アニメ「オッドタクシー」が完全におもしろい。脚本の此元和津也が天才らしい【感想、ネタバレなし】

アニメ「オッドタクシー」が完全におもしろい。脚本の此元和津也が天才らしい【感想、ネタバレなし】

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アニメ「オッドタクシー」を観た。
 
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「オッドタクシー」(2021年)
 
タクシー運転手の小戸川(41)は皮肉屋で無口な変わり者。
両親に捨てられた過去を持つが、現在は不眠症に悩まされる以外はごく平凡な日々を送っていた。
 
 
そんな小戸川の運転するタクシーに、ある日熱心に携帯を操作する男が乗り込んでくる。
「運転手さん、最近おもしろいことあった?」
 
男の何気ない問いかけに対し、答えに困る小戸川。
その様子を見た男は「タイムオーバーだよ」と呟くように言う。
 
話を聞くと、男は“SNSでバズりたい願望”を持つ大学生とのこと。
最近はSNSでの“いいね”やフォロワー数こそがその人間の値段であり、就職活動にも影響を及ぼすほど価値のあることなのだとか。
 
あまり興味のわかない小戸川は男の話を適当に聞き流すが、突如何かを思いついた男は「自撮りでツーショットを撮ってほしい」と小戸川にせがむ。
 
自分と男が写った写真と文面を見て「そんなんでバズるかよ……」とクサす小戸川。
だが、男は気にすることなく自信たっぷりにその写真をSNSにアップするのだった……。
 
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アニメ「オッドタクシー 」がおもしろい。一話完結のコメディかと思ったら、どっぷり重いサスペンスだった

漫画家の此元和津也氏が初のオリジナルアニメ脚本を務めた「オッドタクシー 」。
現在、テレビ東京で毎週月曜日深夜2時から放送中で、Amazon Primeでも独占配信されている。

 
僕はこの作品をAmazon Primeでたまたま見つけ、絵柄に惹かれて視聴してみたのだが……。
 
何これすげえおもしろいw
 
ここ最近、毎週土曜日の夕方にBS日テレで放送されている「小さな村の物語 イタリア」以外はほぼTVを観ることがなくなっていたのだが、今回の「オッドタクシー」はちょっとすごい。この番組のためだけに夜更かしをせざるを得ないとすら思い始めている。
 
「小さな村の物語 イタリア」とかいう暴力的癒し番組。土曜日の夕方、大切なものを求めて僕はテレビの前で旅に出る
 
一応申し上げておくと、最初は「タクシー運転手と変わったお客さんのやり取りを楽しむ密室コメディ的な作品」だと思っていた。
竹野内豊主演でバカリズムが脚本を手がけた2014年のドラマ「素敵な選TAXI」と同種のものというイメージ。

 
微妙に変わった境遇の客がやや偏屈だが話好きのタクシー運転手と会話を交わすうちに人生の答えにたどり着く。
一話完結で気楽に視聴できるゆる〜いヤツだろうと。
 
ところが実際には真逆。
気楽に視聴するなどとんでもない。
 
高い集中力と想像力が要求されるどす黒い群像劇。いたるところに伏線が張り巡らされたノワール・サスペンスでしたという。
 
 
いや、マイッタねこれは。
こんなテンションで観るつもりはまったくなかったのだが。
 
意味不明にのめり込んでいるせいで、週初めから鬼のような寝不足が続いているw
 
映画「オッドタクシー イン・ザ・ウッズ」感想。ターゲットを絞った総集編。考察好き&白川さんファンには刺さる省エネ作品。予算もないっぽいね
 

天才肌の漫画家・此元和津也氏。計算高く用意周到で物ごとを逆算できるタイプなんでしょうね

聞くところによると、脚本を務める此元和津也氏は天才肌の漫画家らしく、2006年のデビュー以降知る人ぞ知る存在だったとか。
テレビ東京系列でドラマ化された「セトウツミ」は僕も聞いたことがある(未視聴)が、とにかく台詞回しやコマの使い方、スピード感が秀逸で漫画を読んでいる感覚にならないとのこと。
 
試しにチラッと原作を覗いてみたが、なるほど。確かにわかる気がする(試し読みだけど)。

いつの間にか引き込まれそうなこの感じは初めて「寄生獣」に触れたときと少し似ている。
 
 
恐らく此元和津也という人は最初に結末、流れを決めてから物語をスタートするタイプなのだと思う。
 
登場人物はもちろん、それぞれのキャラが抱える悩みや背景。誰と誰をどのタイミングで関わらせ、どんな伏線を張ってそれをどこで回収するか。最後のオチをどうするか。などなど。
 
何となくだが、習字などでめちゃくちゃバランスのいい字を書きそうな気がする。
空間把握能力に長けていると言うか、手元にある素材を外枠の大きさにちょうどよく収めるのが得意な人。
 
 
マジな話、決められた話数内できっちり完結させる能力というのはバカにできないですからね。
僕自身、全体の構成が歪な作品には何度も出会ってきたし、そのたびにモヤっとした残尿感を味わわされている。途中で総集編を入れて時間稼ぎを始めたなぁと思っていたら、ラスト数話でやたらと駆け足になったり。
 
