映画「Welcome Back」感想。ボクシング映画にありがちなジメジメ感とはひと味違う。「テルは負けない」が「テルのせいで負けた」に変わるとき。北澤遊馬役の宮田佳典がすごかった
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映画「Welcome Back」を観た。
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「Welcome Back」(2025年)
若手ボクサー冴木輝彦(テル)は控室で試合前のウォーミングアップを繰り返す。
ミットにパンチを打ち込むうちにヒートアップし、思わずトレーナーを殴り飛ばしそうになってしまう。
すぐに熱くなるテルをトレーナーがいさめるが、気が短く粗暴な性格の彼が耳を貸すことはない。
そして、今日も自信たっぷりにリングへ向かうのだった。
テルと兄弟同然に育った友原勉(ベン)は記憶力には長けるがコミュニケーションが苦手。職場の上司にいいように使われ、テルの試合にも遅刻ギリギリで駆けつける。
バイト先の着ぐるみ姿で現れたベンをトレーナーが「そんな恰好でリングに連れていけるか」と怒鳴りつけるが、なぜかテルはそれを遮る。
着ぐるみを殴り倒すパフォーマンスで会場を盛り上げたテルはベンとグータッチを交わし、対戦相手(青山拓人)の待つリングへ上がる……。
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「ビーキーパー」の感想を漁ってたら「Welcome Back」の公式アカウント発見。アルゴリズムどうなってんのよ笑
先日、ジェイソン・ステイサム主演「ビーキーパー」を観てきたのは下記の通り。
映画「ビーキーパー」感想。いつも通りステイサムがステイサムするだけの105分。気に入らなければぶっ潰す。問答無用でぶっ潰す。大統領だろうがぶっ潰す
Instagramで映画の感想を漁っていたところ、たまたまアカウントを見つけたのが今作「Welcome Back」である。
正直、なぜ「ビーキーパー」からこの作品につながったのかがわからない(共通点は人をぶん殴ることくらい?笑)が、PVを観る限り結構よさそう。
しかもテアトル新宿での上映は2025年1月16日まで。
え?
1月10日公開で1月16日がラスト?
さすがに早くない?
テアトル新宿ってそんな感じだっけ?
ド平日の20:10スタートという舐め腐ったタイムスケジュールに挫けそうになったものの、自分を奮い立たせて足を運んだ次第である笑
思てたんと違う。「ボクシングに人生をかける男」みたいな映画を想像してたら…
感想としては、なかなかおもしろかった。
今作は兄弟同然で育った2人(テルとベン)に元対戦相手である青山を加えた「男3人のロードムービー」だが、僕はそのことを知らず。
「ボクシングに人生をかけた男の物語!!」的なノリで足を運んだところ、「は? 全然違うじゃねえか」となった笑
試合に負けてアイデンティティを失ったテルと、絶対の存在だったテルの敗北によって不安定になったベン。そこにかつての対戦相手である青山拓人(常識人)を加えた奇妙な男3人旅。
ひょんなことから男3人の旅がスタート。
最初はギクシャクしていたものの、徐々に打ち解けて楽しさすら感じるように。
ところが旅の後半で問題が発生→ガソリンスタンドで仲間割れ。
険悪な雰囲気の中、ようやく目的地にたどり着くが……。
うん、完全にロードムービーですね笑
題材は必ずしもボクシングである必要はない。
それこそボクシングを将棋に変えても普通に成り立つ(興味をひかれるかは別の話)。
だがそれがいい。
申し上げたように僕は今作をほぼ情報ゼロの状態で観ている。
いわゆるボクシング映画にありがちなジメジメ感は抑え気味で、全編を通してカラッとした雰囲気が続く。
たとえば「生きててよかった」(2022年)や「あゝ、荒野」(2017年)、「アンダードッグ」(2020年)、「BLUE/ブルー」(2021年)のような作風をイメージしていた分、いい意味で裏切られた。
映画「生きててよかった」感想。刺さる人にはめっちゃ刺さる作品。戦闘中毒の楠木創太と夫を支える妻幸子の話だと思ったら、幸子が同じくらいヤバいやつだった
兄弟同然の2人がひとり立ちするまでの道のり。お互いに依存し合う関係から対等な立場へ
要するに今作はテルとベンがひとり立ちするまでの道のりを描いているのだと思う。
粗暴で自己中、短気が服を着ているような性格のテルだが、兄弟同然に育ったベンにだけは優さを見せる。
