「前田建設ファンタジー営業部」感想。バカバカしいことにクソ真面目に取り組む大人のカッコよさと“会社あるある”のバランスが絶妙
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映画「前田建設ファンタジー営業部」を観た。
〜〜〜〜〜
「前田建設ファンタジー営業部」(2020年)
「ドイくんさ、これ知ってる?」
広報部で働くドイの前に熱血漢上司アサガワが差し出した1冊の本。
「マジンガーZ大図鑑」。
いぶかしげに本を手に取るドイに対し、アサガワが一言。
「これ、作れると思う?」
作る?
マジンガーZを?
突然何を言い出すのかと戸惑うドイ。
すると、アサガワは大真面目な顔で続ける。
「違う違う」
「作るのはこっち」
「格納庫の方よ」
聞けば「前田建設の技術を応用してマジンガーZの格納庫を作ることは可能か。また、それをするにはどれだけの期間、費用がかかるのか」を検討し、正式な見積もりを作成する。そして、それをリアルタイムでWEB公開しようという企画とのこと。
「ウチの技術を使ってマジンガーの格納庫を作っちゃう!!」
猪突猛進型の上司アサガワの荒唐無稽な思いつきで結成された「前田建設ファンタジー営業部」。
「作らないけど作る」
「これからは空想世界だ!!」
「建設業は、まだまだ人をワクワクさせられる!!」
ドイの他にベッショ、エモト、チカダら広報グループのメンバーたちを巻き込み、アサガワを入れた5人で「マジンガーZの格納庫を作る」プロジェクトがスタートしたのである。
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「前田建設ファンタジー営業部」素晴らしい。早くも2020年最高の1本出ちゃったか?
先日、映画館で「僕らの7日間戦争」を観てきたことを申し上げたが、その際上映前のCMで流れていたのがこの「前田建設ファンタジー営業部」。
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「マジンガーZの地下格納庫の建設依頼がアニメ界から舞い込んだ」という設定で、現在の技術および材料でマジンガーZの地下格納庫を建設するとどうなるのか? を真剣に検討するという荒唐無稽な企画。
しかも、実話をもとにしたストーリーとのことで、はっきり言って“アタリ”の予感しかせず。
大急ぎで「クリアファイルつきムビチケ」を購入し、先日ようやく映画館に足を運んできた次第である。
ちなみに「クリアファイルつき」は送料350円。ムビチケの1400円と合わせて1750円となり、通常価格1800円とほぼ変わらない値段に。その上僕が予約したのはレイトショーの回だったため、実質赤字という。
映画の内容もさることながら、我ながら何をしているのかさっぱりわからないまま当日を迎えたわけだが……。
素晴らしかった。
率直に申し上げて、この映画はめちゃくちゃおもしろい。
僕の直感が正しかったなどとドヤ顔するつもりはないが、今回に関しては観て損はない。いつ、どこで誰が観ても及第点以上の満足感が得られる作品だと思う。
いやだって。
このバカバカしさですよ。
くだらないことを大の大人がクソ真面目にやるって、やっぱりいいですよね。
何度か申し上げているが、こういう頭を空っぽにして楽しめる映画は本当に僕好み。早くも2020年最高の1本に出会ってしまったかもしれない。
バカバカしさとリアリティのバランスが絶妙。メンバー1人1人の人間性を丁寧に描いたのもよかった
表題の通りなのだが、僕がこの作品をいいと思ったのは「バカバカしさとリアリティのバランスが絶妙」だったこと。
「マジンガーZの格納庫建設の見積もりを作成し、それをWEB公開する」というおバカな企画。これにクソ真面目に取り組む大人たちの姿は文句なしにカッコいい。
作中でも「大学の頃はめちゃくちゃやっていた。だが、社会人になったら落ち着いて粛々と働いていくんだろうと思っていた」という主人公ドイのセリフがあったが、マジでそれ。
年齢を重ねるごとに日々の生活がルーティン化し、刺激は少なくなっていく。
