不調の井上浩樹が負けたんじゃなくて絶好調の永田大士が王者を攻略したんだろ。覚悟を決めて試合に臨んだ永田大士に感動しました【結果・感想】

不調の井上浩樹が負けたんじゃなくて絶好調の永田大士が王者を攻略したんだろ。覚悟を決めて試合に臨んだ永田大士に感動しました【結果・感想】

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2020年7月12日、東京・後楽園ホールで行われた日本S・ライト級タイトルマッチ。同級王者井上浩樹がランキング1位の永田大士と対戦し、7R2分17秒で永田大士が負傷TKO勝利。見事王座奪取に成功した一戦である。
 
 
新型コロナウイルス感染拡大の影響で無観客で行われたこの試合。
 
開始のゴングと同時にガードを上げて前進し、左のオーバーハンドを放つ永田に対し、王者井上は足を使って左回りで永田の突進をさばく。
時おり抜群のタイミングでカウンターをヒットするが、躊躇のない永田の前進になかなか手数が増えない。
 
そして3R。
ラウンド開始から前に出続ける永田だが、中盤あたりで両者の頭が当たるアクシデントが起きる。
このバッティングにより井上は右目から出血。これ以降、徐々に足が動かなくなり、永田に押されるシーンが目立ち始める。
 
6Rから足を止めて打ち合う井上だが、まったくペースが落ちない永田を抑えきれず。7Rも劣勢のまま時間が経過し、残り20秒を切ったところでレフェリーが井上の傷をチェックするように指示。
ドクターチェックの結果、続行不可能とみなされ試合終了。永田大士の王座戴冠が決定した。
 
 
なお、敗れた井上浩樹は試合翌日に現役引退を発表している。
 
おかえりウォータース、おかえり井上浩樹、リゴンドーは生意気に1RKO勝ちしやがったのか。相変わらず生意気だな(違)
 

井上浩樹vs永田大士戦めちゃくちゃおもしろかった。永田のファイトにクッソ感動しちゃったっス

井上尚弥の従妹で日本S・ライト級王者井上浩樹の防衛戦。
当初は3月に予定されていた一戦だが、井上の怪我により延期。5月に再セットされたものの、今度は新型コロナウイルス感染拡大の影響で国内興行が全面的に自粛となり、ようやく迎えた今回だったわけだが。
 
 
僕自身、井上浩樹にはあまり興味がなく、負けて引退したと聞いても「あ、そうなんだ」「お疲れさまでした」という感想しかない。
めちゃくちゃ速攻で引退表明したな。せめてテレビ放送の後にしておいた方がよかったんちゃうの? などといらん心配をする程度の受け止め方だった。
 
正直、テレビ放送もスルーしてもよかったのだが、せっかくなので観てみるかと。
 
超おもしろかった。
 
毎回「興味ないけど観てみるか」→「なんじゃこりゃあああ!!」のパティーンばかりでええかげんにせえという話なのだが、実際おもしろかったのだから仕方ない。
 
理由は表題の通り。挑戦者永田大士のファイトにめちゃくちゃ感動した
 

前に出て左を打ち込む永田に、足とカウンターで対抗する井上

開始直後からガードを高く上げて腰を落とした構えでグイグイ前進し、左のオーバーハンドを打ち込んでいく永田。
対する井上は左回りでいなしつつ、タイミングのいいカウンターで迎撃する。
 
恐らく井上浩樹という選手は前手の右フックが得意なのだと思うが、その分右のガードはやや低い。
スピーディなカウンターとまっすぐ伸びる左ストレートは本当に鮮やかで、それが動きの中で自然に出せるのが持ち味。
 
だが、この日の永田はそれを逆手に取る。
井上の右サイドから回り込むように距離を詰め、ガードの真ん中から右リードを通しながらタイミングを測る。そして、微妙にフェイントを入れつつ外側から左のオーバーハンドをねじ込んでいく。
 
