リング禍の起こりやすい試合を考えてみる。まあ、僕はやっぱり超人が観たいよね。ルールに最適化された達人技【長文】

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メリーランド州イメージ
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2019年7月19日(日本時間20日)、米・メリーランド州で行われたS・ライト級12回戦。IBF世界同級3位マキシム・ダダシェフと同級8位サブリエル・マティアスの一戦は、11R終了TKOでサブリエル・マティアスが勝利。
 
敗れたダダシェフは試合後、頭部に異常を訴え病院に搬送。開頭手術を受けたが、4日後の23日(日本時間24日)に帰らぬ人となった。
これを受けて、ロシア・ボクシング連盟は事故の原因を独自に調査するとしている。
 
 
なおこの日はメインでテオフィモ・ロペスvs中谷正義のIBFライト級挑戦者決定戦が行われ、12R判定でロペスが勝利している。
 
「中谷正義惜しい! テオフィモ・ロペスに判定負け。でも間違いなく通用するとは思ったよね」
 

マキシム・ダダシェフの痛ましい事故。リング禍は偶数ラウンドに起きやすいらしいよ

先日、ボクシングのリングで起きた痛ましい事故。
IBFのS・ライト級挑戦者決定戦に出場したマキシム・ダダシェフが試合後に異常を訴え、病院で手術を受けたが残念ながら帰らぬ人に。
ボクシングファンの間でもこの出来事はかなり話題となっていて、今後の対策を含めた意見が飛び交っていた。
 
僕自身もこの話題にはかなり興味があり、過去に起きたリング禍について調べてみようともした。
 
だが、選手が亡くなった事例は数が少なく統計としては不十分。命に別状はなかったものの、試合後に体調不良に陥ったケースについてはデータ自体が見当たらず。
どうにも難しいなと思っていたところである。
 
Wikipediaに過去の「リング禍」についてのページがあったので、一通り読んでみたところ、
「リング禍」
 
ラウンド別に亡くなった選手の人数が記載されていたので、試しにそれをグラフ化してみた。
roundnum
これを見ると、奇数ラウンドに比べて偶数ラウンドでのリング禍が圧倒的に多いことがわかる。
これだけはっきりと偶数ラウンドでのリング禍が多いのには何らかの理由があると思うのだが、正直僕にはまったくわからない。
 

海外で起きたリング禍一覧。ラウンド数を減らすとリング禍を防げる可能性が高まる? かも?

また、ページ中部にある「日本国外のリング禍」 の項目には、過去に海外で起きたリング禍の事例が記載されている。
 
一応、世界タイトルマッチのラウンド数が15R→12Rに減らされた時期以降ということで、1982年から後の事例を挙げてみる。
 
・1982年11月13日
○レイ・マンシーニvs金得九(没)×
 
・1983年9月1日
○アルベルト・ダビラvsキコ・ベヒネス(没)×
 
・1995年5月6日
○ガブリエル・ルエラスvsジミー・ガルシア(没)×
 
・1999年10月9日
○ホセ・ルイス・バルブエナvsカルロス・バレット(没)×
 
・2002年6月22日
○フェルナンド・モンティエルvsペドロ・アルカサール(没)×
 
・2005年9月17日
○ヘスス・チャベスvsレバンダー・ジョンソン(没)×
 
・2007年12月25日
○崔堯森(没)vsヘリ・アモル×
 
・2013年11月16日
○ホルヘ・アルセvsホセ・カルモナ(没)×
 
・2019年7月19日
○サブリエル・マティアスvsマキシム・ダダシェフ(没)×
 
なお、今回は明らかに無茶なスケジュールや加齢による影響などで起きたと思われるものは省いている。
 
 
そして、亡くなった選手の直近の試合結果と試合間隔が以下。
 
・金得九:
1982年7月18日 5RKO勝ち→
1982年11月13日 14RKO負け(約4か月)
 
・キコ・ベヒネス:
1982年8月12日 5RTKO負け→
1983年9月1日 12RKO負け(約13か月)
 
・ジミー・ガルシア:
1994年11月12日 12R判定負け→
1995年5月6日 11RTKO負け(約6ヶ月)
 
・カルロス・バレット:
1999年5月8日 8RTKO負け→
1999年10月9日 10RTKO負け(約5ヶ月)
 
・ペドロ・アルカサール:
2002年4月19日 4RTKO勝ち→
2002年6月22日 6RTKO負け(約2ヶ月)
 
・レバンダー・ジョンソン:
2005年6月17日 7RTKO勝ち→
2005年9月17日 11RTKO負け(約3ヶ月)
 
