山中慎介はトマス・ロハス戦までが好き。岩佐亮佑戦はいまだに忘れられない。「神の左」を連呼され出してから「ん?」となった

山中慎介はトマス・ロハス戦までが好き。岩佐亮佑戦はいまだに忘れられない。「神の左」を連呼され出してから「ん?」となった
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2020年4月26日に放送された「WOWOWエキサイトマッチ井上尚弥・長谷川穂積・山中慎介スペシャル」
 
前回は長谷川穂積の思い出をあれこれと語ってみたのだが、今回はもう1人のゲストである「山中慎介」について。
 
 
申し上げたように僕は2000年代の日本のボクシングをあまり観ておらず、長谷川穂積がKOを量産していたバンタム級時代をよく知らない。
粟生隆寛について語った際も「この選手のことを知らない」と申し上げたが、我ながらこの時期は時間が止まってたなぁと。
 
さすがに亀田三兄弟のネタは入ってきていたが、それ以外はマジでわからん。WOWOWエキサイトマッチは普通に観ていたものの、地上波ボクシングはほぼほぼスルー状態だった。
 
 
それに対し、山中慎介が初の王座戴冠を果たしたのは2011年11月。ちょうど僕のボクシング熱が戻った時期と重なる。
 
2012年4月のビック・ダルチニャン戦から2017年3月のカルロス・カールソン戦まで、約5年にわたって計12度の防衛を果たした実績は問答無用で名王者。
山中慎介とS・フェザー級の内山高志の防衛ロードをリアルタイムで追えたことは個人的にかなりよかったと思っている。
 
粟生隆寛引退。ビタリ・タイベルト戦おもしろ過ぎワロタw 確かに内山高志に勝てる日本人だったかもしれんね
 

トマス・ロハス戦までの山中慎介が好き。キャリア後半の左偏重のボクシングはちょっと…

表題の通りなのだが、僕は2012年11月のトマス・ロハス戦までの山中慎介が大好きである。

 
もともとこの選手は動きが直線的で、まっすぐ前に出てまっすぐ下がるのが特徴。
相手と真正面から対峙し、右リードの連打で距離を測って必殺の左につなぐ。唯一最強のワンパターンというか、多くのダウンシーンを演出した「神の左」は山中慎介の代名詞と言えるパンチである。
 
だが、キャリア後半はその左に依存するあまり、試合運びが大雑把になっていた印象が強い。
右リードで距離を測るまではいいが、そこからの展開はかなり強引。間合いが遠かろうが相手がガードを固めていようがいっさい関係なく、鋭い踏み込みから必殺の左をねじ込んでいく。1発の威力とレンジの長さですべてをねじ伏せにかかるというか。
 
しかも、この強引な試合運びは防衛を重ねるごとに増していった記憶がある。
 
 
1発の破壊力は文句なしに凄まじい。
だが思い切り身体を伸ばして左を放つ分、打ち終わりの隙も大きくなる。
 
今回のエキサイトマッチ内でも長谷川穂積から「山中君は右フックが打てないんですよ」と言われていたが、マジでその通り。左ストレートを打った後の復元力は年々鈍くなり、返しの右が絶好のカウンターチャンスとなっていた。

 
内山高志は僕が心底カッチョいいと思った選手。中間距離でかなうヤツは誰もいないんじゃない? ウォータース戦は実現してほしかったよね
 

2016年9月のアンセルモ・モレノVol.2でも返しの右を打つ瞬間にカウンターでダウンを喫するなど、左ストレートを外された際の深刻度はなかなかのもの。
僕も当時、左の打ち終わりが危ないと何度も喚き散らしていたが、中には「山中は返しの右は打たなくていい」とおっしゃる方もいたくらい。
 
 
そして、2016年3月のリボリオ・ソリス戦あたりからパンチを芯で被弾し膝が落ちるシーンが目立ち始める。また、踏み込みの鋭さに陰りが見えたのもこの時期である。
 
 
踏み込みの低下によって左の威力は半減し、相手のパンチはダイレクトで芯に響く。ストップ&ゴーも利かずに打ち終わりに身体が流れる。
恐らく足腰の衰えが原因だと思うが、必殺の左を打ち出す発射台とダメージを吸収するバネが同時に失われたのはホントに痛かった。
 
