映画「負け犬の美学」何か違う。「敗者にも物語がある」に超違和感。“物語”って言葉が嫌いなのもあるけど、勝者こそすべてのリアルが最優先であってほしい【感想】
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映画「負け犬の美学」を観た。
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「負け犬の美学」(2017年)
40代半ばを迎えたスティーブの職業はプロボクサー。
とうの昔に全盛期を過ぎ、戦績も49戦13勝3分33敗と大きく負け越し。ここ3年間は勝利がないまま、それでもリングに上がり続ける冴えない中年男である。
当然家計は苦しく美容師である妻マリオンの稼ぎと自身のアルバイトでどうにか生計を立てている状況。娘のオマールが通うピアノのレッスン代すらも滞納してしまうなど、裕福とはほど遠い生活を送っていた。
そんなある日、娘のピアノ教室を訪れたスティーブは彼女の講師からオマールに才能があるかもしれないことを聞かされる。だが、今のままではオマールの夢であるパリ国立高等音楽院への入学どころか、新しいピアノを買い与えることすらできない。
そこでスティーブは一念発起し、欧州王座戦を控えたタレクのスパーリングパートナーに志願する。
ところがタレクのトレーナーはスティーブの経歴を聞いた途端に興味を失う。タレクの相手を務めるには戦績、年齢ともにスティーブはあまりにも力不足だったのである。
だが、どうしても引き下がれないスティーブは自身の経験やタレクの弱点を矢継ぎ早に挙げてトレーナーに食い下がる。そして、とうとうその場で契約を取り付けてしまうのだった。
後日、妻マリオンの反対を押し切りいよいよタレクの練習場所を訪れるスティーブだが……。
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「負け犬の美学」があまり好きじゃない。映画としてはよくできていたと思うが、何か違う
まず最初に申し上げるのだが、僕はこの映画をあまり好きではない。
表題の通りなのだが、今作のような「敗者にも物語がある」的な作品に強烈な違和感を感じているのが一番の要因である。
一応言っておくと、映画自体はめちゃくちゃよくできていたと思う。
世の中には表舞台で輝く一握りのスターがいる。だが、その裏に数十倍、数百倍の敗者の存在がある。
その1人1人にも唯一無二のドラマがあり、彼らも自分が主人公の人生を生きている。
冴えない中年ボクサー、陽の当たらない側の人間を哀愁たっぷりに演じたマチュー・カソヴィッツは文句なしにすばらしかったし、妻オリオン役のオリヴィア・メリラティもかわいかった。
タレク役のソレイマヌ・ムバイエがやたらといい動きをしているなと思ったら、実は元WBA世界S・ライト級王者だったり。
家族を守る父親としての自分と、大好きなボクシングを辞められない自分との葛藤。その他、含みのあるラストや迫力満点のボクシングシーンも含めて見どころは満載で、高評価のレビューが多いのも納得である。
もっと言うと、僕自身こういう“日陰者”と呼ばれる人間にスポットを当てたヒューマンドラマは嫌いじゃない。
新日本プロレスの棚橋弘至主演の映画「パパはわるものチャンピオン」は文句なしに感動したし、黒人初のメジャーリーガーの伝記映画「42 〜世界を変えた男〜」は僕の中でのフェイバリット・ムービーの一つとも言える作品。
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今作もそれらに迫るクオリティと言っても過言ではない気がする。
でも、何か違う。
「物語」という言葉が嫌い。でも、フィールド外での選手の人間性に需要があるのは間違いない
恐らくだが、これは近頃の僕のテンションが影響しているのだと思う。
ここ最近「すべての選手に物語がある」という言葉をちょいちょい耳にする。
ボクシングで言えば「リングに上がる選手にはそれぞれドラマがあり、勝者、敗者問わず彼らの物語は多くの人の心を打つ」的なヤツ。
もっと言うと、選手の紡ぐ物語を知ってもらえれば、よりその競技(ボクシング)に興味を持つ人も増えるという主張。
僕がもともと「物語」という言葉が嫌いなのもあるが、ここの考えに強烈な違和感を感じているのである。
もちろん選手の人生、人間性にフォーカスすることが悪いと言っているわけではなく。
試合までの過程や周りの協力、仲間や家族の支えを可視化することにより、選手本人への思い入れがより強くなるというのは間違いない。
先日、RIZINファイターの矢地祐介が自身のYouTubeチャンネルで触れたジークンドーを取り入れてリングに上がったことが話題になっていたが、試合に臨むまでの過程がそのまま自己プロテュースになるケースは確実にある。
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また、毎年年末にTBSで放送される「プロ野球戦力外通告 クビを宣告された男達」では、プロ野球をクビになった選手のその後を追ったドキュメンタリーが注目を集めたりもしている。
フィールド外での選手の動向や言動、人間性に多くの需要があり、観る側の心を動かす可能性を秘めているのは紛れもない事実と言える。
“勝者こそすべて”という唯一絶対のリアルが最優先であってほしい。どれだけ努力したとか、境遇がどうかは別の話
ただ、そればっかりになるのはちょっと違うよねという話。
選手の人間性や置かれた境遇などを可視化してファンの心を掴む手法は間違いなく素晴らしいが、「勝ち負けよりも大事なものがある」とか「勝ち負けを超えた深い意味」などと言い出すのは違う。
「負け犬の美学」「敗者の美学」も大いに結構だが、やはりリングの上では“勝者こそすべて”という唯一絶対のリアルが最優先であってほしい。
どれだけ競技に真摯であるとか、誰々の協力があったからここまで来られたとか。そんなことは関係ない。
リング上で結果を出した者こそが勝者。
人間性?
