどの一戦だった。

僕の2019年ベストバウト6選。期待した試合はないかもだけど文句なしの名試合。僕のランキングなので異論は認めない

と同時に1人の選手が自ら考えて努力し、一歩一歩段階を踏んで目標を達成する姿をリアルタイムで追えたこと。これは個人的になかなかいい経験となった。僕はあくまで勝手に応援していただけの人間だが、こういうサクセスストーリーを目の当たりにできるのもスポーツ観戦の醍醐味かなぁと思う。

こういう心からの笑顔が出るって、やっぱりええよねww
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あと、アレなんだよな。
初防衛戦の相手に決まっていた矢吹正道選手。

チラッと観たけど、理不尽なパンチ力に加えてL・フライ級とは思えないスケール感がある。
高橋選手の前に出ながらの右が当たるか、矢吹選手のカウンターが機能するかの展開になったとは思うが、実現せずに残念でしたね。

注目を集めるべきはパフォーマンスor試合? いやいや、両方やりゃあええやんけ。誰もが井上尚弥になれるわけでもないし

さらに言うと、Twitterを始めとしたSNSやYouTubeなどで積極的に自己プロデュースするのもいいなと思っていた。

もともと僕は「格闘技選手なんて知ってもらってナンボでしょ」と思っていて、自らを実験台にそれを実践する高橋選手には非常に柔軟性を感じていた。

よく「格闘家はパフォーマンスを重視して注目を集めるべきか、試合で魅せるべきか」といった議論を見かけるが、普通に両方やりゃあええやんけと。

別にパフォーマンスをしたからといって普段の練習がおろそかになるわけでもないし、どれだけいい試合をしても観てくれる人がいなければお話にならない。

WBSSで優勝した井上尚弥がノニト・ドネアとの試合後に「ボクシングの実力だけでファンを納得させたい」とコメントして絶賛されていたが、いや、お前はそりゃそうでしょという話。

信じる心が拳に宿る。ドネアが井上尚弥に敗れるも、12Rの大激闘。敗者なきリングに感動しました

井上ほどの実力と知名度があれば練習と試合をするだけで十分な注目を集められるが、大半の選手は試合以外でいろいろ工夫しないと存在を知ってもらうことすら難しい。

そこを鑑みずに井上尚弥の言葉を真に受けて「ボクサーは試合でアピールすればいい」」「パフォーマンスはいらない」という風潮になったのには正直違和感しかなかった。

そもそも相手を口汚く罵るだけがパフォーマンスじゃないですからね。
恐らく亀田兄弟の影響が大きいのだと思うが、いろいろと極論vs極論すぎてアレだなぁと。

高橋選手は令和のスポーツ選手”のあるべき姿を示してくれた? 負の部分もモロにひっ被ってたけど

その点、高橋選手のスタンスは真逆。

正直「日本王者」の肩書きだけでは世間に響くものは小さい。だが、そこにSNSやYouTubeによる自己プロデュースを上乗せすることで、自らの存在をより大きくアピールすることが可能になる。

あえて意識して前向きな言葉を使ったり、最初に目標を宣言してそこに向かう過程をリアルタイムで見せたり。自分の立場等、いろいろなことを把握した上で前に進んでいく姿はマジで“令和のスポーツ選手”のあるべき姿だった(と思う)。

 

逆にTwitterの負の面もモロに受けていたのもちょっとおもしろかった(すみません)。

以前にも申し上げたが、アスリートがTwitterのアカウントを持つのは一長一短ある。
多くの人間に手軽に自分の考えを伝えられる反面、フォロワーが増えるとその分おかしなヤツの相手もしなければならなくなる。

割とガチで会話ができないヤツは普通に存在するし、それこそ世界戦を控えた選手に直接批判を浴びせる非常識な輩もいる。


世界タイトルマッチの前日にくだらん批判を浴びた結果、それ以降Twitterから離れた選手を知っているが、僕はいまだにあの行為が許せずにいる。

そりゃあなた。
自分の競技生活に悪影響が出てまでTwitterなんかやる必要ないし、Instagramで練習風景や食事の写真をアップしておいた方が楽に決まっている。
逆にファンからすれば、一連の行為によってアスリートのちょっとした本音が聞ける機会を失うことになる。
考えれば考えるほどしょーもないお話である。

 

そして、諸々の負の面を思いっきり被ってイライラしつつ、それでも前を向く高橋選手のスタンスは個人的にかなり好みだったww(いや、ホントすみません)


とにかく高橋選手お疲れさまでした。
いろいろと楽しませていただきました。

でも、またやりたくなったら復帰してもええんやで?

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