長谷川穂積のベストバウトはあの試合だろ? 壮絶な打撃戦の最中に長谷川を覚醒させ、その後の道すじを決定した7R【引退】
WBC世界S・バンタム級王者長谷川穂積が2016年12月9日、現役引退を発表した。
神戸市内で会見した長谷川は「これ以上証明するものがなくなった」として引退を表明。国内ジムの所属選手では異例の「現役世界王者のままで引退」し、日本ボクシング史に新たな歴史を刻んだ。
今年9月にウーゴ・ルイスを敗り、5年5ヶ月ぶりに王座に返り咲いた長谷川だが、引退を決めた一番の理由は11月6日にWBO世界同級王者ノニト・ドネアが陥落したことだと言われている。
「波乱のマグダレノ勝利!! ドネアを判定で下して王座初奪還!! 感覚派のドネアがサウスポーへの弱点を露呈」
国内最年長の35歳9ヶ月で世界王座に返り咲き、3階級制覇を達成した日本のレジェンドが17年間の現役生活に別れを告げる。
「内山再戦でコラレスに惜敗!! 2-1の判定でリベンジ失敗で引退か?」
レジェンド長谷川穂積が現役引退。一番いいときに辞める決断も長谷川らしい
長谷川穂積が現役を引退した。
バンタム級時代の10連続防衛や先日のウーゴ・ルイス戦での見事な勝利など。
この選手が日本ボクシング界に残した功績は計り知れない。
まさしくレジェンド。
「打たせずに打つ」スタイルを信条としながら、強敵に真正面から向かっていくファイティングスピリッツは観る者の心を打ち、多くのファンを獲得した。
スマートなスタイルと好対照なメンタル。さらに普段のキャラクターとのギャップで人気を博した選手である。
「無敗対決レイ・バルガスvsギャビン・マクドネル予想。かなり興味深い試合です。長谷川穂積の後がまに座るのはどっちだ?」
恐らく、これだけ多くのボクシングファンを虜にした選手は辰吉丈一郎以来だったのではないだろうか。
本人も言っていたように「今が一番いい辞めどき」というのは本当にその通りなのだろう。
僕もこの選手にはいろいろと言ったのだが、それでも長谷川穂積が偉大な選手であることに疑う余地はない。
「言うほどいい試合かこれ? 長谷川穂積がウーゴ・ルイスにTKO勝利で5年ぶりの王座奪取!!」
とりあえず現役生活お疲れさま。
最後までナイスファイト。
そんな感じである。
長谷川穂積のベストバウトはファン・カルロス・ブルゴス戦。これは絶対譲れません
「奇跡の勝利」と呼ばれたウーゴ・ルイス戦から約3ヶ月。
17年間の現役生活に終止符を打った長谷川穂積だが、これだけ長期間トップ戦線に君臨し続けたことはすごいのひと言である。そして、当然ファンの間にも、印象に残る試合がいくつかあるはずである。
2004年の鳥海戦?
2006年のウィラポン戦Vol.2?
2010年のフェルナンド・モンティエル戦?
2011年のジョニゴン戦?
それとも、足の靭帯を切断しながら勝利した2015年のオラシオ・ガルシア戦?
やっぱりラストのウーゴ・ルイス戦?
「長谷川穂積は引退するべきか? 現役続行するべきか? カルロス・ルイス戦での辛勝を受けて考えてみる」
鮮烈な勝利も豪快なKO負けも印象深い長谷川だが、僕があえてベストバウトを挙げるとすれば2010年11月に行われたファン・カルロス・ブルゴス戦だろう。前戦でモンティエルにKO負けを喫し、フェザー級に階級アップして挑んだ再起戦である。
「ガンボアvsカステリャノス感想。ガンボアの身体がデカ過ぎてアレだった。ところで内山の今後は?」
え? それ?