品格?
家族の支え?
知ったこっちゃない。
極端な話、タバコを吸おうが連日飲んだくれようがどうでもいい。
どんな境遇だろうが怠惰な生活を送ろうが、本番で勝てばそいつが正義。
ろくに練習もせずに前の日まで夜更かしして、試合前にタバコを吸って。
試合中もヘラヘラ笑いつつ、トレーナーの指示も聞かず。
それで勝てるのであれば何も問題ない。
リングの上では“勝者こそすべて”というのが絶対のルールであり唯一のリアル。
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以前、元プロ野球選手の新庄剛志がテレビ番組で「野球はバイト感覚でやっていた」と発言してプチ炎上していたが、何がいけなかったのかが僕にはいまだによくわかっていない。
実際にバイト感覚で頂点までいけるのであれば、そんなの最高じゃんとしか言いようがないと思うのだが。
もちろん真摯に競技に向き合わない人間が勝ち残れるほど甘い世界だとは思わないし、表舞台で戦っている選手が競技に全力で取り組んでいないなどと言うつもりもない。
だが、それとこれとはまったく別の話。
何の努力もせずに結果を出す人間と、どれだけ努力しても結果が出ない人間がいるなら、やはり僕は結果を出した方が賞賛されるべきだと思っている。
重ねた努力は間違いなく尊いが、「勝利」という結果が一番上にあってこそのスポーツだろと。
順番が違う気がするんだよな。「試合で活躍→人間性に興味が湧く」というのが健全な流れな気が…
そもそも論として、“選手の物語”とやらを先に見せて、人柄や境遇を認知させてから本番の試合に引き込むという流れが僕にはいまいちピンときてない。
大きな試合で結果を残した選手が数週間後にTBS系列「情熱大陸」で特集されたり。たまたま観た試合が最高で、出場選手やチームに俄然興味が湧いたり。
先日も軽い気持ちで観たボクシングの試合にめちゃくちゃ感動した結果、大急ぎでその選手を調べたりもした。
不調の井上浩樹が負けたんじゃなくて絶好調の永田大士が王者を攻略したんだろ。覚悟を決めて試合に臨んだ永田大士に感動しました
「試合で活躍する」→「フィールド外での人間性や言動に注目が集まる」という方が僕の中ではよっぽど健全である。
繰り返しになるが、「すべての選手に物語がある」という考えを否定する気はまったくない。自らの境遇を可視化すること自体がプロデュースとなり、新規のファン開拓にもつながる。メジャースポーツ以外の競技の選手にとっては非常に大事なことなのだとも思う。
ただ、それがメインになるのはやっぱり少し違う。
“選手の物語”とやらを全面に押し出すのはいいが、あまりやり過ぎると押しつけがましくもある。
何度も言うように、最優先されるべきはリング上での結果。勝利こそが唯一のリアルであるべきだと思うわけで。
いや、決して“勝利こそ至上”がないがしろにされているとは思わないが、この数年でYouTubeやSNSを駆使してアウトプットするスポーツ選手が一気に増えたせいもあって、“選手の物語”とやらが強調され過ぎている気がしていたので。
そのタイミングで今作「負け犬の美学」を観て、あれこれ考えた次第である。
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てか、「物語」なんて別にスポーツ選手(ボクサー)だけのものではないですからね。
この前行った居酒屋の店員にも物語はあるし、今朝すれ違ったおっさんにだってある。
そして、道ゆくおっさんの歩んできた人生がスポーツ選手(ボクサー)の物語よりも薄いとは僕には思えないわけで。
やるなら年一のドキュメンタリーとか、たまに観る映画くらいがちょうどいいかなと。
まあでも、これだけオンラインが発達すると、スポーツの拡散・周知の方法も徐々にそちら側にシフトしていくのかな? とも思いますけどね。
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