極力右フックの軌道に入らず、左ストレートは固いガードで耐える。
時おり井上の矢のようなワンツーで身体を揺らされるものの、いっさい躊躇することなく前進を続ける。
 
井上も足を使って何とかいなすが、まともにプレッシャーを浴びて後退。早くもロープを背負って連打にさらされるシーンが目立つ。
 
 
腰を落として前に出続け左を振るう永田と、足を使いながら鋭いワンツー、カウンターで対抗する井上。
序盤2Rは一進一退の展開が続く。
 
比嘉大吾vs堤聖也感想。比嘉は強打と連打の両立を模索中? 堤聖也の動きがめちゃくちゃよかったですね。でも判定結果には文句ないかな
 

3Rからガードを上げる井上。その分手数が減り、容易に永田の侵入を許す。1、2Rの前進で流れを引き寄せたよね

ところが3Rに入ると少し流れが変わる。
 
井上はこのラウンドから右のガードを高く上げ、リングを旋回するように大きく距離をとって対峙する。
一方の永田はこれまで通り。井上の右側から鋭角に距離を詰め、カウンターを警戒しつつ左オーバーハンドを狙うスタイル。
 
パッと見の流れは1、2Rと同じなのだが、一つ違うのは井上の手数が微妙に減ったこと。
右のガードを上げた分右リードが出なくなり、永田のプレスを止める術を失ってしまう。
 
 
大きくリングを旋回して距離をとる井上だが、奥手の左だけでは永田の前進は止まらない。開始20秒過ぎにはあっさりとロープを背負わされてしまう。
 
1、2Rで右リードに左を合わせられていることに気づいたのだとは思うが、正直これはちょっと判断をマズった感じがする。
右をもらう危険が減ったことで永田は一気にやりやすくなったし、むしろ真正面から迎え撃った方がよかったのかなぁと。
 
 
そして、50秒あたりでバッティングが起きるわけだが、アレも起きるべくして起きたというか。
 
井上の手数が減ったことで容易に中に入れる分、永田の前進はより大胆になる。井上にしてみれば、あれだけゴリゴリ前進されればさすがに足だけで逃げ切るのは難しい。
 
バッティングによって流れが変わったのは確かだが、決して不運とかそういう話ではない。むしろ、開始直後から攻め続けた永田が流れを引き寄せたという方が正解だろうと。
 
堀川謙一すげええぇぇ…。無敗の冨田大樹を圧倒TKOで東洋太平洋L・フライ級王座戴冠。ちょっとラベルが違いましたね
 

真正面からの打ち合いで圧倒する永田。フットワークが落ちた井上はプレッシャーを捌ききれず

それ以降、フットワークがガクッと落ちた井上は永田の前進をモロに浴びる展開に。
右目の出血を気にしながら何とかペースを引き戻そうとするが、永田のプレッシャーを止めきれず。
 
逆に永田は一気に調子を上げる。
井上の足が落ちたことで追いかける必要がなくなり、右を顔面、ボディにねじ込むシーンが増える。
真正面から井上をまっすぐ下がらせ、左のオーバーハンドから強烈な右フックにつなぐ流れ。
 
井上も右フックのカウンター1発に賭けるものの、一度リズムに乗った永田は止まらない。
動きは大胆ながらも常にガードは高く。致命的な1発だけはもらわない意思を感じさせる動きである。
 
 
いや、すげえわ。
マジですげえ。
 
井上の体調が悪かったとか、試合前から怪我に苦しんでいたという話もあるが、それ以上に。
 
危険な1発を避けつつ、ある程度の被弾は気合いで耐える。10Rを通して追い回す確固たる決意というか、この試合にすべてを賭けて臨んだことを強く思わせるパフォーマンス。
 
