完敗の伊藤雅雪。ヘリングに最後まで追いつけず…。これ系の相手はどうしても鬼門になるよな。この先避けては通れないけど【結果・感想】

完敗の伊藤雅雪。ヘリングに最後まで追いつけず…。これ系の相手はどうしても鬼門になるよな。この先避けては通れないけど【結果・感想】

スラムイメージ
「ボクシング記事一覧リンク集」へ戻る
 
2019年5月25日(日本時間26日)、米・フロリダ州キシミーで行われたWBO世界S・フェザー級タイトルマッチ。同級王者伊藤雅雪がランキング9位ジャメル・ヘリングの挑戦を受けた一戦は、3-0(118-110、118-110、116-112)でヘリングが勝利。2度目の防衛に失敗した伊藤雅雪は、無念の王座陥落となった。
 
 
2018年末の大田区総合体育館以来、2度目の防衛戦を迎えた伊藤雅雪。
相手はランキング9位で戦績19勝2敗のジャメル・ヘリング。2012年ロンドン五輪の代表選手経験もある強豪である。
 
 
試合は序盤から伊藤が前に出て腕を振り、それをヘリングが迎え打つ展開。
左を小刻みに動かして踏み込みのタイミングを測る伊藤に対し、長身サウスポーのヘリングは鋭い右リードの連打で伊藤の顔面を揺らしていく。
 
近場での打ち合いに持ち込みたい伊藤だが、ヘリングのノーモーションの右を防ぎきれずなかなか前に出られない。時おり右がヒットするものの、逆にヘリングの左をカウンターでもらう苦しい流れが続く。
 
そして、伊藤劣勢のまま試合は後半へ。
ここまで細かいパンチを浴び続け、顔面が紅潮した伊藤。踏み込みにも前半ほどのスピードはなく、ヘリングに楽々対応されてしまう。また、強引に身体を寄せてインファイトに持ち込むも、そのつどヘリングに上をいかれて突破口を見出せない。試合はそのままヘリングペースで合終了。3-0の勝利で初戴冠を果たした試合である。
 
「中谷正義惜しい! テオフィモ・ロペスに判定負け。でも間違いなく通用するとは思ったよね。5Rまで粘れば大健闘とか言われてたけど」
 

ぐうの音も出ないほどの完敗。意外とヘリングは侮れないとは言ったが、ここまで明確に負けるとは…

伊藤雅雪が負けた……。
それも、ぐうの音も出ないほどの完敗で。
 
おおう、マジか。
この試合をクリアすれば他団体王者との統一戦が確実とのことだったので、何とか勝ってもらいたかったのだが……。
 
僕は前回の予想記事で、
 
・案外ジャメル・ヘリング侮れないぞ
・割と拮抗するかも
・ベルチェルト戦、ロマチェンコ戦とか言ってるけど、普通に陥落もあるんじゃ?
 
などと申し上げたが、拮抗どころの話じゃない。
実際には疑問の余地もないほどの完敗で、じゃあ、どうすれば勝てたの? という「タラレバ」を考える元気もわかない。
 
「伊藤雅雪vsジャメル・ヘリング予想。クソアウェイでがんばれ伊藤雅雪。てか、ヘリングに豪快に裏切られたことがあるんだよなw」
 
いや、参った。
あれだけ狭いリング+伊藤のパワーがあれば何とかなると思ったが、まったくどうにもならなかったですね。
 

すっげえ研究されてた気がする。右リードで前進を止められ、スパッと左ストレートで顔面を跳ね上げられる

とりあえず今回の試合、伊藤はめちゃくちゃ研究されていた気がする。
 
ジャメル・ヘリングという選手は身長178cm、リーチ178cmの長身サウスポー。だが、正直そこまでハイレベルなアウトボクサーではなかったと思う。
 
過去の試合を観る限り、右リードの鋭さもなく足の運びやポジションどりに長けているわけでもない。フィジカル面もやや心もとなく、印象としては元3階級制覇王者レイモント・ピーターソンを左構えにした感じかなと。
 
ただ、肩口からノーモーションで飛んでくる左ストレートはコンパクトで鋭く、相当やっかいかもしれない。伊藤の右フックよりも先に顔面に届きそうな軌道に思える。
などなど。
 
伊藤自身はあまりサウスポーが得意なようには見えないが、それでも持ち前のパワーと強引な前進が通用すれば何とかなるのではないか(というより、なってほしい)と予想(願望)していた次第である。
 