この「オッドタクシー」も12話or13話で終わるのだと想像するが、用意周到な此元和津也氏ならきっとそんなことにはならない。うまく着地してスッキリさせてくれるだろうという謎の安心感がある。
 
 
うん、こういうすべてを見透かしたような計算高さ、物ごとを逆算できる能力を兼ね備えたヤツってたまに出てくるよね。
パッと思いつくところでは「僕だけがいない街」の三部けい氏だろうか。
 
「僕だけがいない街」感想。こんなマンガがあったことにビックリした。読み終わった瞬間、もう一度最初から読み直したのは初めての経験
 
あの作品も適度な長さ(単行本9巻)でパーフェクトな完結を迎えた部類。僕が読んだ中では文句なしに名作漫画の一つと断言できる。
 

吉本芸人が多数起用されている今作。決して上手くはないが、作風とマッチしていていい味を出している

また今作は吉本興業とタイアップしているらしく、声優陣にミキやダイアン、トレンディエンジェル、森三中、ガーリィレコードといった吉本興業所属の芸人の名前が並ぶ。
 
以前から何度か申し上げているように、僕はアニメや映画の吹き替えに本職の声優以外を起用することに抵抗はない。声優として違和感なく聞ける&その役にハマっているという条件さえ満たしていれば、話題性重視の起用も全然アリだと思っている。
 
だが、この「声優として違和感なく聞ける」というのがなかなか難しく、“声優としての最低限”(僕基準での)を満たしている芸能人が少ないことも事実。
1クールのアニメ作品の場合、基準以下の声優に当たった際の失望は顕著で、「毎週コイツのゴミ演技に付き合わされるのか」と出だしからゲンナリさせられる。
 
期待感を持って視聴をスタートしたアニメ「いぬやしき」もそう。主人公の小日向文世と村上虹郎のクソっぷりに耐えられずに3話で挫折した経緯がある。
 
 
ただ、この素人っぽさというか、本職の声優にはない低体温っぷりがいい方向に作用するケースもある。
松本大洋原作、2006年公開の「鉄コン筋クリート」などはその典型である。
 
アニメ「鉄コン筋クリート」感想。声優の素人臭いザラザラ感と作風が奇跡的に嚙み合った秀作。イタチの正体? 蛇の手下? いろいろ謎も多いけど
 
クロ役の二宮和也や木村役の伊勢谷友介、チョコラ役の大森南朋、バニラ役の岡田義徳などなど。
本来なら聞くに耐えないクソ大根なのだが、作品全体のザラッとした肌触りと低体温に妙にマッチしているのである。
 
今作「オッドタクシー」も同じ。
警察官の大門兄弟役のミキ・昴生、亜生の2人や樺沢役を務めたトレンディエンジェルのたかしは、はっきり言って上手ではない。
 
上手ではないのだが、主人公小戸川の皮肉混じりのボソボソトークと相まって、なぜか違和感なく受け入れることができる。
 
 
恐らくだが、これは声優陣と作風のバランスが絶妙なのだと思う。
今作で起用されている芸人は基本的にそこまで出番が多くない。白川や剛力、柿花、ドブといった主要キャラには本職の声優が起用されており、実際の物語は彼らが中心となって進行していく。
 
芸人勢はあくまで脇役で、暗めのトーンにうまい具合に溶け込んでいる。そこにプロの声優陣が色付けするというか、色合いの乏しかった作風にほどよく装飾を施しているのである。
 
ド深夜ながらも商業色を失わないギリギリのラインをついたアニメ。この“ちょうどいい塩梅”がミステリアスなストーリーに上乗せされ、謎の中毒性を生み出していると言えるのではないか。
 
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週一のアニメでも群像劇が可能なんだな。人物像の深い掘り下げが逆に印象に残るよね

ついでに言うと、こういう群像劇は週一のアニメでも十分成り立つことが理解できたというのもある。
 
個人的に群像劇は週一のアニメよりも2時間前後の映画向きだと思っていて、今作のようにサスペンス要素が強い作品であればなおさら。登場人物が多く人物相関図が複雑になりやすい分、なるべく一気通貫で見せる方が有利なイメージを持っていた次第である。
 
だが、いざ視聴してみると案外そんなことはなく。
各話ごとのパワーが尋常ではない、いわゆる“流した”回が存在しないおかげでストーリー展開が十分頭に残る。
 
まるまる一話を使ってゲーム会社勤務の田中の人生の振り返ったりと、重要キャラの深掘りも週一のアニメならでは。2時間の映画では説明不足になりがちな部分がうまく補填され、より物語に入り込むことができる。
 
また、次週までに公式サイトやSNS等でストーリーを振り返れるのもいい。O.A.を待つ一週間のうちにさらに理解を深め、今後を考察する二重の楽しみ方である。
 
いや、サスペンス好きの方にとってはごく普通のことかも知れないが、「群像劇+サスペンスの週一アニメ」という組み合わせは僕の中ではだいぶ新鮮だったので。
 
 
とにかくアレだ。
アニメ「オッドタクシー」、めちゃくちゃオススメである。
 
無料で一話分(期間限定)読める電子書籍も出ているので、興味があればぜひ。

 
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