映画「ベイビー・ブローカー」感想。赤ちゃん置き去り、人身売買…。やってることは最低なのにみんないいヤツ。逃避行ロードムービーだったことに驚いた笑
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映画「ベイビー・ブローカー」を観た。
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「ベイビー・ブローカー」(2022年)
借金まみれの寂れたクリーニング店を営むサンヒョンには裏の顔がある。
赤ちゃんポストに捨てられた赤ちゃんを横流しする稼業、いわゆる“ベイビー・ブローカー”である。
彼は赤ちゃんポストが設置されている施設に勤めるドンスと組み、置き去りにされた赤ちゃんを連れ帰っては秘密裏に金持ちに売り飛ばすことを繰り返している。
そんなある日、雨の降りしきる中1人の若い母親が赤ちゃんをポストの前に置いていく。
さっそく赤ちゃんを回収したサンヒョンとドンスだったが、そこには「必ず迎えにくる」というメモ書きが。
だが、施設育ちで自身も母親に置き去りにされた経験を持つドンスは迎えにくる母親が皆無であることを知っている。
静かな怒りと諦めが入り混じった感情を押し殺し、2人は赤ちゃんの売り先を探すのだった。
ところが翌日、ドンスの努める施設に赤ちゃんを捨てた若い母親が現れる。そして置き去りにしたはずの赤ちゃんが保護されていないことを知り警察に行くと言い始めるのである。
焦ったドンスはサンヒョンと相談し、やむを得ず彼女を仲間に引き入れることに……。
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完全に“ジャケ買い”だった「ベイビー・ブローカー」。ソン・ガンホとサン・カンの区別すらつかない無知野郎な僕だけど笑
ソン・ガンホ主演、是枝裕和監督・脚本で2022年6月24日に公開された「ベイビー・ブローカー」。
第75回カンヌ国際映画祭ではサンヒョン役のソン・ガンホが最優秀男優賞を受賞、作品がエキュメニカル審査員賞に選出されるなど日韓両国で話題になっている映画である。
と言っても僕は今まで韓国映画を観たことがなく。
別に避けていたとか偏見があったとかではなく、単純に触れる機会がなかった。
2019年公開の「パラサイト 半地下の家族」くらいはさすがに知っていたが、出演俳優の名前を聞いてもまったくピンとこない。
極端な話、今作の主演ソン・ガンホと「ワイルド・スピード」シリーズでハン役を努めるサン・カンの区別すらついていないレベル。
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じゃあなぜ今作を観ようと思ったかというと、ポスターデザインが目を引いたから。
先日「極主夫道 ザ・シネマ」を観るために映画館に足を運んだのだが、その際に館内設置のチラシコーナーにあった「ベイビー・ブローカー」のチラシが妙に僕の目を引いた。
赤ん坊を手放した母親、
ベイビー・ブローカー、
彼らを追う刑事――5人の知られざる背景と感情が交差する
━━ 本 ポ ス タ ー 解 禁 ━━𝟲.𝟮𝟰 𝙛𝙧𝙞. 𝙍𝙤𝙖𝙙𝙨𝙝𝙤𝙬 。✧
#ベイビーブローカーhttps://t.co/wgazjOeRSu pic.twitter.com/gdZspZ6r3G— 映画『ベイビー・ブローカー』公式 (@babybroker_jp) May 20, 2022
特別スタイリッシュなわけでもないし、エフェクトを使いまくったド派手なものでもない。
だが、意味不明に引き寄せられる何かがある。
少し古い映画だが、何となく1996年公開の映画「スワロウテイル」と似た空気感……。
昨今の日本映画はドラマの完結編やアニメの実写化、人気アニメの長編が中心となっているが、今作は「スワロウテイル」のような掴みどころのなさ、ファンタジー要素満載の浮世離れした世界を体験できるのではないか。
古い言い方をすれば“ジャケ買い”というヤツなのだが、この時点では僕は監督が日本人であること、ソン・ガンホが「パラサイト 半地下の家族」にも出演していたことなども知らず。
ポスターデザインの謎の引力に従い、知識ゼロのまま約1週間後に同じ映画館を訪れた次第である。
え? これってロードムービーじゃん。誰だよ「スワロウテイル」の雰囲気を感じたいとかほざいたヤツは(僕だよ)
まず今作を観て驚いたのが、「え? これってロードムービーじゃん!!」ということ。
置き去りにされた赤ちゃんを売るためにサンヒョンとドンス、そこに母親ソヨンを加えた4人で旅に出る。で、道中立ち寄った養護施設で彼らに懐いたへジンがメンバーに加わる。
各地を転々とするうちにお互いの心が通じ合い、いつの間にか血の繋がらない疑似家族を形成する……。
のっぴきならない事情で罪を犯してしまった者と、それを追い詰めるうちに彼ら(彼女ら)の事情を理解し葛藤する警察官。
似たようなところではケビン・コスナー主演の「パーフェクト・ワールド」(1993年)やハリソン・フォード、トミー・リー・ジョーンズW主演「逃亡者」(1993年)などが思いつくが、今作も基本の流れはそれらと同じ。
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「スワロウテイル」のファンタジー感を期待していた分意表を突かれたというか、思いがけない緊張感に軽く狼狽してしまった笑
