シャクール・スティーブンソンvsロス・サントス前代未聞の手数の少なさ。でも僕はおもしろかったw 突進力のある連打型のサウスポーに可能性を感じたよ【結果・感想】
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2023年11月16日に米・ネバダ州で行われたWBC世界ライト級王座決定戦。同級1位シャクール・スティーブンソンと同6位エドウィン・デ・ロス・サントスが対戦し3-0(116-112、116-112、115-113)の判定でスティーブンソンが勝利。3階級制覇を達成した試合である。
当初この試合はフランク・マーティンとシャクール・スティーブンソンの対戦が予定されていたが、寸前でマーティンが撤退、代役としてランキング6位のロス・サントスが抜擢されいている。
正直、僕はマーティン陣営の判断は間違いではないと思っている。勝ち目の薄い試合で無敗の戦績を失うくらいなら他でチャンスを待つのも悪くない。
対戦を受けたロス・サントスは素晴らしいが、今のシャクールを避けることはそこまでおかしなことじゃない。日本の吉野修一郎を子ども扱いした前回のシャクールはそれくらいすごかった。
そんな感じで、ロス・サントスのがんばりに期待しつつも無難にシャクールがクリアするのでは? と思っていた次第である。
デビン・ヘイニーほど毎回ファイトスタイルを変えてくる選手も珍しいよな。プログレイスを圧倒、フルマークで2階級制覇
- 1. シャクールvsサントス、なぜかおもしろかった。この前の亀田vsドラミニもよかったんだよねw
- 2. ロス・サントスはいい選手だけど、シャクールには敵わないと予想していた。突進力と連打がどこまで機能するか
- 3. ロス・サントスのパフォーマンスがよかったよね。あそこまで崩されたシャクールは初めてだったんじゃない?
- 4. 鋭いジャブ+ダッシュ力を兼ね備えた連打型のサウスポーはシャクール攻略の糸口? ブローナーvsマイダナ戦を思い出したよ
- 5. やっぱり負傷の影響は大きいよね。左がほとんど出なかったし
- 6. 格上相手にあえて“手を出さない”作戦はありなんでしょうね。でも、現状シャクールに勝てそうなヤツは見当たらないけど
シャクールvsサントス、なぜかおもしろかった。この前の亀田vsドラミニもよかったんだよねw
まず全体の感想だが、普通におもしろかった。
手数が少なく盛り上がりに欠ける、終盤はブーイングまみれだった、前代未聞の凡戦、などなど。
評判の悪さは山ほど聞こえてきたので覚悟して視聴したところ……。
あれ? おもしろいぞ? と。
せっかく眠気覚まし用にコーヒーまで用意したのに。
睡魔に襲われるどころか楽しく完走できてしまった笑
もちろん「玄人好みの高度な技術戦!!」「両者のヒリヒリした駆け引きが〜」「達人同士の斬り合いを思わせる〜」などとイキるつもりはない。
あらかじめ「凡戦」と聞いていたせいでハードルが低くなったのもある。音を消していたのも大きい。
仮にリアルタイムで観ていたら僕もブチ切れていた可能性は高い。
また、もしかしたらここ最近好みが変わってきたのもありそう。
先月現地観戦した亀田和毅vsレラト・ドラミニ戦も周りでは大不評だったが、僕はなぜか楽しめた。両者とも手数が少なく膠着ばかりの試合だったのに、である。
亀田和毅がレラト・ドラミニに判定負け。でもめちゃくちゃ見ごたえがあった。ドラミニの予想以上の強さと想像と真逆の展開
レベル云々はともかく今回のシャクールvsサントス戦も系統は同じ。
徐々に「こういうのもアリかな?」と思えるようになった? のか?
