山本美憂がハム・ソヒのMADに沈む。打撃とタックル対策で圧勝。改めてすげえわハム・ソヒ【RIZIN19感想】
2019年10月12日、エディオンアリーナ大阪で行われたRIZIN19。第11試合に登場した元レスリング世界女王山本美憂が韓国のハム・ソヒと5分3R49kg契約で対戦。2R4分42秒TKO負けを喫した。
大晦日での浜崎朱加への挑戦権をかけた今回。
7月のRIZIN17で初参戦を果たしたハム・ソヒと、RIZIN4連勝中と波に乗る山本美憂の一騎打ちである。
距離をとってリングをサークリングし、タックルの機会をうかがう山本。それに対しハム・ソヒは正面を外さずじっくりプレッシャーをかける。そして、山本の高速タックルで一度はテイクダウンを許すものの、冷静にパウンドを落として立ち上がる。
その後もハム・ソヒは再三左ストレートをヒットするなど打撃で山本を圧倒し、タックルをうまく切ってペースを掴ませない。
2Rには耳の後ろをカットし出血した山本美憂をさらに追い込み、最後はコーナーで押さえ込んでのパウンドでレフェリーストップ。年末のタイトルマッチに向けて見事な勝利を飾った。
「BELLATOR JAPAN(ベラトール・ジャパン)現地観戦感想。ケージファイトを初めて現地で観たけど、アリやなこれは」
山本美憂が負けてしまった…。vsハム・ソヒ戦は期待以上におもしろい内容だった
山本美憂が負けた。
2016年にRIZIN初参戦後、MMAに対応できずに連敗続き。それでも諦めずに努力を続け、2017年10月の石岡沙織戦以降、アンディ・ウィン、長野美香、浅倉カンナを相手に4連勝を挙げる。
凄まじいまでのフィジカルと圧倒的なレスリング技術で常に優位なポジションをキープし、相手を塩漬けにして3-0の判定勝利に持ち込むスタイル。
個人的にこの選手のことを「判定のカリスマ」と呼びたくなるほど、この数戦の山本美憂はRIZIN MMAへの適応を見せていた。
「“判定のカリスマ”山本美憂を見ろ。RIZIN発のスターは朝倉未来じゃなく山本美優だから。DQN一歩手前のスレスレ感が一番カッコいい」
はっきり言って、山本美憂のあのタックルを切れる女子選手がいるとは思えない。以前にもちょろっと申し上げたが、ストライカー系以外がこの選手に勝つのは不可能なのではないか。
それくらい、ここ最近の山本美憂の安定感は群を抜いていたと思う。
と同時に、ハム・ソヒの打撃ならかなりおもしろい試合になるのではないか。
山本美憂vs浜崎朱加もいいけど、僕はどちらかと言えば山本美憂vsハム・ソヒの方が観たいぞ。
そんな感じで、今回は僕の希望がそのまま実現した試合であり、内容も期待以上におもしろいものだった。
「朝倉未来がダニエル・サラスをKO。もうベラトールに行くしかないと思うけど。朴光哲の挑戦を受けたら批判されちゃう」
打撃で山本を圧倒したハム・ソヒ。開始直後の差し合いで「ヤバい」って思ったよね
開始直後。
左回りでリングを大きくサークリングする山本美憂に対し、ハム・ソヒはいつも通りのやや前傾の構えで後を追う。
右手を山本の眼前に掲げて牽制するハム・ソヒ。
これによって山本は打撃で前に出ることができず、なかなかタックルの距離に入れない。
そして、ハム・ソヒは山本の動き出しを狙って鋭い左を打ち込む。このノーモーションの左に山本はほとんど反応できず、さらに遠い距離で釘付けにされる。
おお、やべえなこれは。
最初の差し合いで両者の打撃技術に明確に差があることが判明した。この展開ははっきり言って山本にとっては相当マズい。
以前にも申し上げた記憶があるが、山本美憂がRIZINで勝てるようになったのは打撃技術が向上したから。
「いろいろあったけどアマンダ・ヌネスvsクリス・サイボーグが2018年末ベストバウトで異論ないよな? 山本美憂vs長野美香もよかったぞ」
スタンドでの打ち合いである程度優位に立てるおかげで、相手は苦し紛れのタックルを仕掛けるしかなくなる。そのタックルを強靭なフィジカルとレスリング技術を駆使して抑え込み、優位なポジションをキープしたまま3R終了のゴングを聞く。
石岡沙織、アンディ・ウィン、長野美香、浅倉カンナ。
過去の4連勝はすべてこのパターンと言っても過言ではない。
逆に言うと、スタンドでの打撃で歯が立たない場合はできることがなくなってしまう。ハム・ソヒの火力の前に射程内に立ち入れず、遠い位置から強引にタックルを仕掛けざるを得ない。
1発目のタックルが意図せず片足タックルになってしまったのは、決して偶然ではないはず。