その試合? と思われるだろうか。
はい、その試合です。
長谷川穂積史上、ベストバウトだと思っているのがファン・カルロス・ブルゴス戦です。
理由は本当に単純明快で、すげえおもしろかったから。
「5度ダウンのカールソンが山中に敗れる!! 神の左()を活かすための神隠しの右()が冴え渡るww」
身体の大きな相手に果敢に向かっていく長谷川。
自分のパンチを先に当て、ブルゴスの反撃を紙一重でかわす長谷川。
打たれた分だけ打ち返し、最後にはブルゴスを後退させた長谷川。
「ひっでえ試合。チャーロ兄がKO勝利って、ヘイランドとかいうヤツ、試合できる状態じゃねえじゃんか」
ちょうどモンティエルに負けて防衛記録がストップした直後で、バンタム級の減量苦も限界にきていた時期の再起戦。
さらに母親を亡くした後だったこと、いきなり2階級上のタイトルマッチに挑んだこと。
さまざまなスパイスが加わり、豪華な演出のもとで行われたタイトルマッチだったこともあり、あの激闘には大いに感動させていただいた。
「ホプキンス引退!! ジョー・スミスにリングアウト負けで伝説に終止符。出がらし状態の51歳がラストマッチで豪快に散る」
適正階級を完全にオーバーした長谷川。やっぱりいきなりのフェザー級は無理があったよ
長谷川穂積のベストバウトはファン・カルロス・ブルゴス戦。
申し上げたように、これが僕のファイナルアンサーである。もちろん異論は認める。
とはいえ、当時はあの雰囲気にダダ乗りしていた部分があり、かなり水増しして記憶している可能性が高い。
なので、今回の長谷川の引退報道を受けて再度観直してみたところ、やっぱりベストバウトだったww
「覚醒した田中がフエンテスに圧勝!! “中京の怪物”が絶不調のフエンテスを5RKO」
だが、あのド派手な打ち合いに大熱狂した当時と違い、いくぶん冷静なテンションで観たおかげでいろいろ気づくこともあった次第である。
恐らくあの試合は、長谷川穂積にとっての一つの転換期だったのではないだろうか。
「【予想】サマートレック再び。八重樫東が8ヶ月ぶりに防衛戦に挑む。井上尚弥に善戦した強者とどう戦う?」
まず試合を観て思ったのが、あのときの長谷川は適正階級を完全にオーバーしているということ。
開始直後にリング上で向き合った両者の絶望的な体格差や、ブルゴスの踏み込みの力強さなど。
ウィラポンをKOした右フックを何発もらってもケロッとしているブルゴスを見て、僕は完全に階級を誤っていると感じてしまった。
左のフェイントに合わせて踏み込んできた瞬間、あれだけのタイミングでヒットしたにもかかわらずまったくビクともしない。これはもう技術云々、スピード云々の話ではない。ただただ体格差、階級の壁というヤツである。
バンタム級での減量苦から逃れるための階級アップだったのはわかるが、さすがにいきなり2階級も上げてのタイトルマッチというのは無理があったとしか思えない。
「無謀にもほどがあるケル・ブルックがゴロフキンに5RTKO負け!! セコンドのナイス判断」
フェザー級のパワーにパワーで対抗しちゃった長谷川。肝を冷やすスイングをかいくぐり、ブルゴスの顔面にパンチを当てていく
そして、長谷川穂積は体格差のある相手にパワーで対抗してしまうのである。
足を踏ん張り、上半身に力を入れ、大きく反動をつけて腕を振る。
リーチ差のあるブルゴスの懐に入り、前傾姿勢でフルスイング。
相手の反撃を頭と上半身の動きだけでかわし、鼻先を通過したパンチにカウンターを合わせてさらに強く腕を振り回す。
「久保隼vsセルメニョ感想。ナイスファイト久保。万全の準備をした上での好試合。え? リゴンドーとやれ?」
ブルゴスが1発のパンチを出す間に長谷川が打つパンチは2、3発。
スピードでは上回っているが、肝を冷やすようなタイミングでブルゴスの拳が長谷川の顔をかすめる。
「今日の長谷川は力み過ぎ」
「ここで一か八かの勝負をする必要はない」
「冷静になって、もっと動いた方がいい」
「こんな積極的に打ち合う長谷川の試合を観たことがない」
解説の面々も一様に驚きを隠せない。
というか、放送席の人数多いなww
実況、飯田覚士、西岡利晃、浜田剛にゲストでくりぃむしちゅー上田か。
みんなが同時にしゃべって声が被りまくっとるww
途中から完全に上田の出番がなくなっとったやんけww
「井上vs河野感想。モンスター井上がタフボーイ河野に勝利。これが井上尚弥。ロマゴンだろうが関係ない」
7Rに打ち合い上等の長谷川穂積が覚醒する。いろいろな意味でターニングポイントとなったラウンドだった
「連続防衛を重ねていた時期に、お客さんを楽しませるためにあえてKOを狙っていた。それで本来の『打たせずに打つ』ボクシングを見失ってしまった部分がある」
キャリア終盤、1発被弾すると我を忘れて打ち合いを始めるシーンが目立った長谷川だが、その原因として本人が口にしていた言葉である。
「海外挑戦にはインパクトのあるきっかけが必要なのかね? NHK BS1「あの負けで私は強くなった「ボクシング・長谷川穂積」」を観て」
もちろん多くのファンも同じように言っていたし、僕自身もそう思っていた。
だが、この試合を観直した結果、どうやらそれは違うのではないかと思い始めている。
長谷川穂積が足を止めて打ち合うようになった一番のきっかけはこのファン・カルロス・ブルゴス戦。
そして、それが完全に顕在化したのが7Rの攻防だったのではないだろうか。
「ダウン応酬に期待? 山中vsカルロス・カールソン予想。12度目の防衛を果たして具志堅の記録に王手を」
7R。
残り1分6秒。
小さく右を出したブルゴスに対し、パンチの戻り際を狙って長谷川が踏み込む。
その瞬間、長谷川の左に合わせてブルゴスが斜め下から左を振り抜く!!