まあ、それでも井上拓真vsリボリオ・ソリス戦はクソ中のクソですが笑
ロス・サントスはいい選手だけど、シャクールには敵わないと予想していた。突進力と連打がどこまで機能するか
試合についてだが、とりあえず判定が妥当だったかは何とも言えない。
採点しながら観ていたわけでもない、お互いに手数が少ないせいでそもそもヒットがない。スタッツ的にも前代未聞の省エネマッチだったとか。
ディフェンスのうまさ、当て勘のよさでシャクールが上回ったのだと思うが、ポイント自体はあんな感じなのだろうと。
そして代役に抜擢されたロス・サントスだが、過去の試合を観る限りなかなかいいと思っていた。
井上vsタパレス締結間近? でもタパレスじゃ厳しい? シャクールの相手のサントスは結構よさげ。リナレスが英国でジャック・カテラルと12回戦。諸々レビュー
突進力のある連打型のサウスポーで防御勘にも優れる。
一瞬の踏み込みスピード、パンチの威力その他。ハイレベルなライト級における上位ランカーっぽさのある選手(?)だなぁと。
たとえばワシル・ロマチェンコを苦戦させたジャーメイン・オルティスとどちらが上だろうか。
ただ、シャクール・スティーブンソンに勝てるか? と聞かれればちょっと厳しい(と思う)。
基礎スペックは高いものの、動きが単調で戦術の幅を感じない。これだと遠間からの連打を外された場合に早々に手詰まりになるのではないか。
それこそシャクールのカウンターを警戒するあまり中盤あたりから借りてきた猫になるパターンも?
もしサントスにチャンスがあるとすればあの突進力がどこまで通用するか、カウンターの脅威を振り切ることができるか、かなぁ。
最初に申し上げたようにサントスのがんばりには期待するが、概ねシャクールの勝利は固いと予想していた。
シャクール・スティーブンソンvsアルテム・ハルチュニャン、オシャキー・フォスターvsロブソン・コンセイサンのTOPRANK興行。フォスターvsコンセイサンはいい対戦だね
ロス・サントスのパフォーマンスがよかったよね。あそこまで崩されたシャクールは初めてだったんじゃない?
ところが結果は3-0の判定ながらも大接戦。
長〜〜いお見合いの末にシャクールがギリギリで逃げ切っている。
と同時にこれまで塩分濃度が高いと言われたシャクールのキャリアの中でも群を抜いて盛り上がりに欠けた笑
ただ、申し上げたように僕は試合を楽しめた。
特にロス・サントスのパフォーマンスはお気に入りである。
この選手は突進力と連打、1発の威力を兼ね備えたサウスポー。踏み込みの鋭さと近場での連打は試合前に漁った映像通りだった。
またシャクールがあれだけ警戒するということは、少ない交錯の中でも相当圧力を感じていたのかもしれない。
しかも持ち前のダッシュ力であっさり懐に入ることが可能。
もともとシャクールの持ち味は絶対的な空間支配? 距離を制する能力。どんな状況でも長い足を前に出したスタンスを崩されることはまずない。
前回の吉野修一郎も懸命に前に出続けたが、あの異様に長い足と距離感に阻まれまともに勝負させてくれなかった。
シャクール・スティーブンソンがジーマーでバイヤーすぎる件。吉野修一郎に6Rストップ勝ち。すでにエドウィン・バレロなら? パッキャオなら? の領域に見える
ところが今回のロス・サントスはそこをあっさり突破してみせた。
シャクールはロープを背負わされるたびにクリンチで逃れていたが、冗談抜きであそこまでシャクールが崩されたのは初めてな気がする。
鋭いジャブ+ダッシュ力を兼ね備えた連打型のサウスポーはシャクール攻略の糸口? ブローナーvsマイダナ戦を思い出したよ
もしかしたら鋭いジャブとダッシュ力を兼ね備えた連打型のサウスポーはシャクール攻略の可能性を持ったタイプなのかもしれない。
異様に長い足もサウスポー同士なら邪魔にならない。
一足飛びで懐に入れるダッシュ力があれば諸々の工程をすっ飛ばすことが可能。
で、懐に入った瞬間、シャクールの反撃姿勢が整う前に連打を浴びせることができれば。
もちろんジャブの差し合いである程度やれることは絶対条件になる。
2023年7月のウェルター級4団体統一戦で左構えのテレンス・クロフォードがエロール・スペンスの懐にあっさり侵入したが、ざっくり言えばアレと同じ感じである。
クロフォードよ、お前がNo.1だ(1年8か月ぶり2回目)。スペンスを2Rでほぼ攻略、赤子扱いする。スペンスにとっては相性最悪だったかも?
