ダラス・カイケルとかいう88マイルのシンカーをひたすら投げ続けてフライボール・レボリューションに巻き込まれなかった人
ダラス・カイケル
2017年6月9日時点で11試合9勝0敗 防御率1.67 投球回75.2。
MLB、ア・リーグ西地区ヒューストン・アストロズに所属するサウスポーの投手である。
「ハイレベル過ぎてFA選手の契約にも影響してるよ。MLBオールスター2018がとんでもなかった件」
2015年に20勝を挙げてサイヤング賞を獲得するが、翌2016年は9勝12敗、防御率4.55と低迷。
だが2017年は見事に不調から脱出し、ア・リーグ西地区を独走するチームの原動力となる活躍を見せている。
そして、6月2日にテキサス・レンジャーズ戦で6回3安打無失点で勝利し、現在開幕から無傷の9連勝中である。
「進化が止まらない!! ダラス・カイケルがヤンキース打線を7回無失点に抑えてアストロズ先勝。MLBのポストシーズン最高なんじゃw」
しかも、MLBを席巻する「フライボール・レボリューション」によって、シンカーボーラーが軒並み苦戦を強いられる中、全投球の50%近くをシンカーが占める投球で勝ち星を積み重ねる異端ぶり。
残念ながら6月9日にDL入りして実践から遠ざかっているが、今シーズン見事な復活を遂げた投手と言って間違いない。
多くのシンカー使いが苦戦する中、なぜこの投手はここまで勝てているのか。2016年の低迷から何が変わったのか。
今シーズンのここまでのスタッツや動画を見ながらそれを考えていきたいと思う。
といっても、僕の偏見にまみれた妄想なので、気楽に読んでいただければありがたいっす。
「2017年阪神優勝の可能性は? 阪神ってどんなチーム? どの部分を改善すればいいの? 助っ人獲得? 若手強化?」
ダラス・カイケル2017年の主なスタッツ
ではまず今シーズンのダラス・カイケルの主なスタッツから。
防御率:1.67(ホーム1.04、アウェイ2.20)
被打率:.183(対左.100、対右.203)
GB/FB(ゴロ/フライ率):3.66(対左5.50、対右3.42)
GB%(ゴロ率): 67.4%(対左81.5%、対右65.0%)
そして、こちらがトラッキングシステムによるPITCHf/xデータ。
・シンカー
投球割合:46.3%
平均球速:88.7マイル
Vertical(縦変化量):4.98
Horizontal(横変化量):6.26
Spin Angle(回転角度):128
Spin Rate(回転数):1764
・スライダー
投球割合:22.0%
平均球速:78.5マイル
Vertical(縦変化量):-0.65
Horizontal(横変化量):-7.59
Spin Angle(回転角度):272
Spin Rate(回転数):1676
・チェンジアップ
投球割合:12.7%
平均球速:78.4マイル
Vertical(縦変化量):4.87
Horizontal(横変化量):6.97
Spin Angle(回転角度):124
Spin Rate(回転数):1443
・カッター
投球割合:10.4%
平均球速:86.6マイル
Vertical(縦変化量):4.59
Horizontal(横変化量):-1.49
Spin Angle(回転角度):203
Spin Rate(回転数):1315
この4つがカイケルの主な球種である。
トラッキングシステム上では他の球種もあるのだが、割合的に物の数ではないので今回は除外している。
「「リスペクト」を便利使いするお前らに言いたいことがある。「マスコミ対応もプロフェッショナルの仕事だ」ってのはお前らマスコミ側が言うことじゃない」
カイケルさん、思いっきりグランドボーラーですね。低回転なシンカーがマジで特徴的
上記のスタッツや球種別の数値を見てわかるのは、ダラス・カイケルがこれでもかというくらいのグランドボーラーであること。
特にGB/FB(ゴロ/フライ率)3.66はかなりすごい。
同じシンカーボーラーで、今シーズン苦戦中の田中将大が1.52、WBCで日本打線を抑え込んだブルージェイズのマーカス・ストローマンが2.97であることを考えると、カイケルの3.66がいかに突出しているかがわかると思う。
そして、それを生み出しているのが全投球の50%近くを占めるシンカー。少ない回転数で沈む、カイケルの投球の軸となるボールである。
このカイケルのシンカー、見れば見るほどおもしろい。
Spin Rate(回転数)が1764と、他の投手の同球種と比べても飛びぬけて回転数が少ないのが特徴である。
たとえば「ホップする」と言われるシカゴ・カブスの上原浩治のストレートはSpin Rateが2179。
平均93.7マイルを誇るテキサス・レンジャーズのダルビッシュのシンカー(2シーム)は2292。
また、上述の田中将大のシンカーは2071、ストローマンのシンカーは2046となっている。
2000を超えると高回転数と言われる中で、カイケルのシンカーがひときわ異彩を放っていることがわかる数値である。
加えて、平均球速が88.7マイル(約142.7km)でHorizontal(横変化量)は6.26。
ストローマンのシンカーのHorizontal(横変化量)が-7.29(ストローマンは右、カイケルは左なので変化の方向が逆になる)であることを鑑みると、カイケルのシンカーはあまりシュートせず垂直に近い軌道で沈むことがわかる。
さらに、Vertical(縦変化量)が4.98となっており、これは上原のスプリットの5.07と近い。
つまり、カイケルは平均88~89マイル前後で垂直に沈む球をひたすら投げこんでいるということになる。
スプリットに近い軌道でスプリットよりもはるかに速い。加えてクオリティの高い3球種もある無双っぷり