そう考えると、禁止薬物陽性や体重超過を除いてもvsサウスポーが得意なカウンター使いのルイス・ネリとの相性は最悪だったとしか言いようがない。
 

左偏重になったのは「神の左」ばかりを連呼されて以降だよな。ロハス戦での壮絶KOが引き金になったのかも

まあ、山中慎介が左ストレート偏重になっていったのは「神の左」ばかりを言われるようになってからだと思う。

 
辰吉丈一郎vs薬師寺保栄を観た結果、辰吉の人気の理由が何となくわかった
 

申し上げたように僕は2012年11月のトマス・ロハス戦までの山中が好きなのだが、ひょっとしたらあの試合での壮絶なKO勝利が引き金になっているのかもしれない。
 
あのロハス戦によって「山中慎介の左は凄まじい」ことが知れ渡り、左でのKOの再現に誰もが期待をかけるようになる。本人もそれに応えるためにさらに左への意識が強くなり、多少強引にでも倒しにいくスタンスへと傾倒する。
2013年8月のホセ・ニエベス戦での1RKO勝利もさらに拍車をかけたのだろうと。
 
いや、もうね。
防衛回数が二桁に到達する頃にはことあるごとに「神の左いいいぃぃぃ!!!」でしたからね。
 
そりゃ腕は2本しかないんだから左も普通に出すでしょ。
単なる左にいちいち神様を宿らせてたら天国がスッカラカンになるっちゅうねん。
 
本人はもちろんだが、それ以上に周囲の期待がよくも悪くも影響を及ぼしたパティーンである。
 

返しの右が得意だったし、左右へのフットワークもあった。2011年3月の岩佐亮佑戦はいまだに忘れられない

その証拠にトマス・ロハス戦までの山中は返しの右を得意としていたし、ビック・ダルチニャン戦で見せたように左右へ動くフットワークもあった。

 
そもそも論として、トマス・ロハス戦でのフィニッシュが左右の連打だったことを忘れてはならない。
中間距離からの右リードでロハスの動きを止め、鋭く踏み込んでの左。そこから凄まじいブレーキとともに返しの右をねじ込み、さらに左を顔面に。
 
あのシーンはロハスを失神KOに追い込んだ最後の左ばかりが注目されるが、その前段階としてとんでもないコンビネーションを放っているのである。
 
 
もっと言うと、2011年3月の岩佐亮佑戦を僕はいまだに忘れることができない。
 
序盤から両者の鋭い右リードが飛び交い、たびたび岩佐のカウンターが山中の顔面を揺らす。
だが3、4Rと山中が得意の左をヒットして岩佐の前進を止め、逆にペースを取り返す。
 
それ以降も一進一退の攻防が続き、9Rに山中が左クロスで岩佐に決定的なダメージを与える。
結局このダメージの蓄積によって最終10Rに山中が押し切るわけだが、今振り返ってもあの試合は神が降臨したとしか言いようがない。

 
ニコラス・ウォータースってやっぱりカッコよかったよな。ノニト・ドネアをKOした試合は最高だった。でも内山高志なら勝てる可能性があったと思う
 

山中は得意の左→右→左の連打に加えて下半身の柔軟性も抜群。右リードは高校3冠の岩佐亮佑にまったく引けを取らないキレを見せる。
 
以前にも申し上げた覚えがあるが、山中慎介の全盛期は文句なしにこの試合。キャリアにおけるベストバウトと断言していい。
 
一応言っておくと、山中慎介はもともと左ストレートだけの選手じゃないですからね。サウスポー同士でこれだけ右リードがスムーズに出るって、そこそこ希少価値が高いですからね。
 
ルイス・ネリとの初戦、序盤の右の差し合いはめちゃくちゃ見応えありましたからね。
 
 
ちなみにだが、この試合のおかげで僕はいまだに岩佐亮佑を諦めきれなかったりする。
 
センスに頼り切ったカウンター偏重の消極的なボクシングには何度もガッカリさせられたが、この試合で見せた荒々しさ、積極性さえ取り戻せば岩佐はまだまだいける!! と思ってしまうのだが……。
 
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