「パパはわるものチャンピオン」感想。「ならなくていいよ。チャンピオンなんて」「パパの仕事、恥ずかしいよ」←それだけは絶対言ったらダメだって
映画「パパはわるものチャンピオン」を観た。
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「パパはわるものチャンピオン」(2018年)
プロレス団体「ライオンプロレス」に所属する大村孝志は、かつては人気と実力を兼ね備えたエースとして団体を牽引していた。
ところが膝の大怪我をきっかけにトップから転落し、今は悪役レスラー「ゴキブリマスク」と名を変え観客からブーイングを浴びる日々。現エースであるドラゴンジョージの引き立て役に甘んじる境遇に疑問を感じつつ、「プロレスが好きだ」という気持ちだけで自らを奮い立たせていた。
だが、9歳になる息子・祥太には、自分がプロレスラーであることをいまだに言い出せずにいる。
そんなある日。
父親の仕事をどうしても知りたい祥太は、仕事に向かう孝志の車にこっそり乗り込む。
屈強な男たちと挨拶を交わす父親の背中を追いかけるうちに、いつの間にか祥太はプロレス会場に紛れ込んでしまう。
すると、観客席から聞き覚えのある声が。
「祥太君もプロレス好きなの?」
声の主は祥太がひそかに思いを寄せるクラスメートの平野マナ。彼女は父親に連れられ、ファンであるドラゴンジョージの応援にきていたのだった。
マナの隣に座った祥太は初めて目にするプロレスに圧倒される。
そして、汚い手口でドラゴンジョージを追い詰めるゴキブリマスクにヤジを飛ばすのだが……。
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目次
絶対観た方がいい1本。棚橋弘至を始めとした新日本プロレスの面々が多数出演した話題作
棚橋弘至やオカダ・カズチカ、真壁刀義といった新日本プロレスのレスラーが出演して話題となった今作。
2011年発売の棚橋弘至著作「パパのしごとはわるものです」、2014年発売の「パパはわるものチャンピオン」を原作とした実写映画で、棚橋弘至本人が主人公の悪役レスラー「ゴキブリマスク」を演じている。
率直な感想としては「最高だった」。
なるほど。
作品レビューも概ね好評価が多く、どこのサイトも好意的なものばかり。
プロレスラーの出演とのことで演技面はどうなの? という懸念もあったが、それも全然許せるレベル。主人公の棚橋弘至の滑舌の悪さが気になったものの、それ以外は普通にアリ。田口隆祐、真壁刀義、オカダ・カズチカ等、主要メンバーはさすがの存在感を示していた。
棚橋の滑舌の悪さについては本人がネタにしてるしね。
【棚橋弘至インタビュー】<本日公開>主演映画「パパはわるものチャンピオン」映画とプロレスの魅力を激白!https://t.co/ZKi0jTLXrH#パパわる#棚橋弘至#プロレスTODAY
— プロレスTODAY (@ProresuToday) September 21, 2018
てか、読み応えのあるインタビューだなこれ。
「今後もプロレスを好きになって、生活が楽しくなった、僕のような人が増えてほしいですね。そしてプロレスラーになったら、それで終わりではなくて「テレビや映画に出られるんだ」ということなんです。」
「ジャンルを飛び越えたい。プロレスを観たことがある人の方が少ない、のが現実。だからこそ、ビジネスチャンスなんです。」
おお、さすがは棚橋。
自分の職業が“知ってもらってナンボ”であることをよく理解している。加えて自身のプロレス愛がめちゃくちゃ伝わってくる記事でもある。
プロレスやボクシングなどの格闘系を題材にした映画はとっつきにくいイメージがあるようだが、とんでもない。冗談でも何でもなく、未視聴の方にとっては必見の1本だと思う。
主題歌の高橋優「ありがとう」もめちゃくちゃええんですよ。
ありがとう
高橋優
ロック
¥255
作品のキモは“自分への誇り”。輝いている人間を羨ましいと思う気持ちは誰にでもある?
