「日本で一番悪い奴ら」感想。骨太感とポップさのバランスが絶妙。これは観るべき映画じゃない? 綾野剛はやっぱり若いときの浅野忠信だよな
- 2020.05.11
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映画「日本で一番悪い奴ら」を観た。
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「日本で一番悪い奴ら」(2016年)
北海道警の新人刑事である諸星要一は、市民の安全を守るという強い正義感に燃える熱い男。だがその思いとは裏腹に、実際には調書を書かされるばかりのうだつの上がらない毎日を送っていた。
そんなある日、先輩刑事の村井が諸星に声をかけてくる。
諸星とともに繁華街・すすきのに繰り出した村井は、浴びるように酒を飲みながら諸星に助言を授ける。
「刑事は点数」
「点数を稼ぐには裏社会に飛び込め」
村井が言うには、刑事として出世したければ手柄をあげることが第一。そのためには自分専用の「S」(スパイ)を作り、裏社会の情報をいち早く掴むべきとのこと。
夜の街で幅を利かせる村井の姿に戸惑いつつ、その姿に憧れを抱く諸星。
そして、さっそく翌日から裏社会の人間に名刺を渡して歩き、何かあればすぐに連絡するよう伝えて回るのだった。
その効果もあってか、諸星のもとにあるチンピラから1本の電話が入る。聞けば、自分の兄貴分が自宅に麻薬を所持しているという。
さっそく巡ってきたチャンスに意気揚々と現場に向かう諸星。そこにいた暴力団員を得意の柔道で投げ飛ばし、強引な尋問で徹底的に追い詰めていくのだが……。
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観る人を選ぶ作品だけど、ハマる人はとことんハマる。原作も速攻ポチったしね
「日本で一番悪い奴ら」
稲葉圭昭「恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白」を原作とした映画で、白石和彌監督、綾野剛主演で2016年に公開された作品である。
今作は日本警察史上最大の不祥事と呼ばれる北海道警察の「稲葉事件」を題材とした映画なのだが、恥ずかしながら僕はこの事件のことをまったく知らず。
そもそもこの映画が2016年に公開されていたことを今回初めて知ったくらいの無知人間である。
新型コロナウイルス感染拡大による自粛で家にいることが多くなり、必然的に映画を観る本数が増える状況。その中で評判がよかった今作をAmazonの配信で見つけて観てみたところ、めちゃくちゃおもしろかったという流れである。
いや、ヤベえよこの映画。
白石和彌監督の作品は「凶悪」くらいしか知らない(未視聴)けど、こんなすごい作品もあったんかい。
2016年に話題となった映画といえば「君の名は」と「シン・ゴジラ」だが、もしあの当時今作を知っていれば、僕は断然こっちをおススメする。
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恐らく観る人を選ぶ作品だし、どちらかと言えば男性向け。
だが、ハマる人は間違いなくにハマると断言できる。主演の綾野剛の憑依っぷりがクセになること請け合いである。
原作の「恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白」も視聴後にさっそくポチってしまった。
昔から警察が大嫌い。これまで関わった警察関係者の10割がクソだった
今作における僕の率直な感想としては、
「うまくやりよったなオイ」
これである。
主人公諸星要一の勤務する北海道警察の基本方針は「検挙数こそ正義」。
部署ごとに検挙数がノルマとして課され、それを達成できない場合は批判の対象になる。個人の評価も検挙数によって決まるため、刑事たちはあらゆる手を使って数字を上げようと躍起になる。
特に銃の検挙は高く評価されるために「S」(スパイ)とのパイプの太さが出世に直結すると言っても過言ではない。
あまりの無法地帯っぷりに最初は驚く諸星だが、村井の助言もありその方針にどっぷり染まっていく。それどころか、恥も外聞もなく積極的に暴力団員と関わることで次々と銃を検挙し、いつしか“銃器対策課のエース”などと呼ばれるまでに。
街を歩けば暴力団員が頭を下げ、夜の女は色目をつかう。
署に戻ればダントツの検挙数を誇るエース。
順風満帆の毎日に、完全に調子づいていく諸星だが……。
物語前半〜中盤まではいわゆる“理想に燃える熱い男”が組織の中で揉まれ、かつての理想をあっさり忘れて“模範的な組織人”に変わっていく様子が描かれている。
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僕自身、警察組織のしょーもなさを感じた経験は一度や二度ではない。
今作のような不祥事や隠蔽体質などではなく、もっと日常的な話。
幹線道路の出口でシートベルトの取り締まりをしたり、トンネル内に必要以上にオービスを設置したり。明らかに点数稼ぎとしか思えないやり方で違反者を見つけ出し、そのつど安くない罰金と減点を科す。
市民の安全を守ることが本来の使命であるにも関わらず、まるで違反者がいないと自分の評価が落ちると言わんばかりの振る舞いである。
また、道ゆく人間を突然呼び止めて強引な荷物検査を実施したり。
拒否すればとことんしつこく付きまとい、大勢で取り囲んで相手が根負けするまで追いすがる。
その反面、交番で道を聞いても即答できず、バイクの盗難にあった際にやることと言えば書類処理のみ。
どいつもこいつも意味不明に態度が横柄で、いざというときにはクソの役にも立たない。僕はこれまでの人生で税金泥棒以外の警察官に会った試しがない。
これを言うのが正解かどうかはわからないが、はっきり言って僕は警察官が大嫌いである。交番勤務の制服警官も嫌いだし、キャリアと呼ばれるエリート警察官も嫌い。これから警察官になろうとする人間、引退した人間もひっくるめて全員嫌いである。