・崔堯森:
2007年9月16日 12R判定勝ち→
2007年12月25日 12R判定勝ち(約3ヶ月)
 
・ホセ・カルモナ:
2013年7月19日 6R判定勝ち→
2013年11月16日 8RKO負け(約4ヶ月)
 
・マキシム・ダダシェフ:
2019年3月23日 4RKO勝ち→
2019年7月19日 11RRTD負け(約4ヶ月)
 
10R以降に事故が起きた事例が9試合中7試合。
直近の試合でKO負けを喫している事例が9試合中2試合。
前戦との試合間隔は概ね4〜6ヶ月で、最長が13ヶ月、最短が2ヶ月。
 
試合数が少ないのであくまで参考でしかないのだが、ラウンド数を減らすことはリング禍を防ぐために一定の効果を発揮する可能性は高い。
逆に試合間隔や前戦の結果はあまりリング禍とは関係がなさそうに思える。
というより、むしろ突然試合が決まったり、間隔が空き過ぎたりといった方が当日のコンディションに大きく影響するのではないか。
 
「ラミレスすごい。フッカーを圧倒して6RTKO勝利。でも、デラホーヤには見えないんだよな。むしろデニス・シャフィコフっぽい?」
 

コンパクトで貫通力の高いフック系のパンチを断続的にもらい続けるのが一番ヤバい?

ただ、これらの内容だけではいまいち説得力に欠ける。
なので、あまり気乗りがしないが上述の事故が起きた試合の最終2、3Rを中心に映像を漁ってみた。
 
 
ざっと観た上での個人的な感想としては、
 
・中間距離からやや近い位置での打ち合いが得意
・ディフェンスが緩い
・芯で食いやすい
・頭の位置が変わらない
・フットワークはない
・がんばり屋さん
 
なタイプが、
 
・手数が多い
・中間距離からやや近い位置での打ち合いが得意
・フック系のパンチをコンパクトに連打できる
・スタミナがある
 
相手と当たった際にリング禍が起きている印象。
 
中間距離でフック系のパンチを側頭部にもらい、首が一瞬ぐるんと曲がってすぐに元の位置に戻る。
今度は反対側からフックを被弾し、逆方向に首がぐるんと曲がる。
 
貫通力が高くコンパクトなフックを長いラウンドにわたってもらい続け、ギリギリまで踏ん張った上で最後に崩れ落ちる。
どの事例も横からの強烈な衝撃を繰り返し受け続けた結果、不幸な事故に至ったと言えるのではないか。
 
「ベテルビエフvsグヴォジクとかいう地球が割れるかもしれない統一戦。退路を断った爆腕と重量級の拳四朗」
 
「1発のメガトンパンチよりも軽いパンチをもらい続ける方が危険」という話はちょいちょい聞くが、正確には「コンパクトで貫通力の高いフック系のパンチ」と呼ぶべきなのかなぁと。
 
あくまで上記の事例に限った話ではあるが。
 
 
ちなみにだが、僕が観ていて怖いなと思った選手でパッと思い浮かぶのが、元L・ヘビー級ランカーのアンドレイ・フォンファラ。2017年6月にアドニス・スティーブンソンにTKO負けした試合などを観直すと、首がガクッと折れるシーンが多くてめちゃくちゃおっかない。
 
なお日本人選手を挙げるとすれば、断然辰吉丈一郎
リアルタイムではあまり知らないのだが、ハイライトを観るだけでもディフェンスのヤバさ(悪い意味で)ははっきりと伝わってくる。
 

リング禍防止策? 個人的にはレフェリーを3人にするのがいいかな? と思うけど…


そしてリング禍を防ぐアイディアだが、僕個人としてはレフェリーを3人にするのがいいのではないかと思っている。
 
リング上のレフェリーを主審として、両コーナーに1人ずつ(ジャッジとは別に)副審を配置する。その3人に同等に試合を止める権限を与え、1人でもストップを宣言した瞬間に試合を終了する。
 
現状、リング上のレフェリー1人だけでは反則打やマウスピースの管理など仕事も多く、どうしてもストップが遅れる可能性は捨てきれない。また、セコンドは選手に対する思い入れがあるため冷静な判断力を欠くことも考えられる。
 
つまり、第三者的な立場で試合を俯瞰できる人間を2人配置し、自分のコーナーの選手だけをチェックさせる。そうすれば、少なくとも今よりは多少安全面が向上すると思うのだが、どうだろうか。
 
