久保隼が徐燦(シュ・チャン)にKO負け。敵地で散り、2階級制覇ならず。久保隼への罵詈雑言が井岡vsノクノイ戦並みに酷過ぎる【結果・感想】
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2019年5月26日、中国江西省撫州市で行われたWBA世界フェザー級タイトルマッチ。同級王者徐燦(シュ・チャン)にランキング10位の久保隼が挑戦し、6R1分16秒TKOで徐燦が勝利。初防衛に成功した試合である。
2017年4月にS・バンタム級王座を戴冠した久保隼が2階級制覇を目指して挑んだ今回。
サウスポーの構えから打ち出す小刻みな右とシャープな左でヒットを重ねた久保は、1Rを優勢のまま終える。
ところが2Rからは積極的に前に出る王者徐を止められず。すぐさま久保もインファイトでの打ち合いに切り替えるが、なかなか流れを変えられない。盛んにボディを狙うものの、逆に顔面への的確なヒットを許し徐々にダメージを蓄積させていく。5Rには前のめりでダウンを喫するなど、劣勢を覆せず。
そして迎えた6R。
果敢に前に出続ける久保だが、王者の連打は止まらず。
リング中央で細かいパンチを浴び続け、足元がふらついたところでレフェリーが試合をストップ。その瞬間、王者徐燦の初防衛が決定した。
「完敗の伊藤雅雪。ヘリングに最後まで追いつけず…。これ系の相手はどうしても鬼門になるよな。この先避けては通れないけど」
久保隼残念だった。王者の徐燦って初めて観たけどなかなかよくない?
2階級制覇を狙った久保隼が負けた。
僕は同日に行われた木村翔vsカルロス・カニサレス戦はGBPのFacebook配信で視聴したのだが、この試合は観ておらず。今回、後追いでようやく視聴した次第である。
「木村翔アカンか…。カニサレスの連打をもらいまくって失速。余裕の減量が逆に仇になったか? 村田vsブラントっぽかった」
感想としては、
「ダメだったか~。がんばったけどな~」
といった感じか。
相当厳しい試合だったとは聞いていたが、うん、確かに。
それでもやろうとしていることは見えたし、そんなにクソミソに言われるほどでもないような……。
というより、王者の徐燦ってそこそこよくないっすか?
上背は久保隼と同じくらいだが、背中周りを中心に上半身が一回り大きくゴツい。手足も長くそこそこ動ける。
インファイトでも長いリーチを持て余さずに連打を出すことが可能で、前後左右への運動量も豊富。あまりパンチ力は感じなかったが、僕の好きな“デカくて動ける人”という印象。
何となくだが、元WBCバンタム級王者の薬師寺保栄っぽいなぁとも思ったり。
この選手に対しても「王者の器ではない」旨のコメントを見かけたが、実際どうなんでしょうか。そこまで低レベル呼ばわりするような選手なの?
長身サウスポーの久保隼の特徴がまったく活かせない相手だった。むしろ階級を下げた徐燦の方が大きく見えるくらい
試合についてだが、とりあえず今回は久保隼の持ち味がまったく活かせない相手だったなぁと。
身長176cm、リーチ180cmの久保に対し、王者徐は身長、リーチともに175cm。
また、もともと久保はS・バンタム級から階級を上げた選手だが、徐はキャリアのスタートはS・フェザー級やライト級。
階級屈指の長身とリーチを活かした打ち下ろしを武器とする久保にとって、上背、フィジカルともにアドバンテージがないのはめちゃくちゃキツい。
それはもう、1Rの時点で明白だった。
開始直後、久保はこれまで通り小刻みな右リードとノーモーションの左で相手を迎えうつスタイルで徐と対峙する。
絶え間なく動かす右をつっかえ棒にして相手との距離を測り、肩口からスパッと出す左を顔面へ。極力斜に構えて急所を遠ざけ、長身を活かした打ち下ろしの左で仕留める。これがこの選手の勝ちパターンである。
「久保隼陥落…。ダニエル・ローマンすごかった。こりゃ勝てんわ。まるでゴロフキンじゃねえかww」
ただ、申し上げたように今回は体格的なアドバンテージはゼロ。アップライトに構える分、むしろ徐の方が上背があるようにすら見える。
おかげで右リードには迫力が感じられず、ヒットはするが相手はビクともしない。得意の左ストレートも打ち下ろしではなく、見上げるようなフォームで打つせいで威力は半減してしまう。
立ち上がりはやや慎重だった徐も2R目には警戒を解いてどんどん腕を振っていたのを見ると、恐らく初回の差し合いで久保にKOパンチがないことがわかったのだと思う。この段階で自分の勝ちパターンを封じられてしまったのは本当に痛かった。
プランBの接近戦への切り替え。顔面とボディの耐久力勝負。インファイトの差で負けたけど、作戦は悪くなかったと思う
そして2R以降、久保陣営はプランBに切り替える。
ガードを上げて自ら距離を詰め、インファイトで徐のボディに狙いを定める。
僕はこれまで距離をとって左を狙う久保隼しか観たことがなかったので、これに関してはちょっと意外だった。また、自分の勝ちパターンが通用しなかった際の切り替えの早さもなかなかよかったのではないか。
「いやだから! ブリージールがワイルダーに勝てるわけねえから。って、ブロンズ・ボンバアアアァァァ…!!」
ガードを上げ、じわじわと距離を詰める久保。
徐の動き出しを狙って右をヒットし、肩をぶつけて距離を潰す。
腰を折って低い体勢で急所を隠し、アッパー気味の左をボディへ。
