ムザラネ専用機と化したサニー・エドワーズ。ここまで塩に振り切って徹底する覚悟ってのもお見事ではある。どホームの試合とはいえ【結果・感想】

ムザラネ専用機と化したサニー・エドワーズ。ここまで塩に振り切って徹底する覚悟ってのもお見事ではある。どホームの試合とはいえ【結果・感想】

「ボクシング記事一覧リンク集」へ戻る
 
2021年4月30日(日本時間5月1日)、英・ロンドンで行われたIBF世界フライ級タイトルマッチ。同級王者モルティ・ムザラネが戦績15戦全勝4KOのサニー・エドワーズと対戦し、3-0(120-108、115-113、118-111)の判定でエドワーズが勝利。4度目の防衛に失敗したムザラネは2008年11月以来、約12年半ぶりの敗戦となった。
 
 
2019年12月の八重樫東戦から約1年4ヶ月空いての防衛戦を迎えたモルティ・ムザラネ。
対戦相手のサニー・エドワーズは元WBC王者チャーリー・エドワーズの弟で、普段はS・フライ級を主戦場としている選手である。
 
試合は序盤からガードを上げてプレスをかけるムザラネに対し、エドワーズは足を使ってムザラネの正面を外しまくる。
1発目のリードにカウンターを被せて前進を止め、絶えずスイッチを繰り返してムザラネに的を絞らせない。
 
さらに中盤以降は試合の流れを渡さないように自分から手を出し続け、ムザラネの連打を抑え込む。
 
終盤はやや動きが落ちたものの、最後まで足を止めることなくポイントを拾い続けたエドワーズが見事王座奪取に成功した。
 
僕のスレイマン・シソコ!! 鋭い左と距離感。でもトップレベルと比べて若干バネが足りないかな…。キーロン・コンウェイもがんばってたな
 

ジャッジの採点にずいぶん開きがあったね。冗談抜きで「前に出ながら腕を振ってればポイントにする」ジャッジがいるの?

まず今回の試合、もっとも気になったのがジャッジの採点にやたらと開きがあったこと。
僕は結果をわかった上でこの試合を視聴したのだが、一番の興味は「何でこんなに採点がブレてるの?」である。
 
ジャッジ1人がフルマークで、もう1人は115-113とわずか1R差。残り1人のジャッジは118-111と大差でエドワーズを支持しているとのこと。3-0でエドワーズ勝利には違いないが、とにかく採点のブレが大き過ぎるのではないか。
 
で、試合を観た感想としては、
「エドワーズの圧勝ですね」
「115-113はねえわ」

 
僕のド素人採点ではムザラネが取ったラウンドは1つか2つ。そのうち1つもかなり微妙な印象で、体感的には119-110が妥当なのではないか。
フルマークをつけたジャッジに対して「ホームタウンデシジョンだろ」という意見を見た気もするが、いや、そうか? むしろフルマークもあり得る試合だったんじゃないの? と。
 
それこそ圧勝度合いとしては物議を醸した2020年12月のエマヌエル・ロドリゲスvsレイマート・ガバリョ戦以上。
 
ガバリョの勝ちもなくはない? かな? ロドリゲスはトレーナーが井上パパを恫喝してから運が一気に離れていったよな
 
冗談でも何でもなく、ボクシング界には「前に出ながら腕を振ってればポイントにしちゃう」ジャッジが一定数いるのでは? とすら思えてくる。
 

サニー・エドワーズはよくいる英国のトップ選手。一方のムザラネは典型的なファイター。まさかムザラネのプレスから逃げ切るとは

と同時に、サニー・エドワーズの徹底した試合運びに感心させられた次第である。
 
僕自身、このサニー・エドワーズの試合を観たのは今回が初めてだったのだが、パッと見では「英国のトップ選手によくいるタイプ」という印象。
 
低いガードによく動く足。
見切りとカウンターが得意で上体の柔軟性もある。
 
その反面、身体全体のフィジカルは心もとなくKO率も低い。
基本は判定狙いのアウトボクサー。
 
リー・ハスキンスやカール・フランプトン、ライアン・バーネット、ジョシュ・ケリーなど。兄のチャーリー・エドワーズも含めて英国のトップ選手は比較的これ系のタイプが多い。
今回のサニー・エドワーズも彼らと同系統と言えるのではないか。
 