もちろん費用や経験等、いろいろな問題が出ることは承知しておりますが。
 
「スタッツをほじくり返してボクシングの都市伝説を検証する。12Rはみんながんばるから11Rにがんばるべき? 初回は身体が硬い?」
 
また、世界タイトルマッチのラウンド数を減らすのもいいのだが、上記のグラフを見る限りちょい微妙かなと。
 
リング禍の最多が6Rの95人、次点が10Rの92人。
とはいえ、これらは12回戦で起きたものか、6回戦やそれ以外で起きたものかの記載がなく、一概にラウンド数を減らせば解決という話でもない気がする。
 
それより重要なのは、選手ごとのタイプとディフェンス技術の高さ。
上記の結果(感想)を踏襲するなら、手数が多くスタミナが豊富な選手vs防御の緩い選手の対戦は特に注意。
 
むしろ選手個々の力量や組み合わせ等、試合ごとの柔軟な対応を考えるべきで、「世界戦は○○ラウンドで!」といった単純な線引きで済む問題ではないのかもしれない。
 

僕はやっぱり超人が観たい。プロスポーツの頂点に君臨するのは超人であってほしいよね

とまあ、長々とリング禍について適当に語ってきたが、本音を言えば僕はこういう諸々をあっさり凌駕する選手が観たかったりもする。
「12R? 全然余裕ですけど何か?」的な雰囲気でさらっと勝ち続ける。そういう一部の選ばれし者こそがガチの王者だろ? という気がしないでもない。
 
また、怪我で引退した大相撲の稀勢の里などを観ると、年間の場所数を減らして力士の負担を軽減してやれよと思う反面、年6場所15連戦を何年間も勝ち続けてこその横綱だろ? という思いもあったりする。
 
何が言いたいかというと、要するにプロスポーツの頂点はやはり超人が君臨する場所であってほしい。
我ながら自分勝手極まりないのだが。
 
「稀勢の里引退。横綱としては実力不足だったんだろうな。横綱は勝ち続けるのが義務、怪我は土俵上で治すもの、痛みは精神力で乗り越えるもの」
 

競技のルールに最適化した省エネ長期政権の絶対王者。ボクシングで言えばやっぱりメイウェザーだよね

一応言っておくと、僕は何も過剰な負荷に耐えろと言っているわけではない。
理不尽なスケジュールや非人道的なしごきに耐え、数多の屍を乗り越えてこそ真の超人()などとのたまうつもりは毛頭ない。
 
むしろその逆で、どれだけルールに最適化できるかという話。
ボクシングで言えば、1R3分×12の長丁場をいかにダメージ少なく乗り切るか。4、5ヶ月に1試合ペースでどこまで勝ち続けられるか。そして、それを実現するためにはどうすればいいのか。
 
これをもっとも理想に近い形で実現したのは誰かと考えると、やはりフロイド・メイウェザーだろうと。
 
1996年にデビューを果たし、1997年の10試合、1998年の7試合以降は最高でも年3試合。途中でプチリタイヤを挟みながら無理のないペースで試合を重ね、50戦全勝のパーフェクトレコード+5階級制覇を達成した。
 
しかも、ファイトスタイルは省エネそのもの。
鋭いジャブとカウンター、バックステップのレンジで相手の出足を止め、激しいコンタクトは極力避ける。遠い位置からパンチを当ててポイントを稼ぐディフェンシブな試合運び。
キャリア後半はKO勝利こそ減ったが、その分1試合ごとの消耗も小さくて済む。
 
また、自らの圧倒的Aサイドを十二分に利用し、試合前の駆け引きでも常に優位な立場をキープする。
2018年末の那須川天心との試合でも、エキシビジョンにも関わらず相手のアップの時間すらも奪ってみせる周到さ。ここまでくると、もはや恐れ入りましたとしか言いようがない。
 
つまり、メイウェザーは12Rの長丁場に極限まで自分を最適化した選手。
数々の名選手が辛酸をなめる中、口笛を吹くように勝利を重ねていく。これこそまさに超人を具現化した存在である。
 
「メイウェザークズ過ぎワロタw 那須川天心のしくじり先生がクソおもしろかった件。ジャンルを引き上げるって大変よね」
 
その他のスポーツでも同じ。
 
大相撲で言えば白鵬。
テニスで言えばノバク・ジョコビッチ。
レスリングで言えば吉田沙保里。
などなど。
 
どの選手もあらゆる局面に対応できる技術、柔軟さがあり、それを長期間にわたって持続するフィジカルを持ち合わせる。
 
競技のルールに特化し、プレースタイルをとことん最適化する。
1試合での負担を極力小さく、引き出しはより多く。
 
混沌とした群雄割拠もおもしろいが、1人の超人による長期政権も全然ありだよねってことです。
 
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