言い過ぎだと言われても知ったこっちゃない。これまでの人生で関わった警察関係者が全員クソだったという事実は動かしようがないのである()
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警察嫌いな僕でもそれを忘れさせる説得力。いつの間にか「いいぞ、がんばれ」と応援していた
それほど警察嫌いな僕だが、今作にはそういった諸々を忘れさせる説得力がある。
点数を稼ぐために暴力団員を脅し、便宜を図る代わりに銃を“上納”させる。
「S」(スパイ)と協力してロシアの密売ルートを開拓し、チーム全員で儲ける。
「どうせ日本で出回るんだから、先に警察が買っても同じ」という理屈で上層部から予算を引き出す。
そして、ひとたび悪事が明るみに出れば諸星1人に罪をなすりつけて知らん顔。
点数稼ぎのために平気で汚い手を使い、横柄な態度で悪びれる様子もない。「街の安全」を大義名分に掲げてはいるが、実際に考えているのは自分のことだけ。市民の生活などは二の次、三の次。
諸星要一を始め、今作に登場する刑事は僕がもっとも嫌いなタイプなのだが、なぜかそれを感じさせない。
それどころか、中村獅童演じる黒岩勝典との息の合った連携を「いいぞ、がんばれ」と応援し、銃の密輸に失敗して上司から見捨てられそうになる諸星を「ふざけるな」と思ってしまったほど。
立場が変わればクロもシロになるというか、いつの間にか作品にのめり込んで諸星と同じ“組織人”と化す自分がいた。
最初に申し上げた通り、「うまくやりよったなオイ」という言葉がめちゃくちゃしっくりくる。
綾野剛の憑依っぷりは最大の見どころ。役作りに手を抜かないこだわりが骨太感とポップさの絶妙なバランスを生み出した
そして、この作品を見どころ満載の傑作(僕の中では)に昇華させているのは、何と言っても綾野剛の憑依役者っぷりである。
先輩刑事村井の最低なアドバイスを素直に受け入れてしまうゴリゴリの脳筋から、黒岩勝典との一触即発のやり取り。
服装も態度も変わってイキり倒し、肩で風きって街を闊歩する様子。
さらに本人も今作の目玉とコメントしていた覚せい剤を初めて使用するシーン。
初期の純情体育会系から“調子乗り期”を経て、一発逆転に失敗したあとのヤク中転落ダメダメ野郎まで。
諸星要一という、よくも悪くも“組織に忠実な人間”の約20年間にわたる変化を演じきった憑依力は文句なしに素晴らしい。
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もともと綾野剛は役作りには一切手を抜かないタイプ。「GANTZ PERFECT ANSWER」での首折れ演技をスタントなしでやったり「亜人」で凄まじい肉体美を披露したり。「怒り」でゲイカップルを演じるにあたって実際に共演者と同棲したり。役に対するこだわりはたびたび話題に挙がる。
今作でも主人公諸星要一が柔道の学生チャンピオンだったということで、ヒアルロン酸を注射して耳を潰そうとしていたとか。
綾野剛、役作りで耳にヒアルロン酸注射を考え監督に止められたhttps://t.co/hNW5ywAepC
ホテルでの同棲生活をスタートさせた。その期間は一緒にお風呂に入ったりキスしたり手をつないだり恋人同士として生活していたそうな…。 pic.twitter.com/71ZuMWXm49— NEWSポストセブン (@news_postseven) February 20, 2017
以前、綾野剛は若い頃の浅野忠信と雰囲気が似ていると申し上げたことがあるが、マジでそんな感じ。
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「新宿スワン」「亜人」といったメジャーどころの作品でもきっちり存在感を示し、「怒り」「楽園」での重厚な演技で観客の度胆を抜く。あらゆる役柄になりきる綾野剛の憑依力は、骨太感とポップさが絶妙なバランスで成り立つ今作においても十分発揮されている。
点数を稼ぐためには市民の安全など知ったこっちゃない警察組織のクソっぷりと、覚せい剤を使ったシーンだけで“それ以前とそれ以降”を表現してしまう綾野剛の説得力。
公開当時、存在すら知らなかったことがもったいなくなるくらいの見どころ満載の映画である。
諸星と小坂の車中でのやりとりはいらなかった。勝負どころでの過剰な演出によって少々興ざめ
なお一つ不満を挙げるとすれば、物語後半の諸星と新人刑事小坂亮太の車中でのやりとり。個人的にあそこは必要なかったと思っている。
「お前、何のために刑事(デカ)になったんだよ?」
「そ、それは……。公共の安全を守り、市民を犯罪から保護するためです」
「…………」
「自分、おかしなこと言いましたか?」
「……まあ、いいや」
ちょっとカッコつけ過ぎだったなと。
ここは「小坂の言葉に新人時代の自分がフラッシュバックして戸惑う諸星」というシーンなのだが、さすがにこの演出はあざと過ぎた。
理想に燃える新人刑事小坂がやりたい放題の捜査に唖然とする様子を見て、警察のなんたるか()を諭そうとする諸星。
だが、そんな自分が昔ヘマをして消えていった先輩刑事村井とまったく同じことをしている事実に気づき、何とも言えない気持ちになる。
というのを表現したかったのだと思うが、まあいらなかった。
わざわざあんな演出を加えなくても諸星が村井と同じ道を歩んでいることはわかるし、この取り引きがうまくいかない未来も容易に想像がつく。
ここから諸星が一気に転落していく序章となる大事なシーンだったのに、あの演出によって無理やり現実に引き戻されてしまった。
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あの件がどう評価されているのかは不明だが、少なくとも僕にとっては不要以外の何物でもない。せっかくリアリティとポップさが入り混じった傑作(僕の中では)なのに、勝負どころでやり過ぎたせいで少々興ざめさせられた。
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