まあ、普通に考えれば「ベイビー・ブローカー」がファンタジーなはずはないんですよね。
赤ちゃんを売る&本人たちは赤ちゃんの幸せを願っているのだから、必然的にああいう展開になるだろうと。
社会問題に向き合った作品。でも内容自体はかなりオーソドックス。安心感のあるストーリーだったね
全体を通しての感想だが、比較的安心感のあるロードムービーだったなぁと。
僕は韓国における貧富の格差やそれに起因する赤ちゃんポスト問題にはまったく詳しくない。日本よりも置き去りにされる赤ちゃんがはるかに多いというし、実際ドンスの育ったような施設も山ほどあるのだと想像する。一見幸せそうに見える家庭でも、実は母親が凄まじい孤立感を抱えているケースが多いとも聞く。
その部分から目をそらさずさまざまな方向から社会問題を取り上げる気概と情熱は文句なしに素晴らしい。
愛する息子を捨てなければならなかった母親の視点、赤ちゃんの幸せを願いながらも横流しするブローカーの視点、それを追う警察官(女性)の視点、などなど。立場が変われば見える景色も変わるというのはマジでその通りである。
またそれらを批判的に描くのではなく“今ここで起きている現実”として淡々と表現したのもいい。
これらは個人の努力や思いなどでどうにかなるものではない、国として取り組むべき問題だということは無知な僕にも伝わってきた。
だが、そういった諸々を抜きにすればストーリー自体はオーソドックスなもの。
上述の通り「パーフェクト・ワールド」や「逃亡者」と同様、起承転結がしっかりした展開になることは早い段階で予想がついた。
物語序盤、ガソリンスタンドでの洗車中にへジンが窓を開ける→車内が水浸しで全員大パニックの件でいろいろと察した方は多いのではないか。
少なくとも僕は今作が「スワロウテイル」とは別物であることにあそこで気づいた(まだ言ってる)し、彼らの旅が“家族の温もりを初めて知る”ためのものであると確信した瞬間でもあった。
大事な取引前に最後だからと遊園地に繰り出した5人は完全に家族そのもの。
逃避行系ロードムービーにおける大オチ前の幸せな光景は何度観てもいいし、それと同時に直後に訪れるであろう不幸展開を想像して前倒しでテンションが下がってしまう笑
クライマックスはたまらんかった。取引現場のでのドンスとスジンのアイコンタクトが切なすぎる件
そして、クライマックスはちょっとたまらないものがあった。
取引現場に赤ちゃんを連れてきたドンス、警察に彼らを売って自首したソヨン、現場を抑えるために部屋に乗り込んだスジン刑事。
誰もが迎えるべき“結末”を知っていて、全員が悲しみを抱えながらもそこに向かっていく様子。
目を合わせたドンスとスジンがお互いに「わかってるよな?」「ああ」と意思疎通を図る様子はあまりに切ない。
正直、今作にはご都合主義な部分が多数見受けられる。
赤ちゃんを引き取りにきた夫婦は完全に“アタリ”の部類で、殺人を犯した母親と刑期を終えた後も付き合いを続けるなど相当なレアケースと言える。
また、彼らを追う刑事が女性コンビというのも……。もしもアレが男性コンビであれば、あそこまでソヨンに寄り添うことはなかったかもしれない。
そもそも論として、幹部を殺された裏組織の追っ手があんなにズルズルなのはどう考えてもおかしい。サンヒョンにようやく追いついたのが近所の知り合いのガキ1人って、そんなバカな笑
だが、そういうツッコミどころも作品の説得力でチャラにできる。
後半、スジン刑事が「本当に赤ちゃんを売りたかったのは私たちかもしれない」とつぶやくシーンがあったが、刑事を女性コンビにしたのもあのセリフを言わせるためだったと考えれば納得がいく。
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尻切れとんぼな終わり方が少々残念かな。姿を消したサンヒョンに違和感ありまくり。え? あなたってそういうタイプだっけ?
逆にいまいちだった部分としては、最後の尻切れとんぼっぷりだろうか。
上述の取引直前、サンヒョンが離婚した元奥さんとの間にできた娘に会うのだが、その席で彼は娘から母親(元奥さん)が近々再婚することを聞かされる。
で、ショックを受けて翌日姿をくらます→行方知れずのまま終了するわけだが、正直あそこはだいぶ違和感があった。
それまではブローカー稼業に手を染めながらも風来坊っぽくない、むしろ家庭的な雰囲気すら醸していた彼が突然フラっといなくなる。これはあまりに唐突すぎたというか。
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とはいえ、今作のように曰く付きなメンバーのロードムービーは最後にどこに着地するかが結構難しい。
犯罪者である限りハッピーエンドで済ませるわけにはいかないし、奈落の底に突き落とすような作風でもない。
その中での最良の落とし所がアレだったのかもしれない。
少なくとも「パーフェクト・ワールド」のようなトラウマレベルのバッドエンドを迎えなくてよかったと思っている。
いや、「パーフェクト・ワールド」はあのオチがあったからこそ後世に残る名作となり得たわけで。
それに比べて今作のモヤっとした終わり方は……。
やっぱりラストは難しいっすね。
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