毎日の業務を機械的に“こなす”うちに何となく「これでいい」と思うようになる。
決してそれが悪いとは言わないが、学生時代のワクワクやあの頃思い描いていた理想とのギャップも感じる。「それが現実」と折り合いをつけて前を向くしかないのだが、ふとした瞬間に昔を思い返したりもする。
みたいな。
今作の登場人物たちもつつがなく業務をこなし、それなりの毎日を送るサラリーマンたち。
だが、ある日上司のアサガワの思いつき企画に巻き込まれることでそれが一変する。
しかも、最初は嫌々付き合っていた面々が徐々にノリノリになっていく様子が丁寧に描かれているのがいい。
企画の内容自体にテンションが上がっているアニメ大好き人間、チカダ。
息子とマジンガーZのアニメを観ているうちにかつてのワクワクを思い出したベッショ。
マジンガーZにはいっさい興味がないが、掘削現場を見て目を輝かせるエモト。
機械グループ部長フワにダム建設のイロハを習ううちにのめり込んでいくドイ。
メンバー1人1人に見せ場を作り、それぞれの人間性を浮き彫りにすることで全員をキャラ立ちさせる。
特に唯一の女性メンバーであるエモトが掘削現場担当のヤマダにやる気スイッチを押される描写は素晴らしい。
掘削への興味はもちろん、恋愛によって日々の生活にメリハリが出るのは“社会人あるある”の一つ。「マジンガーZ」という男性向けの企画に女性が前のめりになるためには、やはり恋愛要素は欠かせない。
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一致団結して困難に立ち向かう「前田建設ファンタジー営業部」。中盤のあそこは名シーンだよね
そして、メンバーが一致団結して困難に立ち向かうシーンは本当によかった。
物語中盤、マジンガーZの格納庫に「横移動の機能」が存在することが判明するのだが、それを再現するにはこれまでの仕様をゼロに戻さなければならない。
機械グループ部長フワや掘削現場ヤマダの協力によってある程度形になりつつあった「マジンガーZの格納庫」企画。
だが、横移動の機能をつけるには今の仕様のままでは不可能。仮に実現するにしても、天文学的な費用と時間がかかってしまう。
実現不可能ではないかという雰囲気が会議室に漂い始める中、目に涙を浮かべながら激しく抵抗するドイ。
「こんなすごいダムを作ったウチが!!」
「できないなんて笑われますよ!!」
あまりの剣幕に圧倒される面々だが、ここで諦めるのは悔しいと思う気持ちは全員同じ。
メンバーの目に輝きが戻ったのを見てとったアサガワが、満を辞して「もう一度仕様変更をお願いします!!」と彼らに頭を下げる。
ハイテンションな演技に過剰な演出。
普段であれば「おおう、テンション高えww」などと笑ってしまうところだが、すでに映画の熱量に感化されている僕にはそれがスタンダードにしか見えない。
まさに中盤の山場と言える名シーンである。
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「マジンガーZの格納庫建設」へのワクワクを隠しきれない人たち。そうだよ。ミケーネ帝国来襲に間に合わせなきゃ
さらに自社の技術やノウハウだけではどうにもならないと感じた面々が、他社の協力を得るために動くシーンもいい。
切羽詰まった「ファンタジー営業部」のメンバーは、片っ端から電話やメールで各方面に協力要請のお願いをする。
そして、荒唐無稽なこの企画に乗ってきたのは3社。下請け業者の前田製作所、日立造船、栗本鐵工所である。
それぞれのメンバーが会社を訪れると、彼らは口々に「無茶を言うな」と企画を一蹴する。
ところが落胆する「ファンタジー営業部」のメンバーの様子を見て一言。
「でも、やらなきゃダメなんでしょ?」
前田製作所の担当者タザキ、日立造船の担当者ノミヤ、栗本鐵工所の担当者ホリベ。各々言葉は違うが、一様にこの企画に対するワクワク感を隠しきれていない。
技術の粋を結集し、何としてでも「マジンガーZの格納庫」を完成させてみせる。
ミケーネ帝国来襲に間に合わせるために。
そう力強く宣言するのである。