 
一方のモルティ・ムザラネはブロック&リターンに特化した典型的なファイター。
高いガードと強靭なボディ、根気よく相手を追い回すプレスでひたすら前進を続けて連打に巻き込むスタイル。
ゾラニ・テテやジョン・リエル・カシメロといった強豪を立て続けにKOするなど、これまでムザラネのプレスから逃げ切った選手は皆無である。
 
で、この試合のエドワーズもムザラネのフットワークから逃げ切るのは難しい。前回の八重樫東同様、どこかで打ち合いに巻き込まれてKOされてしまうのでは? と言われていたわけだが……。
 
結果はまさかの逃げ切り判定勝利。
過去、誰もなし得なかった「ムザラネのプレスから12R逃げ切る」という快挙を達成してしまった。
 
ディミトリー・ビボル危なッ! クレイグ・リチャーズ強かったよね? そろそろベテルビエフとの統一戦をだな…。カネロを狙うよりも
 

“ムザラネ専用機”と化したエドワーズ。何だかんだで最後まで走り切っちゃったよ

今回のエドワーズはとにかく“ムザラネ専用機”と化していた(気がする)。
 
初弾のリードにフックのカウンターを被せて出鼻を挫く。
絶えず左右に動いて正面を外し、一定の距離を保ったまま遠い位置から軽打をヒット。
 
中盤からはカウンターを警戒したムザラネが手を出さずにジリジリと距離を詰める攻め方に切り替えたが、それを見たエドワーズは今度は自分が先に手を出す作戦に。
ガードの上だろうがお構いなしに遠間からパンチを当て、ムザラネの動きを一瞬止める。
そして、ムザラネが次のアクションを起こす前にすぐさまサイドへ退避。
 
右回りの際はサウスポーに。
左回りの際はオーソドックスに。
スイッチを繰り返してムザラネの距離感を狂わせ、距離が近づけば連打を浴びせてスペースをこじ開ける。
リングを広く使って動き回り、ロープを背負わされれば強引に抱きついてブレークを待つ。
 
疲れの見えた終盤は近場での打ち合いとクリンチが目立ったものの、何だかんだで一度も足を止めることなく完走してみせた。
 
西田凌佑すげえわ。比嘉大吾対策は堤聖也よりもはるかに上。比嘉はどこを基準にするかだろうな。相手を選んで王座戴冠を狙うか
 

作戦を貫徹したエドワーズの精神力は素晴らしい。ここまで塩に徹したのであれば、それはお見事ですよ

申し上げたようにモルティ・ムザラネはブロック&リターンに特化した選手で、過去、ムザラネのプレスから12R逃げ切った選手は誰もいない。
この試合でもエドワーズの進行方向に先回りしたり、反対側からボディを伸ばしたりとこれまで同様、様々な工夫が見られた。
 
恐らく本人も「どこかで捕まえればいい」と思っていたはずで、ある程度エドワーズの体力が落ちてくれば必然的に打ち合いが発生する、敵地ということも加味して後半のどこかで倒せればと考えていたのではないか。
 
 
だが、今回のエドワーズはそういった諸々をまったく意に介さず。ひたすら一定の距離を保ち、ポイントアウトでの勝利のみを目指していた。
冗談でも何でもなく、1Rの最初の1秒からラスト12Rの3分間が終了するまで一度たりとも「倒してやろう」という気を起こすことはなかった気がする。
 
“初志貫徹”という言葉はよく聞くが、実際にはそこまで簡単なことではない。
疲れてくれば動き回るのがしんどくなるのは当然だし、打ち合った方が楽なのでは? という思いがよぎったとしても不思議はない。
相手選手の雰囲気に触発されて打ち合いを始めてしまうケースもあると聞く。
 