似たような試合を挙げるなら、たとえば2013年12月のエイドリアン・ブローナーvsマルコス・マイダナ戦だろうか。
マイダナの躊躇のない突進にブローナーが捕まり、2度のダウンを奪われた末に初黒星を喫した試合。
と言いつつシャクールはブローナーと違ってバックステップが利く。懐に入られた途端にガードを固めて亀になるブローナーほどの脆さはない。
やっぱり負傷の影響は大きいよね。左がほとんど出なかったし
もっと言うと、シャクールの体調が万全ならまったく違う展開になっていたはず。
あっさり懐に入れたのも左のカウンターがこない、中間距離での攻撃がジャブのみだったことが大きい。
動き出しの瞬間に左ボディをもらいまくった吉野と比べれば雲泥の差というか。サントスはほぼフリーパスで懐に入ることができた。
しかも左腕が使えない状態でもクリーンヒットはほとんど許していない。
サントスの手数が少なすぎたのもあるが、それをさせなかった(特に後半)シャクールの達人っぷりはやはりすごいのだろうと。
てか、シャクールはサウスポー相手でもあの左ボディを打てるんですかね。
テレンス・クロフォードがジュリアス・インドンゴを脇腹へのボディカウンター1発でKOしたことがあったけど。
格上相手にあえて“手を出さない”作戦はありなんでしょうね。でも、現状シャクールに勝てそうなヤツは見当たらないけど
スピードと連打を兼ね備えたサウスポーが遠間で手を出さず、あえて長時間のお見合いを続ける。
自分から攻める際は瞬間的な踏み込みからの連打のみ。シャクールが力を発揮する中間距離では動きを最小限に抑える。
僕は井上尚弥相手に11Rまで粘ったポール・バトラーのやり方はよかったと今でも思っているが、格上相手に勝機を見出すのに“手を出さない”作戦はありなのだと思う。シャクールのような“待ち”の達人相手にはなおさらである。
あと格上相手に“手数を減らしまくる”ってのはガチでアリなんだろうな。
僕は今でも井上尚弥戦のポール・バトラーはがんばったと思ってるし。バトラーもシャクールに完封されたジャメル・ヘリングもコンセイサンも怖さが足りなかったけど、今回のサントスはもらったらヤバいっていう怖さがあった。 https://t.co/OtW1v9f0wl
— 俺に出版とかマジ無理じゃね? (@Info_Frentopia) November 17, 2023
もちろん1発の威力、KOの怖さは必須。
ポール・バトラーには絶対的に“怖さ”が足りなかったが、ロス・サントスはシャクールの警戒心を煽ることに成功した。
井上尚弥がポール・バトラーをKOして4団体統一。“持たざる凡人”が超人攻略を目指した。これをもっと高次元でできればと思わせるバトラーの動き
ただ、それでも勝利まで持っていけそうなヤツは現状見当たらない。
ロス・サントスは確かにがんばったが、あくまでシャクールが負傷を抱えていたという注釈がつく。
じゃあ、他に誰かいるの? と思ってランキングを眺めてみたところ……。
いや〜、おらんのじゃないですかねぇ。
突進力のある連打型ならイサック・クルスが思いつくが、正直あの選手でも難しい気がする。
それこそ全盛期のゲイリー・ラッセルJr.ならいけたかも?
すでに2階級も離れちゃったけど。
一瞬の爆発力で言えばジャーボンティ・デービスとか?
でも、あいつらって仲よしこよしなんだっけ?
などなど。
あれこれと妄想を膨らませるという意味でもおもしろい試合だった。
少なくとも“僕は”楽しめたことをお伝えする。
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