そして、徐の反撃姿勢が整う前にバックステップで安全圏に退避。
すぐさまガードを上げて近づき、被弾覚悟で懐での打ち合いを展開する。
なるほど。
顔面への被弾はある程度OKで、徐のボディを徹底的に攻める作戦か。
離れて勝負しても追いつかれる。
右リードだけでは徐が止まらないことは1Rでわかった。
それなら自分から前に出て打ち合うしかない。
自分の顔面と徐のボディの耐久力勝負。一か八かの作戦ではあるが、どちらがより長いラウンドを耐えられるかに勝機を見出す。
手持ちのネタを最大限活かす方法としては悪くない気がする。
ただ、思った以上に徐が近場での連打が得意だったこと、久保が芯で食い過ぎたことが早めのレフェリーストップを呼び込んでしまった。久保のボディもそれなりに効いていたとは思うが、首がガクッとのけぞるもらい方はあまりにおっかない。
要するに、インファイトの精度に差があり過ぎたというのが一番の敗因かなと。
「ルイスがジョシュアに勝利! 動けるデブが動ける2mに勝利! 19年ぶりの何してくれてんねん案件やな」
久保隼への罵詈雑言が井岡vsノクノイ戦並みにエグい…。いつもは適当に流すけど、今回は直視できないレベル
表題の通りなのだが、今回は久しぶりに選手に対する罵詈雑言が凄まじい。
試合の結果記事や感想を適当に漁ったところ、久保隼への罵声・罵倒がドン引きするレベルでエグい。普段は「おうおう、また荒ぶっとんなぁ」程度に眺めているのだが、今回はあまりの酷さに吐き気を催し、数十秒でそっ閉じさせていただいた。
これ、何となく既視感があると思っていたのだが、ようやく思い出した。
2017年4月の井岡一翔vsノクノイ・シットプラサート戦。
あの試合も消化不良気味の判定勝ちを収めた井岡に対して凄まじい罵詈雑言の嵐が巻き起こったが、今回の久保隼に対する罵声・罵倒もそれに近いものがある(気がする)。
「井岡完敗やな。ニエテスが凄すぎた。個人的には111-117かな。インファイトで歯が立たないのは予想外だった」
さすがに久保隼には井岡一翔ほどの知名度はないが、
長谷川穂積が試合を酷評
↓
ファンのスイッチが入る
↓
罵詈雑言の嵐
↓
井岡一翔引退
流れとしてはこれとほぼ同じ。
負けた久保隼が今後どうするのかは不明だが、仮に引退となった場合はマジで目も当てられん。
井岡の一度目の引退がファンの罵声によるものだとは言わないし、久保隼の進退がそんなことで決まるとも思わない。
ただ、それを踏まえた上で今回の雰囲気はヤバ過ぎる。
長谷川穂積が偉大なレジェンドであることに異論はないが、毎度のことながら周囲の万能感が過ぎる。長谷川穂積が何かを言うたびに全員が「右向け右」になる風潮、ちょっと何とかならんかね。
プロがすごいのは当たり前だから。選手に対するリスペクト()って、そういうことじゃないから
逆に必要以上に選手を擁護するのも違う(と思う)。
以前にもちょろっと言ったが、「ファンは素直に目の前のものに喜んでればいい」「選手のすごさがわかれば批評なんかできない」という極論はどうも好きじゃない。
僕は「素人がプロに意見するな」「だったらお前がやってみろ」理論がクソほど嫌いなのだが、実はこれと大差ないと思っている。
「応援しない理由が見当たらん中谷正義vsテオフィモ・ロペス。勝てばvsリチャード・コミー? 通過点の試合を無傷で乗り切れ」
そもそもプロのスポーツ選手がすごいのは当たり前で、自分にできないことをやっているスーパーマンというのはすべての大前提である。なので、彼らを「ザッコww」「ゴミ」呼ばわりしたり、今回の久保隼に対する罵詈雑言のようなヤツがアウトなのは明白。
ただ、「自分ができないことをやっている人間には何も言うな」というのもまた違う。
プロスポーツは優劣をつけてナンボなのに、なぜ優劣の話をしたらダメなのか。まったく意味がわからない。
しかも、そのスーパーマン同士がしのぎを削る舞台に突然パンピーがランキング入りしたりするからタチが悪い。
「街ですれ違ったBリーグの選手はめちゃくちゃ背が高くてゴツかった。彼らは一般人なんか足元にも及ばないくらいすごい。だから、日本のバスケに対してゴチャゴチャ意見するな」
いやいやいやいや。
プロがすごいのは当たり前だから。
スーパーマン同士の舞台にパンピーが足を踏み入れたらダメだから。
だって、プロ野球選手に対して「コンビニでバイトしてる兄ちゃんよりも速い球を投げる。だから彼らはすごいんだ」とはならんでしょ。
「ラッセルさんちっす! 年一のお仕事ご苦労さまッス! キコ・マルチネスに勝利し2019年の勤務を終える。長谷川穂積とは一味違う?」
ましてや格闘技選手は2、3か月前から試合に向けての準備に入るわけで。
中には1試合のために仕事を辞めるケースもあると聞く。
それが正解か不正解か、競技一本で生活できない世界が健全かはともかく。たった1試合にすべてをかけてリングに上がる人間がすごくないわけがない。パンピーと比較するなど言語道断、失礼極まりない話である。
それを「選手のすごさがわかれば批評なんかできない」などと「自分、悟っちゃいました」みたいな感じで言われても……。
これこそまさに「選手に対するリスペクト()が足りない」というヤツだと思うのだが。
まあ、この話はだんだんとエキサイトしてきちゃうのでこの辺で止めますが。
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