女子フィギュアが4回転だけの競技なんて100%嘘だから。フィギュアのシニア年齢引き下げによる影響。競技人口が減って競技レベルの向上スピードも落ちるんじゃない?
2022年2月4~20日まで北京で開催された冬季五輪。
2月15~17日の日程でフィギュアスケートの女子シングルが行われ、総合255.95点を挙げたアンナ・シェルバコワ(ROC)が金メダルに輝いている。
だが、優勝候補筆頭と言われた15歳のカミラ・ワリエワが禁止薬物が検出されたにもかかわらず出場を許可されたこと、17日のフリーで5度転倒して総合4位に沈んだことが世間に衝撃を与えた。
またこの問題を受け、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は五輪出場選手の年齢引き上げを協議する考えを示している。
さらに2022年6月にタイで開かれる国際スケート連盟の総会では「シニアの年齢を引き上げ」が重要な議題になるとのこと。
フィギュアスケートのシニア年齢が15歳から17歳に引き上げられると? 演技内容がガラッと変わる、競技人口の減少が起きる? かも?
フィギュアスケートのシニア年齢引き上げ問題。
先日の北京五輪で15歳のカミラ・ワリエワが禁止薬物が検出されたにもかかわらず出場を許可されたこと、その影響? でフリーで大崩れし総合4位に沈んだことは記憶に新しい。
これを受けて女子フィギュアにおけるロシアの度を超えた? 選手育成が話題となったわけだが……。
今年6月にタイで行われる総会でいよいよシニア年齢の引き上げが検討されるとのこと。
「フィギュアのシニア年齢を17歳に引き上げか。「女子は14~15歳がピーク」露コーチが抱く期待と懸念ポイントとは」
上記の記事内、ロシアでコーチを務めるセルゲイ・ダヴィドフ氏によると、シニア年齢が引き上げられることによる影響は決して小さくない。それこそ演技内容がガラッと変わる可能性や競技人口が減少する懸念もあるとか。
僕もこの意見はその通りだと思っていて、仮にシニア年齢が17歳からになると女子フィギュアの勢力図が大きく変貌する気がしている。ロシア(ROC)の一強状態が続く現状が健全かどうかはともかく、競技レベルの向上スピード、演技の方向性には間違いなく変化が生じるだろうと。
女子フィギュアは“4回転を飛ぶだけの競技”ではない。断じて違う。得点を見れば一目瞭然
まず先日の北京五輪後に
「ここ数年の女子フィギュアは“4回転を飛ぶだけの競技”と化している」
「ロシアの選手は4回転ばかり。その他の技術はそこまで高くない」
という意見をいくつも見かけたが、それは絶対にないと断言させていただく。
近年のフィギュアが「ジャンプの回転数や高さばかりが重視され、それ以外の要素が軽視されている」ことに納得いっていないようだが、いや、そんなことはないでしょと。
「フィギュアスケート 女子総合の得点内訳」から引用
フィギュアの採点はジャンプを含む「技術点」とそれ以外の「構成点」に分かれているわけだが、ロシア(ROC)の選手が“4回転だけ”ではないのは上記の内訳を見れば一目瞭然である。
●アンナ・シェルバコワ
・構成点
フリー:47.04
SP:46.67
・技術点(ジャンプ以外)
フリー:23.57
SP:18.43
計135.71
●アレクサンドラ・トルソワ
・構成点
フリー:44.36
SP:44.34
・技術点(ジャンプ以外)
フリー:21.29
SP:17.91
計127.9
●坂本花織
・構成点
フリー:46.5
SP:45.79
・技術点(ジャンプ以外)
フリー:22.47
SP:18.0
計132.76
●カミラ・ワリエワ
・構成点
フリー:44.14
SP:47.07
・技術点(ジャンプ以外)
フリー:24.49
SP:19.11
計134.81
●アンナ・シェルバコワ
ジャンプ:101.36
ジャンプ以外:135.71
●アレクサンドラ・トルソワ
ジャンプ:107.08
ジャンプ以外:127.9
●坂本花織
ジャンプ:81.65
ジャンプ以外:132.76
●カミラ・ワリエワ
ジャンプ:74.22
ジャンプ以外:134.81
繰り返しになるが、ロシア(ROC)の選手は決して“ジャンプだけ”ではない。
銅メダルを獲得した日本の坂本花織が「スケーティング技術なら世界一」という意見を目にしたが、それもちょっと違う。少なくとも北京五輪の舞台においてはスケーティング技術でもシェルバコワの方が坂本よりも高得点を記録している。
もっと言うと、フリーで5度転倒したワリエワもジャンプ以外の部分では坂本を上回っていた。
まあ、ワリエワに関してはSPで叩き出した構成点47.07がとんでもなかったという話でもあるのだが。
東京オリンピック2020総括。競技を1秒も観ていない僕が今回のオリンピックを評価する。アスリートファーストという言葉が世界一嫌いになった
演技を観れば“4回転だけ”などと思うはずがない。正確には女子フィギュアは“4回転が決め手となる”競技
そもそも論として、1度でも女子フィギュアを観ればロシア(ROC)の選手が“4回転だけ”などと思うはずがない。
SPでのカミラ・ワリエワの演技。
東京五輪のゴタゴタですっかりオリンピックに嫌気がさしていた僕だが、これを観て「何じゃコイツ」となったのは先日申し上げた通り。
悲痛のワリエワ4位。女子フィギュアの尋常じゃないレベルアップ。10代半ばでピークを迎えて2度目の全盛期を待ってくれないロシアの構造?