「伊藤雅雪がディアスを下して王座戴冠。だから男は顔だとあれほど…w 日本人のレベルが低いとか絶対嘘だからな」
 
だが、残念ながら結果はまったくの逆。
伊藤の突進はひらひらとかわされ、右リードで再三顔を跳ね上げられる。そして、動き出しの瞬間にカウンターの左がスパッと顔面を捉え、得意の連打を出す場面をまったく作れない。
 
恐らくだが、今回のヘリングはこれまでよりも1発のパンチに力を込めて打っていたはず。
基本的に伊藤は動き出しのモーションが大きく、なおかつ触覚のように前に出した左を起点に攻撃をスタートする。
 
その左をヘリングは強めの右リードで封じ、突進力を低下させておく。
伊藤の突進力を奪うことでカウンターの左も当たりやすくなり、強引に前に出てきた際にもスルッとサイドに逃げることが可能。
連打の回転力と当て勘、流れの中でのカウンターのセンスはすばらしいが、追い足のない伊藤の特徴をよくつかんだ作戦だった。
 

試合運びの妙。前半はアウトボクシング、中盤は接近戦で伊藤の体力を奪い、最後は足を使ってポイントアウト

また、試合運びも抜群にうまかったと思う。
 
2Rの後半から徐々に伊藤の右が当たり始めたのだが、それを察知したヘリングは3Rからすぐに切り替える。ここまでは右回りに足を使って伊藤の背中側に回り込んでいたのを、このラウンドからは逆に回り始める。
あえて伊藤の正面に入り、ガードの真ん中からノーモーションの左をヒットして伊藤の反撃をストップする。
 
ようやく踏み込みのタイミングをつかんだのに、いきなりの逆回り。これで伊藤は完全にペースを崩されてしまう。
左ストレートを防ぐために右ガードを上げざるを得ず、起点となる左は相変わらず右リードで封じられたまま。
 
頭を下げて前に出たり、踏み出す足を入れ替えたり。いろいろな工夫は見られたものの、ヘリングにはまったく通用しない。この試合は3、4、5Rで完全にヘリングにペースを握られた感がある。
 
アンジェロ・レオがトラメイン・ウイリアムズを攻略して勝利。アンジェロ・レオは田中恒成っぽかったな。いい試合でした
 
そして、6Rからは身体を密着させての消耗戦。
伊藤が踏み込むと同時に自分も前に出て肩をぶつけ、右腕を絡めて動きを封じる。
リング中央でのもみ合いの中、なるべく正対しないように斜に構えて空いた左でボディを打ち込む。
 
実は前回のシュプラコフ戦で、頭を下げて身体を寄せてきたシュプラコフを伊藤は大いに持て余している。ある程度のスペースがあれば威力のあるパンチが打てるが、それよりも近い間合いだとこの選手は意外とできることがない。
 
あそこが伊藤の安全地帯だというのがヘリング陣営にバレていた感じ。
 
小柄なシュプラコフ相手にはフィジカルで押し込むことができたが、ライト級から階級を下げたヘリングはそうもいかない。むしろ、低い姿勢で踏ん張っている伊藤の方が押されるシーンすらも目立つほど。
 
「伊藤雅雪完勝。シュプラコフが想像以上に想定内だったな。工夫は見られたけど、全局面でスペックが物足りず」
 
6、7、8Rとリング中央でのもみ合いに付き合わされ、大幅に体力を奪われた伊藤にはすでに反撃の力はなく。9R以降、再び足を使ってのカウンター狙いに切り替えたヘリングに逃げ切られ、文句なしの判定負けという流れ。
 
いくら腕を振っても顔面が遠い。
ボディを打とうにも、その間合いまで入らせてくれない。
持ち味であったはずのフィジカル面でも優位性を保てない。
 
今回に関しては何から何までジャメル・ヘリングの作戦通りという試合だった。
 

クネクネしたサウスポーは左を起点とするタイプにとっての鬼門。ファイター型へ移行する過程で絶対に遭遇しちゃいけない相手だった


しかし毎回思うのだが、左を起点に試合を組み立てる選手にとって、こういうクネクネしたサウスポーはマジで鬼門だなと。
 
・内山高志vsジェスレル・コラレス
・エドゥアルド・トロヤノフスキーvsジュリアス・インドンゴ
・伊藤雅雪vsジャメル・ヘリング
 
パッと思いつくのはこんな感じだが、恐らく探せば他にも出てくるはず。
 
得意の左リードを封じられ、ペースを乱されてしまうパティーン。
もともとセンスを活かしたカウンターを得意としていたのをファイター型に矯正中だった伊藤にとって、今回のヘリングは絶対に遭遇してはいけない相手だった。
 