→「Keuchel’s great return」
→「Keuchel improves to 9-0」
実際の投球を観ると、カイケルの投げる89マイルは球速以上に速く見える。
上原のスプリットと似たような軌道で、なおかつ球速は上原のスプリットの平均79.1マイル(約127km)よりも約15km速い。
恐らく回転数が少ないために減速幅が小さく、打者からすれば加速しながら沈む感覚を受けるのではないか。
また似たような軌道で大きく減速するチェンジアップ、チェンジアップと真逆の軌道で変化するスライダーがあり、86.6マイル(約139km)のカッターでアクセントもつけられる。
一見打てそうな軌道からわずかに沈み、ボールの上っ面を叩かせる高速スプリットのような球。
全投球の50%近くがこの球で占められ、さらに同クオリティの3球種を使い分ける。
なるほど。
確かにGB/FB(ゴロ/フライ率)が驚異の3.66(対左は5.50、被打率.100←マジ異次元!!)というのも納得の異彩っぷりである。
フライボール・レボリューションの波に飲み込まれずに無双する、まさに超人的と言っていい。
「中日松坂大輔さんが開幕ローテ決定的? らしいけど、オープン戦最終登板を観た感想を言っていくぞ」
球速の低下が2016年の低迷を招いた。ボーダーラインの89マイルを下回ったことで、諸々のスタッツが一気に悪化した
ちなみにこのダラス・カイケル、上述のように2015年のサイヤング賞獲得から翌2016年に大きく成績を落としている。
この際のスタッツを振り返ってみると、
・2015年
GB/FB:3.14
GB%:61.7%
被打率:.216
シンカー平均球速:89.5マイル(約144km)
Vertical(縦変化量):4.91
Horizontal(横変化量):10.05
Spin Angle(回転角度):116
シンカーSpin Rate(回転数):2166
・2016年
GB/FB:2.33
GB%:56.7%
被打率:.258
シンカー平均球速:88.6マイル(約142.6km)
Vertical(縦変化量):5.36
Horizontal(横変化量):8.32
Spin Angle(回転角度):123
シンカーSpin Rate(回転数):1917
・2017年
GB/FB:3.66
GB%:67.4%
被打率:.182
シンカー平均球速:88.7マイル(約142.7km)
Vertical(縦変化量):4.98
Horizontal(横変化量):6.26
Spin Angle(回転角度):128
シンカーSpin Rate(回転数):1764
この中でもっとも顕著なのが、2015年→2016年にかけての球速の低下。
2015年の平均89.5マイル(約144km)から、2016年には88.6マイル(約142.6km)と、1.4kmほど遅くなっているのである。
疲れなのか故障なのかは定かではないが、恐らくこの球速の低下によって諸々の数値が一気に悪化したと思われる。
Vertical(縦変化量)、Horizontal(横変化量)ともに低下。自慢のGB/FBは一気に1.33も上昇している。
GB%(ゴロ率)も落ち、持ち味の打たせて取る投球ができなくなったことで被打率が.216→.258と悪化したのではないか。
上原がキャリアハイを記録した2013年は、ストレートの平均球速が89.1マイル(約143.4km)。そして、翌2014年は88.0マイル(約141.6km)。実に2km近く球速が落ちた結果、防御率1.09→2.52と成績を大幅に落としている。
これらを考えると、MLBの第一線でサイヤング賞もしくはそれに準ずる成績を出すには、軸となる球の平均球速のボーダーラインが89マイル前後にありそうな気がする。
カイケルや上原レベルの超一流の投球術をもってしても、平均球速が89マイルを下回ると一気に厳しくなるイメージである。
球速の低下をシンカーの改良で補ったカイケル。シュート成分と減速幅を減らし、より垂直に変化させる球へと進化させて復活
それらを踏まえてカイケルの2017年のスタッツを見ると、この投手の異次元ぶりがさらに際立ってくる。
2016年→2017年で大きく変わったのが、何をおいてもシンカーの回転数。
平均球速は88.6マイル(約142.6km)→88.7マイル(約142.7km)と大差ないのだが、Spin Rate(回転数)が1917→1764と大幅に減少していることがわかる。
もともと2000以下と低回転だったものがさらに減り、なおかつHorizontal(横変化量)が8.32→6.26と、より垂直に近い軌道で沈む球に改良されている。
つまり、投球の軸となるシンカーを高速スプリットに近づけることで球速の低下をカバーし、よりゴロを量産するスタイルを確立した。
回転数を減らしたことでそうなったのか、シュート成分をなくすことで結果的に回転数が減少したかのは定かではないが、シンカーの改良が成功したことは間違いなさそうである。
というより、そもそも回転数をコントロールすることなど可能なのか?
パンピーの僕にはそれがすでに疑問なのだが。
「松坂大輔2018年成績予想。ついにこの季節がやってきました。ほら見ろ、松坂はすげえだろが。あ?」
まあ、超人的インフレが起きている現在のMLBで、僕の常識が介入する余地などもはや残っていないのかもしれない。
いや、カイケル本当におもしろい。
試合を観るたびに釘付けになってしまう。
残念ながら故障離脱中だが、いずれ戻ってきたときにはまた注目していこうと思う。
詳しい方にとっては今さらなのだろうが。
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