・長い手足を意のままに動かす身体操作技術
・四肢の先端まで神経が行き届いた繊細な動き
・最初のジャンプの失敗すらも際立つほどの滑らかさとスピード感
加えて会場を覆い尽くすような禍々しい“ドス黒さ”はまさしく「絶望」と呼ぶにふさわしい。
あまりのハイレベルさ、競技レベルの向上っぷりに開いた口がふさがらない。僕の知っている女子フィギュアとはまったくの別物というか、2014年ソチ五輪で時間が止まっている僕にとっては完全に隔世の感だったことをお伝えしておく。
禁止薬物によるゴタゴタで興味がわいたのがワリエワを観たきっかけだが、もはやドーピング問題などどうでもいい。圧倒的な“絶望”の前ではすべてが小事になり下がる。
金メダルを獲得したアンナ・シェルバコワのフリーでの演技。
5度の4回転ジャンプを取り入れたアレクサンドラ・トルソワ(銀メダル獲得)の演技。
勝手にシェルバコワを強化版キム・ヨナ、トルソワを強化版安藤美姫と名付けたわけだが、あながち間違いではない気がする。
1秒も観てなかった五輪を女子フィギュアだけ観たんですが。
強化版安藤美姫みたいなヤツが4回転決めまくって、強化版キム・ヨナみたいなヤツが総合力でトップに立って。で、最後に絶望がすべてを黒く染めるのかと思ったら…。
2014ソチで時間が止まってる僕としてはこのレベルアップは尋常じゃない。
— 俺に出版とかマジ無理じゃね? (@Info_Frentopia) February 17, 2022
で、銅メダルを獲得した坂本花織のフリーの演技が下記。
シェルバコワやトルソワに劣っているとは思わないが、やはりジャンプに関しては埋められない差を感じる。ロシア(ROC)の選手が鮮やかに飛んでフワッと着地するのに対し、坂本花織のジャンプはスピードや高さ、キレなどあらゆる面で及ばない。
要するに今の女子フィギュアは4回転を飛ぶだけの競技ではなく、“4回転が決め手になる”競技というのが正解なのだろうと。
ハイレベルなスケーティング技術を身に着けた超人たちが極限状態の中で高難度のジャンプを成功させる。
女子フィギュアは決して4回転だけの競技ではないが、頂点に立つには4回転が必須。そして、それを実現するには14~15歳がベスト。シェルバコワやトルソワなどの17歳がギリギリのラインと言えるのかもしれない。
自分の強みで勝負する、高得点を狙える分野を強化するなど基本中の基本。ジャンプもつなぎもすべてひっくるめてのプログラムなんだよ
あとはアレですよね。
「4回転を5度飛んだトルソワでも金メダルを取れなかった。ジャンプばかりに力を注ぐよりもそれ以外の技術を高めるべき」という意見も極論過ぎるなと。
見るからにがっしりした身体つきのトルソワは演技にも十分な力感がある。高難度のジャンプを連発できるのもこの強靭なフィジカルがあってこそ。
その反面、柔軟さやしなやかさには欠けるというか、ジャンプ以外の部分ではワリエワ、シェルバコワ、坂本に一段劣る。
つまり、トルソワはジャンプという自分のストロングポイントで勝負しているに過ぎない。
得意分野を伸ばすことで足りない部分を補っているだけの話で、それを競技全体の問題にすり替えるのはあまりに短絡的である。
というより、構成点であれだけ高得点を出しつつ高難度のジャンプを成功させている時点で女子フィギュアが4回転だけの競技ではないのは明らかなのだが。
自分のストロングポイントで勝負する、高得点を狙える分野(ジャンプ)を強化するなど基本中の基本。ジャンプもスピンもなぎもすべてひっくるめてのプログラムなわけで。