今作のキモとなる部分は、やはり“自分への誇り”だと思う。
往年のスターレスラー、大村孝志は現在の境遇に対する恥ずかしさのあまり、息子に自分の職業がプロレスラーであることを言い出せずにいる。
膝の怪我によって全盛期のパフォーマンスが出せなくなり、すでに必殺技である“フライハイ”も飛べない。もはや主役として脚光を浴びることがないことを悟った大村は、悪役レスラー「ゴキブリマスク」としてヒールに転身する。
だが、何年経っても過去の栄光が忘れられず、現状にモヤモヤする日々。相棒のギンバエマスクがヒールの役割に誇りを持っていることも手伝い、ますます自分が情けなくなる。
そして、ひょんなことから祥太に自分がゴキブリマスクであることを知られ、ひどく狼狽する流れ。
これねぇ……。
めちゃくちゃわかるんですよね。
僕自身、大村孝志のような脚光を浴びた経験はないが、それでも輝いている人を羨ましいと思う気持ちはある。表舞台で活躍している人、多くの注目を集める人を見て「すげえなぁ」「かっこいいなぁ」などと勝手に思ったりしている。
と同時に「それに引き換え自分は」という思いもなくはない。「他人と自分を比較することは無意味」という言葉は本当によく聞くが、現実的にはそれだけ多くの人が他人と自分を比べて一喜一憂しているのだと思う。
観客の期待、注目を一身に浴びるドラゴンジョージをかつての自分と重ね合わせ、今の自分を情けないと感じる。「悪役レスラー」である自分に誇りが持てず、息子に自らの職業をひた隠しにする。
僕を含めて多くの方の心に突き刺さる心情なのではないだろうか。
愛する息子に自分の存在を否定される辛さ。他人に触れられたくない部分をさらけ出すリアリティがある
そして、一番大事な相手に自分の存在を否定される辛さは想像を絶する。
中盤、孝志が祥太の部屋を訪れて「パパ、あと2回勝てばチャンピオンなんだ」と言うシーンがあるのだが、それを聞いた祥太は
「ならなくていいよ。チャンピオンなんて」
「パパの仕事、恥ずかしいよ」
と言い放つ。
アカン……。
それだけは言ったらアカン。
愛する息子にいいところを見せたい。
かっこいいパパでありたい。
でも、それができないもどかしさに苦悩する。
うだつが上がらず苦しむ父親の息の根を止める言葉。
冗談でも何でもなく、僕はこのシーンを直視できずに画面を閉じてしまった。
マジな話、子どもの世界の残酷さ、容赦のなさは筆舌に尽くし難い。
精神が未熟な分、他人に対する気遣いができずに感情表現はストレート。
実際、本人たちに悪気がなくても往々にして相手を傷つけてしまうことはある。それが感情表現がまっすぐな子どもであればなおさらである。
映画「負け犬の美学」何か違う。「敗者にも物語がある」に超違和感。“物語”って言葉が嫌いなのもあるけど、勝者こそすべてのリアルが最優先であってほしい
祥太の父親がドラゴンジョージではないことをクラスメートがみんなの前でバラす件も僕が直視できずに画面を閉じてしまったもう一つのシーンなのだが、小学生時代の思い出したくない過去がモロにフラッシュバックしたことを報告しておく。
「Z1 CLIMAX」準決勝。スイートゴリラ丸山との一戦で突然孝志がマスクを脱ぎ捨て“大村孝志”として戦おうとするのだが、「それは違うぞお前」と思う反面、「いや、わかる」「その気持ちは痛いほどわかるぞ」と思ってしまったのもまた事実。
そして、ラストのドラゴンジョージとの大一番では悪役レスラー“ゴキブリマスク”としてリングに立つ。
父親はありのままの自分をさらけ出し、息子はその父を全力で応援する。
王道中の王道というか、もはや「これしかないでしょ」という展開なのだが、僕には流れ落ちる涙を止めることができないww
繰り返しになるが、今作のキモは“自分への誇り”。父と子の家族愛、自らのアイデンティティを描いた作品である。
同時に「触れられたくない部分」「他人に見せたくない心の襞」がいたるところに散りばめられたリアリティ溢れる作品でもあった。
プロレスシーンは最大の見どころ。説得力どうこうではなく“本物のプロレス”だからね
なお、当然ながらプロレスシーンは最大の見どころとなっている。
申し上げたように今作には多くの新日本プロレス所属レスラーが出演しており、試合のシーンは文句なしでおもしろい。
以前「あゝ荒野」の感想記事を書いた際、「ボクシングシーンの説得力はすごい」「主演の菅田将暉とヤン・イクチュンの努力の跡が感じられる」と申し上げたが、今作ははっきり言ってその比ではない。
なぜなら本物だから。
努力して身体を作り上げた芸能人でもなければ、スタントマンでもない。
ガッチガチの現役プロレスラーによるリアルな試合というヤツ。
常日頃から観客を楽しませること、盛り上げることを第一に考え肉体を追い込むプロフェッショナル。この部分に関しては肉体派の芸能人がどれだけがんばってもかなうはずがない。
僕もプロレスが好きでたまに現地観戦もする人間だが、今作のプロレスシーンのクオリティはそれに勝るとも劣らない。問答無用の“本物のプロレス”を堪能できることを保証させていただく。
てか、棚橋のプロレスにはやっぱり華があるよな。
マスク越しでも主人公感が滲み出とったからなww
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