そういった“誘惑”にいっさい飲まれることなく、用意した作戦を最後までやり通す。
 
しかも、
・体力のある序盤はカウンター勝負
・中盤からは絶え間ないスイッチ+自分から手を出す
・終盤はクリンチまみれの泥仕合いもOK
という三段構えの作戦。
 
自分の動きが落ちることを想定し、相手の力量を認めた上で作戦を練りそれを貫徹する。この精神力は文句なしに素晴らしかった。
 
意味不明なタイミングで激闘王をおっ始めて撃沈した八重樫東とは桁が違うとしか言いようがない。
 
拳四朗vs久田哲也感想。久田には厳しい試合だったな。拳四朗攻略には待っちゃダメなんだろう。そして改めて具志堅用高の偉大さ
 
正直、今回の試合がおもしろかったとは言い難い。
王座戴冠を果たしたサニー・エドワーズが今後、長期政権を築けるかどうかも何とも言えない。
アルテム・ダラキアンやフリオ・セサール・マルティネス、中谷潤人といった対抗王者と比べてどうか? と聞かれれば「う〜ん」となってしまう。
 
だが、ここまで“ムザラネ専用機”として作戦を遂行したのであれば、それはやはりお見事である。
 
というより「ムザラネのプレスから12R逃げ切った初めての選手」になったことはもう少し強調されてもいいと思うんですけどね。
 

エドワーズがよかったことには違いないが、ムザラネにとっては不利な要素が多すぎた。タノンサック・シムシーに比べればはるかにマシだけど

とは言え、今回の一戦がエドワーズにとっては完全なホームの試合だったこともまた事実。
 
ジャッジ3人が自国の人間で、なおかつ38歳のムザラネは1年4ヶ月ぶりのリング。
さらに下記を見ると、新型コロナウイルスの影響で海外からの渡航者は10日間の隔離+期間中に2度の検査を義務付けられているとのこと。
 
「日本からイングランドへ入国する際の新たな水際措置について」
 
エドワーズのパフォーマンスが素晴らしかったことには違いないが、ここまで不利な状況を強いられたムザラネには多少なりとも同情したくなる。
 
 
まあでも、京口紘人との世界戦(未遂)でタノンサック・シムシーが受けた仕打ちに比べればはるかにマシではあるが。
 
・クソ狭いホテルの一室にエアロバイク1台のみで14日間監禁
・対戦相手の京口は日々スパーリングに精を出し好調をアピール
・しかも中継を担当するのは京口の身内
・その間、興行主がコロナの規定違反で50万円の罰金
・前日に京口のコロナ感染が判明→試合が中止に
 
「東京オリンピックに向けて海外選手の招聘」とかいうクソのような実績のためにわざわざ呼び出され、散々振り回された挙句に試合前日に中止が決定するというゴミっぷり。
もはやこれは“人災”と呼んでも差し支えないレベルの仕打ちである。
 
京口試合前日にコロナ陽性で全試合中止←センスのかけらも感じないぞ。タノンサックが気の毒過ぎるし…。つまりダナ・ホワイトは神
 
あれ以来日本人vs海外選手の世界戦がパッタリと行われなくなったが、あのやらかしが少なからず影響しているのでは? と僕は思っている。
 
現実問題として、ホテルの一室にエアロバイクだけ渡されて2週間監禁された挙句、自由に行動していた対戦相手がコロナに感染→前日に試合中止なんて、誰が好き好んでそんなふざけた国に行くんだよっつー話。
 
一連のクソっぷりは思い出すだけでいまだに胸糞が悪くなってくるのだが、それに比べれば今回のサニー・エドワーズvsモルティ・ムザラネ戦ははるかに健全だったと言えるのかもしれない。
 
「ボクシング記事一覧リンク集」へ戻る
 

Advertisement

 




 

 
【個人出版支援のFrentopia オンライン書店】送料無料で絶賛営業中!!