なお下記の記事によると、現在トルソワは5回転ジャンプ挑戦を検討しているとか。
「北京銀のトルソワ 前人未到の5回転ジャンプは「これまでのところ自分の中だけで」=タス通信」
その他、ペア転向や陸上競技への転向といった報道も見た記憶が……。
女子フィギュアの低年齢化を考えるとここから先は確実に右肩下がりになる。本人もこれからの競技人生をあれこれ模索中なのだと想像する。
競技人口の減少とロシアの一強時代の終焉? 日本人選手にもチャンスが広がるかもね
シニアの年齢が17歳に引き上げられた際に起こりそうなのは、
・競技レベル向上スピードの鈍化
・競技人口の減少
・ロシア一強時代の終焉
だいたいこんなところだろうか。
上述の通り女子フィギュア選手のピークは14、15歳。高難度のジャンプと高いスケーティング技術を両立するには身体が成長しきる前がベストなのは間違いない。浅田真央の全盛期が15歳だったこと、安藤美姫が初めて4回転を成功させたのがジュニアだったことを考えると、これはロシア(ROC)の選手に限った話ではない。
つまり、シニアの年齢を17歳からにすると多くの選手がオリンピック出場資格を得る前に全盛期を過ぎてしまうことになる。
それによって2014年ソチ五輪から加速度的に進んだ競技レベルの向上スピードが鈍化、シニア世代の注目度が下がって金メダルのうまみも減る→競技人口が減少→ロシアの一強時代の終焉という流れが起きるのではないか。
ロシアのセルゲイ・ダヴィドフコーチは「シニアの演技が個性的なものになる」と演技の方向性の転換を予想しているが、実際にはどうなるか。
女子フィギュアに「ジュニアの方がハイレベルで高難度のジャンプが観られる」という逆転現象が起きれば、徐々にシニアの価値? が下がってゆくゆくは競技人口の減少につながる気がするのだが。
ただ、ロシアの牙城が崩れることで日本人選手にチャンスが広がるのは悪くない。
僕自身、女子フィギュアの醍醐味は14、15歳を過ぎてから経験を重ね、20歳を過ぎたあたりでもう一度ピークを引っ張り出せることだと思っている。
それを実現したのが2006年トリノの荒川静香や今回の坂本花織である。
渦中のワリエワがフリーでガタガタに崩れたのに対し、坂本花織はSP、フリーともに安定した演技で自己ベストを更新した。ああいうメンタル面の成熟も10代の選手とはひと味違う部分と言えそう。
てか、そもそもジャンプの評価が見直された結果が今なんじゃなかったっけ?
2010年バンクーバーで銀メダルに終わったエフゲニー・プルシェンコが「オリンピックの金メダリストが4回転を飛ばないのは信じられない」と発言したり。
「4回転なき金メダルは妥当か?論争を呼ぶプルシェンコの“異議”。」
当時はプル様()を支持する声が大きかった記憶があるけど。
ようやく望む状況になったのに、今度は「ジャンプだけの競技はつまらない」「フィギュアに大人の魅力を!!」などと言い出すのは何とも理解しがたい話である。
ほお、こんなことになっとるんか。
浅田真央が年齢制限で五輪出場できなかったときは逆の論調だった気がするけどな。
あと浅田真央がキム・ヨナに負けたときは「ジャンプの評価が低すぎる。リスクを負って挑戦した選手が報われない」って言ってたのに、今は芸術点ガーとか喚いてんのもよくわからん。 https://t.co/FK5dEpNzJa
— 俺に出版とかマジ無理じゃね? (@Info_Frentopia) February 19, 2022
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