僕自身、この永田大士という選手を観たのは初めてだったのだが、最初に申し上げた通り“前だけを見据えた”一点突破のファイトにめちゃくちゃ感動してしまった。
 
 
てか、元日本フェザー級王者の梅津宏治にもちょっと似てるんだよな。梅津宏治は2007年に粟生隆寛と日本タイトルマッチを争った選手なのだが、なぜか僕はこの選手が好きだったのであります。
 
粟生隆寛引退。ビタリ・タイベルト戦おもしろ過ぎワロタw 確かに内山高志に勝てる日本人だったかもしれんね
 

不調の井上浩樹が負けた試合? 違いますよ。万全の準備を経て試合に臨んだ永田大士が王者を攻略した試合ですよ

繰り返しになるが、本当にすごい試合だった。
 
怪我の影響、減量苦の影響で井上浩樹が負けたという印象が強いが、そうじゃない。
正確には万全の準備を経てリングに上がった永田大士が見事に王者を攻略した試合である。
 
ある程度の被弾を前提で、得意の左を当てるための作戦を考えそれを忠実に実行する。
相手の足が止まれば真正面から打ち合い、長期戦での勝利を目指す。
 
当然苦戦を覚悟でリングに上がっていたのだと思うし、10Rにわたって追いかけ続けることも想定していたはず。
 
本人にとってはベストパフォーマンスに近い内容だったのではないか。
 
 
また、練習環境も制限される中、ここまでコンディションを仕上げて当日を迎えたことに関しては本当にリスペクトしかない。
 
一度目は相手の怪我で流れ、二度目は新型コロナウイルスの影響で流れ。
自分の責任ではないところで延期を強いられ、なおかつ国内では興行再開後の最初のタイトルマッチということでそれなりにプレッシャーもあったと想像する。
 
しかも無観客の後楽園ホールで、セコンドの声掛けも制限される状況。リングサイドにはフェイスマスクをしたドクターが陣取り、会場の異様な雰囲気はテレビ越しにもはっきりと伝わってきた。
 
これだけの逆境にもかかわらず、抜群のコンディション+パーフェクトな試合運びでの戴冠はちょっと胸にくるものがあった。
 
 
まあ、深夜放送ということで感情の起伏が3割増しで大きくなっていたのもあるとは思いますが。
 
 
なるほど。
コロナ禍によって練習環境だけでなく、仕事も厳しい状況に陥っていたのか。
 
「永田大士 王座獲得に自信 2度延期で「確率が上がった」
 
本当にすべてを賭ける思いでこの試合に臨んだんだろうな。
 

両者の覚悟の差が結果に表れたか? 井上浩樹は最初から負けたら引退と決めていたのかも?

なお、ここから先は僕の想像なのだが、今回の井上浩樹は割と早い段階で「負けたら引退」と決めていた気がする。
 
試合翌日の引退表明はどう考えても早過ぎるし、後日さっそくインスタライブなぞもしていたらしい。
 
他の選手は引退か現役続行かをしばらく悩み、数週間後から数か月後に答えを出すことが多い印象だが、それに比べるとあまりにサバサバしている。
 
通常は負けた悔しさや身体の状態、今後の生活などを天秤にかけて引退or現役続行の判断を下すのだと思うが、そういった諸々はすべて試合前に済ませていたのだろうと。
 
負けて「すみません」と謝罪するスポーツ選手に「謝るべきではない」と指摘することについて
 
何とも言えないところだが、この選手にとってボクシングは人生における一つのフェーズに過ぎないのかもしれない。
 
もちろんそれが悪いなどと言うつもりはなく、選手それぞれにスタンスがあっていい。
 
ただ、この試合にすべてを賭ける覚悟で臨んだ永田大士に対し、井上浩樹の中で何%かは“終わる準備”というものがあったとすれば、その部分で差が出たのかな? とも思う。
 
 
6、7Rは足を止めてリング中央で打ち合っていたが、体力のある序盤にああやって腹を括っていれば、もしかしたら違う結果になっていた可能性もあったり、なかったり?
 
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