僕自身、山本美憂がストライカーであるハム・ソヒの打撃をどうかいくぐるかに注目していたので、ここまで対策されたのにはちょっと驚いてしまった。
ハム・ソヒの独壇場。躊躇のないサッカーボールキックで止めを刺す
1発目のタックルを外して以降はハム・ソヒの独壇場。
鋭い左で山本のテンプルを揺らし、苦し紛れのタックルには勢いに逆らわずに両足を引いて上から押し潰す。
前傾の構えで下半身を遠ざけ、強引に組みついてくる山本の頭を押さえて動きを封じる。膠着状態では、カットした耳の後ろを狙ってパウンドを落とす。
さらに、山本の動きを完全に掌握した2R後半、ハム・ソヒは自ら前に出て試合を動かしていく。
打撃で圧倒され、山本は自分から手が出せない。
止むを得ずに打ち込んだ左ローをハム・ソヒは落ち着いてキャッチし、開いた右手でパンチを打ちながら覆いかぶさるようにテイクダウンを奪う。
山本も何とか腕を絡めて防戦するが、ハム・ソヒに頭を押さえられて容赦ないパウンドを浴び続けてしまう。
そして、山本が強引に頭を抜いて起き上がろうとした瞬間、ハム・ソヒが渾身のサッカーボールキックを打ち込む。
いや、そうなんだよな。
ハム・ソヒのおっかないところはこの躊躇のなさ。
前回の前澤智戦でも、コーナーに座り込んだ前澤の顔面に一切の手加減なく膝蹴りを連発していたし、ああいうプロフェッショナルで冷徹な面はホントにすごいと思う。
「RIZINいいとこ一度はおいで。RIZIN17の現地観戦でさいたまスーパーアリーナに僕初上陸。神試合連発で最高だったぞ」
だってアナタ。
亀になった前澤の腕を強引にどかして、頭を持ち上げて膝をパコーンなんてね。コーナーとのサンドイッチで人間の頭がゴンゴン揺れる光景にはゾッとしますわ。
・打撃技術
・タックルへの対応
・圧倒的な経験値
勝因は諸々あるとは思うが、やはり一番はこの躊躇のない冷徹さ。さすがはTEAM “MAD”所属だけのことはある(ん?
山本美憂はちょっとどうしようもなかった。日本女子MMAも打撃寄りのオールラウンダーが台頭するのかな?
一方、敗れた山本美憂についてだが、今回はちょっとどうしようもない試合だった。
これまで勝利を支えていた打撃がまったく通用せず、頼みのタックルもばっちり対策された。
特に山本美憂のタックルはどんな選手にも回避不能だと思っていたので、あそこまで何もできずに潰されまくったのはマジで意外だった。
何となくだが、日本の女子MMAもそのうち“何でもできるストライカー”タイプが勝ち残る時代になるのかなぁと。
世界最高峰と言われるUFCでは、強靭なフィジカルと腕ひしぎ逆十字で長年トップに君臨したロンダ・ラウジーが打撃とフットワークに特化したホーリー・ホルムに負け、そのホルムはミーシャ・テイトのサブミッションの前に沈んだ。
だが、ようやく女王に上り詰めたミーシャは打撃寄りのオールラウンダーであるアマンダ・ヌネスにスタンドでまったく歯が立たず。
あの試合を観て個人的に感じたのが、タックルにおけるリスクの大きさ。
試合中にタックルを決めるチャンスは決して多くはなく、外された際のリスクも甚大。しかも1回ごとの体力・精神の消耗もバカにならず、はっきり言って燃費はよくない。
そう考えると、やはり長期間にわたって安定した成績を残すにはスタンドでの強さは必須。
打撃技術を向上させてスタンドでぶん殴った方が、危険を冒してタックルに入るよりもはるかに効率がいい。この数年、MMA選手の打撃技術が加速度的な向上を見せているが、これは競技性の進化と言っても過言ではないと思う。
佐々木憂流迦を1Rで沈めた朝倉海とかね。
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仰向けに寝かされない技術、立ち上がる技術の進化。
男子はすでにそうなっているように見えるが、日本の女子MMAも“すべての技術を高次元で兼ね備えたストライカー”が台頭する時期が近づいているのかなぁと。
ただ、試合後の山本美憂から前向きなコメントが聞かれたのには安心した。
「勝てると思っていたので悔しい」
「すぐに帰ってトレーニングしたい」
「大晦日? 絶対出たい」
うん、いいね!!
どう考えても大晦日も出るべきだろ。
繰り返しになるが、この選手はRIZIN発のスター。RIZINにおける純血の主人公(僕が決めた)なので。
あ?
ここが山本美憂の限界だって?
アホかw
山本美憂はここからがおもしろいんじゃ(僕が決めた)。