これが長谷川のアゴにヒット!!
大きくバランスを崩し、右足でダウンをこらえながらロープ際に下がる長谷川。
これを見たブルゴスが小走りに距離を詰め、大振りの左フックを打ち込む。
この局面で長谷川の選んだ対抗策は打ち合い。
ブルゴスの左フックに全力の左フックを返す。
相打ちに近い形でパンチが交錯し、一瞬お互いの動きが止まる。
すぐに足を踏ん張り、反撃姿勢に入る長谷川。
このチャンスを逃したくないブルゴスも再び距離を詰めてモーションに入る。
実況席から「動け、動け!!」というくりぃむしちゅー上田の声が聞こえる。
しかし、長谷川はその場で真正面からブルゴスと打ち合う。
回転力やパンチスピードでははるかに上回る長谷川。
ブルゴスの外旋回のパンチの内側を突き抜け、顔面を捉える。
だが、パワーで勝るブルゴスの左も長谷川の顔面にヒット。
一進一退の激戦に、会場からは悲鳴混じりの大声援が上がる。
この試合のハイライトであり、自分を見失って打ち合いに身を投じる長谷川穂積のメンタルが形成された瞬間でもある。
「亀田和毅日本復帰!! また亀田の試合が観られるぞ。協栄ジム所属でライセンス申請」
さまざまな要素が重なって生まれた神試合ブルゴス戦。同時に「スピードのない長身の相手」という得意分野を開拓した
申し上げたように、ファン・カルロス・ブルゴス戦は僕の中でのベストバウトであり、劇場型ボクサー長谷川穂積が誕生した試合でもある。
あの試合の後、ジョニゴンやキコ・マルティネス、そして先日のウーゴ・ルイス戦など、結局最後まで我を忘れて打ち合う癖は抜けることがなかった(本人はウーゴ・ルイス戦の打ち合いは冷静だったと言っていたが、実際はかなりカッカしていたのではないかと思っている)。
ブルゴス戦の長谷川の動きを観て思ったのが、とにかくパンチが1発多いこと。
あそこで打つのを止めれば、あそこで下がっておけばというシーンで、必ずもう一歩前に出て打ってしまうのである。
もちろん身体が大きくパワーのあるブルゴスに対抗するためには仕方なかったのだろう。それでもあの試合以降の長谷川を観る限り、いきなりのフェザー級タイトルマッチは余計だったのかもしれない。
まだまだ全盛期の反応をキープしていたこと。
フェザー級のパワーに対抗するために打撃戦を選んだこと。
相手がスピードのないブルゴスだったこと。
さらに母親を亡くした直後だったことも含め、いろいろな要素が混ざり合った結果があの神がかり的な試合だったわけである。そして、結果的に長谷川が自分のボクシングを崩してしまった試合でもあったのだろう。
と同時に、長谷川は「スピードのない長身選手」と噛み合うことがわかった試合だったとも言える。
ファン・カルロス・ブルゴス戦後、長谷川の対戦相手はジョニー・ゴンサレス、オラシオ・ガルシア、カルロス・ルイス、ウーゴ・ルイスと、比較的長身でそこまで速くないタイプが多い。
つまり、キコ・マルティネスのように小回りの効く相手にはあの打ち合いは通用せず、ウーゴ・ルイスくらいのスピードなら打ち勝てる。
オラシオ・ガルシアやカルロス・ルイスにはスピード差で勝利できたが、一段上のジョニゴンにはやられてしまった。そういうことなのではないだろうか。
「サンタクルスがキコ・マルティネスにKO勝利!! インファイターのマルティネスを5Rで沈める」
そういう意味でも、長身でスピードもあるレイ・バルガスとの一戦が実現しなかったのは本当に残念だった。ぜひとも大みそかに日本で開催してほしかったのだが。
「レイ・バルガスがムニョスに勝利し、また一歩王座へ近づく。でも見た目ほど圧勝じゃなかったな」
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