ベンに遠慮させないために減量中でも一緒にメシを食うし、彼女の前でもベンの話ばかりする。ベンが行方不明になれば一晩中探し回る。
一見するとベンがテルに依存しているようだが、実はテルも同じくらいベンに依存している。
テルはベンをたった1人の弟として。
ベンはテルを絶対的な憧れとして。
お互いが相手に寄り掛かり、お互いがいなければ生きていけない。
だが、テルが負けたことによってその関係にひびが入る。
旅を続けるうちに2人は徐々に“対等”になっていく。
北澤遊馬とのスパーリング後にベンの中に「負けて悔しい」という思いが生まれ、「テルは負けない」が「テルのせいで負けた」に変わる。
そして、初めての兄弟げんかに突入し……。
お互いに依存してきた2人が自分の足で歩き始めた瞬間である。
映画「BLUE/ブルー」感想。後楽園ホールの試合シーンがリアル過ぎて最高に不愉快。あと、やっぱり俳優のスキャンダルってマイナスだよな
着地の仕方もよかったよね。「その後の時間」を想像する余白
個人的にロードムービーは山場を越えた後の絞め方が難しいと思っているが、今作はうまく着地できていたのではないか。
青山に下手にお礼を言わなかったのもいいし、タイトルマッチでベンと北澤が顔を合わせるシーンで時間経過を表現したのも悪くない。
(たぶん)冷えたごはんに卵をかけて食べる、それを“食事”と呼ぶ&電話で「仕事を紹介してくれ」と言うテルの姿からは相変わらずの生活力のなさが伝わってきた。
余計な説明を入れずに袂を分かった2人の「その後の時間」を想像させてくれる。
適度に余白を残した終わり方は心地よかった。
数々の作品、ジャンルを連想させる設定。ああいうポップさも僕の知るボクシング映画とは少し違った
今作は破天荒系の主人公に純粋の極致にいる(たぶんASD)二番手、バランサーを兼ねたコメディリリーフの3人がラスボス(北澤)討伐に向けて旅をするストーリー。
既視感のある要素が満載だったのも僕がこの映画を気に入っている理由である。
“じゃない方”に才能があるパターンは「キッズ・リターン」(1996年)を彷彿とさせたし、破天荒&純粋無垢のコンビは「THE WINDS OF GOD」(1995年)っぽい。
映画「WINDS OF GOD(ウィンズ・オブ・ゴッド)」感想。誇りのために命を張るなんて…。年代による価値観の違い、今の価値観で過去を断罪する危うさ
雑魚狩り(青木≠青山)からスタート→行く先々で中ボスを倒してレベル上げする流れはドラクエ的。
相手の動きをコピー→オリジナルとして進化させる特技は「ワールドトリガー」や「黒子のバスケ」等、バトル(スポーツ)作品におけるポピュラーな能力である。
いつの間にか成長して無双するあの感じは「ベスト・キッド」(1984年)の修行パートと被る。
こういうバラエティに富んだポップさ、設定モリモリのRPGノリも(僕のイメージする)ボクシング映画と一線を画す部分である。
北澤遊馬役の宮田佳典がすげえ。全編を通して一度も瞬きをしない。まさしく「ラスボス」だった
僕が今作でもっとも印象に残ったのは北澤遊馬役の宮田佳典。
俺様人生を歩んできたテルに挫折を味わわせ、ベンが変わるきっかけを作った敵役でもある。
この人の何がすごかったって、作中で一度も瞬きをしない、ず〜っと目を見開いたままなのが……。
ストイックで無表情、サウスポーのアウトボクサーという、テルとは真逆のタイプ。
何を考えているのかわからない不気味さを全身から漂わせる。
コツコツとレベルを上げ、2度の全滅を経て挑んできた主人公パーティを無慈悲に打ちのめす容赦のなさ、多勢に無勢で受けて立つ支配力、「ベルトを持って待っててやるから奪いにこい」と再戦をうながす余裕、などなど。
すべての所作、言動はまさしくラスボス。
そして、それらを最大化している要因が全編を通していっさい瞬きをしなかった(してた?)こと。
もともと顔のパーツが真ん中に寄っているのも北澤遊馬という人物の異様さを増幅していた。
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そう考えると、テルの容姿が最初から最後までほとんど変わらなかったのはちょっと残念でしたね。
試合前に髪を赤く染めてもいまいち映えなかったし、北澤に「ここまで堕ちるのか」と言われた際もピンとこなかった。
卵かけご飯を食べるラストシーンも3人旅の道中と大きな差はない。
この辺は宮田佳典の役作りと差があったなぁと。
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