字面だけ見るとバカバカしいことこの上ないのだが、マジでそれがいい。
僕自身、栗本鐵工所ホリベの鋭い視線を目にした瞬間、ホロっときてしまったことを報告する。
傲慢になりそうな自分への戒め。作家を40年もやっているという自負があるなら「校正者」と「編集者」は言い間違えたらダメ。絶対にダメ
恐らくこの企画が進行していた2003年当初はまだ日本に経済力があり、こういうおバカ企画がギリギリ許された時期だったのだと思うが、自らの仕事に誇りとロマンを持つ大人のカッコよさに僕は心底痺れてしまったww
“会社あるある”“サラリーマンあるある”のリアリティ。組織が大きくなればなるほど足を引っ張る人間が増える
また、今作にはいたるところに“会社あるある”“サラリーマンあるある”が散りばめられていたことを忘れてはいけない。
この企画が正式にスタートした序盤、彼らを包む社内の空気は一様に冷ややかなものになる。
泥船に乗ったヤツら。
くだらない企画で時間を無駄にさせられているかわいそうな人たち。
本人たちも自分たちに向けられる視線の冷たさを敏感に感じ取り、アサガワの無責任さに憤慨する。
トイレに行くと、偶然居合わせた営業部長に企画の無謀さを詰められる始末。
「資材の値段、発注先との関係、現場との調整等、すべてウチの会社が長年築き上げたノウハウなんだよ」
「それをWEBで公開する?」
「何を考えてるんだお前は」
わかる。
めっちゃわかる。
何か変わったことを始めようとすると、必ず反対意見が噴出する現象。
「あれがないから無理」
「○○が足りないから成功しない」
“できない理由”を山ほど並べられ、企画自体を頭から否定される。
実際にスタートしても、彼らの声によって足並みを乱されチームがバラバラになる。
プロジェクトが大きくなればなるほど関わる人間の数も増え、誰もが自らの保身に一生懸命になる。
組織が大きくなればなるほどその声は大きくなり、個人の意見は踏み潰されていく。
いや、もうマジであるわこれ。
特に新製品の開発についてはスケジュールに遅れが生じるのが常。予定通りにプロジェクトが進むことはほぼないと言っていい。
営業部としては、なるべく早く新製品の発表をしたいので開発を急がせる。
それに対し、開発部は納得のいくものができるまではカタログやWEBに載せるのを控えたい。
また一言で「開発」と言っても部品ごとに部署が分かれていることも多く、当然開発スピードにも差が出る。
当たり前だが新製品には発売日というものが存在し、すべての部品が揃わなければ完成しない。
開発の遅れによって発売日も前後するわけだが、彼らは「自分たちの部署のせいで発売が遅れた」という状況をひどく嫌がる。
「このペースで開発していては、どう考えても締め切りには間に合わない」
「でも、自分たちのせいで発売がズレたと言われることは絶対に避けたい」
つまり、どこかの部署がギブアップするまでやせ我慢を続けるというおかしな状況が生まれるのである。
お互いがお互いを牽制し合い、誰かが「もう間に合いません」と言い出すのを待つ。エンドユーザーの利便性アップのためではなく、自分たちの立場を守るための駆け引き。
全部が全部そうだとは言わないが、「ファンタジー営業部」の面々を取り巻く生々しさからは、“会社あるある”“サラリーマンあるある”の要素を山ほど感じることができた。
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太っ腹な東映アニメーションに感服。「前田建設ファンタジー営業部」おススメです
あとはまあ、作中でもちょろっと触れられていたが、権利関係をよくここまでクリアしたなと。
当時の前田建設はもちろん、映画の中で「マジンガーZ」の映像をあれだけ大胆に使用することを許した東映アニメーションの懐の広さには感服してしまう。
無責任な熱血上司アサガワを演じた小木博明や、凄まじい顔圧でフワになりきった六角精児など。
いろいろと太っ腹でテンションの高い映画「前田建設ファンタジー営業部」、文句なしにおススメである。
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