「僕が平岡アンディジャスティスに期待する3つの理由。ロヘリオ・カサレスに2RTKO勝利で米国デビューを飾る」
 

「慣れ」は大きいかな。アジアのレベルが低いとかではなく、単純に相手がいない

もっと言うと、いわゆる「慣れ」の部分も大きいのかもしれない。
 
日本人選手の世界戦での負け方として、個人的に印象的なパターンが2つある。
1つ目は今回のようにカウンターが得意なサウスポーに追いつけず、ユルユルとポイントゲームに持ち込まれてしまうパターン。そしてもう1つが、プレスが得意なインファイターに至近距離で打ち負けるパターンである。
 
前者で言えば、
・内山高志vsジェスレル・コラレス
・帝里木下vsゾラニ・テテ
・岩佐亮佑vsTJ・ドヘニー
・高橋竜平vsTJ・ドヘニー
・伊藤雅雪vsジャメル・ヘリング
 
また後者は、
・八重樫東vsローマン・ゴンサレス
・モルティ・ムザラネvs坂本真宏
・モルティ・ムザラネvs黒田雅之
などがそれに当たる。
 
未視聴だが、どうやら小西伶弥vsフェリックス・アルバラード戦もそんな感じだったと聞く。
 
一見すると激しい打ち合いに見えるが、片方の顔面だけが徐々に腫れていき、最終的に負傷ストップされる流れ。そして、試合後のインタビューでは綺麗な顔をした王者が「彼は勇敢だった」と余裕のコメントを残す。
 
これ、マジでどうなんでしょうね。
長身で手足が長く、身体能力の高いサウスポーや、強フィジカルとシフトウェイトを兼ね備えたインファイター。日本で試合をしている限り、この手のタイプに遭遇する機会はまずない。
 
アジアのレベルが高いとか低いとかではなく、単純にこんな相手は滅多にいない
 
後楽園ホールに来るサウスポーのタイ人、フィリピン人は基本的にずんぐりむっくりのファイターが中心(という印象)で、必然的に自分の得意な距離での打ち合いが可能となる。
「そこまで鋭くはない」と思ったヘリングの右をバシバシもらっていたのも、サウスポーとの経験が少なくパンチの角度に慣れていないのが大きな理由かもしれない。
 
また、ロマゴンやムザラネ、ワンヘンのように芯をずらしながらプレスをかけるタイプなどはそもそもの希少性が高い。通常はプレスが得意だが頭はあまり動かないか、見切りはいいが追い足がないのどちらかだと思うのだが。
 
いきなりぶっつけ本番でこういう相手と対峙するのは、さすがに難しいと言わざるを得ない。
井上尚弥のようにすべてを更地に変えるほどの圧倒的な差を見せれば関係ないのだが。
 
「井上尚弥w 理不尽な左と意味不明なタイミングでロドリゲスを片付ける。パワー勝負に切り替えた瞬間だったな」
 
なお、今回のようにサウスポーに追いつけずに判定負けを喫した場合は「翻弄された」感が強く、完敗のイメージが色濃く残る。
それに対し、激しい打ち合いの末に敗れた場合は「あの相手によくやった」となることが多い。どちらも完敗には違いないのだが、何となく自分の距離で打ち合った選手の方が株を上げている気がしないでもない。
 

アウェイでやると決めたのであれば、やるっきゃない。相性が悪いから〜などと言っている場合じゃないよね

まあでもアレだ。
伊藤雅雪本人がこの舞台でやっていくと決めたのであれば、ガタガタと理屈を並べていても仕方ない。
 
日本で防衛戦を重ねるならある程度相手を選べるかもしれないが、アウェイではそうはいかない。プロモーター側の思惑もあるだろうし、相性云々などを含めて自分の思い通りになるわけがない。
 
実際、左手を前に出してユラユラ動かしてるのをレフェリーに注意されてたしね。
日本では見逃してくれたものが、アウェイのリングではそうはいかないというのは普通にあるのだと思う。
 
ただ、この選手が成し遂げた偉業が色褪せることはないもまた事実。
今後の課題どうこうはともかく、S・フェザー級という階級で日本人選手がこの舞台に立ったことは大いに賞賛されるべきだと思う。
 
幸いトップランクとは年間3試合の3年契約? だっけ?
次戦で印象的な勝ち方をすれば、再びチャンスも巡ってくるんじゃないの? ようやく亀海喜寛の歩んできた道のスタートラインに立ったと思えば全然いけるでしょ。
 
 
ついでに言うと、僕の中でキックボクサーの不可思とキャラが若干被ってるから、そこは気をつけて(違
 
「ボクシング記事一覧リンク集」へ戻る
 

Advertisement

 

 

 

 

 
 

 
 
【個人出版支援のFrentopia オンライン書店】送料無料で絶賛営業中!!